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今夜の番組チェック

「釣り船でもやりなよ」と漁師Yさんは言った。
                            【本木雄介】

S漁港の釣り漁師、Yさんが私のHPを見て電話をくれた。彼は私より2つ年上で、漁師としてはキャリア20年の「本物の釣り漁師」だ。彼の親父さんが漁師のかたわら「釣り船」も営んでいて、付き合いは15年ほどになる。親父さんは高齢のため、去年あたりから釣り客がある時以外は隠居生活をしている。しかし腕の衰えは微塵もない。長年脳裏に刻み込まれたポイントを読み取る術は、陸に上がったからといって消えてしまうものではないようだ。

さて、息子のYさんだが、私のHP
「釣り船選びの達人」を読んで、
「ズバリ正論だね。釣り客と釣り船を正しく結ぶマニュアルだよ」
「反論できるやつは誰もいないだろう。いるとすれば性根のまがった素人船長くらいのもんだ」

と豪快に笑った。
そして
「俺もキャリア30年を超えたら釣り船しようかな」と意味ありげに言った。私が「鉄の5ヶ条」「キャリア30年で本物の釣り師と認めよ」と書いているのをしっかり見ているのだ。
「Yさんなら今でも納得させる釣りができるじゃない」私はフォローしてそう答えた。
「いや、モトさんよぉ。たしかに30年ていうのは節目だ。あの背中の曲がったよぼよぼ親父とまともに勝負しても俺かなわんぜ」
「そうかな」
「いや、ホントの話だ。頭に入ってるポイントの数だけじゃないぞ。ここ一番て時に絞り込める勘ていうのか、集中力っていうのか…まあ、あそこまでいくと自分の庭だからな」
「まあね、それだけ経験から知ってるポイント、選択肢が多いっていうことかな」
「そうそう、それもある」

Yさんも中堅の「釣り漁師」として港では一目置かれている1人だ。その彼をもってしても「かなわんなぁ」と言わせてしまう釣りのキャリア。
「だからよ、これから10年は親父の知ってるポイント全部盗んでやるよ。釣り船はそれからだ。その時にはモトさんのHPでばっちり宣伝してくれよな」
「その時は腕を確かめさせてもらうよ」
「きついなあ。かんべんしろよ」
「冗談冗談。いい船長になるよ。それはわかってる」

電話の最後にYさんは
「あんたも釣り船船長やってみれば。ここまで書いてるんだったら。俺が世話してやる」
「俺がやったら素人船長だろ」
「ははは(笑)。モトさんは俺たち船長とセットじゃなきゃな」
「俺ひとり海の上じゃ、半人前だよ」
「ああ、そうだな。俺もいつかあんたに認められる船長になるよ」
「待ってるよ。10年後だな」
「うん。10年だ」

酒を飲みながらの電話は1時間ほど続いた。
「最近漁師やりたいっていう若い衆が街から3人やってきた」と彼は上機嫌だった。そして「釣り船やりたい、なんてぬかしたら、修行30年だ、とはっきり言ってやる」と彼は笑った。


さて、もし私が気の迷いで「釣り船」を始めたらどうなるだろう。その夜、酔った頭でにやつきながら考えてみた。
キャッチフレーズはこうだ。
「○○湾の永久釣り師!本木船長が長年の釣りキャリアを惜しみなく披露!料金は他船の半分でOKよ!とにかく優しく実践指導!10回乗ったお客様は1回無料の大サービス!団体割引、シルバー割引適用!船長なんて呼ばないで!モトちゃんと声をかけてよ!おっと、30歳未満の女性は無料で弁当つきだ!」
なんだか夜のあやしげな客引きみたいだが、これでも「釣り船」商売にはなると思う。
これに近い「釣り船」がネット上に氾濫し、それなりに釣り客が集まっているのも事実だ。

私はこれからも一介の「釣り好き」にすぎない。間違っても「釣り船船長」に職替えなどしない。その港に腰を据えた「釣り漁師」ではない私に、そんな「資格」はない。
「素人」は「素人」なりに
「最高の釣り」を目指したい。その手助けを「本物の釣り漁師船長」に求める。このスタンスはこれから先も変わらないだろう。

 



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