「名人」を公言する「看板釣り船」の実態。
【本木雄介】
これはメンバー仲野君の今年初めての体験談だ。
とある漁港に釣りに行った。その港では我々のよく知る「名船」が2隻在港している。もちろん、そのうちの1船に彼は乗ったわけだが、さて漁場のポイントに着いてみた。周りの「釣り船」の中に妙な雰囲気の船がいることに気づいた。
その「釣り船」は新造船で他船より大きめ、客は20人は乗れそうだ。当日も7・8人の客が乗っていた。
きわだっているのはキャビンに掲げられた看板。
「○○テレビ・△△△で太鼓判。名人!××丸」
原色と蛍光塗料の派手な色使いに、海上では眼がチカチカと痛んだという。
仲野君は自分達の船長にたずねた。
「あれ、なんですか?」
船長はニヤリと笑って答えた。
「なにって…、うちの港の名人様よぉ」
「へえ…」
その船、実は半年前にローカルテレビの郷土番組で紹介されたそうだ。テレビ局の依頼が漁業組合に入り、「そんな面倒くさいのはあいつに回してやれ」とその船におはちがまわった。船長は元漁業組合事務員。釣りは素人、キャリア1年未満という恐ろしい代物だった。
しかし番組収録当日、海の神様の気まぐれでそこそこ釣れた、というからこの船長も舞いあがってしまった。それから半年、客は彼のHP等を見てだんだんと増えてきているのだった。
「お客さんをあんなに取られてしまったらくやしいでしょ」彼は船長に聞いた。
「いやぁ、いずれうちに回ってくるさぁ。最近うちに乗る人は、あの船でえらい目にあったっていう人がずいぶん増えたさぁ」
なるほど、こんな「素人船長」でも1つの「港」というエリアで考えれば、集客効果を担っているわけである。
さて、その日の「素人船長」らの釣果は仲野君らの1/5程度であったらしい。船長いわく「あいつにしちゃあ、まずまず上げたんじゃないかぁ」
その「素人船長」のHPをのぞくと、確かに船の写真には趣味のよくない看板がでん、と出ている。「名人」という2文字が私にはおかしく、そして悲しかった。知っていれば笑い話だが、信じて乗る多くの「釣り人」のことを思うと憂鬱になった。
船長のキャラクターも「若くて楽しい」のイメージが定着しているようで、HPはけっこうな盛況振りだ。女性客に人気があるらしく、掲示板に書きこまれた釣りのチープな質問にもそれらしい答えで返している。
この手の「看板釣り船」はけっこう見かける。
「××釣り専門××船長の釣り船」
「××湾の豪快××釣り師××丸」
「××港の××釣り××ちゃん船長」
どんなもっともらしいことをうたっていても「釣り漁船」ではなくて「遊漁船」なわけだ。自分の「愛船」に安っぽい「宣伝文句」を飾ることができるポリシーのカケラもない即ハズシの「商業釣り船」だ。地元の港では「プロの漁師たち」のいい笑い者になっている様が見えるようだ。
私はこんな船に乗ることはとてもできない。恥ずかしくて釣りなどどうしてできようか。
この「看板釣り船」、客のない日に「プロの釣り集団」の船団の中にいるだろうか。
「本業の釣り勝負」をしている「釣り漁師」だとお思いだろうか。
いやいや、客のない日はHPの「宣伝」が彼らの仕事だ。港につながれた「看板釣り船」を「釣り客」でいっぱいにすることに全精力をつぎ込んでいる。
「釣り漁師」として毎日出漁しているかのように「自前の釣果」などを連日写真掲載している船もあるが、その釣果は悲しくなるほど貧しい。とてもそれだけでは食っていけないだろうと察しがつく。巧妙な船になると、撮りためた写真を並べているような輩もいる。
「看板釣り船」は年中PRすることが最も重き仕事である。「魚を釣る」のではなく「客を釣る」のが彼らの仕事なのだ。
ちなみに、我々FLECが乗っている船は「釣り客」がいようといまいと、年中「真剣な釣り勝負」をしている本物の「釣り漁師」だ。「魚を釣る」ことに人生を賭けている正真正銘のプロフェッショナルたちだ。そこに陳腐な「看板」などはない。
「看板」は我々を釣ろうとする「餌」だ。それに食いつくなんて馬鹿げているとは思わないか?
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