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常連の女性釣り師。
        【本木雄介】

「釣り船を雇って乗るなんて気がひけるなぁ」とくに女性・初心者などはそう思うはずだ。
ある女性Kさんの話をしよう。

数年前のある日、Kさんは釣り雑誌を何気なく眺めていたそうだ。「釣り船」の広告に目がとまり、
「あ、この船長やさしそう」「なんかいい感じ。楽しそうな人」と直感したそうだ。
そして乗船、はじめての船釣り。ハマチの強い引きに興奮。1日でハマチ2本、おかずにはなった。はじめてなのにボウズじゃなかった、と感激したそうだ。
船長が言う。
「ふだんならもっと釣れるんだけどねぇ」「またおいでよ。いろいろ教えてあげる。今度は友達もいっしょにね」
「はい、今日はドキドキしちゃった。またきます!」

こうしてKさんは2年間で10回以上通う常連となった。

2000年の秋だったか、仕事の打ち上げでこのKさんイチオシの「釣り船」に乗ることになった。
「経費でおちるんだからなんでもいいや」と私は下調べなしにKさんの言うがまま、とにかく乗ることにした。
その船、ポイントに着くといきなりアンカーを放りこんだ。そして50歳だという船長が我々の後ろに立って、あれこれといらぬ指導をはじめた。よくしゃべる船長だった。ろくにアタリもないまま1時間がすぎるころ、カッさんが口を開いた。
「船長、そろそろポイント変えません?」
そして移動。そこでもやはりアンカーを打つ。そしておしゃべり。Kさんは嬉々としてその「釣りモドキ談話」に夢中になっている。内容はレベルの低い世間話から子供だましのような釣りテクニック、あとは大物釣りの自慢話。その間、また1時間。
小指ほどのべラを3匹、クーラーに入れる。今度は私が辛抱しきれなかった。
「よう、船長。アンカー上げてあっちへ行こうや」
2kmほど先に「釣り漁師」の船団がいた。私は竿で指し示してみせた。口を閉じた船長はしぶしぶ移動。船団のそばへ。ここではアンカーは打たないらしい。半島の鼻の先で潮の流れるポイントだった。そばの船では真鯛が上がっていたが、こちらにはアタリの気配すらこない。潮流に船が揺さぶられ、横風も出てきた。船体は右往左往していた。やがてテグスが絡んで船上は「オマツリ」で大賑わいだ。
私はあきらめた。Kさんに多少なりとも気を使って我慢していたが限界だった。舳先で小便をくれてやり、甲板でふて寝だ。それからしばらく頑張っていたカッさんもゴロン。
「気分でも悪いの?」とKさん。
「ああ、最悪だな」
エンジンの騒音に混じって、Kさんと船長の会話が聞こえる。
「船酔いだって。情けないわねえ」
「立派な竿をしまっちゃったら、大の男もかたなしだぁ」
「キャハハハハ…」


船を降りる際、船長が声をかけてきた。
「大丈夫かい」
「ああ、しんどい釣りだった」
「またいつでもおいで。鍛えてやるから」

金を受けとりながらさわやかに笑う船長の顔が、今も鮮明によみがえる。

なぜこの馬鹿げたエピソードを書く気になったのか。それはこの「釣り船」のHPを見つけてしまったからだ。当時はなかった「看板」がキャビンにかけられている。釣果報告には連日の客が写真に出ている。けっこうな人気船だ。釣り果は当時から進歩はないようだが…。そして「常連の女性釣り師」としてKさんの写真がでん、と載っている。笑顔いっぱいで船長とツーショットだ。

彼女はこれからもこの船に乗りつづけるのだろう。Kさんにとって「釣り船」とは「釣り」ではなく、「船長」との会話を楽しむ場なのだ。第三者からすれば意味のないコミュニケーションが、Kさんにとって何よりの安らぎなのかもしれない。人それぞれに求めるものの違いがあるのだろう。

この「釣り船」のHP、「××ちゃんの釣り倶楽部」なる会員証を発行している。「女性会員募集中」だそうだ。ポイント制で景品(釣具)がもらえるらしい。海を見ながらおしゃべりを楽しみたい「女性釣り師」の方はぜひどうぞ。

 



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