A船長とB船長。こんな兄弟船もあった。
                【本木 雄介】

W県で船釣りをするならF丸の
A船長がピカイチだった。
地元漁師でキャリア・技量とも申し分ない。ことS湾内の真鯛ポイントにかけては熟知を極めている釣り師だった。

ある年、彼の弟が釣り船業を始めた。弟、といっても漁師ではなかった。都会でサラリーマンを定年退職し、地元へリターンして老後にと始めた仕事である。まさに素人船長の釣り船だ。しかし、1年ほど経つと客は圧倒的にこの
弟(B船長)に集まっていく。連日客を乗せているのはB船長

2年前の冬に、この
B船長の船に乗った。理由はA船長に当日別の予約が入っていたためだ。そしてA船長の勧めもあり、たまたま空いていたB船長にやっかいになった。
そうして、この船がなぜ人気船になったのかがわかった。
接客重視(サービス)。これだけだ。両船とも料金は同じ。だが、乗ったそばから暖かいお茶のサービスがあり、茶菓子まで添えてあった。設備もレジャー船並に整っている。キャビンの中に座っていると寒風吹きすさぶ甲板には出たくなくなるほどの居心地良さ。
しかしながら素人船長の悲しさ。ポイントを攻める腕は未熟だった。悪い潮回りの時に、
兄(A船長)の尻にくっついていくのだが、ポイントをつかみきれず流されていく。潮と風に舳先を立てれないものだから釣り糸を垂れている我々も釣りにくいこと極まりない。
結果、雑魚のアタリしか巡ってこない。帰港後、2船の釣果は明暗くっきりだった。
だが、同乗したS君は「楽しかったなあ。いい船で良かったですね」と満足げだ。私は複雑な思いだった。居心地は良い船だった。合格以上だ。だが、肝心の釣り心地は…。
ポイント(戦場で例えるなら最前線)で戦いのテクニックを駆使してみたかった。だが、今回は後方部隊で目の前の激戦区を眺めていただけだった。そこに物足りなさを感じるのは私の釣りの腕うんぬんだけではないように思うのだが…。

B船
を非難するつもりはない。S君のように「楽しかった」と思えれば、それはそれで良い釣り船だということだ。しかし私は二度とB船に乗ることはないだろう。兄(A船長)の船では私は武者震いを船上で感じながら釣りをする。いま自分は最高のポイントにいるんだというプレッシャーに熱くなる。B船にはそれがなかった。

たった5メートル。そのポイントのズレが釣果を大きく左右する。その誤差を克服できる者は、
キャリアを積んだ本物の漁師に他ならない。



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