人気「釣りサイト」を運営する、ある青年の優越感。
                       
【本木 雄介】

2002年の年明け早々、西ちゃんから
「ある業界誌の企画として座談会に出席してほしい」と頼まれた。
1月19日。大阪S市の「ちゃんこ鍋屋」に11名の出席者。テーマは
「ネット・フィッシング!インターネットで大漁をつかめるか」
出席者のうち、7名の者が自分の
「釣りサイト」を公開していて、いわば「釣りバカの集い」のような雰囲気ではじまった。中でも30歳の青白い顔の青年はモバイル・パソコンを持参していて、その場で各サイトを検索してみせ、おおいに盛り上がった。特にJさんのサイトの「ちょぼ釣り日誌」は面白い釣りエピソードが綴られていて、爆笑をさそっていた。
そしてそのモバイルPC青年もまた、自らのサイトを披露して見せた。そのとたん、皆の顔つきが変わった。そのサイトは「釣り船リンク」としてかなりの有名サイトだった。
「マジかよ」「本当に君やってんの」彼は悠然として目の前で表紙を更新してみせた。「ひゃあ、すごい人呼んだもんだ」「俺のサイトリンクしてよ」「トップページに貼られたら500アクセスは伸びるかも!」そんな声の中で、彼は顔を紅潮させながら至極ご満悦の様子だった。
私も彼にいくつかの質問をした。
「いくつ位釣り船をリンクしてるの」「全国だと400を越えました」「たいしたもんだね。「まあ、自然に増えたっていうか…」
そのサイトをながめながら、私には気にかかることがあった。サイト管理者(つまり彼)の各船に対する紹介文だ。
【○○丸…船長がとにかく優しく指導。釣らせる腕は確認済み。A級のスゴ腕◎】
だがしかし、私はその船長の内情を知っていた。
地元でも評判のよくない素人船長だった。「君、その船に乗ったの」「え?」「ほら、ここにお勧めだって書いてるよね」「…ああ、それね、ニュアンスですよ、ニュアンス」「…」「すごくていねいなメールかなんかもらったんですよ」「ふうん、そうなの」「あ、でも、サイトはきっちりのぞいて確認してますよ…」「他の船は?」「…僕ね、釣り船って乗らないヒトなんですよね、基本的に。お金かかるし」「なんでこんなサイト作ってるの」その場に妙な空気が漂いはじめた。口ごもる彼からもっと聞きたいこともあった。私は話題を変え、その場をなごませることに努めた。そうして時間をおきながら、酒で軽くなった彼の口から管理者の本音を知ることができた。

彼が
「釣り船」をリンクし続ける理由は、結局のところ「全国の船長という人間達の優位に立ちたい」ということだった。ネット上でのみ可能な釣り船船長らの親方的存在。彼のサイトが膨張するにつれ、それは一種の快感になってしまったようだ。
「釣り船を紹介する」これが表向きのテーマ。だが実情は、私情によって釣り船にランク付けをし、喜んでいる子供だった。我々釣り人に「どの港にどんな船があるか」という情報は充実している。だが、各船に付せられたコメントによって現実とはまったくそぐわない内容になっている。知っている者からすればデタラメなのだ。
情報は情報。しかし信用性を欠いては逆の作用をもたらすことに彼は気づいていない。彼のその日の気分によってランク付けされたら、まともに釣り船をやっている本物の船長に気の毒だ。

会がおひらきになり別れ際、彼はこう言った。
「本木さんのサイト、帰ってからじっくり読みますよ」「ああ、しっかり読んでくれよ」「気に入ったらリンクしてもいいですか」「ああ、いいよ」
さて、それから数日経つが彼からは何のメールも届かない。たまにサイトをのぞいてみるがリンクされてはいないようだ。
「釣り船選びの達人」が、彼のサイトと結ばれることはこれからもないだろう。彼の作り上げた「砂の居城」を、ひと波で崩してしまう内容に彼は気づいたのだろう。彼に「釣り船選びの達人」が今後どんな影響を与えるのか、しばらくは待ってみるとするか。
 


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