勝手にジャッジメント!!


  ファルローネ様

拝啓 やわらかな春の日差しが嬉しい季節になったかというとこちらは土地柄そうも行かなくて、毎日が夏真っ盛りの残念な気候ですがいかがお過ごしでしょうか。

 さて、つい先日まではモンカンプ王国の都市部に仮住まいをしていたわけですが、この度森林部族ミンミンの村落ホーで、農業奴隷としての生活をはじめる事となりました。詳しい住所については目隠しされて連れ去られたので、さっぱり分かりませんが、何か機会があったら立ち寄ってみてください。

 魔導刻印の調子についてですが、一日一度の使用では夜に軽く発熱をするくらいで中々体に馴染んできたのではないかと思われます。ただ魔力の調節を誤ると嘔吐してしまい、予断を許さないところもありますが、概ね元気です。

 モンカンプ王国の情報はそちらには伝わる経路がないという話なので、これまでの経緯をかいつまんでお話しておきます。ジャッジメントの第三次試験は、モンカンプ王国の政情の安定という無理難題というお話はこの間していたと思います。無茶苦茶な話ではありますが、私達兄弟がなにもしなくても動乱が収まる可能性もありますし、できそうな事はそれなりにやってました。

 モンカンプ王国は割かし外から来る人間に敵意を抱かないおおらかな気質の人が多く、開放的といえば開放的な土地柄です。それでも国の中枢にそう簡単に入り込めるわけもなく、暇な時間は冒険者として依頼をこなしたり、薩摩先生に体を鍛えられる日々が続いていました。

 でもあれですね、人生は波乱が万丈といいますか、偶然とは末恐ろしいものです。何の因果か国が真っ二つに割れる歴史的瞬間に運良く出くわす事ができまして、今では一方の陣営につくことができました。

 しかし、兄貴の予定ではつくほうじゃなかった側につく羽目になったので困ったものです。

 あ、先ほど書いた薩摩先生というのは武芸百般をこなす、恐ろしいサムライの先生です。薩摩先生は兄貴の剣の師匠なんですけど、なんかついでに鍛えてやるとか言うお話で主に体術を叩き込まれました。

 正直、死ぬかと思いました。

 先生とどっこいなところがある人なので、毎日ががっかりでした。

 かといって今の状況も決していいとはいえないので、人生は常にどっこいです。

 まぁ、住めば都ともいいますし奴隷生活もそのうち板につくと思います。先生も体にはお気をつけくださいませ。  敬具






 ファルローネはこめかみに血管を浮き立たせながら、必死に目の前の手紙を破り捨ていようとする衝動に耐えていた。二重奏者術式の経過報告をするようにといういいつけてあったので、定期的に手紙が来るようになったがろくな報告が上がってこない。

 ぶるぶると震える体を何とか意志の力で押さえつけてはいたものの、制御に失敗したのか手紙の真ん中に裂け目が入っていた。

 そんなファルローネの様子を見かねたか、横からルーファンが手紙を取り上げその内容を流し読みしていく。読み終わったルーファンは笑いをこらえる為に口元を手で隠す必要があったわけだが、ファルローネの眼光に潜む殺気に当てられて笑いを引っ込めた。

「いや、あのねファル、多分ツー君は嘘をついてないと思うよ。あの子自分の身の回りで起こったことを主観的に書いてるだけで、悪気はないんじゃないかな」

 ファルローネはルーファンの言葉を聴きつつ、軽く頷いて同意を示した。そんな事は百も承知で、それだけに短い説明では詳細が分からず、半端に手紙の作法を守ろうとしているところがより腹ただしかっただけの事だった。

 何故奴隷になっているのか、そのままその身に甘んじているのか、手紙出せるのはどういうことか、聞きたいことは山ほどあるというのに住所不定では返事が送れないというのもファルローネの精神的負荷に繋がっていた。

「あの馬鹿、こんな手紙を受け取るほうのみにもなれ」

 ファルローネは机を叩き割らんばかりに強く拳を打ち付けて怒りを少しでも発散させようとしたが、机がその威力に耐えかねみしみしと音を鳴らす。

「はいはい、机には罪はないでしょう。拳痛めるからそれぐらいにしとくといいよ」

 こんな事なら、手紙を書いて寄越せなどというべきではなかったとファルローネは後悔していた。側にいて見守ってやれるのならばそれでいいし、遠くで勝手にやっている分には気にしなくてもよかった。

 こんな断片的に不吉極まりない事をかかれて気にならないほど、ファルローネは人でなしではない。

「くそ、あの馬鹿、一体何を考えてるんだ?」

「さぁ、ツー君は常に回りに流されて適当にやっていそうだから、何も考えてないんじゃないかなぁ」

 ルーファンの的確な発言にファルローネは頭を抱えて作りにうつぶせになり、その日は一言も言葉を発することがなかった。












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