
勝手にジャッジメント!!
ファルローネ様
拝啓 畑で水瓜が取れる季節になりました。例え奴隷身分に身をやつそうとも、丹念に育てた農作物を収穫するのは格別の思いがします。ミンミン族は狩猟と採集が主な産業のようで農業に関しては無頓着なところがあり、畑の管理を一手に引き受けた身としては感無量といったところでしょうか。
さて、この間の手紙では書き損ねていたのですが、ミンミン族は純粋な人というわけではなくどうも学術的には獣人族と言う奴っぽいです。耳の形が明らかに違っていて毛皮でふさふさしている尻尾が生えているので、薄々何か違うなと思ってましたが、最近風習の違いを思い知って確信したものです。
手紙に書き起こすとその時の衝撃は伝わらないと思いますが、簡単に言うと魔術を行使する人間を食べる慣習があるようなのです。
なれない農作業に助言を求める為に召喚魔術を使ったところ、村長の娘にその現場を見られてしまい、少しだけかじっていいかと常に聞かれる始末です。毎日聞いてくるので一回だけ弾みでいいよといったら本当に食われかけました。食べ物的な意味で。
流石に食べられるのは勘弁して欲しいので必死に謝って許してもらい事なきを得ましたが、隙あらばやっぱりおやつ的な感覚の視線を投げかけられるので油断は禁物です。
何せ本気になったミンミン族は武器を持たずに魔物をなぎ倒す脳味噌まで筋肉にあふれた民族なので、本気で襲ってこられたら目もあてられない事態に発展します。村民に襲われる事態にならないのは村長の娘が黙っていてくれているおかげです。
これをこの娘の優しさと取るか、一人で供物を食べるための作戦なのかは悩むところですけど、できる事なら前者の可能性を信じたいです。
いや、こう書くと未開の蛮族かと誤解されるかもしれませんが根はいい人たちなんですよ……魔術師を食う風習があるけど、それさえなければ問題ないです本当。
まー、モンカンプ王国の人々と相対したときはどうも頑固な面を除かせてしまいがちですけど、こればかりは一朝一夕に解決するような問題ではないようです。
モンカンプ王国は二つの宗派に分かれて争っているかというと厳密にはそうではなく、どうも三つに割れて争っている見たいで、本当に頭が痛いです。三つ目の勢力がヤンプー派のミンミン族という困った事態になってます。
でもこれはモンカンプ王国の都市部で調べ物をしていたときに気がついたことなのですが、ルカキ、ラルド、ヤンプーという神様は元々同じ一つの神様でこれを三つの側面として割ったみたいです。何でそんな面倒な事をやったのかは知りませんけど、兄貴辺りなら何か予測ぐらいはつけてくれてるかもしれません。
二重奏者術式の調子ですが、これはやっぱり使用による体調の悪化は避けられないような気がしてきました。魔力の調整により使った直後の昏倒こそ避けれれるようになりましたが、一日、二日後には必ず反動がかえってきます。
でも、農作業で体力ついたおかげで回復能力は上昇したような気もしますし、人生何がいい影響を及ぼすかは分かりませんね。先生も体にはお気をつけて健やかに過しますよう願っております。
追記、最近知り合った医者が氷結魔術の使い手でしたから、できあがった水瓜送ります。解凍して食べてみてください、甘さには結構自信があります。
敬具
「阿呆かぁーーーー!」
ファルローネの研究室に破裂音が響き渡る。
ファルローネは叫びながら読んでいた紙を真っ二つに引き裂いた。気合一閃したおかげか、それともファルローネに備わっている魔術師らしからぬ腕力の影響か、紙は少しも抵抗するそぶりもなかった。
読んでいく最中はまだ何かしら有益な情報が書き記してあるかもしれないと一縷の望みをかけていただけに、裏切られた怒りはそのまま手紙に噴出されてしまっている。
息を荒くして気炎を上げてみたものの、それでもまだ聞きたい事とはあさってな内容ばかり書いて寄越すツァイスへの怒りは収まらないのか、勢いに任せて4つに破り捨てようとしたところで、横合いからツァイスの手紙は取り上げられる。
「まだ読んでないだから粉々にするのは待ってよ。あー、水瓜美味しいからファルも食べなよ。おなかすいてると短気になるって言うしさ」
口の周りに黒い種をつけたままルーファンは研究所の端に積み上げられている荷物を指差す。ファルローネは手紙と一緒に送ってこられた氷漬けの果物に目線を送る。
ファルローネは怒りをぶつける対象を横から取られたところで取った人物に向けて拳を振り上げたものの、その気配をいち早く察知したルーファンはその打撃領域から逃れていた。となると他にぶつける対象といったら、送られてきた水瓜ぐらいしかない。
こめかみを押さえながら水瓜の入った荷物を覗き込んだファルローネは、その中身を見て膝をつく。
見るからに本職の農家が仕上げた丸々と大きく、色艶のよい水瓜だった。魔術とは関係ないところで無駄な才能を見せる事があったのをすっかり忘れていたせいで、ファルローネの怒りはどこかへ吹っ飛んでしまう。
「はぁー、ツー君とマー君、水瓜職人になりに行ったんだっけ?」
「違うだろ。無事なのは無事でよかった……しかし、これは本当に無事なのか判断が難しすぎる」
手紙と果物を送れる状況ではあるのは分かっても、魔術師を食うという習慣のある村落に身をおいているという状況は普通に考えれば、危険以外の何者でもない。ツァイスに対して、普通という言葉ほど空しいものもないが、それでもファルローネからすればたまったものではなかった。