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竜魔術師・ツァイス










  『竜魔術師・ツァイス(11)』




 不意打ちのような再会でお互い放心していたのは、そう長い時間じゃなかった。最近俺をより疎ましく思っているのか、有無を言わさず危険地帯に送り込む兄貴のおかげで、唐突な危機に際して体勢を整える事には慣れたおかげで体は即座に戦闘態勢へと移行する。

 俺が思考する前に選んだのはとにかく接近して、相手に魔術を行使させないようにすることだった。

 魔術の才能を含めて、フレイアさんと俺とでは基本性能が違いすぎる。俺が二重奏者術式の使い手であるという事を知られてなかったからあっさりと逃げられただけで、魔術戦闘に入れば勝ち目がない。

 大体店番で戦闘をする羽目になるとは思わなかったので、杖を部屋においてきてしまっている。魔力の増幅器である杖なしでフレイアさんと魔術を使って相対するのは無謀すぎた。

 手に持っているのは掃除で使用していた箒ぐらいしかないが、無手に比べれば多少はましと判断し攻撃を鹿用としたけども既にフレイアさんも迎撃の姿勢をとっていたので、迂闊に突っ込むのは止めにする。

 フレイアさんは魔術師の弱点が接近戦にある事をよく熟知しているのか、打撃を打ち込む隙がない。その辺りはさすが盗賊団の頭だけあると妙に感心する。

 時間を書ければ不利になるのはわかっていたけど、身動きがまったくできなかった。

 向こうからしてもこの場で俺を倒してルピーを奪おうとはしていないはずだ。ここにルピーがいるとは限らないし、余り時間をかけて警邏(けいら)の地方騎士団員に見つかっても面白くないはずだから、さっさと逃げる事が良策と言うものだった。

 しかし、逃げるには立て付けの悪い扉を開けなければならないため、そう簡単に逃走できないと言う状況が出来上がっていた。

『ここで逃げられるのも拙いが、倒すのも難しいと言うところか』

 マー君の言葉を聞きながら、俺も涙が出そうだった。ここでフレイアさんを捕まえて騎士団に突き出せば、しばらくの間ルージュは身動きが取れなくなり、俺の旅路の安全が確保できるという面はある。でも、フレイアさんの能力を考えるとここで戦うのが得策とはとてもいえない。

 逃げて欲しかったら俺が後ろに下がって距離をとればいいのだろうけど、それでフレイアさんが攻撃に転じてこないとも限らない。

 ここまでの思考は恐らくフレイアさんの方でも済ませているだろう。もし俺が後ろに下がった場合、魔術を鼻って逃げるぐらいは考える。それをやられれば店の品物は大損害を受け、大変な事になりかねない。

 互いの思惑は読めているのに、相手が動行動してくるかが賭けになってしまっているため、緊迫した時間のみが過ぎていく。そんな互いに汗がにじみ出かねないほどにらみ合っていた空気を、一変させたのはおくからのそのそとは出でてきた店主・フォルテさんだった。

「ふぁー、あーよく寝た。どうだいツァイス君、お客さん全然来ないだろ?」

 からからと笑いながらでてきたフォルテさんは、笑った表情をそのままに身動きをとめる。箒を構えて布面積の少ない衣装を着た女と争っている様を寝起きに見せられれば、分からなくもない気はした。

 俺はそういうこともあると分かっていたのでなんでもなかったが、何故かフレイアさんは一瞬で狼狽を示した。

 俺が店番をしていたのが意外だったということと、入り口で勢いよく扉を開け放ってフォルテさんの名前を読んでいた事を考えると、二人は顔見知りの可能性が高いからこの場面を見られたのは気まずかったのか。

「ふぉ、フォルテさん、この人盗ぞ……」

「こ、こらっ、あんたそれ言ったらぶっ殺すわよ!」

 俺はいきなり放たれた物凄い膨大な殺気に当てられて一歩後退してしまった。下がった後ろにはフォルテさんが唖然とした顔で俺とフレイアさんに視線を向けて、頬をかいていた。

「んー、よく分からないけど、二人とも落ち着いて。特にフレイアちゃん、ツァイス君はようやく入ったお手伝いさんなんだから仲良くしてくれないと困るよ」

「う、うるさいわねぇ、フォルテの癖に。それとフレイアちゃんはやめろって何回言ったらわかるのよ。私たちもう結構いい歳してるんだから、ちゃんはないでしょちゃんは」

「まぁまぁ、幼馴染なんだし、今更呼び方変えるのもしっくり来ないし、細かい事はいいよ」

「あんたがよくても、呼ばれる私が恥ずかしいのよ!」

 俺は突然始った夫婦漫才みたいなやり取りに手持ち無沙汰になってしまったので、俯き加減に箒を使って掃除をするふりをしながら場の空気になじむ事にした。

 それにしてもフレイアさんにも羞恥心というものがあるというのは驚きだ。普通そういう心の機微があるのならばあんな派手な衣装を身につけて、大勢のいる前で高笑いするのは難しいはずなんだがなぁ。

『今のやり取りを見たところ、二人がかなり深い付き合いだとわかったわけだが、どう動く?』

 まだちょっと情報が足りないかな。フレイアさんとフォルテさんの関係云々よりも、二人個人に関することもよく分かってない以上、判断を下すのは少々早い。

 まず先程俺がフレイアさんの素性をばらそうとしたら止めにかかったところを見ると、もしかしてフォルテさんフレイアさんが盗賊になっていることを知らないのかもしれない。そして、それをアレだけの殺気を持って押し留めさせたという事はつまり、ばらされたくないわけだ。

 結論、フレイアさんの弱みは握ったということでいいのかな。

 伏せていた顔を上げても再び二人の様子を窺っていると、フレイアさんがこちらに引きつった顔を向けてしきりに目線で何かしら合図を送ってきていた。流石に昨日あったばかりの人の無言合図は分かりかねたので、首をかしげているとその不審な動きに気がついたフォルテさんが手を叩いてこちらに寄ってくる。

「ああ、悪かったねツァイス君。フレイアちゃんは服装の趣味はちょっとあれだけど、根は凄く優しいいい子なんだ。僕が死んでないか定期的に店に来てくれるし、魔術道具も買って言ってくれるお得意さんでもあるんだよ」

 俺は眉間にしわを寄せてフォルテさんの背後にいるフレイアさんに視線を送ると、口に人差し指を押し当てて無表情で立っているのでおしっこちびりそうになった。喋ったら今日中に殺されそうな勢いだったので、とりあえず笑顔を作って、息を整える。

「そ、そうなんですか。いやぁ、格好が格好なんで思わず身構えてしまって申し訳ありませんでした。お得意様だとは知らず、大変失礼な態度を取ってしまい誠に申し訳ございません」

 俺は体裁を取り繕って、社交辞令を述べ頭を下げた。

 何にせよフォルテさんの登場で争いが収まったのならば、それに越した事はない。今のやり取りからどうもフォルテさんとフレイアさんがぐるというか、盗賊仲間ではないというのが何となく肌で感じ取れただけ収穫はある。

「それにしても、僕が寝てる間に随分店内を綺麗にしてくれたんだね。こう言ってはなんだけど思ってた以上に優秀みたいだ。弟子に逃げられたときは途方に暮れたものだけど、僕の運もまんざら捨てたもんじゃないみたいだねぇ」

 フォルテさんは笑いながら、フレイアさんに同意を求めるように目を瞬かせる。フレイアさんは店内を見回した後にそうねとだけ短く返答していた。

 二人は下から約束があったのか店の奥側に入っていってしまったので、俺一人で夕刻まで店番を続けることにした。遣り残していた掃除の続きと、入り口扉の修繕だけ軽く済ませておいたので初日の予定は滞りなく終わらせる事ができた。

 余り人が来ないと思っていたのだが、一応薬草関連の魔術道具を欲しがる客がいるようで、片手で数える程度の接客はあった。

 外が暗くなり始めてくると、店内に吊るしてある複数の【魔灯火】の効果を持つランプが淡い光を放ちだす。自然の暗さを感じ取って自動でつくとなると相当高度な代物で、さすが錬金術師無駄に凄いものを作ると唸ったりもした。

 外の様子からそろそろ上がりの時間だなぁとぼんやりしていたところ、ようやく店の奥から二人が出てくる。

「お疲れ様、帳簿のほうはカウンターの方においててもらえばこっちで確認しとくから。おなかが減る頃だろうし、夕飯の仕度をするなり食堂に食べに行くなりするといいよ」

 俺はお言葉に甘え、今日の売り上げを示した帳簿を置き早速入り口扉の方へ向かう。扉に手を欠けたのと同時に方を後ろに引かれて、危うく転びそうになったものの何とか持ちこたえた。

「休戦する代わりに、ちょっと付き合いなさいな」

 耳元で呟かれた言葉に身をすくめるとその隙に、フレイアさんは俺より先に扉を開けて外に出て行く。俺は耳がむずむずするので手を当ててその感覚を散らした後に腕組みして考え込む。

 マー君、どうしようかね。罠の匂いがするといいたいところだけど、そんな雰囲気でもなかったし、話だけでも聞いてみるって言うのもありかなぁ。

『盗賊の言葉を鵜呑みにするのもどうかと思うが、まぁツァイスの事だから乗ってみるほうがよさそうだとでも思ってるんだろう? 好きにしたらいいんじゃないか』

 無視したら後が怖そうだし、何の話があるのかどうかは分からないけど少し付き合ってみますかねぇ。











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