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『貝塚研究』第8号
 
2003年4月15日発行
 
編集・発行 園生貝塚研究会

68ページ,頒価3,000円

 
ISSN 1342-0593

【貝塚紹介】
 麻生貝塚 日暮晃一・吉野健一・小笠原永驕E常松成人・小笠原敦子・山田敏史・川口貴明

麻生貝塚g地点
 利根川と印旛沼,根木根川水系に三方を囲まれ,幅の狭い半島状をなした栄町台地に貝塚が点在している。この地域は,3つの貝食文化圏の接点地域に当たり(日暮2000),貝塚の様相が注目される。しかし,本地域では貝塚の基礎的研究が進んでおらず,分析がおこなえない状況下にある。
 その中で麻生貝塚は,西村(1961)が1947年の発掘の結果を報告するなど,比較的研究の多い貝塚だが,千葉県文化財保護協会(1983)などで本貝塚は「消滅」と記されている。
 しかし,踏査で貝層が見出されたのでその分布等を調査したところ,本貝塚はアカニシ,ハマグリを主体とする6b形態の点列環状貝塚であり,時代によって遺物分布が異なることが判明した。

 興津貝塚 山田敏史・日暮晃一・吉野健一・小笠原永驕E常松成人・小笠原敦子・川口貴明

興津貝塚 l 地点
 千葉県印旛郡栄町に所在する興津貝塚(縄文中期〜晩期)は,大野一郎によって初めて学界に紹介されている。その後,酒詰仲男や早稲田大学によって調査され,千葉県文化財保護協会,栄町教育委員会,千葉県文化財センターなどがその成果を踏まえて概要を紹介している。しかしそれらは,本貝塚は県道脇にまばらに貝がある遺跡とするなど,実態と異なる内容になっている。そこで,基礎データを整備するため地表面調査を実施した。
 その結果,当貝塚は,1)台地上で確認した大小17カ所の貝層の内15貝層が列状に分布していること,2)縄文後期後半にいたってもハマグリが主体の鹹水産貝塚であること,3)土器塚が形成されていること,に特徴を見出された。

 東田貝塚 小笠原永驕E日暮晃一・山田敏史・常松成人・小笠原敦子・川口貴明

東田貝塚で採集された遺物
  千葉市縄文早期貝塚ベルトの東部にある東田貝塚は,極めて良好な状態で保存されており,市内の早期貝塚では希有な例である。しかし,これまでにあまり検討されることはなく,さほど知られることなく現在に至っている。周辺には開発が迫り,このまま放置しておくことは,遺跡の存亡にかかわると判断される。
 そこで貝層の分布状況や採集された遺物を紹介し,東田貝塚の実態を紹介することにした。
 東田貝塚は,小規模な貝層が1カ所確認されているだけだが,遺物は広範囲にわたって多く散乱している。採集された遺物は旧石器時代から中近世にまで及ぶが,高品台地の地域個性である田戸式の遺物がまとまって見られた点は特筆できよう。

【ワークショップ】貝塚研究の源流〔W〕
酒詰仲男博士の貝塚研究の軌跡
−酒詰貝塚学に学ぶ−
石部正志・日暮晃一・宍倉昭一郎・小笠原永驕E佐藤誠・鈴木重治・小笠原敦子

基調報告をされる石部正志氏
 貝塚研究の課題に学史から迫るため,石部正志氏に基調報告いただき,討論をおこなった。
T.酒詰仲男博士の貝塚研究の軌跡
 1.日本考古学研究所時代
 2.同志社大学での研究活動
U.酒詰仲男の貝塚学に学ぶ
 1.理科としての先史学とは?
 2.遺跡から社会に迫る
 3.縄文時代の食料生産への言及
 4.食文化に対する興味
 5.酒詰仲男の日誌をみる

【短報】
 波崎・神栖地域の貝塚 吉野健一・鈴木重治・宍倉昭一郎・日暮晃一・小笠原永驕E小笠原敦子・山田敏史

砂丘上にある荒久貝塚
   波崎・神栖地域は,現在の利根川の河口北岸にあたり,長さ約25qの砂州を形成されている。これまでこの地域に分布する貝塚の調査例は少なく,時期や性格が明らかにされている貝塚は少ない。今回は,この地域の貝塚の実体を現地の状況からとらえ,時期や性格に迫ることを試みた。
 この地域では,縄文時代の貝塚のみが注目されていたが,実際には古墳時代の貝塚が多かった。この地域は,鹿島神宮や息栖神社など大和王権とのつながりが想定される神社があることから,それらを視野に入れた研究が必要である。
 また,この砂州上に縄文時代の遺跡が存在するので,余山貝塚は外洋の貝塚でなく湾口部の貝塚とする必用がある。

縄文時代の貝の調理法に関する考古学研究の歩み
−1950年までの研究状況−
小笠原 敦子
 食文化研究において調理法は欠かせない視点である。遺跡から出土する食料残滓の中で貝塚の貝殻は遺存度が高く研究対象に適している。そこで,縄文時代における貝の調理法に関する研究がこれまでどのようにおこなわれてきたのかを確認し,残された課題を整理することにした。その端緒としてここでは,『人類学雑誌』を中心に1950年までの研究史を検討した。

麻生貝塚・興津貝塚に見る貝の食べ方 吉野 健一
 「調理法」は,土器の文様などよりも地域的な要素を強く示す文化的な要素である。
 千葉県栄町に所在する麻生貝塚(中期)と興津貝塚(後期)は隣接しており,1)貝の食べ方の時期ごとの定点的な観察と,2)古鬼怒湾内で小地域に分かれている貝食文化圏が接する地点での貝の調理法の様相を知る上で有効であった。
 分析の結果,中期の貝食は北岸地域と同じ傾向がみられるのに対し,後期は,北岸地域とは異なった貝食文化圏を形成していることが認められた。

縄文貝塚人は魚を何でさばいていたか? 島崎とみ子・小笠原永驕E山田敏史・小笠原敦子・川口貴明・常松成人
 貝塚を発掘すると魚骨がしばしば出土するが,縄文貝塚人達が魚をどのように調理し食べたのかに迫る研究はほとんど進展していない。そこで,縄文貝塚人の魚食に接近する第1歩として,出土遺物の研究史と,実際に魚を切る実験から,どのような道具で魚をさばいていたのかを見出すことにした。
 検討の結果,1)石刃,貝刃とも出刃庖丁と同様の使い心地で魚をおろすことができること,3)石刃は柄があると作業効率が高まること,3)刃の形態が同様でないと作業がしにくいこと,4)刃部が薄いことと曲線の形状が重要で細かなギザギザは問題でないこと,等が確認された。すなわち,柄をつけた痕跡や,刃部の形状などが,「庖丁」になり得る遺物を観察する際のポイントであると考えられた。

魚をさばいた貝刃・剥片

黒曜石の剥片を使ってアジをおろしてみる

白井大宮台貝塚で採集された骨器と貝製品 山田 敏史

白井大宮台貝塚

採集された貝輪
  千葉県香取郡小見川町に所在する白井大宮台貝塚群(縄文時代中期)において表面採集された骨器と貝製品を紹介する。
 骨器は白井通路貝塚から採集された。陸棲哺乳類の骨の螺旋状の割れを利用し,鋭い先端部とブレード状の側面を形成している。
 貝製品は,白井大宮台貝塚から採集されたもので,イタボガキ製の貝輪とハマグリ製の貝刃である。

余山貝塚採集の骨角器と貝製品 山田 敏史

余山貝塚

採集された遺物
  千葉県銚子市に所在する余山貝塚(縄文後期〜晩期)において表面採集された鹿角製刺突具,鳥骨製管玉,ウミガメ製骨製品,およびチョウセンハマグリ製の貝刃を紹介する。
 ウミガメ製骨製品は,その用途は不明だが,報告例がほとんど無く,貴重な製品である。
 チョウセンハマグリ製の貝刃は,ハマグリ製貝刃に通有な大きさよりも一回り大きなものである。その使用方法が注目される。

山武姥山貝塚採集の骨角器と貝製品 山田 敏史

山武姥山貝塚

採集された遺物
  千葉県山武郡横芝町に所在する山武姥山貝塚(縄文中期〜晩期)のA貝塚において表面採集した鹿角製刺突具,骨製釣針,および当遺跡初の報告例となるチョウセンハマグリ製の貝刃を紹介する。
 いずれもただの破片として見落とされやすいものであるが,このような破片資料を除外していると誤った母集団の数を導き出すことになる。当時の生活と海との関わりを解明するにはこうした破片資料に注意し,資料蓄積を図る必用がある。

千葉市向原貝塚出土の縄紋土器 小笠原 永隆
向原貝塚から出土した土器   千葉市稲毛区に所在する向原遺跡は,千葉市縄紋早期貝塚ベルトの中央部に位置している遺跡である。周辺には鳥込貝塚をはじめ早期の遺跡が集中しているが,そのほとんどが未調査のまま破壊されたり,調査されても未報告のままのものが多く,実態は不鮮明である。
 その中で向原遺跡は,1969年に千葉市立千葉高等学校が学術調査を実施し,その成果を『千葉市史』などで紹介している。
 今回は早期貝塚ベルトをより深く検討するために,向原遺跡の市立千葉高校調査時の未報告土器資料の一部を紹介する。

台方花輪貝塚新発見地点の縄文土器 常松 成人
台方花輪貝塚から採集された土器   台方花輪貝塚は,千葉県成田市に所在する縄文時代後晩期の遺跡である。
 台地上斜面の比較的標高の低い所と台地上に合計4地点の貝層が存在する遺跡として知られてきた。
 園生貝塚研究会が行った1996年の踏査で,これらの地点の東方100mの台地上に新しい地点を発見した。
 新発見地点は,貝層は薄いものの,狭い範囲に土器が多く散布していた。ここで採集された遺物については,常松(1998)で製塩土器1点を報告したが,本稿でその他の土器について報告し,新発見地点の基礎資料を提示するものである。

興津貝塚採集の石器 小笠原 永隆

興津貝塚で採集された石器
  千葉県印旛郡栄町興津貝塚で表面採集した,縄紋時代中期〜後期の石器7点を紹介。
 磨石・敲石・凹石の類は,相互に機能を兼用し,多様な形状をしている。今後は調理具として,食生活の視野で分析が必要となる。また,石斧は不定形で,破損品を再利用したものであり,分析対象から外されることも多いものであり,今後注意を要するものである。

岩井貝塚採集の石器 小笠原 永隆

岩井貝塚で採集された石器
  千葉県印旛郡沼南町岩井貝塚で表面採集した,縄紋時代晩期安行式に伴う石器5点を紹介する。
 不定形で加工痕が乏しいながらも,研磨面が認められる石器は,骨格器製作のための砥石とも考えられる。
 小型磨製石斧は装飾品の可能性もあるが,頭部が損傷を着柄された痕跡とすると「斧」として利用されたことになる。果たしてどのような機能を持つものか,他遺跡の事例も含め今後も検討する必要がある。

【レビュウ】
園生貝塚に関する文献〔[〕 日暮 晃一
 新たに確認した園生貝塚に関する文献から,貝塚研究の現状を見渡している。
 園生貝塚を取り扱った文献は近年微増傾向にあり,年間に10本程度見られるようになった。これは,貝塚研究の見直しによるものとみられる。こうした歓迎すべき状況がみられるものの,そこでの論調が,地道な遺跡踏査を踏まえた議論でなく,行政調査の結果のみで安易に結論を導き,事実に反する姿を流布していること,海と海での暮らしに対する驚くべき無知により,海に接して生活していた者なら常識になっていることへ懐疑・否定を主張する由々しき事態が蔓延していると指摘している。

【ブックレビュウ】
阿部芳郎著『縄文の暮らしをみる』 緒方 行廣
  岩波ジュニア新書として発行された本書を,児童の目で読み,書評をおこなっている。

Craig B. Stanford著『Chimpanzee and Red Colobus the Ecology of Predator and Prey』 宇田川 浩一
  チンパンジーの狩猟を書いた本の紹介。

【活動記録】
   園生貝塚研究会の活動記録。

※『貝塚研究』の入手方法などに関するお問い合わせ先:higurashi2@mail.goo.ne.jp







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