「僕」は占い好きの彼女、キッコによく占いを付き合わされていた。その日入ったかなり怪しい占い屋で出てきた占い師は、一通り占いについて語った後、「あなた、西暦2000年に炎にまかれて死ぬわ」と言った。
この占いの解釈は面白いわ。漠然と考えはあるんだけど言語化するとなるとって人は、これが言いたかったんだよ。ってスッキリすると思う。よく読めば当たり前か、それをちょっとだけずらしただけだろうけど、上手く混乱させてからだから、解答を得たとき新鮮に映り、感動すら出来る。
全編通してそれだから、占いに本当に興味の無い人は面白くもなんともないと思う。だけど、反発方向でも興味があれば楽しめると思う。
クリスマス・イブ。しかし、ゼブラ・ビールに勤める石橋係長はそれどころではなかった。たった一人で、明日の重要会議の資料をあと十二時間弱で作らなければならない。当然作業は順調には進まず、困難が次々と押し寄せる。珍しく、状況が突飛でないシチュエーションコメディ。
これは普段適当にやってる人は、申し訳なくなるような話だなぁ。派手さは全然なくて、コメディだと思うけど、大笑いするものではない。だけど、地味な困難の原因が、少なからず自分にあると思うとねぇ。周りの無責任さに共に腹を立て、同情し、静かに笑い、そして密かに反省するはず。
話の運びが上手くてスムーズ。困難の中での、ノベルティグッツの間抜けな名前は寂しさが映える。ただ、外の状況が内に反映されてないのが、味気なくさせてる。派手じゃない分、スピード感出るまでに時間がかかるのが欠点かな。
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他の作品:『午後十一時のメッセージ』
純一と晶が部活帰りに見た、蜂に追われていた少女鈴木詩音と、その少女を助けた女性久遠響子。純一と晶はそれぞれ別の女性を好きになり、何回か会うようになるのだが、二人ともにおかしな点が浮かび上がる。SF。
不満はたくさんある。トロッコに乗せられてるみたいな、先の決められた一本道の展開。特に、もっと疑問の挟む余地があるだろうと言うところでのあっさりした納得はいただけない。久遠響子の奥行きの無さはどうかと思うし、詩音の伏線はどうしたって一本足りてない。双方あれば、もっと二人をミステリアスに演出できると思うだけに残念。
だけど、それらの不満点を「まあいいか」程度に済ませるだけの「凄そうな雰囲気」のある話。前半部の詩音は微笑ましいし、やや浅めだとは思うけど、しっかり疑問の持てる、掘れば掘るだけ出て来そうな謎。詩音の凄まじい選択。爽やかなラスト。
浅めにしか掘ってないから、少し考えれば先が読めちゃうかもしれない。でもここは、凄そうな雰囲気に浸るベキ。
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おすすめ:『たくさんの季節を通り抜けて』
他の作品:『夏休みの始まり』
ドラマ性が欲しいと思うのは僕だけではないはず。ただポンポン出されても、はい、はい、と頷くしかない感じで。彼女と初めてのサカナ釣り、海から見る花火。出来事はそれでいいんだけど、他の要素が欲しいというか。
サカナにまつわるエピソード(どんなんだろ、それは)でもいい、「誰かがここで死んじゃったんだよ」「きゃぁ」みたいなところから、どうとでも話は広がると思うんで。綺麗なのを綺麗に見せるには、それなりの工夫が必要だと思います。
恋人である男女二人の、噛み合ってそうで噛み合って無く、全く要領を得ない会話は、当人同士以外は通じないと言う意味で、現実感のあるモノと捉えることも出来る。だけど、読むほうとしては、どこを手がかりに読み進めたらいいかわからなくて、イライラする。
中盤の、二人の出会いでは彼女の魅力を感じることが出来て、ようやくとっかかりが出来るのだけど、楽しみはその彼女の魅力くらいかなぁ。ただ、その回想と現在の彼女が結びつかなくて。
結末も含めて苛つくんだけど、同じ様な結論に辿り着く他のプロセス、心地よくそこに辿り着く方法って言うのはなかったんだろうか。割と幻想的に辿り着けそうな気がするけど。
微妙な空気の読める人なら、わかるのかもしれません。どうぞ。
隣の部屋に住むSが殺され、その事件で取り調べを受けるM。彼は、現在の自分の様子を書き留め、ホームページに掲載することにした。そして今日も、警察へ出頭し尋問を受ける。
仕掛けとしては新しくも珍しくもないんでしょ。その仕掛けはミステリチックなのだけど、別に取り立てて謎があるわけじゃないから、話としてはミステリでも推理でもない。ちょっと凝ってる、普通の話。
だけど、作者のMさんが実際にホームページを持っていて、この話を掲載しているサイトがそこで、丁寧に話の中で自分のホームページにリンクして。って言う、三面鏡を覗き込んだみたいな些細な混乱が魅力なんだと思う。
軽い語り口で読みやすい。ただ、ラストの数行はもっといいの無いのかなぁ。ラストとしてはだらしないような気がする。
節分の日、今井響子は鬼に願った。憧れの先輩の恋人になれるようにと。もし願いがかなったら、家に入れてやると。
ジワジワと絞めていく感じの恐怖の方がいいと思う。最初に来る不幸にしては大きすぎるでしょ。そんな一発で決めなくても、と言う感じになる。鬼だって、入りたくて入りたくてのせめぎ合いみたいのが欲しい。
節分の日に、外に出された鬼に願いをする。というのは非常に面白いんだけど、その後に惹かれるのがなかった。雑誌に載る占いなのだから、クラスの仲がいい女子とかを巻き込んだ話にしても良かったんじゃないかなぁ。
クラス会で五年ぶりにあったチビ六。中学時代はいじめられっ子だった彼は、今ではチンピラの様なことをしているという。そんな彼が、頼み事があると言ってきた。
唐突だなぁ。登場人物の感情が全て覆い隠されているから、なんでそう言う行動を起こしたのかさっぱり。佐知子に至っては、五年前のと今のと、両方ともの人間関係すらわからない。
淡々として、静かな語りには味があるとは思うけど、少しは強烈な印象を残すのが欲しい。所々に顔を出す、微かな時の流れは確かに残るけど、切なさがこみ上げてくるものではない。使用前使用後みたいな、はっきり強調される場所があってもいいでしょ。
感情移入するんじゃなくて、どことなく寂れた「物語」を読む感じでしょう。
主人公の決意が既に嫌いだからそう見るのかもしれないけれど、こんな決意が飛び出してくるような話かなぁ。出だしの軽い感じが好きなんで、無理にしんみりさせなくてもいいと思うんだけど。そんなことで真剣に悩むほど、主人公は子供でもないでしょう。
あと、断片過ぎるんじゃないかな。間間も想像できる範囲だけど、一番心境が変化してるであろう場面がないから、母親との行き違いも唐突に見える。それじゃなくても納得させるには軽すぎるんだから、せめてそこの場面で、母親の痛みとそれを見た主人公の痛みくらいは欲しい。
事故で恋人を失った女性、しかし、周囲の心配とは裏腹に、少なくとも表向きは元気そうな彼女。普通に職場に出勤し、友達の誘いにも乗ってくるけど……。と言う話で、どこにピクルスが入る余地があるのかと思うけど、しっかり入ってくる。
これは配色とレイアウトで、凄く損してると思うなぁ。こう言うのはなんだけど、ぱっと見下手そうに見える。実際の文章は、短いって言うのあるだろうけど、とにかく簡単に書かれているからサクサク読める。
ただ、聡子の気持ちに迫った、みたいな物を書こうとしたならどうなんだろう。正直な話、「ピクルス」は笑える奇行にしか見えてこない。それなのに最後しんみりさせようとして。そのつもりなら、もっとしっかり書くべきだったでしょう。
奇行に笑って、ちょっとゾクッとする。口裂け女みたいなちょっとした怪談話として読むのがいいと思う。
人間の意識の、思考の謎を解き明かすD-Rプロジェクト。俊之は、そのプロジェクトのための、世界で唯一合法のクローン咲夜と、会話による交流と学習を続けていた。
思うに、D-Rプロジェクトが世間からとやかく言われるとしたら、「合法クローン」とそのクローンの扱いでしょう。合法ってなったからって、みんながみんな「はい、合法。じゃ、なにやっても良し」とはならないはずで。それに比べたら、思考のプロセスが解明されると精神世界が云々なんて、ちっちゃいちっちゃい。
外部からの批判にそれが含まれてないのが疑問なんだけど、あれは俊之が想像した批判だったんだろうか。そうだとしたら、まさにイメージ通りの科学者的な感覚麻痺にはゾッとする。七三一部隊だって情熱を持って仕事してたんだぞ。って力強く言われてる気がする。
咲夜から見た俊之と言うのは、凄く新鮮な感覚。ただ、せっかく二つの視点を行き来するのだから、二人の認識のずれみたいなものがあれば良かったと思う。そうすることで、二人の関係の微妙さも、目に見えて出てくるだろうし、俊之の変化も見えるはず。
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他の作品:『踊る方程式』
謎が明らかにされてしまう瞬間が寂しい。確かに綺麗に作られてるとは思うし、納得できる話、もちろん絵空事だから実際起きたら納得できるかどうかとは別だけど、絵空事としては納得できる話で、逆にそこからに考えると上手く作ったなぁと思うんだけど。
だけど、そこまでに積み上げてきたものが魅力的すぎて。ホント、提示されている段階は凄いけど、それに比べて明かされたことって言うのが小さいというか、理屈っぽいと言うか、謎に比べて格段に落ちる。話としては尻すぼみの格好。
これなら最初に明かしちゃって、別の方向から切り取ったほうが読後感は良さそう。
あ、ミステリじゃなくて恋愛小説です。そのつもりで読んだら……いや、それでもきっと最後小さいと思うなぁ。
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おすすめ:『花の降る夢 遠い月』
通勤途中、道ばたで大きなシャベルを持った女の人がうずくまっていた。気分でも悪いのかと声をかけてみたら、「おめでとう、あなたが百人目です」とのこと。幸運のシャベルを受け取った主人公は、穴を掘らなければならなくなった。
別役実の不条理劇みたいな感じで、くっついて読むとイライラする。離れて読めば馬鹿馬鹿しさが笑えるようになるけど、それでも流れが遅いので多少疲れる。ちょっとミステリアスな展開にはドキドキするので、そちらを早めに出せば防げたかも。
ラストは、それまでの展開からすると意外なくらい決まっているので、不条理物苦手な人でも読めると思う。
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レビュー:POLESTAR・最近のレビュー・中編
いい感じに寂れている喫茶店。マスターの人柄もあり、自称芸術家たちのサロンにもなっている。そのマスターが、三十数年ぶりに思い出したという、子供の頃のある出来事とは。
ようやく設定というか、本編にはいる前のさわりを話した段階で終わっちゃってる。これから転がるのが楽しいんだと思うけどなぁ。
怖くなりそうなパーツはあるのに、それにはほとんどノータッチで、かといって心地よくほったらかされてるわけでもない。怖いと言うことに気づいてないんじゃないかと思うくらい。
「地味なサロンになっている」と言う喫茶店の雰囲気も伝わってこない。
夢の中で私は、CITYの夜空を飛んでいた。金色の一角獣がヒラヒラと舞い降り、金色の猫が甘く囁く。そして、人間は一人もいない。
SF短編とあるけど、SFと言うよりファンタジーと言ったほうがしっくりくる。そして幻想的な前半部は、小説と言うよりも詩かもしれない。音と映像が凄く綺麗で、持って回った言い回しが嫌味でなく、ピッタリはまってる。「ヒューズ」はやや鬱陶しく感じるけど、それも味でしょう。
不思議な印象だけど、こういう夜があると思っただけで嬉しくなるし、なにより夜がこうだから、煩わしい昼でも許せるんだ。そんな気になる。
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おすすめ:『ヒューズ』
毎月第一日曜日にプラネタリウムに行き、決まった席で星空を眺める「ぼく」は、ある時同じように決まった席に座っている女の子に気がついた。彼女はいつも流れ星のところで、何かを祈っているように見えた。
喋りスギでしょ。なんとなく気になって、と言う状況はよくわかる。だけど、心理的裏付けの面でうーんとなっちゃうところがあるだけに、会話が多いとドンドンはなれてっちゃう気分。
なにより、一番綺麗な場面で一番喋っているのはどうなんだろう。せっかくイメージが広がってゾクゾク来てたのに。ちょっと興ざめ。あのまま、短い会話をひとつふたつだったら凄いと思うんだけどなぁ。
彼女の多くの不審な行動には疑問を持てるし、些細なところから見え隠れする、彼女の変化には感動。綺麗な星空を知っている人向き。恋愛小説。
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紹介:もう本は要らない・僕の本棚
僕は、困ってる人に対して当たり前に親切な行動のとれる人を見ると、その時点で凄い後悔と尊敬の念を持っちゃう。だから、話云々よりもこの主人公の行動だけでもう清々しい。しかも、他愛のないことに喜びを感じられる人柄。これはもう、幼稚園児を見るような目で、微笑ましく見つめてしまう。
だから、それだけでこの話を読んで嬉しくはなった。だけど、そう言うのを抜きにすると、ただ無難にまとまってるだけに感じる。新しいことが何一つ無く、面白味に欠ける。かなり偉そうに言えば、もう少し自分なりの話というのを書いてみてもいいと思う。
コンピュータの中に意識を移して、そこで自由に行き来できる渚と湊。夏休みを利用して研究所に手伝いに来た透を巡って、二人の関係が微妙に狂い始める。純真な悪意はかなり怖い。
後半になると落ち着いてくるけど、最初のほうの視点の揺らぎはもの凄い気になる。主に渚と透を描いて進む話だから、その渚と透の会話部分では両方断片的にしか提供されないからストレス。それが伏線となって、なら文句もないけど、特にそう言う感じでもない。
あと、どうも唐突と言うか急いでる感じがする。先の予測された会話文には置いてけぼりをくらうし、研究対象としての渚・湊を描いてないから、彼らの状況というのが今一わからない。研究者たちの冷たさ共々、そう言うのを書けばいいと思うんだけどなぁ。
ある朝目覚めたら、左手が先日別れたはずの加代子になっていた。
書き出しはもの凄いインパクトあるんだけどなぁ。やっぱり、「左手が加代子」って言う状態が頭に浮かびづらいのがきつい。左手が等身大加代子になったのか、等身大じゃないにしても加代子の全身像になっていたのか、はたまた加代子の心みたいのが宿ったのかよくわからない。「左手が加代子」って状況をもう少ししっかり書いて欲しい。
状況が面白いのはわかるから、それだけで楽しませられるのかもしれないけど、その状況で起こる事件の楽しさ。みたいのが欲しい。状況なんて、飲み込んだ時点で前提条件になっちゃうんだから。
PDFファイルなので、Adobe Acrobat Reader(無料)が必要。
話の筋としては、予備校時代に仲の良かった友人に久しぶりに会う。ただそれだけ。だけど、落ち着いてひねくれている、不自然な文章がたまらなく好き。不思議な面白味がある。二人の付かず離れず、ベタベタしてない空気の感じられる会話文もいい。
途中の、ちょっと幻想的な想像、特にその想像に入る時の言い回しにはやられた。そっち側に行かないであくまで冷めているのに、それでいて惹かれる世界。
もしその幻想が本当だったらそれはそれで素敵なことだと思うけど、それ以上に、身近な物からちょっとした幻想世界が広がることが既に素敵です。
参照
おすすめ:『回想と時計のネジ』
他の作品:『微熱』