
月にオープンした地球歴史博物館の呼び物の一つに、地球の過去を自由に見られるという、映像のタイムマシンというべき物があった。その博物館の創立から五十年ばかり経った頃、一人の女性が過去を覗きにやってきた。彼女は記憶喪失で、おそらく過去には重要な使命を帯びていたのだが。SF。
うーん、いつ月に地球歴史博物館がオープンしたとか、同じ頃ロケットが飛んでいたとか、余り重要でない気がするんだけどなぁ。確かに彼女の記憶的には重要だろうけど、読者だけそれを先に提供されると驚きが半減で、逆効果だと思う。
彼女にしても、過去を知ってから馳せる感慨の大部分は助かった時に知らされている事柄で、改めて知ったということでもない。全く知らない、真っ白な状況で過去を覗いたほうがスリリングだと思うし、せっかくの装置も活きるってもんでしょ。この話だと、過去を覗く装置の特別性が感じられない。
装置の説明の部分とか、過去を見物するって言う行為には嬉しくなるんだけどね。
本当なら、花嫁・彩美と一緒に産まれ故郷の佐賀に行っているはずの「僕」。だが、誘拐犯のために捜査課の電話番をするハメに。だが、一人で先に佐賀へ行っているはずの彩美が、到着時刻を一時間過ぎても見当たらないと言う。彩美は一体どうしたんだろう? ミステリ。
一番面白いのは、手がかり部分の絵だろうなぁ。これは想像するとバカらしくて笑っちゃう。推理部分も結構魅力があるけど、解かれた後に見えてくる絵を感動的に仕上げてないから、「なんだぁ」程度で面白味が削がれている気がするなぁ。もっと、隠されてた部分に悲しさとか嫌らしさとか、そう言うのがあればいいのに。
謎や謎が生まれてる状況には筋が通っていて好感が持てるし、解決は多少安易だと思うけど、手がかりもちゃんと示されている。ちょっとした推理ゲームとして楽しむものなんでしょ。
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他の作品:『コップ半分の殺意』他
僧侶である「俺」の元を訪れたその男は、幽霊に憑かれてしまったと言った。聞いてみると、数ヶ月前つき合っていた彼女が自殺してしまい、それ以来彼女の霊につきまとわれるようになったという。幽霊なんて信じていない「俺」は、それでも渋々男の依頼を受けるのだが。
うーん。唯一楽しめるのは「俺」が幽霊や極楽・地獄など、仏教について語るところだろうか。あそこは、ちょっとストーリー離れて語った気もするけど、うんうんと頷けるし、非常に共感もできるのだけど。
別に男と彼女の関係だってあっさりだし、男は最初から取り乱していて、普通だったのが徐々に、って言う楽しみもない。「俺」はあくまで観察者で、全然事態に介入しなくて、ただ通り過ぎてくだけ。
「俺」の語り口を楽しめる人はどうぞ。
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他の作品:『翼の似合わない天使』
重い心臓病で、あと一ヶ月の命と宣告された「僕」。だが、落ち込む「僕」に医者はコールドスリープを薦めた。十年か十五年先に生き返り、そこで心臓病の手術をする。費用も臨床試験なので要らないと言われ「僕」は飛びつくが、目覚めた世界には何故か一人の女性しかいなかった。
想像したより全然凄い話で、ゾッともしたんだけど、それなのにかなり呆気ない。この話ならもっと出来そうな物なのに、出だしから軽すぎるのか、どうもリアリティを感じられないし、余りに「僕」が大人しくて、世界が無機質と言うよりも見えない気がする。
心臓病だから動けないのかもしれないけど、突きつけられた世界がとんでもないのに、全部提供されてるだけで、実際に自分で見ることを全くしないってのはどうなんでしょ。そこが面白くない。
最後の方で随分取り戻したんだけど、その場限り。これ上手く取り込んでストーリー展開に絡めてくれたら、面白いそうだしその分尾を引くと思うんだけどな。ゾクッとしたことは確かなんで、成功は成功なんでしょうけど。
梅雨の開ける少し前。悟はいつもと同じように学校のコンピュータールームであるチャットに入った。しばらくして現れた「ロス」。彼女とは四月に初めてチャットであった以来、もう二ヶ月も頻繁に話している。その彼女と、話の流れで実際に会うことになってしまった。一人で行くのが怖くて、友人の琢磨もつれていったのだが……。恋愛物。
筋はまあ普通。おそらく、思った通りに進んで思った通りの結末を迎えます。でもそれが悪いことかって言ったら一概にそうでもなくて、王道のストーリーを心地よく読ませるとかだと、引き込まれるし感動もできるし、なんでしょうけど。
でもこれはちょっと。あまりにステレオタイプの恋愛ストーリーで、もうちょっと工夫しろと言いたくなる。登場人物の台詞だってリアリティがなくて、ドラマの様な恋愛劇が訪れた自分たちに酔ってるだけの感じ。だから薄っぺらいし、ストーリーも骨格だけで面白味がない。せっかくチャット使うんだから、その状況使って何かやればいいのに。随分表面的に惹かれてるのね。って気になる。
まあ、そんなことより「・・・」を減らしたり、せめて文末には「。」をつけるようにしたりして欲しいですけどね、まずは。
夏の星空が綺麗な夜に、山奥にある精神病院から抜け出した三好和哉。彼は、中学生の時に宇宙人に会い、五年したらまた来るから、その時友達になろうと約束していた。今夜は、あの時と同じ星空だ。SF。
紹介文読んだときは面白そうだと思ったんだけどなぁ。宇宙人に会いに行く三好と、その三好を追う心療士・河野の視点が交互に挿入されるのだけど、それがただ交換されるだけ。早く捕まえなきゃと思う河野や、早く行かなきゃ、宇宙人は本当に来るのかと思う三好の心理もスリルがないし、全然煽らない。ただポンと置かれただけで、嘘臭く感じる。
しかも、出す物は少ないのに何回も何回も出すから、大したことないモノをこねくり回して文章量増やしただけみたい。一章に出て来ちゃう「精神病院で過ごした時間を無駄と思いたくないから、宇宙人が来ると信じたい」と言う面白そうな心情だって、ただ出されただけだから味も素っ気もない。これ、追いつめられて出た台詞ならいいと思うのになぁ。
淡々と進んで、盛り上がりもなく終わっちゃいます。
「五つ星が欲しい!」と、突然ミシュランの五つ星が欲しくなったトモ子の一言から始まる一騒動。鯛焼きを作るためにタイヤをざくざくと切り裂き、油に浸すと出てくる炎の精のふりした校長。果たして、ミシュランの五つ星は取れるのか。コメディ。
ダメだ。突然ミシュランの五つ星が欲しくなって、っていう脈絡ないバカブリは好きだし、特に作中にあった過去の災難・カニを知的生物に進化させるって言うのはもの凄い好きなんだけど。
でもどうしても、みんなで盛り上げ盛り上げ、はい笑って下さいって提供されるのがダメなんだ。それら好きだった部分から全部面白味が消え失せて、むしろなんてつまらないんだと思えて来る。せめてもう少し、「面白いでしょ!」っていう文章を冷まして欲しいとか、話に一本筋と押してくれとか思うものの、まあそんなんわかってんだろうから別にいいや。
何の脈絡もなく、テンションと過剰な笑いだけで持っていく話。そう言うの好きな人なら楽しめるのかもしれません。どうぞ。
両親が共働きで帰りが遅く、一人で夕食を取るサヤ。英語の予習を終え、いつものようにマシロナコドモと言うサイトの年齢別チャットに入る。しばらくして入ってきたK&Kという人物の言うまま窓の外を見ると、そこには十五夜でもないのに満月が――。それはずっと昔、子供たちが月に帰ったときの話。現代ファンタジー。
これは凄く面白そう。是非、長編とは言わないまでも、中編くらいにして書いて欲しい。そうすればきっと面白い。今のだと、ちょっとぶつ切れになった感じの終わり方だし、本題にはいるときが急に一歩踏み出してしまうように感じる。
なによりこれは子供たちの孤独の話なのに、そう言う悲しさが少ない気がするんだよなぁ。だから始めの一歩が急になってしまう。もっと親とかを求める状況があって、でも求められなくて、ってのがあって、徐々に子供たちの中で作られていく空間。と言うのがあったら凄く怖いと思う。今のままでも、K&Kは充分怖いし。
月に核を捨てるとか、ちょっと強引に入ったと思う。面白いんだから。ダイジェスト版みたいに読んで、話を勝手に広げて楽しむことになっちゃう。勿体ない。
「暁(あきら)、俺北海道行くことになってん」広(ひろ)のその一言で、暁は広と同じ高校に行けなくなったことを知った。でも仕方がない、親が転勤なんだから。広は二人で、暁の小さい頃亡くなったおじいちゃんの宝物を取りに行こうと言いだした。童話。
味気ないでしょ。これだけ短い話だから、宝物を見つけるまでの冒険とかは期待しないけど、それでも宝物を掘り当てたときにフワッと想い出が広がるようなのが欲しい。解説口調でポツンと語られるだけで、実際の想い出がどんな物か全然来ない。いかにそれが特別かが足りない気がする。
それから、広が引っ越すと言うときに、おそらくは二人の想い出のためだろうに、「なにかしようか」で暁のおじいちゃんが埋めた宝物を掘りに行くのがわからない。随分と「こちら」側の都合で動いていて、広については他人の想い出にのっかろうとしたみたいに思えちゃう。提案した広側の想いが欲しいなぁ。
骨董市に出かけた秋野と「僕」。秋野と別れてから言い様のない不安に囚われ、ぶらぶらとした散策しているなか、ふと目を引かれた小さな店。完璧な煩雑さで、見事に調和のとれた品物の並び。「僕」がその光景に見とれていると、「私の兄弟を気に入っていただけましたか?」と声がした。幻想。
広がりと奥行きが感じられる語り口で、ちゃんとした作りもいいし、間違いなく読ませると思う。歯車が好きと言う主人公が見る歯車の幻影、物語のあちこちに顔を出す歯車に、主人公の感じる完璧な合理性と言う意味ではなくて、どこか暖かみがある機械としてのノスタルジーを感じて。なんとなく、尖ってない柔らかな雰囲気。
それでも、引き込まれつつもどこでもう一つ押してくれるのかと思ってたら、そのまま終わっちゃった感じで。決してズルズル読んだと言うことなく、楽しみながら読んだんだけど、もう一つ強烈な物がないというか。幻想と言っても美しくはなく、ホラーと言うほど怖くはない。主人公と揺り戻しと変化が強くない気がするし、その後も大人しい。もう少し凶暴であったほうが引き立つように思うんだけどなぁ。
それにしてもエピローグ。うーん、そりゃ驚きだったし、多分ほとんどの人が驚くと思うだろうけど。でもなんか、蛇足じゃないかなぁ。そう言う話じゃないと思うんだけど。
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他の作品:『都会の海岸線』
ヴィーアとマックスウェルにいじめられていた「僕」は、雨の中、逃げようとして弾みで二人を殺してしまう。泥にまみれた服のまま家に戻ると、今度は母親がカンカンだ。「僕」はこの雨だから、二人が誰に殺されたかなんてわかるわけないと思ったけど……。ホラー。
なんだろ。全然引き込まれなかった。いじめられて、人殺しして、母親には虐待に近いくらい怒られて。やられてるものは結構重い気がするんだけど、全然そう感じなかった。むしろフワフワと軽い、表面的な気すらしてきて。
「僕」視点で書かれているから、「僕」の心情も結構書いてあるけど。二人殺したことを隠そうとする「僕」にすらスリルがなくて、変化にも迫力がない。「思い出すことが出来ない」に過度な期待を抱いちゃうんだろうなぁ。で、それがそう言う意味じゃなくて、ただ淡々と行為自体が通り過ぎちゃう感じで。
人殺した僕が、母のいる家に帰らなくちゃ行けないって言う、結構探り合いとかにすれば面白そうな状況だと思うんだけどなぁ。あと、この後面白そう。
「あたし」こと野枝実となつのは二人暮らし。子供の頃からの想い出が染みついた家に住んでいる。なつのは有難味のないおかしなエスパーで、その能力のおかげで今日は大漁の白魚が。二人で食べきれるわけもなく、有効利用すべくなつのは付き合っている小林さんを呼ぼうと言うんだけど。現代物。
なんか繋がりが悪い。馬鹿馬鹿しい前半と、それとうって代わっての静かな後半。楽しい日常を描くことで後半の寂しさみたいのが際だつ。って言うのも分かるし、そのおかげかはともかく、後半好きな雰囲気なんだけど。
だけど、前半のドタバタがそれでしか活きてないのが不満。シリーズの二作目みたいなんで、二人のキャラがあっての話と言うことなんだろうけど、なつののエスパー能力が全く後半関係ない。それなら別にこの二人の話じゃなくていいわけで。
もちろん、この二人でもいいんだけど、せっかくなんだから、せめて想い出の中になつののエスパー能力が関わっているとか、その程度の関連は欲しい。あれはなんだったの? って気になる。
大学生が主人公だけど、随分と幼い感じでフランクに語ってくる。「……」乱発も凄いので、そう言うの嫌いな人はやめたほうがいいです。
夏の終わり。信号が赤から青に変わるのが異常に遅い小さな交差点で、「僕」は信号待ちをしている間、死について考えていた。偶然、交差点の対岸にあきらの姉さんを見つけた。四ヶ月前、あきらは死んだんだ。現代物。
えー。ほのぼの、と言うとちょっと違うけど、ゆっくりと、だけど確実に流れる時間の中、立ち止まっていれない「僕」のこれからみたいな、そう言う静かな話だと思ったらかなり残酷な話でビックリ。
とは言え、何でそうしたのかが全然分からない。ビックリと言っても、物語の展開で「そうだったんだ」みたいな驚きではなくて、ただただどうしてそうなるのかって言う驚き。だから、心地よくもなければ何にもない。
ホントになんだったんでしょう。無理矢理終わらせた?
一人暮らしの「俺」が外で夜食を食べて戻ると、アパートの前で一人の人間が倒れていた。何故かは分からないが、妙に面倒くさかった「俺」はその人を自分のアパートまで連れて帰る。朝目を覚ました彼女は、自分のことを天使だと言った。現代物。
多分、もう一度読んでみようとは思うことはないだろうけど、でもそれは、決してこの話を貶しているわけではなくて。名前を付けてくれたお礼にと、天使がしてくれる等価値交換契約から、自分の真の姿と向き合うことになる男。その向き合った姿が、僕のイヤな部分とかなり近いので、思わず自分を重ね合わせて嫌悪感がつのる。
同じ自分と向き合う行為にしたって、もっと話としては楽しくできるでしょう。俺が俺がと、自分との対話に終始するんじゃなくて、もっと周りとの関係で気づかされるとか。そうすれば、重苦しくしなくてもごく自然に導かれて面白いだろうに、なんか一人で閉じちゃって重いんだよなぁ。と思うけど。
でもそれは、重ね合わせて読んだからこそからかもしれないわけで。些細なきっかけで自分と向き合う展開はいいなぁと思うし、他の、「俺」と全く重ならない人が読んだら、面白く読めて「俺」の救われるいい話。ってことになるのかもしれない。
どちらかは分からないけど、少なくとも重苦しいの嫌いな人には合わないと思う。
学校が終わっても、朝姉と喧嘩したことを思い出し、家に帰りづらい由紀絵。仕方なく公園に向かった由紀絵の周りに、三色の風が現れ、お空の王様が困っていると口々に言う。なんとなく楽しそうだと思った由紀絵が雲の宮殿に向かうと、そこでは二人の王子が言い争いをしていた。童話。
雲の宮殿の部分はちょっとコミカルで、いかにも童話的な楽しげな雰囲気で、何が起こっているのかとウキウキしてくる。起こってる事件も馬鹿馬鹿しくて面白いし、どう解決するのかの興味もあわせて、引き込まれる。
ただ、その解決方法に移るときが味気ない。何かあって、自然に移行してくれると面白いんだけど、頭で考え由紀絵が一人で答え出しちゃうので、物足りない。せっかく人が大勢いるんだから、彼らが動いて勝手になって、「ああ、そうか」みたいな話なら面白いと思うんだけどなぁ。
内容が内容なだけに、頭で考えて由紀絵が答えだしちゃう、だと、色々組み合わせて作ったんだという作者の恣意を感じてしまって、なんか説教臭く感じちゃう。
月面上にある、メーティス宇宙飛行士学校の卒業試験には、名物と言うべき問題があった。それは、小型宇宙船に一人分の食料とエネルギーで、そこにいるのは二人と言う、俗に方程式と呼ばれる問題だった。その問題は、三十数名の卒業予定者の内、二人だけに課せられる問題だったが……まさか俺が選ばれるなんて。SF。
最終的に辿り着く決意や行動は格好いいと思う。だけど、それまでが納得できなくて、特に前提条件の試験問題がダメで、僕にはそれのどこが正常な判断か全く分からない。実際に遭遇した事件ならいいけど、そうじゃないわけで。おかげで、その結果として出てくる決意や行動に対して、格好いいと思いつつもちょっと距離を置いてしまう。
他にも、序盤全く出てこなかったキーワードで、それまでさほど怠惰とも思わなかった主人公が、自分の怠惰に気づき使命に目覚めちゃう。主人公に影響を与える相方にも、使命に対するこだわりがそれまで感じられなかったから、変化が唐突に感じる。
主人公の最後の決意はいいんだけど、相方はこの試験を通してどんな決意が芽生えるんだろうなぁ。全然芽生えてない気がするんだけど。
参照
他の作品:『宴の後に』
「わたし」が部下のジェンキンス刑事と一緒に訪れた高級アパートの一室。入居している男が呼び鈴を押しても出ないと言う。入ってみると男の姿はなく、書斎には奇妙なことが書かれている日記があった。ショートショート。
多分、こう言うのって一度同じようなの読んじゃうともう楽しめないんだろうなぁ。残念ながら僕は読んじゃってたんで。全く出会ってない人だったら、これだけでも面白いかもしれませんけど。
書かれている状況自体に面白味がないし、不自然なのになんでそんなことするかが分からない。これじゃ仕掛けの価値は半減以下だと思うなぁ。しっかりした理由があって、それでこそ仕掛けも活きるって物だと思うけど。
短いから仕方ないんでしょうけどね。
オートリが研究のために栽培している植物に水を上げに行くと、水道が凍っていた。しかし、近くで水の流れる音がし、その方角へ行ってみると朽ちたガラスハウスが。そこにはなんともんぺ姿の女の子がいて、オートリは彼女に想いを寄せるが、彼女とは生きている時代が違うのだった。恋愛物。コメディ。
ストーリーが引き込むとか、緊張感があって右往左往してとか言う正統派じゃないんで、二人の恋の行方や如何に。みたいな盛り上がりは一切ないんだけど。大きくではないけど、所々話の進みかたや文章のフレーズにくすぐられて、そのくすぐられ具合が気持ちいい。
同じ場所にいてお互い姿が見えてるのに、触れられるのに違う時代の風景を見てる。って言うのは凄くイメージが刺激される。余り活かされてる感じはしないけど、すごくいい世界だと思うなぁ。上手く使えば、結構感動的にもなりそう。
残念ながら感動的にはならないものの、そこから後は急に活気が出て来て、結末はなんからんまみたいで面白い。本領発揮(知らないけど)って感じがしてくる。ただ、それなら最初からコミカルが良かったなぁ。どっちつかずで、考えてるのか考えてないのか分からない表現や出来事ばかりが気になる、退屈な前半が残念。
穏やかな海岸で倒れていた「あたし」を助けてくれた彼。「あたし」は、彼の「毒を盛られたね」と言う唇の動きに恋をし、そして彼自身に恋をした。だが、「あたし」が自分の話をしようとしたとき、あることに気がついた。あたしはなぜ、海辺で気を失っていたのだろうか。
なんか、とても微妙なバランスの上に立っている話だなぁ。自分のことを語ろうとして、初めて自分のことが分からないことに気づくと言う、提示の素晴らしさ。そこから続く、「あたし」の記憶の羅列が、これまた不思議な話で、面白くもあり、頭の中を引っかき回されもする。
で、その奇妙な話の連続に飽きてきた頃、次の展開が待っている。なんと、「彼」が謎解きをしようと言うのだ。もうこの、わけ分からない話から「あたし」とは何かと言う謎を解こうとすることだけでやられちゃう。
ところが、謎解きとして示される話もわけ分からない。謎のキーワードからかもち出される気持ち悪さと、それと表裏一体の笑い。どちらを取っていいのかこれまた引っかき回される。この人の頭の中どうなってるんだろう。とんでもないイメージ力。
勝手だけど、これを笑い要素濃く書けば凄く面白そうだと思うなぁ。世界がかなり特殊なんで、合わない人はダメでしょ。
油壷水族館でイルカショーを勤める順一は、イルカの気持ちや言葉がなんとなく分かり、特にイルカのメグとのコンビネーションはバッチリだった。三ヶ月前に油壷水族館にやって来た恵子には、そんなイルカと心を交わす順一が、信じられない存在であり、また、ある過去を思い出させる存在だった。恋愛。
説明調。半ば過ぎ辺りから話が始まる感じで、それまでは延々と説明されてる気分になる。視点も離れて、第三者として語ってる感じで、余り多く心情が語られない。「〜だった。〜だった」と事実関係を語ってるだけみたい。
おかげで淡々と進んでしまうんだけど、僕には話が始まってから語られていることよりも、前の段階でパッと通り過ぎちゃう、イルカショーを嫌悪していた恵子が、イルカと交流する順一を見ているうちにその心情を変えることの方が余程劇的。これを中心で、むしろこれの延長で起こることだろうに、延長だけ見せられても。と言う気になる。
中心がないからか、メグに嫉妬する恵子はともかく、その恵子の行動に激怒する順一が分からない。何を怒ってるの? 騙したって何を? 何でメグとの関係ってそんなだと順一は思ってるの? 言わんとするところは分からないでもないんだけど、宙に浮いちゃう。