タイトル



『人は、誰かになれる。』橘川のぞみ 22.6KB
http://www03.u-page.so-net.ne.jp/kd5/nozomi_s/ novel

 受験生の頃通っていた塾で、事務としてバイトをしている「私」。事務室まで聞こえてきた「人は誰かになれる」と言う言葉に、自分は誰かになれるのかと考える。受験生の頃と今、確かに生活は変わったけど、「私」自体はちゃんと変わって行けてるのだろうか。恋愛。

 凄く散漫としてる。これだけの話なのに塾の講師が四・五人出てきて、ほとんど主人公そっちのけでワイワイと騒いでいる。最初のうちはそれでも集中して読んでられるけど、さすがにどこが主なのかわからなくて。凄く楽しいバイト先なのはわかるけど、もう少し絞って欲しくなる。

 それでも、思いもよらぬところから「他人行儀だ」と指摘されて、酒の力と合わさって主人公が思う「他人行儀かもしれないけど私は一緒にいたいんです」って言う言葉は、なんか素直な願望なだけにちょっぴりの寂しさを感じる。このために延々主人公そっちのけで盛り上がったのかと思うと、少しだけ許せちゃう(あくまで、少しだけ)。

 ただ、そこだけ光ってて、他の場面は辛い。下手に恋愛入れないで、このための話にすれば少しは芯が出来てまとまるのに。恋愛要素は「普通」でしかなくて、不満しか残らない。あと、「私」のブリッコっぽい語りは話にはあってるけど、しまらないと思う。


『黄昏に還る』天河鈴女 30.3KB
http://members.tripod.co.jp/tenkawa/ 幻影草紙

 いつの頃からか、同じ夢を見るようになった真名。その夢はどこともつかない海辺で「帰っておいで、愛しい我が子よ」と呼びかけられる夢。夏休み中の真名は、その夢のことを奇妙に思いながらも、友達に誘われるままに近所の浜辺へと遊びに行く。そこで夢の声を聞いた真名は、一瞬自分の腕にビッシリと鱗が生えている光景を目にするが。ファンタジー。

 真名の毎晩同じ夢を見るっていう悩み自体はともかく、その夢が直球で全然煽らない。真名に起きる異変も、「ああ、そう言う話なんだ」ってわかるってだけで、真名が感じた恐怖が伝わってこない。ストーリーがステレオタイプでも、真名の心がビシビシ伝わってくれば別なんだろうけど、そうじゃないから面白くない。

 さらには、真名が悩んでいるのを見て心配して、両親が相談(ネタばらし)しているところを真名が通りかかってしまうって言う工夫の無さ。両親の心配の仕方もオリジナリティゼロだし、出されてる内容からわざわざ解説されてる気分になる。

 ラスト間近の、タダのステレオタイプにならないのではと、感じさせる場面はいい。なんか、他をありがちで固めてるだけに「そう言うの期待したんでしょ?」って嘲笑ってるようにも取れるんだけど、その後何事もなかったかのようにありがちに帰っていく。残念。


『卒業』御手洗勉 21.5KB
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/5623/ トップページ

 アルバイトが終わって店を出た幸子は、同じくバイトの滝田に誘われる。そのまま家に帰るのもなんだと思っていた幸子は、誘われるままに喫茶店、バー、そして滝田のアパートへ。卒業を控えて不安定な幸子。私は四年間何をやっていたのだろうか。現代物。

 無機的で説明調。滝田は幸子のことを心配してるんだけど、その心配している理由がまあロボットみたいに的確で、それを説明的にただ提示されるから、面白味の欠片もない。それは別にそこに限った話じゃなくて、事実・事実と並べ立てられて、雰囲気がない上、特別なにも起こらない話で、事実自体もつまらない。

 こういう話なのだから、雰囲気ぐらいはしっかりしておかないと何の楽しみもないと思うんだけどなぁ。幸子の悩みだって、特に葛藤することなく、一晩あけると勝手に吹っ切れちゃってるし。一晩あけると吹っ切れるんなら、その晩色々考えたことを示してくれないと全然分からないし、面白くない。なんか作者一人で感傷的になってる気がする。

 せめて会話文、どっちが喋ったのかわかりやすくして欲しいなぁ。


『目撃者』阿波昌幸 30.1KB
http://www.ne.jp/asahi/my/book/ 明暗

 雑誌の取材で行った京都から帰ってきた佐々木由香は、新聞で隣の部屋の女子短大生が殺されたのを知る。日付を見ると、由香が京都へ行くために家を出た時には、隣の住人は死んでいたことになる。仕事をする気分にもなれずにすぐ床につこうとするが、ふと、殺人が起きた夜のことを思い出した。――私は犯人を目撃している。サスペンス。

 犯人を目撃している恐怖と、その犯人がジワジワと迫り来る恐怖で、クライマックスのスリルは結構なもの。もう、本当に典型的な焦らしも決まってると思うし、単純にちょっとスリルがあるのを読もうと思ってるなら、これはピッタリかもしれない。

 ただ、そこのスリルはあるんだけど、バラす前からネタ割れちゃう気がするんだけど。少なくとも僕は気づいて、それも「気づいた、凄いだろ!」と誇ることでもなく、どうも持って行き方が雑で違和感あるから、薄々気づかされちゃう感じ。

 それはもちろん完全に解けたものではないんだけど、気づいてなければもっとスリルあっただろうし、解決は綺麗なのにその驚きが少なくなっちゃってるだろうから、残念に思えちゃう。もっと自然だったらよかったのに。それにしても、序盤の混乱は何だったんでしょうか。

参照
 他の作品:『夜明けの子供たち』


『時は金なり』藤野ゆうき 7.21KB
http://www2u.biglobe.ne.jp/~gto-z/ Novel・Short

 夏の昼下がりに、カーテンを閉めて暗い部屋の中本を読んでいる男の前に、一人の少女が現れた。彼女は、自分は天使の部類に入る者だけどと自己紹介し、男に時を譲って欲しいと頼み込む。男は、少女に意地悪しながらも、十万円で十分の時を譲るのだが。

 面白いのは、価値の転換だろうなぁ。普通、時は大事なもので、それに比べたら金なんかっ。って感じだろうけど、男も男で動いて、時を分けた天使の少女よりも役に立ってそう。金だって役に立つんだぞって言う主張が面白い上に、格好良く決まってる。働き終えたときの彼の言葉がまたいい。

 ただ、短い話だけに物足りなく感じちゃうところもある。骨格これで、もっと長いの書いて欲しいなぁ。きっと面白いと思うんだけど。ポンポン進みすぎて、ちょっと味気ない。

参照
 レビュー:POLESTAR・最近のレビュー・短編☆☆☆


『僕のあやまち』荒木和佳子 21.2KB
http://www.din.or.jp/~sylphide/ 小説たちの部屋・投稿小説

 くじ運の悪い主将によって、高校で最後の大会で初戦からシード校に当たってしまった僕ら。コールド負けだけはしないでくれ、と言う「僕」の願いが通じたのか、八対四で九回の表、僕らの最後の攻撃になった。が、相手のミスもあり、あれよあれよと打順が進み、二死満塁・一点差と言う状況で「僕」の打順が回ってきた。スポーツ。

 多分、高校野球を見てて誰もが思うことだろうと思うけど、思いも寄らぬ反撃が始まると、主人公は「今すぐ負けちゃってくれ」と願う。自分が最後のバッターになりたくないからだ。この気持ちはわかるし、誰もが思う割にそう言う思考の主人公ってあまり見たことないから、実際にやっちゃったのが面白い。

 ただ、そこに可愛げがない。序盤から、随分と舐めてる奴だなぁとは思ってたけど、打席に立ってまで「ま、どうせ負けるし」って軽い考えは腹が立つ。野球としての盛り上がりにも欠けてるし、結局何が「僕のあやまち」だったのかよくわからない。「打席回ってくるな!」って祈って、それが通じちゃってほっとしたほうがよっぽど自己嫌悪だろうし「あやまち」だろうし、緊迫感もありそうだけど。

 どうでもいいけど、一回戦シードされるからシード校なんだと思うんですけどね。


『グッバイ・マイ・グルーミー・デイズ』なおすけ 6.43KB
http://www.ipc-tokai.or.jp/~ray/jewelbox/ 掲載作品集・作品集

 土曜日になると、毎週「僕」の研究室にやってくる彼女。彼女は水族館へ行きたいと言うが、「僕」は博物館のほうが好きだ。どうせ水族館と言っても養殖物の魚しか泳いでないとか、色々理由を付けて断ろうと思ったけど、彼女はがんとして聞かない。

 短いけど、ショートショートというわけじゃないと思う。確かに意外だと思ったけど、それはどちらかと言うと副産物みたいなもの。そんなの気にせず、凄く楽天的でとぼけていてバカな内容と文章を楽しむべきでしょう。こんな楽天的なのが驚きの世界。

 ただ、バラシかたが直球でつまらない。この雰囲気とこの内容にはそれでもあってる気はするんだけど、上手く話に絡んでないと、勿体なく思っちゃう。


『甘い旋律』アカガネヒロ 19.2KB
http://akaganehiro.tripod.com/ 字的幻想楼

 放課後、音楽室から流れる聞き覚えのある旋律に足を止めたレン。ピアノを弾いていたのはアシノと言う教育実習生で、鍵を締めに来ただけなのについつい弾いてしまったのだという。その日から、レンはアシノに会いに音楽準備室に通い、うろ覚えだった旋律を弾いてもらう。現代。

 いいなぁ。レンの姉は音大生なんで、姉が家で聴いていた曲がレンにうろ覚えで染みついている。そのうろ覚えだった曲が、アシノが現れたことによってしっかりとした曲になる。ほんの少し、二人の交流として少し書かれてるだけなんだけど、その行為がたまらなく嬉しい。

 なんとなく、曲を徐々に染み込ませていた過去が、今初めてはっきりとした形で現れるって言う。レンにしてみれば、その曲を弾いてくれるアシノは、過去を見せてくれる手品師かと思うんじゃないかと思うくらい、不思議な現象。「君専属ピアニストだ」って言葉もたまらない。

 ただ、最後お姉さんなにか言ったほうが格好良くないかなぁ。迷いはまあ、教育実習に来たことが迷いだろうし、急に垣間見えるって言うのもいいんだけど、成長は決意だけじゃなくて、音楽で見せたほうが格好いいと思うんだけど。成長物語よりも、音を好きな人を、楽しむものでしょうか。

参照
 他の作品:『Side:B』


『朝に壊れる』中川早織 10.7KB
http://www2.plala.or.jp/medore/index.html 小説のページ

 柔らかいくすんだ雨の中、古アパートの解体現場に立つ「僕」。建設会社に入って三年になる「僕」は、安全点検のために小さな路地にはいる。アパートには小さな庭があり、そこには柿の木が植えてあるのだが、その柿の木の向こうに、女の人が立っていたのが目に入った。「僕」の記憶に甦るのは、あの人の名前。現代物。

 解体作業と言うことにあってか、出だしからほんのりとしたもの悲しい雰囲気。それはいいんだけど、立っていた女の人を見て主人公が思い出す過去、その過去と重ね合わせた現在がどうもきれい事だし、最初からの雰囲気もあって、分かり切ってることを何を今更という気になる。

 過去のほうは、どちらかというと自分がはった虚栄からくるもので、現在は主人公の言う「現実に折り合いをつけた」ために傷ついたもの(と主人公は信じている)。全然別物なのに、それを一緒に「現実との折り合い」なんてきれい事にするなと思う。

 解体作業に来ていて、今まで住んでいた人のことを全く考えてなくて、現場でそうだと思われる人を見て「ああ、俺はなんて汚いんだ」って思うなんて、ちょっとまともじゃない。それを知った上で、実際の話なり聞いて重みを感じるか、そうじゃないなら最初はもの悲しい雰囲気じゃないほうがいいと思うんだけど。


『月夜の闇』紀和之 30.7KB
http://www1.plala.or.jp/soyogi/ 紙片たち

 古本屋街のある街に住む「僕」は、よく古本屋に出入りしている常連だと自負している。だが、「僕」の本の楽しみ方は変わっていて、本の中身よりも、本の外観から感じる歴史ほうに興味がある。だがら、いつも本を手に取ると言うことはなかったのだが、その日は珍しく本を買った。ぼろぼろのその本に書かれていたのは、猟奇的なものだった。ホラー。

「どう、びっくりした?」みたいな内容で一番困ってしまうのが、「いや、別に」ってときではないかと思うんだけど、これはそんな感じ。作中で主人公が本を読んで、その本文がずっと書かれてればもう何通りかの結末予想できちゃうわけで、途中もその予想した枠をはみ出さないから、面白くない。

 作中作の物語が、結末の予想もさせないほど面白かったりしてくれれば気にならないんだけど、そうじゃない。書かれてることは猟奇的でグロテスクかもしれないけど、作中作だからって言うのもあってか、全然来ない。

 ちょっとの工夫よりも、結末に至るまでを面白くしたほうが効果的だと思います。


『蛍狩り』古谷雄一 16.6KB
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4318/ 読み物企画の部屋

 蛍狩りには、二つのルールがある。ひとつは、一人二体の蛍までしか狩れない。もうひとつは、参加者同士での争いは禁止と言うものだ。夕日が沈み、遙かな田園風景の中、暫しの蛍狩りの夜が始まる。アクション。SF。

 この蛍狩りを行う世界観が凄い。だって、主人公の浴衣は「ずっしりと重い」金属繊維で、でも「体温を感じた微細機械」が主人公の体に合わせて浴衣を伸縮させたり、団扇は団扇で空間を歪める力を持ってるし、そんな装備までして狩るのが蛍だよ。

 もちろん、タダの蛍じゃなくて、かなり異形で何人も死者が出るほど危険な狩り。この異形な物を「蛍」と呼んで、レジャーとして、楽しみとして狩っていくんだから凄い。終わり方も格好良くて、この「蛍狩り」ってのにはやられちゃうなぁ。何も残らない、壮大なバカ話(貶してるわけじゃなく)。って感じがする。

 ただ、残念なことに僕がアクション好きではなかったんでよく分からないと言うのもあるだろうけど、もうちょっと闘いのシーンは蛍がどんな状態で、どう襲ってきているのかわかりやすければ良かったと思う。

参照
 おすすめ:『蛍狩り』
 他の作品:『鬼』


『かざねしま 〜風音島〜』風城一希 60.4KB
http://www2.neweb.ne.jp/wd/kazasiro/wt.index NOVEL

 ほぼ一年ぶりに風音島に降り立った野下遊弥は、自分の体・感覚がリセットされ、あの頃に戻っていくのを感じる。いつものおばさんの家を訪れた後、廃寺の脇にある小さなお墓に手を合わせる。そこは、島に初めてとき経験した別れの場所。その後、砂浜で出会った不思議な少女と、しばし夢の時間を過ごすのだった。現代物。

 このあらすじだとそうは思わないだろうけど、筋だって結構面白い。お墓に手を合わせると不意に聞こえてくるくすくすという笑い声や、思わせぶりな風鈴の音。最初は何のお墓かはわからないから、ただ悲しみだけが伝わってきていい感じ。凄いドラマが待ってるんじゃないかって期待しちゃう。

 だけど、この話の良さはそんなところにはないんだろうな。ジブリの描く田舎の夏みたいな、自然が溢れ、人間の繋がりのある島で。おばちゃんの優しい暖かさやおじちゃんの重苦しい暖かさ。それと、少女と過ごす時間の楽しさの中に垣間見える悲しさ。わけありげな遊弥に、グイグイ引き込まれる。蝉の声とか、風鈴の音とか、そう言う間がいいんだろうなぁ。

 ただ一つ思うのは、不思議な少女。あれ普通の不思議な少女でいいような気がするんだけど。何でわざわざ猫耳なの? もの凄い不自然。おかげで彼女と主人公の交流中も引っかかるし、彼女に向かって決意表明しているときも間抜けに見えてくる。中心だろうに。


『図書館』トト 7.29KB
http://www9.freeweb.ne.jp/photo/uniworld/uniworld/ 作家別作品一覧・トト

「いらっしゃい、よく来たね」語り手は二冊の本を読むことを進める。一冊は十七ページで完結していて、一冊は十七ページで完結されていた本だ。十七ページしかないがよく読んで理解し、感想を聞かせて欲しいと語り手は言うのだ。ショートショート。

 凄いそそる出だしだなぁ。二冊本があって、十七ページで完結している本と十七ページで完結されていた本だ。この微妙な違いと、わざわざ微妙な違いを強調するような語りかた、それから語られていることからの緊張感が混ざり合って、とても心地がいい。

 ただまあ、それは長続きすることなく、薄々感づいて「なぁんだ」ってな感じで終わっちゃう。それでも、惹かれる言葉は結構あって、最後の言葉とか凄くいいね。同じ様な設定の、バランスが現実寄りの話とかで使われたら結構来そう。

 勝手なこと言えば、意外性なんていらないから二人の話をじっくり聞かせて欲しいなぁ。全体的な印象で面白かったかと聞かれれば首を捻るだろうけど、イメージとか広がりとか緊張感とか、そう言う端々の光ってるのが嬉しい。


『ESCAPE Date』氷上祐 36.4KB
http://www2.orions.ne.jp/rainy/ Novel

 再就職をするために活動中の恭香。だが、今日の面接もダメだった。憤慨と落ち込みのなか公園に行って昼食を取るっていると、同じく失業中であろう男の人が声をかけてきた。どこかで見たことある、と思って記憶を辿ると、殺人事件の重要参考人で手配されている男・日高宗太郎だった。ライトサスペンス。恋愛。

 文章は読みやすくてサクサク読めるんだけど、序盤・中盤・終盤とそれぞれに不満点があって、まずどうして恭香が日高を手伝おうと思ったのかが分からない。相手は殺人犯かもしれない、逃亡中で薄汚い新聞紙かぶって寝ている男なわけで、いくらその男の目に暖かみを感じたとは言え、積極的に自分からを手伝おうとするのは無理があると思う。

 中盤は中盤で、盛り上がる場面はあるんだけど、その場面は次の山場へのステップだろうに、次の山がなく終わっちゃう。犯人を追いつめたり掘り下げたりするのが面白いんだろうに、そう言うのがないから終盤呆気なく感じる上、偶然で終わられるから拍子抜けしてしまう。

 なのでサスペンス要素の薄い、かといって恋愛要素が濃いわけでもないんで、せっかくなんだから盛り上げて欲しいなぁ。どうでもいいけど、警察ってそんなに信用ないですかね、イメージとして。


『烏』桜川夏 73.7KB
http://www21.freeweb.ne.jp/play/natu-s/ オリジナル創作小説

 某大手製薬会社の御曹司である部活仲間・長谷川秀司の家に、いつものように無理矢理連れてこられた大輔は、秀司の母・敦子がこっそり携帯電話をかけていたのを目撃し、家族に知られたくない秘密の電話だと直感する。その後、偶然拾ったその携帯をだしに、秀司の母に会おうとするのだが、逆に大輔のほうがたらい回しにされるのだった。現代物。

 以前読んだ『青い金魚』の時も思ったけど、中盤まで全体像が見えない作りなのがいい。比べてしまうと随分落ち着いているけれど、それでも惹かれる作り。

 大輔はただ会いたいと言う想いが全面に出ててわかりやすいんだけど、対する敦子が何を考えているのか分からず、二人の会話は微妙にすれ違う。大輔が拾った後敦子の携帯にかかってきた謎のメッセージとか、ワクワクする。

 ところが知っちゃうとそうでもなくなっちゃうって言うのが。中盤まで期待してたのと違う、ほんのりとした悲しさや寂しさがあって別の要素では楽しめ、ワクワクしてた自分や主人公がバカに思えてくるほど。そう言う意味じゃ、そう言う寂しさを知って打ちのめされて帰って来るって言うのが似合ってる話だと思うんだけど。ちょっと後味悪い。

参照
 他の作品:『青い金魚』


『名もない少年「少年編」』aoiio 22.0KB
http://www.ne.jp/asahi/ginyusizin/mori/ TANPENSYOUSETU

 屋上からの飛び降り自殺をしようとしていた巧にかけられた、少年の声。「死になよ」と言う少年の瞳の奥には、深い深い悲しみがあった。この少年は、僕に似ていたのかもしれない。そう思った巧は少年についていき、しばし、少年と共に時を過ごす。思考。

 飛び降りを試みていたショッキングな出だし。でもその後は落ち着いて、ほとんど動きのない物語。夏の終わりの海に、静かに二人でたたずんでるみたいな、そんな雰囲気の中での生活と、少年の口から時々漏れる哲学的な言葉に、巧は忘れていた色んなことをもう一度知るのだけど。

 でも、頭の中の思考だけで全て片づけられていて、巧や少年についての知識もないから、巧の味わう感動みたいなのはわからない。徐々に回復して、で、過去が明かされて、それで「ここにいていいよ」なら感動的かもしれないけど。眠りが「記憶の……全てを包む波から運んでくる」「あいつら」や大切なものとかさぁ、面白そうなのに。

 巧や少年が、ただ存在している人間と言うだけの記号で、存在感や裏が全くない。その分の味も確かにあって、熱のない雰囲気というのは好きなんだけど、議論が肉体を持ってないと思うんだよなぁ。頭の中だけで無機的に色々考えるのが好きな人は楽しめるのかなぁ、こう言うの。


『王様は裸か?』ユージ 14.1KB
http://www.oekaki.org/yuji/index.htm ショートショート

 有名なあの話。どこをどう変えたかでまあ興味はあるし、変えた箇所も面白い。ちょっとした演説は読み応えあり、その屁理屈さに納得半分呆れ半分で、やや呆れ成分の強い笑いが出る。思考ゲームみたいなもんでしょうか。

 有名な話だからわかりやすいし、ショートショートなのだからちょっと読んでニヤリとする分にはいいでしょう。どうでもいいけどそもそも元ネタの王様、どうして限られた人になら裸見られてもいいと思ったのかね。


『Jugendstil』Zn 25.4KB
http://homepage2.nifty.com/dualshock/top.html NOVEL

 地元中学生憧れの「二つ星のセーラー服」を着て、毎日K高校に通うあたしたちは、みんないい子だった。押しつぶされそうな重圧の中、駅のホームで吸う煙草で、ようやく「あたし」は生き返る。白線で囲まれたこの空間が、「あたし」の最後の砦なのだ。日常。

 劇的な要素は何一つないけど、文章のリズムがまず心地いいし、その文章で描かれている空気もいい。少し退廃的で、動きと色の少ない世界。今日は昨日の繰り返しだし、明日は今日の繰り返しだし、みたいな、止まってる日常・止まってる空気。その分、少しの動きが立てる波風が感じられて。

 それから、登場人物の切り取りかたが良くて、特に行為の婉曲さがたまらない。なんか、立った波風に対して知らん顔していたい、波風がなるべく立たないようにしたいという感じで。それは、相手に対してと言うより自分の心に対してで、その自己防衛からの半身の構え。弱い部分や危うさがチラチラと見えて、大丈夫だよとエールを送りたくなる。

 こういう子がこういう空気の中積極的になる瞬間っていいだろうなぁと思うから、変化を望みながら待ち続けているだけの主人公が不満だけど、やっぱ人間そんなヒーローにはなれないよね。そう思うと、半身の構えで出した消極的な積極さに、精一杯のものを感じて切なくなってしまう。

参照
 おすすめ:『Jugendstil』


『それでも朝がまた来る』椋木悠 16.3KB
http://www.geocities.co.jp/Bookend/9094/ さまざまなかけら

 沈む夕日を、静かに上下する木馬の上で見ていた「私」。やがて日が沈み、東の空に星が瞬き出す頃、「私」はある人影を見た。そのシルエットは見間違うはずのない、何度も何度も見つめていた影。そして彼が、徐々に小さくなっていく――。メリーゴーランドの夢を見た日は一日中憂鬱だ。ホラー。

 当たり前だけど題名に意味あったのね。なぁんか語呂の悪い題名だなぁなんて思ってたけど、こういう意味だったんだ。なんか、そのことがしみじみと納得できる。

 現実部分は弱く感じて、読後しばらく経ってから感じた物足りなさはそこから来てるんだと思う。夢部分は凄いのに、起こることは身近で小さい(くはないんだろうけど)。これが広がり感じられたら凄くいいと思うんだけど。

 ただ、そう思うのも夢にやられちゃったからで。夢の中のメリーゴーランドはいつも幻想的な場所にあって綺麗だし、しかも夢だから、見ている本人にその夢を動かす力はなく、もうどうしようもない。この、綺麗さと無力感がいい。最初はよくわからないけど、わかると結末が予想でき、その結末にぶち当たらなくてはならないことが怖い。


『そら』奈羅々美緒 43.6KB
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/6630/ Library

 日渡そらの両親が亡くなってから、そらの様子がおかしくなった。表面上は取り立てて変わっていないけど、いつも彼が周囲にはなっている笑顔がぎこちなく見えるのだ。そらに助けてもらった高里いくとは、今度は彼を助けたいと思うのだけど。童話。

 両親を失ったそらを、周りの人が助けようとする話だけど、そらの様子が余りよくわからない。最初に出てくる少年がそらだと最初はわからないわけだし、そらが自暴自棄になっているのか、喪失感を抱いているのか、その結果どうなのかがない。

 その上、助けようとするいくとは一度ダメになった後、再び次の策を練ることもなくただ見送るだけで、次ぎにバトンタッチ。全く新しい話が入ってきて、もう誰を軸に話を見ていいかがわからない。勝手に進んで行っちゃう印象。

 せっかくユニークなとこあるのに、そのユニークなのが最後にかっさらってくでは逆効果でしょ。もっと、そらといくとの話にしてあげて、それでユニークさを絡めていくほうがいいんじゃないかなぁ。


[PR]田丸麻紀さん愛用ダイエット:大人気サプリメント!注文殺到中です