『RIBBON IN THE SKY』
とうとう やってしまった ここに来るまでに
マリークロッカスは 体中から わき上がる冷や汗と
真っ白になった頭を 落ち着かせようと
濁った波打ち際に ぼろの体をひたした
辛い潮水が きつくしみとおる
そして 洗いながした
べとべとした この 薄暗い血を!
[おい 見ていたんだぜ」
浜辺から声をかけてきたのは 黒猫だった
マリークロッカスは たじろいだ
「何をだ?」
「おまえがやった すべてをさ!」
大きな波が くずれてちった ザザーン
そのいきおいで ぼろの羽が 次々もげる
「悲しみまでは もっていってくれないぜ わかるだろう?」
マリークロッカスは うなだれ 波からあがる
くもり色の 激しい風が またもや羽をさらっていった
「笑うがいいさ 哀れでみにくい この私を
だって この血を見た時 思ってしまったのさ
なんて美しいのだと」
そして うずくまる
だだっ広く 巨大な砂浜に
マリークロッカスは 心臓をつぶすくらい
小さく 小さく ちぢこまる
青い闇は まだ 景色に重くのしかかっていた
「俺もそうだった 俺も 同じあやまちをおかした」
黒猫は 空を見上げてつぶやく
「どういうことだ?」
「違うのは 俺は死んでて おまえは生きてるってことさ
つまり 今 おまえが見ているのは 俺の幻なんだよ」
一瞬の沈黙の後 波はまた 静かにおしよせる
「生きるっていうのは 果てしないんだぜ
この海みたいに あの消えかかった星みたいに
俺はすべてをフイにしちまった バカな話だな
まだ 何も見ていなかった
まだ やることは いっぱいあったはずなんだ
それなのに それなのに この俺ときたら...!」
黒猫は ふとそっぽを向いた
白く 輝く 涙の粒が ボタボタ ボタボタ こぼれておちて
銀色の砂に消えていく
しばらくしてから すきとおった 丸い瞳をこちらに向けて
黒猫は マリークロッカスにたずねた
「おまえは 何が怖いんだ?」
「私は… すべてがとてつもなく怖い
森の連中も 自分自身も 生きていくことさえ」
「そうか…
でもな そんな時は思い出せ
この俺様の果てしない涙をな
海まで続いて 今じゃ あの星までとどきそうな勢いだぜ
決して 俺を見ならうなよ
なあに 俺だって そのうち立ち直るさ そのうちな
その時はまた いい酒でも 飲もうじゃないか」
海の向こうから 青白い光が流れ出す
「おっと そろそろ 俺は帰るとするよ
天使どもに 無理やりひきずられるのは イヤだからな」
黒猫は よいしょっと立ち上がる
「じゃあな また会おうぜ」
そのとき 金色の朝陽が こごえきったマリークロッカスの体を
ぱあっと 照らし出した
すると するするのびた黒い影が 猫の形に変わり
バイバイと 手をふって
天の上の方へと ぴょん ぴょん かけていった
マリークロッカスは 温かくて 優しい朝日をいっぱいあびて
少しはやれそうかしらと微笑んだ
なんだかとても すばらしい 太陽だこと