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『ワッシャーワルツとキャンドルトン夫妻』
「まただわ」 ワッシャーワルツは 怒りに眉根をよせる 「おお ワッシャーワルツ 愛しい我が娘」 「アタシは あんたの娘じゃないって! 何度言ったらわかるのさ アタシのどこが フクロウに見えるってのよ!!」 歯をむいて 怒り狂うワッシャーワルツ 「ごめんなさいね あなた、迷惑してるのよ」 いつもの 木の実がいっぱい生る 小道に いつもの ヘンテコ夫婦が立ちふさがった だけどワッシャーワルツは この先のキャンディーショップに用があった マシュマロが買えるのは ここら辺じゃ あの店だけ ほかに道はない そんなわけで 哀れなワッシャーワルツは どうしてもここを通らないわけにはいかなかった 「わかっとるよ 君があの子じゃないってことは だけど 聞いとくれ 君はあの子にそっくりなんだ 何度か言ったが もう一度 うちの娘になっておくれ!」 「イヤよ! 絶対に!!」 懇願しているのは ドルトン博士 その横で 微笑んでいるのはミルクフィッシャーさん フクロウの キャンドルトン夫妻だ 彼らは 娘を亡くしてから へんてこな事ばかりしている 娘を生き返らせるため その薬を実験するため 毒を飲んではぶっ倒れるのだ。 だから タチが悪い。 ワッシャーワルツはいつもこれで足止めを食らう。 「本当にごめんなさい さあ あなた もう行きましょうね」 そして いつもミルクフィッシャーさんがなだめ 引っ張っていくのだった 「あ、これ」 何か思い出したかのように ミルクフィッシャーさんがふりかえる 「作ったのよ よかったら食べてね」 手渡されたのは 小さな包みに入ったお菓子の山だった 「また、これでアタシを惹こうと思って!!」 ワッシャーワルツは 遠ざかっていく夫妻の背中に向かって叫ぶ 「捨ててもいいのよ〜」 ずっと向こうの木陰で こだまする高い声 ミルクフィッシャーさんの作るお菓子を 捨てられるはずがない 彼女は お菓子作りの名人で それはそれは 素晴らしく美味しいのだから ―――――――――― またある日 ワッシャーワルツは小道を通る いつもの通り 来る、来る、と期待にも似た 心持ち 「あら こんにちは」 ミルクフィッシャーさんだった でも コップ一杯の水を持った 彼女だけ ドルトン博士はどこにもいない 「それじゃあ ちょっと急いでるので」 足早に通りすぎようとするミルクフィッシャーさん 「ちょ・・・・・・ちょっと待ってよ どうしたの? …博士は」 「まあ 心配してくれるのね うれしいわ」 「心配なんかじゃ…」 「失敗したのよ、実験が。まあいつもの事だけれど」 「実験? また毒でも飲んだとか?」 「いいえ 爆発したのよ 家が」 「!?」 ワッシャーワルツは 度肝を抜かれた 「実験してたらね ボンッて ふっ飛んだのよ 屋根が」 あっけらかんと言い放つ ミルクフィッシャーさん ワッシャーワルツは 一歩ひいて考える この夫婦は 自他共に認める ヘンテコ夫婦よ 「まさか アタシをだまそうとしてそんなこと言っているじゃないでしょうねぇ?」 訝しげにたずねるワッシャーワルツ 「ふふ だと良いわね〜」 微笑をのこしながら 去っていくミルクフィッシャーさん するすると木陰のなかを うまいことよけて そりゃあ早いこと飛んでいく ワッシャーワルツも その後を追いかける 「ちょ、ちょっと待って!」 ―――――――― 樫の木のうすくしなる葉を 頭のうえにすべらせながら ザワザワ 近道をかき分けて ワッシャーワルツはようやくミルクフィッシャーさんに 追いつく 茂みから抜け出ると そこは木が わさわさ生い茂る 大きいドーム型の広場になっていた その中央には 樹齢千年の大きな大木が ドシンとかまえている しかし下に開いたドアは 真っ黒こげになっていた 消火活動は もうすっかり終わった後だったようで そこらじゅう水浸しに散らかっていた ドルトン博士はといえば すすだらけで庭先に倒れていた 「あなた お水を持ってきたわよ さあ」 「ありがとう… 途中でワッシャーワルツには会ったかい?」 「ええ とても心配してくれていたわ」 「ホントかい!? クッ、イタタタタタタ…」 「じっとしてましょうね これ火傷薬」 「もうダメだ ワシはこのまま死ぬかもしれない」 「まあ 何言ってるの」 「何度も何度もやってみた だがことごとく失敗してしまった。 あの子がいない人生なんて 砂のない砂時計のようだ 空虚だよ」 すっかり息消沈のドルトン博士 「私はひとりぼっちなんだ…」 それを聞いたとたん、いてもたってもいられなくなって、ワッシャーワルツは飛び出した。 「あら、ワッシャーワルツ。どうしたの?」 ミルクフィッシャーさんがワッシャーワルツに気付いて言った。 ワッシャーワルツはわき目もふらず、ドルトン博士のもとに行って、そばにおいてあったバケツの中の水を、ドルトン博士に浴びせようとした。 「ワッシャーワルツ 待って!」 その時ミルクフィッシャーさんがワッシャーワルツを羽交い締めとめた。 「ワ、ワッシャーワルツ…」 ドルトン博士はなおも飛びかかろうとするワッシャーワルツの血気に圧倒されて呟いた。 「なんで止めるのよ!?あなたっていう素敵な奥さんがいるのにこんなこと言ってるのよ!? ドルトン博士、アンタ バカよ!おおバカのバカのコンコンチキだわ!!!」 「ワッシャーワルツ」 ミルクフィッシャーさんが静かに言った。 「貸してちょうだい」 そう言ってから、ミルクフィッシャーさんはワッシャーワルツからバケツを受け取り、ドルトン博士の頭からバシャッ!と浴びせかけた。 「私がやりたかったのよ…」 ミルクフィッシャーさんは、そう言ったとたん、今までの優しい顔ではなく、とてつもなくさびしい、悲しい顔になった。 そして向こうを向いたなり、高く、高くを目指して飛んで行ってしまった。 後に残ったのは、あっけに取られたワッシャーワルツとずぶぬれのドルトン博士。 「アタシはねえ、ドルトン博士。アンタの気持ちわかんないわけじゃないわ。 過去にとらわれてしまうのは分かる。アタシだってつらくて悲しくてたまんないもの…。 だけど、過去に捕らわれているぶん、今に見捨てられてしまうのよ」 ドルトン博士は黙っていた。 「博士忘れていたでしょう? ミルクフィッシャーさんの存在を。 ミルクフィッシャーさんが怒るのも無理はないわ 今のままじゃ本当に何もかも、失ってしまうわよ」 しばらく考え込んでいたドルトン博士は、急に地面に手をつき、それからおうおうと涙した。滝のように流れる涙は、ドルトン博士のにごった心を、清く、清く洗い流して行くのだった。 その泣き声は後悔だった。そして自分に対する情けなさだった。 そして気付いたのだった。自分にも大切な人がいて、いつも見守ってくれ、温めてくれ、そばにいてくれる人がいたことを…。 そして長いこと泣いたあと、そばでみていたワッシャーワルツに 「探してくるよ」 とだけ言い残すと、ドルトン博士はすっかり乾いた翼で羽ばたいて、高く、高くに飛んで行った。 ―――――― その後 ワッシャーワルツはミルクフィッシャーさんと、またあの小道でばったり出くわした。 「あら、ちょうどあなたにあげたいものがあったから、 そちらへ行こうと思っていたところよ」 「あげたいもの?・・いえ、それより、あのあとドルトン博士とは・・」 心配顔のワッシャーワルツに、明るくほほ笑みながら、ミルクフィッシャーさんは、持っていたお皿を見せた。 「これね、私が作ったの。キャラメリーゼのタルト・タタンよ」 りんごの甘い匂いが、ワッシャーワルツの鼻をくすぐる。 「でも、私、ミルクフィッシャーさんにこんなものをもらえるようなことしてないわ。いきおいあまって、ドルトン博士にキレちゃったし・・・」 「いいえ、あの人はとっても鈍感な人です。だからあなたに怒ってもらって正解。 それに、たまにはストライキでも起こさなくちゃね、ふふふ」 ミルクフィッシャーさんは、そう言うと、晴々しい顔で帰って行った。 タルトタタンはまだ温かくて、だから急いで帰って、イナフと一緒に分けて食べようと思い、いつもの近道を急いだ。 ワッシャーワルツは美味しさとともに、別の喜びを、イナフに早く報告したくて、たまらなかったのだ。 |