『コウモリ伯爵とワッシャーワルツ』



ワッシャーワルツは、ちょうど涼しい秋の日、
いつものように、キャンドルトン家のバルコニーの長椅子に座って、からブドウのホット・ティーを飲んでいた。
「まったく秋って、つまんないわ。何か面白いこと起こらないかなぁ・・」
ワッシャーワルツが大あくびしそうになったところで、突然、ボンッ!!!!と激しい音がして、そのすぐあとからドルトン博士が、研究室から飛び出してきた。
見ると頭の毛が燃えていて、ドルトン博士は、ああだこうだ、どうのこうの、と言葉にならならいことをわめいて、辺り一面を走り回る。ミルクフィッシャーさんが「あらまあ」と言いながらワッシャーワルツの方にきて、
「この紅茶、いただいてもいいかしら?」
と落ち着き払って言うので、ワッシャーワルツはあっけにとられながら、紅茶のカップをミルクフィッシャー夫人に渡した。するとドルトン博士の元に素早く駆けよっていき、その紅茶を博士の頭にバシャッと浴びせかけた。
「あっ、あついじゃないか!!」
「だいじょうぶ、頭皮までは燃えていないわ。せっかくの髪型が台無しだけれどね」
ミルクフィッシャーさんは朗らかに笑いながら、ワッシャーワルツに
「ごめんなさいね、せっかくのから葡萄の紅茶、またつくってあげますからね」
「これが笑いごとか!!」
頭の上がはげたようになったドルトン博士を見て、ワッシャーワルツは大笑い。
「また実験が失敗したのね!ギャハハハ〜〜〜〜!!!」
「ぬうう…」
ドルトン博士はきまり悪そうに、頭をなでた。ミルクフィッシャーさんの的確な判断がなければ、今ごろ本当に頭を火傷していたところだ。
ミルクフィッシャーさんがほうきとちり取りを探しに行くと、雲行きが怪しくなってきた。
気づくと西の空にずんぐりと停滞している、重たく濁った灰色の巨大な雲。その合い間から、何かがやってくるのが見えた。

「事件〜事件〜事件の匂い〜♪」

ワッシャーワルツとドルトン博士は、顔を見合せて、お互いの瞳の中をのぞき込み、それからまた、その歌声の方向に目をこらした。

グレーのモーニングを着込んで、偉くたいそうなひげを湛えた、大きく太り気味の紳士がへんてこな雨傘の赤い柄にぶら下がって、降りてきた。

『黒い軍隊』
ステップ
『歩いていこう』
『乗っ取り作戦』
傘をかざして調子よく
『ふりむくな』
ターン
『奇襲攻撃』
傘を閉じて突き刺すように
『つまらん時は』
傘をステッキ代わりに
『事件事件』
足を上げて
『なんだなんだ〜〜』

その紳士は歌いながら踊り続けている。
ワッシャーワルツは小声でドルトン博士に聞いた。
「あれ、誰??」
「噂には聞いておったが・・・あれはコウモリ伯爵じゃよ」
「コウモリ伯爵??」
ワッシャーワルツはその奇妙な名前にびっくりして聞き返した。
「音楽が大好きな暇人伯爵だ。森に何か事件が起こると、ああやって傘を持ち、刑事のように、犯人を探すのが趣味なんじゃ」
「確かにあのテノールの響きは一流だわ」
「あそこの乱気流雲の御屋敷に住んでいるとか・・実際はどうなんだかわからんが、
相当の変わり者だと言われてるらしい。わしも見たのは初めてだ」
「ふ〜ん、なんか面白そうね」
二人でひそひそ話していると、コウモリ伯爵がワッシャーワルツたちに話しかけてきた。
「ここで何か事件らしき不穏な動きがあったと、このコウモリたちは申す。ゆえに我が輩はここにやってきた。何か起こらなかったかな?」
ワッシャーワルツは何か面白そうだと思いながら、伯爵の質問に答えた。
「事件といえば、ドルトン博士がハゲちゃびんになっちゃったことぐらいだわね、あはは!」
ドルトン博士は顔を赤らめて、その話をかき消すように甲高い声で言う。
「実験がね、失敗したんじゃよ。いつものことさ。所詮コウモリが、煙を吸ってかんちがいしただけだろうさ。なにもないよ」

すると17匹のコウモリ軍隊たちをまとめる、コウモリの隊長がかしこまって挨拶をした。
「キイキイ、お初にお目にかかります。コウモリ部隊の隊長および、コウモリ伯爵の執事を兼任しております、ファンファーレ隊長と申します。
コウモリ伯爵率いる我が軍隊が、勘違いなど起こすことはございません。失礼を承知の上、ここら一帯を調べさせていただきます!」

そういうと、17名のコウモリたちがざざーっとキャンドルトン家の隅々まで、すごい勢いでまとまって飛び調べ始めた。その様子を見ていると、コウモリたちの中でも、とても小さいコウモリが追い付くのにやっとという息切れ具合で、うまく飛べないでいた。
ファンファーレ隊長が、高らかに叫ぶ。
「コウモリ伯爵! やはり事件です。この研究室は危険なものばかりだ。煙の臭いは怪しい薬を調合したが故、爆発したもので、そのふくろうは過激派と思われます!!」
「ほほう、でかしたな、ファンファーレ!
では、皆、その老体ふくろうを捕まえてまいれ!」
コウモリ伯爵がドルトン博士を指さして命じた。
「だから実験だとっていっているじゃろう。とんだ言いがかりだ!」
ドルトン博士は、勝手にテロリスト扱いをされて、憤慨し、抵抗したがコウモリたちの力は思ったよりも強く、あっというまに拘束されてしまった。
ファンファーレ隊長が、トランペットで自分の名前の通り御得意なファンファーレを吹くと、散らばっていたコウモリたちはきれいに並んだので、隊長は点呼をかけた。
「1」「2」「3」・・・・「16」ときて、いるはずの17の声が聞こえない。コウモリたちはざわざわと語りだす。
「きっとあいつだよ」
「ああ、ティティーだ」
ファンファーレ隊長が、コウモリたちを見まわした後、大声で言った。
「伯爵!ティティーがおりません、これは事件です!」
「ぬ、おまえの仕業か」
コウモリ伯爵はドルトン博士に向かって言った。
「何をいっとるんじゃ!わしゃ拘束されているのだぞ!!何でも事件にすりゃいいってもんじゃなかろうが!!」
『お〜〜〜かなしきミステリ〜〜〜〜〜!!!!』
伯爵は博士のことなどかまわず、きれいなテノールで歌うように叫んだ。
「皆、ティティーを探すのだ!!」
ワッシャーワルツは目がいいので、ティティーと思われるコウモリをいち早く見つけた。
「そこに倒れてるわよ!」
ティティーはミルクフィッシャー夫人がきれいに磨き上げた研究室のガラスにぶち当たって、気絶していた。先ほど遅れて必死に飛んでいた、あの小さなコウモリだった。
「見つかったんだから、縄ほどいてもいいでしょ!」
ワッシャーワルツがそう言いながらにらんで、ドルトン博士を自由にした。博士はその小さなコウモリをみて言う。
「大丈夫じゃい、気絶しているだけだからの、気つけ薬を与えよう」
ドルトン博士が薬を調合して、ティティーに飲ませようとしたのだが、ファンファーレ隊長は、「コウモリ伯爵!こやつはテロリストです。すなわち、毒薬かもしれません!」
ドルトン博士はやれやれ困ったものだと、その薬を半分、自分で飲んで見せた。
「復活の薬作りは失敗するがな、これぐらいの薬などたやすい」
コウモリたちも伯爵も、何も言えなくなり、ドルトン博士は気つけ薬をティティに飲ませた。
一寸置いてティティは目覚め、目をパチクリ動かして、この状況を理解した。
「あ、ありがとうございますです。あまりにも やく たたず。
もうしわけない ごめんね、ああ・・・」
ティティはそう言え終えると、ふらりと倒れそうになったので、他のコウモリたちが支えた。
「帰るしかあるまい」
お礼も告げずに去っていこうとするコウモリ伯爵軍団に、ワッシャーワルツはとうとう切れた。
「ちょっと待ちなさいよアンタたち!!勝手に嫌疑をかけて、勝手に博士を捕まえて、謝罪の言葉のひとつもないってわけ!?? 伯爵とか偉そうなこと言って、やってることムチャクチャじゃないの!!」
コウモリ伯爵は振り返り、ワッシャーワルツをしげしげと見つめたあと、驚いてこう言った。
「きみは・・・ワッシャー族の生き残り、ワッシャーワルツでは?」
その言葉にワッシャーワルツは怒りで頭に血が上っていた蒸気がさめて、当惑した。
「…なんで、あたしのこと知ってるのさ?」
「おお、ワッシャーワルツ!!! キミ! こんなところに・・・!!!」
「なに?なんなのさ???」
「きたまえ、いいものを見せよう」
そう言ったきり、コウモリ伯爵は足早に歩き出す。
ワッシャーワルツは面白そうなことには目がなかったので、恐る恐るであったが、コウモリ伯爵とコウモリ軍隊を追いかけた。
ドルトン博士は困惑して叫んだ。
「危険だ、ワッシャーワルツ! 帰っておいで!!」
すると、いつのまにかミルクフィッシャーさんがドルトン博士の隣に座り、和やかにこう言った。
「だいじょうぶよ。あの人は風変わりだけれど、決して悪い人ではない。
きっとワッシャーワルツとは、そうとうウマが合うでしょうし」
「きみ、なんで知っている?」
「ふふふ・・秘密」

――――――――――――――

停滞した巨大雲のかたまりが、もう手の届きそうなぐらい近づいて、鮮明にワッシャーワルツの影をもっと深まらせた。ごうごうと風が何かを飲み込もうとしている生き物のように見えた。
コウモリ伯爵は崖の際まで歩いて行って、もう一歩落ちそう!・・2歩目・・落ちない。なんで??
まるでそこに、見えない階段でもあるように、一歩ずつ空を踏みしめて7歩あがった時点で、
コウモリ伯爵が
「何かふたを取ってこい」
とコウモリ軍隊に命令した。ファンファーレ隊長がポリバケツのふたを取ってきた。
「これでよろしいですか?」
「うむ」
コウモリ伯爵は そううなずくと、目の前の何もないはずの空間にそのふたを置いた。
「ワッシャーワルツよ、ここだ」
ワッシャーワルツは本当に階段みたいになっているのか、慎重に一歩づつあがっていき、おもむろにふたを開けた中を覗き込む。すると、そこにはまっ暗い穴が開いていた。
「何なの、ここ!??」
「わたしの屋敷へ通じる近道だ。きみはここを使うといい」
「伯爵は、ここを通らないの?」
「わたしは、その穴が 大嫌いなのだ」
「なんでさ?」
「とにかく嫌いなのだ。しかし危ない道ではない。あっという間だ、行くがいい」
そう言うと、コウモリ伯爵はコウモリたちとともに、魔法の傘をさして、乱気流へと挑んでいった。
その不思議な光景を背に、ワッシャーワルツはひゅうっと曲がりくねったストローみたいな中をめまぐるしく通過して行って、コロコロ、コロンと、白い部屋の中に転げ落ちた。ここは一体どこだろうと、よくみると、床も天井もふかふかしている。
「マシュマロみたいだわね」
壁をちょっとつまむと、綿菓子のように取れたので、おそるおそる食べてみる。
ピリッと一瞬 刺激がして、あと 何の味もしないような、汚い水を飲んだように、口の中に広がった。
「うげぇ、何これ!」
ワッシャーワルツは辺りを見回す。部屋がいくつも分かれていて、豪華な階段を降りていくと、そうとう大きいお屋敷だということがわかった。壁に貼られている人物画はダイヤモンドの装飾がふんだんに使われているがくぶちで、そこに描かれている女性は、コウモリ伯爵の奥さんらしかった。
広いリビングがあって、その中央には大きなグランドピアノがあって、ワッシャーワルツは思わず叫んだ。
「ギャーーーーーーー!!!ピアノ!!ピアノだわ!!!!!
すっごい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「なにを騒いでおるんだね」
見るとコウモリ伯爵が、お屋敷の玄関を開けて、傘を閉じ、帰ってきたところだった。扉の向こうは嵐のなかに、稲光がピシャッと眩しく、よくもこんな危ない場所をくぐりぬけて毎日行ったり来たりできるものだと、ワッシャーワルツは驚いた。あの穴にはいれば、簡単にこのお屋敷に入れるというのに、なぜそんなかたくなに避けるんだろう…?
コウモリ伯爵が帽子を取ったので、さぞザンザンぶりに嵐でびしょぬれだろうと、ワッシャーワルツは気を利かせてタオルを探した。しかし、コウモリ伯爵の服も帽子も靴さえもいってきの水玉もなかった。不思議にじろじろ見ていると、コウモリ伯爵が「何かね?」と言ったので、ワッシャーワルツはハッとして、ピアノのほうを振りかえり、
「ねえ、これピアノよね!??
コウモリ伯爵 弾けるの??」
「これは妻のものだ」
「あ、大きな絵が飾ってあったわね。美人な人。どこどこ、紹介してよ」
「彼女はおらん」
「え?」
ワッシャーワルツの疑問を断ち切るように、
「そんなことよりも、ピアノを弾いてくれたまえ。
ワッシャー族は非常に音楽にたけた種族であると聞いておる、
その自由自在に拡大縮小する二つの手のひらで、どんな楽器もお手の物だと」
「ええ、そうよ。でも私ピアノ弾いたことないの。まだほんの小さい頃に両親に先立たれたものだから、今持っているヴァイオリンだって、自分なりに勉強したけどほとんど独学なのよ
でもピアノもしかしたら、弾けるかも。メロディーは入ってるし。手ならしに、そうね・・」
ポロン〜、とワッシャーワルツがピアノを弾き始めたとたん、コウモリ伯爵は目を丸くした。
コウモリたちは天井に張ってある網にさかさで仲良くぶら下りながら、ひそひそとささやき合う。
「ベートーベン、月光の第3楽章だ」
「伯爵のお気に入りの一つだな」
「ピアノに触れたこともないのに、ここまで弾けるなんて」
「さすがワッシャー族、訓練を積めば指の数もふえるんですってよ」
ほとんど無表情だったコウモリ伯爵の顔色がパッと明るくなったので、ワッシャーワルツもうれしくなって、「じゃ、お次は・・
『タイスの瞑想曲』と行きたいところだけど、ピアノ弾けるの私だけ?
ヴァイオリニストがいないわね」
「あ、あのう…わたし・・・」
ワッシャーワルツの毛をガシッとつかんで、何か言いたげなティティー。
ファンファーレ隊長が意気揚々、
「先ほどは軍隊でしたが、ここは音楽の城。我らは楽団でもあるのです。
その中でもティティーはヴァイオリニスト、我が楽団が誇るコンサートマスターでして・・」
「えっ! この子が首席奏者なの!??」
コウモリたちが口々に言う。
「ティティーは軍隊なんてからっきし駄目で向いてないけど、ヴァイオリニストとしては天才だ」
「そうよ、わたしたち、彼のリードなしじゃ、満足いくクオリティの音、出せられないぐらい」
「聞けばわかるさ」
ワッシャーワルツは怪訝にティティーを見た。ぎょろぎょろとおびえた形相をして、うるうると涙目でワッシャーワルツのことを見つめていた。それでいてワッシャーワルツの毛をむしらんばかりに、ガシッとつかんで離さない。
「ちょっと、痛いわよ!」
ティティーはそろりと手を引っ込めてもじもじしている。
「そんなに言うなら、やってもらおうじゃないの! 言っておくけどアタシはママの子宮から、ヴァイオリンを一緒に抱えて出てきたってぐらいのもんよ。生粋のヴァイオリニストだわ!
ようするに、容赦はしないわよ!」
ティティーは一瞬うなだれて、その大きな瞳から一滴2滴、涙を落すと、急に姿勢が変わり、自分専用の小さなヴァイオリンを持ち出してきて、顔は誇らしげに先ほどとは似ても似つかないような生き生きとした表情で、かまえ、合図を待った。
「いくわよ」
ワッシャーワルツは、木の葉がそっと水辺へ舞い落ちるように、滑らかにピアノを奏で、優しくなでるような伴奏の先に待っていたそのヴァイオリンの響きは、誰もかれもうっとりさせ、何よりもピアノを弾いているワッシャーワルツさえ、これほどまでに表情をもった音色を今まで聞いたこともなかった。しかし、ワッシャーワルツは負けたという気持ちはなかった。自分より下か自分と同じぐらい、音を響かせることのできる、自分とは種類の違った天才だと感じた。
演奏が終わると16匹のコウモリ軍隊・・いや楽団たちが一斉に拍手した。
「ふん!まあまあね」
ティティは黄色いお花が咲いたようにまっさらな笑顔で 「うれしい! ありがと! あなたすごい おんがくか!」と跳ねるように飛び回った。

じっと見ていたコウモリ伯爵が、立ち上がって
「我が輩は歌を歌いたい気分なんだが、先日チャルダッシュに歌詞をつけるとしたらという発想が浮かんでね、ここでワッシャーワルツとティティーの音楽の元、披露したいのだが、いかがかな?」
コウモリたちはヒューヒュー盛り上がり、ワッシャーワルツもティティも、音楽を純粋に愛する者としてそれを響かせることが許されていることにいっぱいの自由と幸福を感じて、
「いいわよ」とワッシャーワルツ。「おっケー!」とティティ

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

しょせん世の中、首切り惨忍どこも厳しい現代だよ
でも小間遣いのバイトが けっこう時給も高いバイトが
勤勉にやってれば、昇格もアリだって・・!

やめよかな やろうかな どうしようかな
お金必要ジャーーーーン
やるしかないジャーーーーン

どうしよっかな〜〜〜
このまま行ってもおっさんだしさ
枯れ葉の舞う人生よ
やっぱりやらなくちゃな!

で〜 も〜
どこかで目覚まし時計が鳴ってるよ
早く 早く 早く 早く 切ってよ
僕は夜勤だから眠りたい

まったく まったく まったく
うるさくてしょうがないよ

どこかで目覚まし時計が鳴ってるよ
早く 早く 早く 早く 切ってよ
僕は夜勤だから眠りたい
ふんわりと夢の中〜♪

なのにうるさい 目覚まし時計
早く 早く 早く 早く 切ってよ
ああ〜うるさかった!!

バタンQ〜〜。
夢の中では王様だ
夢の中では王様だ
いい香りと柔らかなベットで・・・

ああ〜、二度寝なんてしてる場合じゃないよ
急げ 急げ 急げ 急げ 急がなくちゃ
仕事の初日から遅れてどうする
電車にバスに僕の足
急げ 急げ 急げ 急げ 急がなくちゃね
電車にバスに僕の足
急げ 急げ 急げ 急げ 急がなくちゃね

はい、遅刻、バイト クビ!!

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


ファンファーレ隊長がトランペットで祝福、
「素晴らしい競演でした。今度は私たちもぜひ参加して、オーケストラでやりたいですね」
「すき また あおう わるつ!」
ティティーもキラキラとはしゃいでワッシャーワルツにほほえみかけた。
「実にすばらしい体験であった。また、来るといい
今度はきみの作った曲を演奏できるとよいな
私もピアノを習いたいから、教えてほしいし、ほんとうにまた来るといい」
ファンファーレ隊長が
「素晴らしい音楽家様! 先ほどの穴に落ちれば、あなたの行きたい所へ行けますよ。
気をつけてお帰りください」
落ちたいところ、一所(ひとところ)しかない、とワッシャーワルツは願って、穴に入ろうとする。
「あ!ワッシャーワルツよ。ドルトン博士に申し訳なかったと伝えておいてくれたまえ
あと!ワッシャーワルツよ、また来てくれたまえ!!」
ワッシャーワルツは、相当気に入られただろうコウモリ伯爵の何回も誘いの言葉がうれしくて
「あたしも楽しかった。じゃあまたね〜!!!」
といって穴に落ちた。
するするする、すっぽん!ふわりとした感触に転げ落ちそうになったがしっかりと受け止めてくれた柔らかな手。
そこはイナフの頭の上。ワッシャーワルツは見上げるが、出てきたと思っていた穴はもう消えていた。イナフがその青い瞳で、幸せいっぱいなワッシャーワルツの様子をみて、じろじろ見てからワッシャーワルツがいつも笑ってしまう、変な顔をした。
「ギャハハハハハ!!イナフお腹よじれる〜」
とはいえ、自分でも気づかぬほど、相当疲れていたらしい。ワッシャーワルツはイナフの両手のひらでいつのまにかぐーぐーいびきをかいて寝てしまった。
イナフはワッシャーワルツのおでこにキスしてから、起こさないようにそっと、自分の耳から自分のからっぽ頭の中にワッシャーワルツをしまった。
イナフの瞳に映った、巨大な積乱雲は、青くすきとおったそれまでと違って、灰色や紫の暗い色ばかり集めた万華鏡のように、チラチラと不穏に輝く。その一方ではオーロラみたいな雲たちが、夕暮れ一部の色もようで、たおやかになびいていた。