キャンドルトン夫妻


ドルトン・キャンドルトン ・・・ 発明家
ミルクフィッシャー・キャンドルトン ・・・ おかし作りが得意 おっとりしていて誰にでも優しい

  



   『ふくろう夫婦』

  「まあまあ またやったのね」
  「うう… これもダメだったようだ」
  ドルトン博士の手から コーヒーカップがすり抜けて ガシャンと落ちた
  そのとたん ドルトン博士はどんどん青ざめていく
  「あらあら 大変」
  こう言って コーヒーカップの欠片をけちらし
  ドルトン博士に 特製の解毒剤を 器用な手つきで飲ませているのは
  奥さんの ミルクフィッシャーさんだ
  ドルトン博士が言う
  「すまないね…」
  ミルクフィッシャーさんは しずかにほほえみを返す

  夫婦には かつて小さな女の子が生まれた
  だけど その子はずっと前 不治の病で死んでしまった
  ドルトン博士は考えた 
  自分のこの見事な発明力で 何とか可愛い娘を 生き返らせられないものかと
  そうして薬を作っては 実験する度 自分で飲んでひっくり返る
  そんなことを もう何年も 続けているのだ

  ベッドに横たわったまま ドルトン博士は 窓の外をながめている
  「どうだろう あの雲の
    なんと可愛らしいことだろう
    ああ、あの子が生きていたら どんなふうだろう?
   どんなふうに笑い どんなふうに話しただろう?
   神よ 御隠しなさらないでください
   あの子の微笑み あの子の言葉を
   なぜそんなに 意地悪なさる?
   それなら なぜ私たちに あのかわいい顔を御見せになったのですか?」
  ドルトン博士はつぶやいて きまって深いため息をつくのが 常だった
  ミルクフィッシャーさんが スープを差し出す
  「あったかいわよ」
  「ありがとう…」
  「ねえ あなた 空がきれいねえ…」
  「そうだろう とくにあの雲だ 可愛らしくってあの子に似てると思わないか?」
  ドルトン博士は いとおしそうにゆびさして言う
  ミルクフィッシャーさんは ふふっと笑って答える
  「わたしはその横のふてくされた雲だと思うわ
   あの子は十二分にそういう子だった ぽっちゃりもしていたしね」
  「そうかなぁ…」
  「ええ… ほら 空があんなにも高い もう秋ね」
  「 …空は高すぎて この手では届かない時がある
   秋の空は そんなことに ふと気付かせてくれるんだ」
  「でも またやるわね」
  「ああ やるさ」
  「解毒剤 今のうちに作り置きしておかなくっちゃ」
  そう言うと 顔を見合わせ 二人微笑を交わすのだった
  秋の冷えた風が 窓をこまかくゆらしていた





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