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◆あいさつ◆
ホフマンスタール『チャンドス卿の手紙 他十篇』(岩波文庫)を読む。 「何ごとかを語ろうにも「言葉が腐れ茸のように口のなかで崩れてしまう」思いに、チャンドス卿は詩文の筆を放棄する。--言葉と物とが乖離した現代的状況をいち早くとらえた「チャンドス卿の手紙」こそは、新しい表現を求めて苦悩する20世紀文学の原点である。ホフマンスタール(1874-1929)の文学の核心をなす散文作品11篇を精選。」とカバーにある。 「チャンドス卿の手紙」「詩についての対話」「帰国者の手紙」 「ギリシャの瞬間」の4つが、すばらしい。 前半の小説での「私」は、 傍観者のような冷たい視線として存在している。 ヘルダーリンのように、迫り来る狂気をこらえながら、 苦しみの中で書き上げた小説といったイメージが頭に浮かぶ。 - 宗教的な物の見方は蜘蛛の巣のようなもので、わたしの思想はそれを突き抜けて虚へと突出してしまうのに、そうした物の見方を奉ずるひとの多くは、そこにひっかかり休らってしまうのです。(108) - 読むならばひとつの詩は全部。そうでなければ、まったく読まないで欲しい。(125) - 自分自身を見いだそうとするのなら、内面へおりてゆく必要はないのだ。自分自身は外部に見いだすことができる、外部に。(130) - 言葉で解き明かせないものこそが暗号だ。わかるかい。さっきの秋の公園にせよ、夜につつまれたこの白鳥にせよ--あの、まさしくあの感動から魂を解き放ってくれるような言葉を、思想の言葉であれ感情の言葉であれ、君は見いだせはしまい。ところがここではひとつの形象がそれをしてくれるのだ。もし「象徴」という言葉が胸の悪くなるほど陳腐なものになっていなければ、君がその言葉を使うのをよろこんで認めようと思うのだが。こうした話はそもそも、子供や信心のある者、あるいは詩人とでなければできないのかもしれない。子供にとってはすべてが象徴であり、信者にとっては象徴こそ唯一の現実であり、詩人は象徴以外のものを眼にとめえないのだから。(138) - 自分の重さの一部がなにものかにゆだねられているのを知ることは唯一心地よいことなのだ、たとえそれがほんのひと呼吸の限られた神秘の時間であるにせよ。ぼくらの肉体のうちには息苦しくなるくらい宇宙万物森羅万象が凝縮されている。この恐るべき重さからいくえにいくども解放されるのはなんという歓びだろう。(143) - どのひとつをとってみても別のものにぴたりと寸法が合うということだが、それというのも、人々のすることなすことなにひとつとしてそれじだいにおいては内部に統一性がないからだ。(190) - 少年の頃からずっと記憶に残っていることなのだが、星空はいまだ解き明かされていない思想だ、とだれかが言ったという。(221) - あの者たちははるか昔に消え失せてしまった。それゆえにわたしは彼らを憎むのだ。かくもすみやかに消え去ってしまったがゆえに。ギリシャ人の数百年。とほうもない奈落の彼方にある惨めなばかり短い時の間。彼らのつくりあげた物語。このごったまぜ。喩え話とお喋りと裏切りと恐れと妬みとさまざまな言葉のごたまぜ。そのうちには永遠なる矜持があり、永遠なる不安があり、すみやかな滅びがある。じっさい、存在する、と思っているうちに、はやくもすべてなくなっていたのだ!(280) - もし到達しえぬものがわたしの内部に養いの糧を見いだし、永遠なるものがその永遠性をわたしにのうちから築きあげるならば、そのときなお、わたしと神格とのあいだに何があるのか(300) - ホフマンスタール、桧山哲彦 訳 フーゴ・フォン・ホーフマンスタール、Hugo von Hofmannsthal 「第六七二夜のメルヘン」「騎兵物語」「バッソンピエール元帥の体験」「ルツィドール」「チャンドス卿の手紙」「詩についての対話」「恐れ」「帰国者の手紙」「道との出会い」「美しき日々の思い出」「ギリシャの瞬間」 - - サマセット・モーム『雨』(三笠文庫)を読む。 ものすごく造りこまれた小説。 たしかに初期の丸山健二っぽい。 - 彼は青白い眼で、チラと細君に流し目をくれたが、そのまま答えなかった。長い結婚生活の経験から、彼は最後の言を妻に言わせておくが、平和を齎す最上の方法であることを体得していたのだ。細君より先に着更えをすませると、上段寝台へ入って、本を読みながらそのまま眠ってしまった。(4) - 罰金ということにしたのです。わかりきったことですが、つまり自分の行為が罪だということを悟らせる唯一の方法は、それを犯した場合直ちに刑罰を与えることなんです。(21) - 「つまりこの場合はだねえ、二人の恋人が実に美しい恋をした、だから美しいんだ、と俺はそう思っている」彼は両肩をプクリと聳やかした。「いや、だがそれも、ただ俺の審美感を満足させてくれたからという、ただそれだけのことかもしれん、青春の恋とそれに相応しい環境とがうまく一緒になったという、ただそれだけのことでな」(83) - Somerset Maugham "Rain"「雨」 Somerset Maugham "Red"「赤毛(レッド)」 中野好夫 訳 5/8
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