2000年8月6日更新 | ホームページへ戻る
不動産流動化実務指針クイック解説
2000年7月31日付で日本公認会計士協会から会計制度委員会報告として「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」が公表されました。これは、特別目的会社(SPC)を利用した不動産の流動化(証券化)が盛んになってきたことに対応して、不動産流動化取引を、不動産の売却取引として会計処理する取引と金融取引として処理する取引にどのようにして分けるか、そして、それぞれの場合にどのように会計処理するかを定めたものです。
会計関係の雑誌などに実務指針作成者による正式な解説記事が出ると思いますので、詳しくはそちらを読んでいただくとして、ここでは、実務指針の内容を私のわかる範囲でごく簡単にまとめてみました。また、実務指針自体も比較的コンパクトなものなので(本文だけだと7ページ)、目を通しておくことをおすすめします。
なお、SPCを使った不動産流動化のスキームについては次のホームページが参考になります。
三菱信託銀行 http://www.mitsubishi-trust.co.jp/houjin/fdsngyo/fdgy03.html
信託銀行の不動産関係の業務を紹介しているものの一部。短くまとまっている。
朝日監査法人 http://www.asahiaudit.or.jp/b_info/letter/16/01.html
「マネジメント・ニュース 不動産流動化について」。かなり詳しく解説している。
目次
| 1.特別目的会社を活用した不動産の流動化 |
| 2.特別目的会社への不動産の売却の認識 |
| 3.リスクと経済価値の移転についての判断 |
| 4.リスクと経済価値の移転についての具体的な判断基準と算定方法 |
| 5.不動産信託受益権による流動化に係る会計処理 |
| 6.金融取引として会計処理を行った場合の開示 |
| 7.適用時期・経過措置 |
| 8.設例 |
1.特別目的会社を活用した不動産の流動化
特別目的会社とは、
資産の流動化に関する法律第2条第3項に規定する特定目的会社
事業内容の変更が制限されているこれと同様の事業を営む事業体
をいいます(第2項)。これは、財務諸表規則第8条第7項における特別目的会社の定義と同じです。
特別目的会社(SPC)を活用した不動産の流動化とは、SPCに不動産を譲渡することにより、当該不動産を資金化することをいいます。この実務指針では、固定資産である不動産のほか、棚卸資産に計上される不動産も対象としています(第2項)。不動産投資信託は直接的には対象にしていません(第26項)。
2. 特別目的会社への不動産の売却の認識
不動産の売却の認識は、リスク・経済価値アプローチによって判断します(第3項)。つまり、
法的に譲渡されていること
資金が譲渡人に流入していること
の他に、
不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転したこと
という条件がみたされたときに不動産の売却を認識します。
これを特別目的会社(SPC)への不動産の売却の場合にあてはめると、
法的に譲渡されており、資金が流入している
適正な価格で譲渡されている
不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが、SPCを通じて他の者に移転している
場合には、売却取引として会計処理します。そうでない場合には金融取引として会計処理します(第5項、第30項)。
後述のように、リスクと経済価値のごく一部が譲渡人に残っても、他の条件が充たされていれば売却処理になりますが、その場合、譲渡人にリスクや経済価値が残った部分も含めて、全体としてリスクが移転したものと考えて譲渡不動産の全体を売却処理します(第18項、ただし不動産信託受益権の譲渡の場合は後述のとおり)。
不動産のリスクとは、その価値が下落することであり、不動産の経済価値とは保有、使用又は処分することによって生じる経済的利益を得る権利に基づく価値をいいます(第4項)。具体的には「結論の背景」第28〜29項に詳しい説明があります。
金融資産については財務構成要素アプローチが採用されましたが、不動産の場合は、リスクと経済価値が不動産の所有と一体化していること、金融商品に比べ時価の算定が容易でなく流通性も劣るといった特徴から、リスク・経済価値アプローチに基づくとされました(第27項)。
3.リスクと経済価値の移転についての判断
不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが、SPCを通じて他の者に移転しているかどうかは、形式によって判断するのではなく、スキーム全体の構成内容等を踏まえて、実質的に判断しなければなりません(第6項)。
不動産に係るリスクと経済価値が他の者に移転しているかどうかを実質的に判断するうえで特に問題となるのは、譲渡人が譲渡後もその不動産に継続的に関与している場合です。実務指針は譲渡人の継続的関与の具体例として9つ挙げています(第7項)。またそれらについて、リスク・経済価値の移転の判断をどのように行うか定めています。
- 譲渡不動産の管理業務を行っている
通常の契約条件による管理業務であれば、その限りにおいて、リスクと経済価値が移転しているものと認められます(第8項)。通常でない契約条件として賃料の減少を補填する契約が挙げられています(第33項)。
- 買戻し条件付きで譲渡
実質的に金融取引であり、売却処理を行うことはできません(第9項)。
- SPCが売り戻しの権利を保有
- 譲渡不動産からのキャッシュ・フローや譲渡不動産の残存価額を実質的に保証
- 譲渡不動産の持分を保有
- 譲渡不動産の開発を行っている
- 譲渡不動産の価格上昇の利益を享受
- 不動産購入に関して譲受人に融資又は債務保証
- セール・アンド・リースバック取引により継続的に譲渡不動産を使用
オペレーティング・リース取引であって譲渡人(借手)が適正な賃借料を支払うこととなっている場合には、その限りにおいて、リスクと経済価値が移転しているものと認められます(第11項)。譲渡人がリース・バックされた不動産を他の者に転貸している場合は、その転貸しが事業目的で行われている場合のみ売却処理が認められます。実質的に投資家へのキャッシュ・フローを保証する取引に該当するケースを除外するためです(第35項)。流動化された不動産が、譲渡人の用途等に合わせて特別な仕様により建設された建物などのように特殊性を有する不動産であり、かつ、何らかの継続的関与がある場合には、売却処理を行うことができません(第10項、第34項)。
また、譲渡人の子会社に該当するSPCが譲受人の場合は、売却処理できません(第12項)。
4.リスクと経済価値の移転についての具体的な判断基準と算定方法
流動化スキームの構成上、一部のリスクが譲渡人に残ることが避けられない場合があります。その場合、どの範囲のリスクが残ることまで認めるのか具体的な判断基準が必要となります。
実務指針は、譲渡人に残るリスク負担割合が、流動化する不動産の譲渡時の適正な価額(時価)に対して、おおむね5%の範囲内であれば、リスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転しているものと取り扱うとしています(第13項)。式にすると以下のようになります。
リスク負担割合=
リスク負担の金額/流動化する不動産の譲渡時の適正な価額(時価)分母分子とも譲渡時の時価ベースとなっています。
なお、リスク負担とは、流動化する不動産がその価値のすべてを失った場合に生じる損失です(第13項)。
譲渡人が継続的関与を行っている場合のリスク負担の金額は、以下のように算定します(第14項)。これらは先ほどの継続的関与の具体例にほぼ対応しています。
譲渡人が買戻しの権利又は優先買取交渉権を保有
実態に基づいて判断します。なお、買戻し条件付きの場合は第9項により売却処理はできません。
SPCが売り戻しの権利を保有
売却処理できません(譲渡人が買戻し義務を負っている場合と同じ)。
譲渡不動産からのキャッシュ・フローや譲渡不動産の残存価額を実質的に保証
保証額がリスク負担の金額となります。
譲渡不動産の持分を保有
持分の取得価額がリスク負担の金額となります。持分とはSPCが発行する証券等(信託受益権、組合の出資金、株式、会社の出資金、社債、劣後債等)のことです。これらは形式的には金融資産ですが、実質的には譲渡不動産の持分なのでリスク負担割合の計算上リスクに含めます。
譲渡不動産の開発を行っている
開発コストのうち譲渡人が負担すべき金額がリスク負担の金額となります。分母は開発後の物件全体に係る見積時価となります(第41項)。
譲渡不動産の価格上昇の利益を享受
享受する権利を得るための対価がリスク負担の金額となります。
不動産購入に関して譲受人に融資又は債務保証
融資額又は保証額がリスク負担の金額となります。
セール・アンド・リースバック取引により継続的に譲渡不動産を使用
適正な賃借料の支払額は、リスク負担の金額に含めません。リスク負担割合の算定におけるその他の留意事項は以下のとおりです。
追加出資等に伴うリスク負担額も考慮する(第15項)。
子会社又は関連会社が負担するリスクを加えて算定する(第16項)。
譲渡人の年金資産(退職給付信託を除く)にSPCが発行した証券が含まれている場合、リスク負担の金額にはその証券等を含めない(第17項)。
譲渡不動産の対価としてSPCが発行した証券は、退職給付信託に拠出しても年金資産とすることはできない(第17項)。
5.不動産信託受益権による流動化に係る会計処理
不動産流動化のスキームには、不動産そのものの売買ではなく、不動産に信託設定して取得した不動産信託受益権を売買するものがあります。我が国では信託受益者が信託財産を直接所有するものとみなして会計処理する会計慣行になっています。そこで、実務指針は、信託受益権の売却も信託財産たる不動産そのものの譲渡と同様に、リスク・経済価値アプローチに基づいて会計処理を行うとしています(第19項、第44項)。
不動産信託受益権が質的に単一な信託受益権に分割されている場合と、優先部分と劣後部分のように質的に異なる信託受益権に分割されている場合とでは、会計処理が異なります。
質的に単一な信託受益権に分割されている場合、SPCを通じて他の者が取得した信託受益権については対応するリスクと経済価値が他の者に移転しているのと考えられます。その限りにおいて、リスク負担割合を算定して判断することなく、他の者に移転した部分については売却取引として会計処理します(第20項、第45項)。
優先部分と劣後部分のように質的に異なる信託受益権に分割されている場合は、それぞれ独立した財産権とみなすことができません(第46項)。そこで不動産全体に関するリスクと経済価値のほとんどすべてがSPCを通じて他の者に移転しているときに限り、売却処理として会計処理を行います(第21項)。
この場合のリスク負担割合は、譲渡人が保有する信託受益権の時価の、信託受益権全体の時価に対する割合で算定します(第21項)。
なお、売却処理する場合の売却原価は、不動産の帳簿価額を、譲渡した部分の時価と譲渡人に留保された部分の時価で按分して算定します(第21項)。
6.金融取引として会計処理を行った場合の開示
金融取引として会計処理を行った場合には、その旨並びに関連する債務を示す科目の名称及び金額を注記しなければなりません(第22項)。担保資産の注記に準ずるものです。
7.適用時期・経過措置
この実務指針は、平成12年8月1日以後行われる不動産の流動化取引について適用されます(早期適用可)。また、平成12年8月1日以前に行われたこの実務指針が適用されない取引であっても、SPCが発行する証券等の期限到来に伴う更新(リファイナンス)時には、この実務指針が適用になります。
経過措置として、平成13年3月31日までに行われる不動産の流動化取引については、リスク負担割合に関する「おおむね5%の範囲内」という基準(第13項)を、「10%の範囲内」と読み替えて適用することができます。
8.設例
設例1
SPCが社債と優先出資証券を発行して、譲渡人から不動産を購入する例です。譲渡人は優先出資証券(SPCの持分)を購入します(他に継続的関与なし)。譲渡人のリスク負担の金額は、優先出資証券の購入額となり、不動産の譲渡時の時価に対するこの金額の割合で、リスクと経済価値がほとんど移転しているかどうか判定します。
設例2
SPCが営業者となる匿名組合を組成して、譲渡人は匿名組合に出資する例です(追加出資なし)。譲渡人のリスク負担の金額は、譲渡人の匿名組合への出資額となり、不動産の譲渡時の時価に対するこの金額の割合で、リスクと経済価値がほとんど移転しているかどうか判定します。
設例3
譲渡人が不動産を優先信託受益権と劣後信託受益権に分け、そのうち優先信託受益権をSPCに売却し、劣後信託受益権はそのまま保有する例です。譲渡人のリスク負担の金額は、そのまま保有する劣後信託受益権の時価(簿価ではない)となり、不動産全体の譲渡時の時価に対する割合で、リスクと経済価値がほとんど移転しているかどうか判定します。