企業財務記事ウォッチャー2000年8月
2000年8月31日 日経 「上場企業 四半期業績公表相次ぐ 適正な株価形成促す」
記事要旨:
四半期ベースの業績を公表する公表する上場企業が相次いでいる。3月期決算の上場企業のうち、30日までに2001年3月期の第1四半期(4−6月)業績を開示した企業は51社にのぼった。
四半期報告の公表が増えている背景には、企業が株式交換によるM&A(企業の合併・買収)の制度化や、ストック・オプション導入などで、株価を重視するようになっていることが挙げられる。積極的な情報開示で適正な株価形成を促したいという狙いからだ。一方で、投資家が業績重視の姿勢を強めており、情報の即時開示を求める声が増えていることも一因だ。
集計に含めていないが東京証券取引所のマザーズや大阪証券取引所のナスダック・ジャパンなど新市場は四半期決算の公表を義務付けている。コメント:
会計士の立場からは、四半期決算に会計士がどのように関与するのかが気になります。おそらくレビューという形になると思いますが、そうなると監査でもレビューでもない「中間監査」をどうするかが問題となります。
また、四半期決算でも、新しい中間財務諸表原則の実績主義と同様の考え方が採られると思われますが、実績主義といっても本決算とまったく同じなのか、つまり、各四半期決算をそれぞれ別個の決算期と見て、それらを合計したものが本決算となるのか、あるいは、四半期決算はあくまで仮決算であり、通期では改めて正式の決算を行うのか、はっきりしていない点があるようです。例えば、棚卸資産や有価証券の強制評価減を中間決算で行った場合に、本決算ではそれを一旦戻し入れてあらためて評価減の計算をするという考え方と、戻し入れをしないという考え方があるようです。
2000年8月24日 日経 「企業合併 税負担を軽減 繰越欠損の継承容認 組織再編税制骨格固まる」
記事要旨:
通産、大蔵省は企業が事業部門の一部を簡単に切り離せるようにする「会社分割制度」の実施に合わせ、合併、営業譲渡など企業組織の再編に関する税制改正の具体案について合意した。
一定条件を満たした再編について、経営不振企業などの繰越欠損金を合併後の新会社が引き継ぎ翌年度以降の所得から差し引くことを認める。
会社分割では資産の移転で形式的に生じる譲渡益について、実際に売却利益が出るまで課税を繰り延べられるようにする。課税逃れを防ぐため、事業の継続性などが不十分な場合、適用を認めない。
2001年の通常国会に法人税法改正案を提出、来年4月の施行を目指す。
合併に伴う株主の負担も軽くする。現行税制では、株主が交付を受けた合併新会社の時価が、現在持っている株式の帳簿価格を上回った場合、差額を配当とみなして課税を求める「みなし配当課税」が適用される。こうした株主の税負担についても一定条件を満たせば課税しないよう改める。コメント:
これは税務に関する記事ですが、合併などの企業結合会計をテーマにしている企業会計審議会の審議にも影響するのではないかと思います。つまり、従来は合併などの場合、どうしても税務を意識した処理になっていたのに対し、税制改正により企業や株主への課税が緩和されれば、それだけ会計処理の自由度が増し、統一的な会計基準がつくりやすくなるのではないでしょうか。
2000年8月24日 日経 「企業年金積み立て不足解消策、利用に格差 掛け金追加拠出は増加 株式拠出進まず」
記事要旨:
企業年金の積み立て不足の解消策のうち利用が進んでいる手法と進まない手法が鮮明になってきた。母体企業が企業年金に対して掛け金を追加拠出する手法は利用が増えているものの、今年度から導入された株式を直接拠出する手法は利用ゼロの状態。
厚生年金では、不足を穴埋めするための母体企業の掛け金拠出は1999年度に「特別掛け金」「特例掛け金」合わせて1兆円を突破、前年比で25%増えた。
ただ掛け金は現金と決められており、多額の追加掛け金は企業の業績などに大きな影響を与えかねない。
このため2000年度から始まったのが、企業が保有する株式をそのまま拠出する手法だ。この手法だと企業の業績に影響が出ないほか、市場で売却せずに企業の持ち合い株式を解消できる利点があると期待されていた。
企業年金の積み立て不足を実際に解消していくためには株式現物拠出方式を利用しやすくするほか、企業が利益をあげたときに一気に積み立て不足解消を進めることのできるように追加掛け金の拠出期間についての規制を弾力化すべきだとの声もあがっている。コメント:
この記事は、企業年金への掛け金拠出時に費用計上する従来の会計処理を前提にしているようです。
「掛け金拠出=費用」の場合には、確かに、追加掛け金は企業業績に影響を与え、また、追加掛け金の拠出期間を弾力化すれば、利益の状況に応じて掛け金を増減させることにより年金に関する費用を操作することができます。
しかし、新しい退職給付会計では年金への拠出は引当金と相殺されるだけで費用への直接的な影響はありません(ただし、「拠出 -->年金資産増 -->運用益増 -->退職給付費用減」という長期的・間接的な影響はあります)。したがって、追加掛け金を支払っても業績への直接的な影響はありません。
逆に、記事では株式を拠出する場合には業績に影響が出ないと書かれていますが、拠出時の株式の簿価と時価の差額だけ拠出損益が生じるので、この分だけ業績に影響が生じます。
ただし、税務では「拠出=損金」なので、税務のことをいっているのだとすれば、記事の内容も間違っているわけではありません。
2000年8月24日 日経 「東急百の最終赤字105億円 7月中間」
記事要旨:
東急百貨店は23日、2000年7月中間期の最終赤字が105億円(前年同期は51億円の赤字)と従来予想(179億円の赤字)より赤字幅が縮小したと発表した。持ち合い株式の売却損や子会社株式評価損失の一部が確定せず、計上を下半期に先送りしたため。従来予想では323億円の赤字を見込んでいた2001年1月期の最終損益については、「子会社株式の評価損失などが確定せず流動的」(経理部)としている。コメント:
株式の売却が中間期末までに行われたのにその売却損益が今まで確定していないというのは、非常に特殊な例だと思います(売却時点で取引金額が決まっているのが普通)。仮に、確定していないとしても、何らかの方法で金額を見積もって売却損を計上すべきではないでしょうか。
子会社株式の評価損も、その金額が確定するまで計上しないということは認められないと思います。中間期末時点で子会社の財政状態を検討して評価損の金額を見積もって損失計上することが必要です。
2000年9月中間期から中間決算は予測主義に変わって実績主義となりますが、そのような議論以前の問題ではないかと思います。
2000年8月17日 日経 「鹿島 固定資産含み損処理 今期、140億円を特損計上」
記事要旨:
鹿島は2001年3月期に保有する賃貸ビルなど固定資産の含み損140億円程度を特別損失として処理する見通しだ。2003年3月期にも固定資産の含み損処理を義務付ける減損会計が導入されるため、前倒しで償却する。
含み損処理を今期に処理するのは首都圏にある賃貸ビル3、4棟で、来期にかけて売却を予定している物件。
鹿島は1999年3月期に固定資産の含み損を403億円処理し、前期も開発事業関連損失として50億円弱を計上した。2002年3月期も収益との見合いで固定資産関連の損失を計上する見通しで、減損会計が導入される2003年3月期までに固定資産の含み損解消にメドを付ける考えだ。コメント:
販売用不動産の評価減が一段落ついた会社は、固定資産(特に不動産)の含み損処理に関心が移っているようです。
この記事のケースでは売却予定の賃貸ビルの含み損のみが処理の対象なので、減損会計を適用し一定の基準に基づいて固定資産の評価損をすべて計上する処理ではないようです。記事だけでは詳細はわかりませんが、処理したい物件について、保有目的を変更したとして一旦棚卸資産(販売用不動産)に振り替え、そのうえで評価減する方法を採るのではないでしょうか。
収益との見合いで損失を計上するというのも、引っかかる点です。収益がなければ損失が生じても計上しないということなのでしょうか(決算対策としてはわかりますが、建前上はまずいのでは・・・)。
2000年8月15日 日経 「厚年基金の積み立て不足穴埋め 企業、最高の1兆円超拠出 大手中心25%増 昨年度 会計基準変更で処理急ぐ」
記事要旨:
厚生年金基金の積み立て不足を穴埋めするため年金の母体となっている企業が支払った掛け金は、1999年度に過去最高の1兆151億円に達したことが厚生省のまとめで明らかになった。
積み立て不足を穴埋めするために企業が支払う掛け金には、運用利回りの低迷によって発生が見込まれる不足金を事前に手当する「特例掛け金」と、すでに発生している不足金を事後に補てんする「特別掛け金」の2種類がある。
企業は最長20年間かけて厚生年金の積み立て不足を処理することができる。こうした制度があるにもかかわらず積み立て不足の処理を急いでいるのは、2001年3月期からの退職給付会計の導入で企業年金の積み立て不足の開示が義務付けられるためだ。コメント:
この記事では年金財政計算上の積み立て不足と、退職給付会計上の積み立て不足が区別されていないので、少しわかりにくくなっています。「最長20年間かけて厚生年金の積み立て不足を処理することができる」というときの「積み立て不足」は、厚生年金基金の年金財政計算上の積み立て不足であり、退職給付会計の導入で開示されることになるのは、会計基準で定義された退職給付債務(年金だけではなく退職一時金の分も含まれる)と年金資産(時価評価される)の差額(またはこれから引当金を控除した額)です。計算方法も計算する目的も異なるまったく別の概念です。とはいえ、年金財政計算上の積み立て不足を減らすことは、会計上の積み立て不足を減らすことにもなるのは事実です。
従来は厚生年金基金の掛け金は支払っただけ費用計上され、税務上も損金算入されていました。そこで業績のよい会社は、退職給付会計導入前に掛け金を支払って年金資産を増やし、導入後に償却負担が生じる会計処理変更時差異をできるだけ減らそうとしたのでしょう。退職給付会計導入後だと、掛け金の支払いは退職給付引当金と相殺されるだけで、退職給付に関する損益を操作することはできません。
2000年8月15日 日経 「大手銀 持ち合い株簿価上昇 益出しで3月末5% 市場リスク高まる」
記事要旨:
大手銀行の持ち合い株式の簿価が今年3月末時点で1年前と比べて約5%上昇していることがわかった。不良債権処理の財源を捻出するため、持ち合い株を売却すると同時に買い戻すクロス取引による益出しを増やし、取得原価を示す簿価を押し上げたのが主因だ。2002年3月期から持ち合い株も時価評価の対象となるため、アナリストは「銀行の経営体力が株式相場の動きに左右されるリスクが一段と高まった」と指摘している。
都市銀行と信託銀行(日本信託銀行を除く)、日本興業銀行の15行の保有株の簿価は2000年3月期で計38兆2126億円に達する。前の期から1兆7688億円、率にして4.9%上昇した。
時価会計の導入で、銀行は主に個別銘柄ごとの評価益と評価損の合計額を貸借対照表の資本に計上し、株主資本を増減させるようになる。株式相場が大きく下落し、保有株の損が拡大すれば資本が目減りすることになる。コメント:
新しい金融商品会計では持ち合い株式はその他有価証券として時価評価され、評価損益は税効果調整後の金額が資本直入されます。これとは別に、従来からの会計処理として、時価の著しい下落の場合には強制評価減(減損処理)が行われます。
簿価を上昇させることによって株式相場の動きに左右されるリスクが一段と高まるのは、2002年3月期から持ち合い株が時価評価の対象となるからではなく、簿価を上げることによって、強制評価減の対象となる可能性が高まるからだと思われます。
2000年8月13日 日経 「アカウントデバイドの衝撃 会計ビッグバンでも世界は遠い」
記事要旨:
「アカウント(会計)デバイド」。会計基準のグローバル化に、対応できる企業とついていけない企業の間に生じる業績や成長性の格差のことだ。
1997年から99年にかけて日本に吹き荒れた「会計ビッグバン」。2000年3月期を契機に、単独決算から連結決算へ、取得原価会計から徹底した時価会計へと転換した。
会計ビッグバンはもともと、強制力を持たない国際任意団体、国際会計基準委員会(IASC)の作成した主要40項目を参考に、大蔵省企業会計審議会が一部を導入したもの。
会計ビッグバンの前提ともいえるそのIASCが今年の5月、急展開を迎えた。米証券取引委員会(SEC)など各国の証券市場を監督する当局者組織、国際証券監督者機構(IOSCO)がIASCを全面的に支持すると表明、同組織の決める基準が関係諸国に一定の強制力を持った。つまり、IASCが策定する国際会計基準を各国の国内会計基準と統一させることになるのだ。
IASCが国内の会計基準設定にも大きな影響を持った以上、甘えは通じない。
まず、時価会計の対象が借入金(貸付金)まで広がることになった。企業会計審議会の99年の提言では、損益計算書に計上する金融商品は売買目的の株式に限り、借入金(貸付金)は時価評価の対象とすらなっていなかったのだ。
企業が設備投資に利用するファイナンスリースにも新たな基準が打ち出されそうだ。日本では、毎月のリース料だけを損益計算書に計上すればよかったが、新基準では、借入金による設備購入と同様に全額を貸借対照表と損益計算書に反映させなくてなならなくなりそう。コメント:
日曜版の読み物なのであまり細かいことをいってもしょうがないのかもしれませんが、気がついた点を箇条書きにします。
- 「アカウント」には取引口座とか勘定という意味はありますが、会計という意味ではあまり使わないのではないでしょうか。「アカウンティング」という言葉の方が一般的だと思います。
- 連結決算自体は日本でも20年以上の歴史があり、会計ビッグバンで新しく取り入れられた会計実務ではありません。
- 徹底した時価会計へ転換したと書かれていますが、棚卸資産や有形・無形固定資産のように取得原価会計が適用される科目も多く、また、金融商品でもすべてが時価評価になったわけではありません。
- IASCが主要項目の基準を完成したのは今年になってからであり、日本の会計ビッグバンは当然それ以前から議論されてきました。
- IOSCOの5月の決議は、企業が本国以外で資金調達する場合に、国際会計基準を使うことを各国が認めるものであり、国際会計基準と各国の国内会計基準を統一させることまで求めていません。
- 借入金や貸付金まで対象にする全面的な時価会計について、導入が確定したように書かれていますが、IASCや各国の基準設定主体から派遣されたメンバーで構成されるJWGで現在議論しているところであり、そのまま国際会計基準になるかどうかはまだわかりません。
- 日本では、(評価損益を)損益計算書に計上する金融商品は売買目的の株式に限ると書かれていますが、それ以外の金融商品にも時価評価され評価損益が損益計算書に計上されるものがあります(例えば、ディリバティブや売買目的の債券)。
- ファイナンスリースをオンバランスにするという基準は、海外でも日本でも新しい基準ではありません。日本では「リース取引に係る会計基準」が平成5年に公表され、ファイナンスリースは売買処理(オンバランス処理)が原則となっています。ただし、海外と異なり、例外として賃貸借処理(オフバランス処理)も認められている点が問題であるといわれています。
- リースに関し海外で議論されているのは、ファイナンスリースをオンバランスすることではなく、オンバランス処理するリースの範囲を拡げるべきではないかという論点です。
2000年8月9日 日経 「キャノン化成、株式交換でキャノン完全子会社に 戦略事業一体経営」
記事要旨:
キャノンは8日、店頭公開の子会社、キャノン化成を株式交換で100%出資の完全子会社にすると発表した。キャノン化成はキャノンが現在67.23%出資しており、完全子会社化に伴い10月31日に店頭登録廃止となる。キャノン化成を事実上、本体に取り込み、戦略事業の複写機・プリンターのカートリッジ事業を一体経営する。キャノンは11月7日にキャノン化成の株式1株に対し、自社株式0.25株を割り当てる。
キャノンは本体との一体経営をかねて検討していたが、99年10月の商法改正で株式交換が認められたため、完全子会社化を決断した。コメント:
株式交換の会計処理については、我が国ではまだ会計処理が確定していない状態です。4月に会計士協会から株式交換や株式移転を行った場合の会計処理について報告書(公開草案)が出されましたが、これはあくまで「研究報告」であり、実務指針のように会計処理を拘束するものではありません。
キャノンとキャノン化成の場合は、キャノン化成の少数株主持分をキャノンが自社株式(キャノンの株式)と交換に買い取るわけですが、会計処理上、その取得価額をキャノン化成の少数株主に対して発行する自社株の時価とするか発行価額(子会社純資産の帳簿価額をベースとする場合が多いと思われる)とするかによって、決算数値(特に連結)に与える影響は全く違ってきます。自社株の時価とする場合は、多額の連結調整勘定が計上され、以後の決算ではその償却負担が生じてきます。
株式交換については、どのような会計処理を行うのか、そしてそれ以降の決算にどのような影響を与えるのかまで報じてほしいものです。
2000年8月3日 日経 「やさしい連結決算 発展編7 米国会計基準との差縮小 時価評価など次々採用」(連載記事)
記事要旨:
連結対象の実質支配力基準、資産の時価評価、退職給付債務の開示。日本企業が2000年3月期から次々と導入している新しい会計基準は、米国企業が先行して採用していた原則だ。この結果、日米間の会計基準の差は以前と比べ格段に小さくなっている。
日本企業でも25社が米国式で連結決算を有価証券報告書として大蔵省に登録している。「海外市場での資金調達や国際入札に有利」というメリットがあるからだ。
主な日米会計基準の相違(図表から一部抜粋) 米国 日本 減損会計 貸付金や長期性資産に適用 適用を検討 コメント:
米国基準の連結財務諸表を大蔵省へ提出している会社があるのは、海外市場での資金調達などに有利だからというよりは、日本で連結決算が導入される以前から米国基準で連結決算していた会社について、導入後も特例で米国基準での連結決算を認めていることによるものです。資金調達や国際入札に有利だからといって、米国基準で有価証券報告書の連結財務諸表を作成することはできません(海外会社は例外)。
図表では、貸付金の減損会計について、日本ではまだ検討中のように書いてありますが、「金融商品に係る会計基準」のなかで、債権の貸借対照表価額や貸倒見積額の算定の基準として、ほぼ米国と同じといわれている会計処理が定められています。単にそれを減損会計という用語でいっていないだけです。