
企 業 財 務 記 事 ウ ォ ッ チ ャ ー 2002年4月
2002年4月28日 日経 昨年度、自社株買い倍増2兆円超 ホンダ・富士通も計画
記事要旨:
上場企業の自社株買いが急増している。2001年度はトヨタ自動車、松下電器産業などが実施、総額は前年度の2倍の2兆3000億円と過去最高になった。
自社株を買うと発行済株式数や株主資本が減る。その分、 1株当たり利益や株主資本利益率などの指標は改善、少ない資本で効率よく利益を上げられる形になる。
日本経済新聞社の調べによると、2001年度に上場企業が発表した自社株買い(計画の上限値)は2兆3400億円(3月末東証時価総額の約0.7%)に達した。なかでも今年1−3月は1兆800億円と四半期で初めて1兆円を突破した。コメント:
自社株買いは、資金面からみると、配当などと同様に資金の流出となります。トヨタや松下のような会社であれば、自社株買いによって少しぐらい資金が流出しても、何ら問題はないのでしょうが、新規の投資のために多額の資金を必要としているような会社では、自社株買いによって流出した資金を他の手段によって調達する必要が出てきたり、資金不足で、十分な投資ができないこともあり得ます。
自社株買いによって1株利益などの指標が改善されると言い切ってしまうのは、少し雑な議論です。会社の置かれている状況次第では、マイナスの影響が出ることが考えられます。
なお、記事では、自社株買いによって発行済み株式数が減ると書かれていますが、少なくとも商法上の発行済み株式は、株式の消却が行われるまでは、減らないはずです。
2002年4月25日 日経夕刊 AOL赤字7兆円 1−3月期 買収の「のれん代」償却記事要旨:
米AOLタイム・ワーナーは24日、1−3月期の最終赤字が542億4000万ドル(約7兆円)に達したと発表した。昨年1月にアメリカ・オンライン(AOL)が タイム・ワーナーを買収して発足した際に発生した「のれん代」を前倒し償却 した。
AOLは2000年1月に株式交換方式による買収を発表したが、発表直前に65ドルだったタイム・ワーナー株の価値を7割増の110ドルと評価。その後の 業績、株価の低迷で資産価値が大幅に下落したと判断、買収額との差額である のれん代542億ドルを償却 した。
売上高は前年同期比7%増の97億6400万ドル。広告収入が10%減と不振だったが、映画「ハリー・ポッターと賢者の石」などの世界的ヒットが音楽、出版事業に好影響を与えた。コメント:
四半期の売り上げが100億ドル弱なので、542億ドルの赤字というのは、年間売り上げよりも大きな赤字を計上したことになります。記事を読む限りでは、買収された方のタイム・ワーナーの部門(映画、出版)の方は、そこそこの業績を上げており、決して事業が不振なわけではないようです。それなのに、多額ののれんを償却しなければならなかったというのは、買収価格(交換条件)が、タイム・ワーナー部門の利益だけでなく、買収する側のAOLの事業にも、買収のシナジー(相乗)効果が現れることを見込んで決められたということだと思います。
しかし、予想していたシナジー効果は、得られず、結局、買収価格が高すぎたということになって、のれんを償却することになってしまった、ということでしょう。ただし、買収の対価はキャッシュではなく、自社株だったので、金額から想像するほどの痛みはないのかもしれません。
記事では、株価の低迷で資産価値が下落したと書かれていますが、むしろ、買収の効果が現れない(したがって、のれんの価値が低下した)ということを市場が織り込んだ結果、株価が下がったといった方が正確ではないかと思われます。
2002年4月25日 日経 金融庁、企業の中間監査強化 破たん懸念に応じ厳しく記事要旨:
金融庁は企業の財務報告に対する中間監査について、 経営破たんリスクの大きさに応じて、公認会計士が厳しくできるよう基準を改める。年度監査に比べ精度が劣るとされる 中間監査の質を高め、問題企業の経営実態を機動的に把握できるようにするのが狙い。
金融庁の企業会計審議会は1月、年度監査を厳密にするための新たな監査基準を決定。中間監査の扱いについても基準を大幅に見直す。
新たな中間監査基準では、企業が破たんするリスクを監査人である公認会計士が見極め、必要に応じて財務諸表に意見をつける。中間決算時点で企業の継続性についての情報を投資家に的確に知らせる体制を強化する。
監査人が対象企業の経営破たんリスクが大きいと判断すると、年度監査並みに厳しい手続き を踏み、取引記録の確認などを徹底する。逆に破たんリスクが少ないと判断すれば、直近の年度監査を踏まえ、事業の変更点の質問など監査を簡便に済ませることができるようにする。コメント:
リスク・アプローチとゴーイング・コンサーンをごっちゃにしたような記事で、本当に信用していいのか疑問です。
まず、リスク・アプローチというのは、おおざっぱにいうと、重要な粉飾・誤謬を監査で見逃すリスク を一定以下に押さえるために、財務諸表(あるいは科目や取引)の固有のリスクや、内部統制上のリスクに応じて必要な監査手続きを決めていくという考え方です。あくまで、重要な粉飾・誤謬を見逃すリスクをどこまで下げるかが問題であって、破たんしそうもない優良企業であっても、粉飾や誤謬が起こるリスクが高い項目については、特に厳しく監査手続きを行います。
ゴーイング・コンサーンの規定については、記事に書かれているように、中間監査にも取り入れられるようです。したがって、ゴーイング・コンサーンに関わる手続きが、従来の中間監査に加わり、少なくともその分だけは、従来より厳しくなるといえそうです。リスク・アプローチについても、監査基準で強化すると行っているので、中間監査でも、その考え方は取り入れられることになると思います。
ただし、中間監査の水準を、年度監査と比べて、どの高さに設定するかという、以前からの問題は残っています。海外で行われているレビューよりは保証の水準が高く、しかし、年度監査よりは低いという、わが国独特の中間監査をどこまで続けていけるのでしょうか。
2002年4月24日 日経 天候デリバティブ取引市場 ナットソース・ジャパンが開設記事要旨:
温暖化ガスの排出権取引などを仲介しているナットソース・ジャパンは24日、天候デリバティブ (金融派生商品)の相対取引を始める。金融機関や商社などがリスクを調整し合う場として提供する。
新市場「ジャパン・ウエザー・エクスチェンジ(JWX)は東京の月間平均気温を対象 とした二者間のスワップ取引を採用する。
気温が上がるリスクと、下がるリスクを回避するデリバティブを販売した金融機関同士が契約を締結。あらかじめ両者合意のもとで平均気温の値を決めておき、実際の月末の平均気温との差額で支払いと受け取りが発生する仕組み。
基本的な指標としては気温0.01度の価値を1万円にした場合、支払い上限は最大200万円に設定。平均気温との差が2度以上あれば一方が他方に200万円を支払う。0.01度の価値は1万円以上に設定することも可能。ナットソース・ジャパンは取引成立時に仲介料を徴収する。コメント:
金融商品会計の実務指針によれば、ウエザー・デリバティブとは、平均気温や降雪量等の自然現象等にリンクした デリバティブ取引であるとされています。一般的なデリバティブと同様に、金融商品であるとされており 時価評価されます(公正な評価額を算定することが極めて困難と認められるものを除く)。
会計士で鑑定士の資格も持っている人はいますが、これからは、気象予報士の資格も持っていた方がよさそう(?)です。
2002年4月23日 日経 富士通コン前期 最終赤字実質114億円記事要旨:
富士通コンポーネント は22日、2002年3月期の連結最終損益が実質114億円赤字になったと発表した。主力の電子部品の売り上げが大幅に落ち込んだほか、製造拠点の統廃合などリストラ関連費用約30億円を計上した。
同社は昨年9月、高見沢電機製作所と富士通高見沢コンポーネントの 共同持ち株会社として発足。今回、経営統合前の半年間の業績を加えた 通期見通しを修正発表した。コメント:
共同持株会社として発足したということは、商法上の株式移転の手続で設立された会社ということになります。昨年9月設立ということなので、形式的には、昨年9月から今年3月までの経営成績を損益計算書に表示すればよいということになります。
しかし、同社のホームページをみると、富士通の共通支配下にある子会社間の結合ということで、 持分プーリング法に準じた会計処理 を採用し、結合当事会社(高見沢電機製作所と富士通高見沢コンポーネント)の 統合前の期間を含む財務諸表 (2001年4月〜2002年3月)を合算しているようです。(記事で114億円の赤字が「実質」といっているのは誤りで、正式の決算の数値です)。
同社ホームページによると、このような処理は、会計士協会から公表されている研究報告 に基づいているとのことですが、この研究報告は 強制力を持たないとされています。したがって、統合前の損益を含めない数値で発表した修正前の業績見通しも、間違ってはいなかったわけですが、研究報告を尊重して、会計処理を変えたということだと思います。
この例にみられるように、企業再編がらみの会計処理は、企業結合会計が基準化されるまで、不安定な状態が続くと予想されます。(注)株式交換・移転の会計処理に関する研究報告について知りたい方は、 株式交換・移転の資本連結手続クイック解説 をご覧下さい。
2002年4月20日 日経 減損会計、企業再編を加速 企業会計審 公開草案記事要旨:
金融庁の企業会計審議会固定資産部会は19日、「減損会計」に関する公開草案を発表した。2005年度(2006年3月期)の完全導入を明記、企業判断で2003年度から適用することも認められる。
有力企業では損失を前倒し処理する動きが加速している。 土地再評価法で含み損を処理した上場企業は前期までに200社を超えた。イトーヨーカ堂や伊藤忠商事など 米国基準を適用している企業はすでに減損処理を実施している。2002年4月20日 日経 ダイエー赤字3325億円 前期 リストラで特損膨らむ
記事要旨:
経営再建中のダイエー は19日、2002年2月期決算を発表した。不採算の60店舗閉鎖などリストラ損失が膨らみ、連結最終損益は3325億円の赤字となった。
2月に策定した債権3ヶ年計画に基づいてリストラを前倒しで実施。ダイエー単体や赤字子会社の 店舗閉鎖などに伴う費用 として2847億円を計上した。コメント:
減損会計は、今までにない全く新しい会計処理のようにいわれることが多いようですが、要するに固定資産を評価減して、将来の損失を前倒しで計上するということでしかありません。ダイエーがやったように、翌期行われる店舗閉鎖の費用を、計画が策定された期に損失計上するという処理も、広い意味の減損会計といえます(2847億円の全額が固定資産絡みというわけではないでしょうが・・・)。
問題は、どのような場合に、どういう方法で評価減(あるいは、評価減に類似の処理)をすればよいのかというルールが、従来、明確でなかった点にあります。ダイエーのように、店舗や工場を閉鎖する計画が策定された場合に、必ず前もって損失計上しているかというと、それぞれの会社の決算政策によって、したりしなかったりというのが実情ではないかと思います。減損会計の基準設定によって、会社の裁量の余地が狭くなり、透明性が増すことが期待されます。
なお、記事では、土地再評価を行った上場企業が前期までに200社を超えたと書かれていますが、土地再評価法は時限立法であり、今年3月末が最終期限なので、(再評価を実施したことをこれから発表する会社を除けば)「もう」増えることはありません。また、200社が、金融機関を含む数字だとすると、かなりの部分が金融機関で占められているはずです。一般事業会社では、不動産会社やゼネコンなど限られた業種の会社が多いのではないかと思います。
2002年4月20日 日経 収益予想は20年 正確な反映難しく記事要旨:
固定資産の減損会計は、将来予想される資産の損失を前倒しで処理する会計基準だ。ただ、評価に用いる将来の 収益予想期間が長いなど、どれだけ正確に反映できるか不透明さも残る。
減損処理は市場価値が大きく下がった固定資産が対象。すでに投下した資金(簿価)を将来の一定期間(最長20年)で回収できない場合、現在の資産価値(回収可能価額)を計算して簿価との差額を損失計上する。
実際の損失算出作業には不透明さも残す。一つは前提となる資産の区分けだ。例えば鉄道会社の場合、鉄道網の区切り方次第で減損処理の結果が異なる可能性が大きい。
キャッシュ・フローの見積期間も最長20年と長く、仮定や予測の立て方次第で計算結果が揺れやすい。
2002年4月19日 asahi.com 固定資産の減損会計、05年度からの義務化提案記事要旨:
企業会計審議会は19日、企業が保有している土地など固定資産の価値が著しく下がった場合に会計上、損失処理を義務付ける「減損会計」に関する草案を公表した。05年度中の決算からの完全実施を提言している。
ある固定資産を使った事業を企業が廃止する場合などは、その資産の価値が帳簿上の価格を下回る可能性が強い。草案では、そうした固定資産について、 将来20年間に生み出す収益の試算合計額と帳簿価格を比べ、帳簿価格の方が高い場合は、減損損失があると判定することを提言している。
減損損失があると判定された固定資産は、今後20年間に生み出す収益の合計額の現在価値 と、売却予想価格を比べ、高い方を「回収可能価額」と決定。帳簿価格と回収可能価額の差額を特別損失として会計処理することを求めた。コメント:
減損会計の公開草案によると、減損会計とは、固定資産の帳簿価額を回収可能価額 まで切り下げる会計処理です。わかりづらいのは、この回収可能価額を計算する際には、 将来キャッシュ・フローを割り引いた金額(使用価値) を使うのに対し、減損処理を行うかどうかを決める際には、 割引前の将来キャッシュ・フロー を使うという点だと思います。
また、草案が、キャッシュ・フロー見積期間に、資産の残存使用期間と20年の短い方 (単に20年ではありません)という上限を設けているのも、割引前将来キャッシュ・フローを計算する場合であって、回収可能価額を算定する場合には、特段、制限はありません。
したがって、まず、asahi.comの記事が、どのような資産でも、20年間のキャッシュ・フローを計算しなければならないように書いているのは間違いです(残存使用期間が20年より短い資産であれば、残存使用期間となる)。また、回収可能価額を算定する際にも、20年の見積期間が適用されるように書いているのも間違いです(20年という制限があるのは割引前将来キャッシュ・フロー)。日経の記事の方も同じような誤解があるようです。
回収可能価額(使用価値)を計算する際には、どのような見積期間でやればよいのか、といった計算方法の詳細については、公開草案はふれていません。DCF法を使った不動産鑑定や事業評価では、5年から10年程度の期間はできるだけ正確にキャッシュ・フローを見積もって、その後の期間については、大ざっぱな仮定によって、簡単に見積もるといった方法が取られているようですが、そのような方法を参考にして、実務上対応するのではないかと思われます。
2002年4月20日 朝日 減損会計、ゼネコン・鉄道に影響大記事要旨:
05年度の減損会計の全面導入で大きな影響を受けるのは、バブル時代に取得した不動産を抱えているゼネコンをはじめ、電鉄グループ、生命保険会社、マンション分譲業者など幅広い。
「大手不動産はすでに不動産の時価評価が進んでおり、減損会計に対応済みとはいえ、 毎年の土地の鑑定費がべらぼうになり企業に負担 となる。・・・」。19日開かれた不動産協会の会見で理事長は懸念を示した。コメント:
減損会計を適用するためには、固定資産の将来キャッシュ・フローを見積もったり、それに基づいて回収可能価額を計算したりすることが必要になりますが、減損会計の公開草案によれば、そのような手続きを踏まなければならないのは、 減損の兆候(公開草案に例示されています)が生じている資産であるとされています。したがって、当初の見込みどおり収益をあげ、何ら問題もない固定資産については、煩雑な手続きをする必要はありません。
また、仮に減損の兆候があったとしても、回収可能価額の算定に鑑定士を使わなければならないということは、草案のどこにも書いてありません。きちんとした不動産会社であれば、自社の物件の生み出すキャッシュ・フローぐらいは、外部に委託するまでもなく、見積もり可能ではないかと思います(もちろん、鑑定士の指導を受けて、見積もりの精度を高めようとするのはいいことだと思いますが・・・)。
減損会計導入で、鑑定費がべらぼうになるなどというのは、少し大げさではないでしょうか。
2002年4月20日 日経 三菱商事、前期純利益35%減 ローソン投資価値を減額記事要旨:
三菱商事 は19日、2002年3月期の連結純利益が前の期に比べ35%減の600億円になったもようと発表した。 持ち分法適用関連会社 のローソンの投資価値を取得時より減額、310億円の損失が発生する。
三菱商はローソンの発行済み株式数の30.1%を保有している。投資総額は約2060億円で、一株の 平均取得価格は6432円 。一方、株主資本の持ち分は約460億円で投資差額(のれん代)の約1600億円を20年で償却する方針だった。
だが、米国会計基準の変更で、2002年度からはのれん代の定額償却が廃止。ローソンの 株価が3月末で3780円 と低迷していたため、投資価値を1株5164円に減額 した。
この結果、今年3月末の簿価約1970億円は約1660億円に減少。この差額を費用計上する。コメント:
記事の例は米国基準における処理ですが、わが国の基準では投資差額の一時償却 の問題として扱われます(持ち分法実務指針9項、連結実務指針33項)。
わが国の基準と、三菱商事の例を比べてみると、わが国の基準では、「子会社(この場合は関連会社)の業績が・・・大幅に悪化し、将来の期間にわたって 損失が発生する状態が続くと予想される」などの場合に、一時償却を行うことになっていますが、ローソンは損失が発生する状態が続いているわけではありません。わが国の基準とくらべると前倒しで損失を計上していると思われます。
また、わが国の基準では、一時償却の金額については、「相当の減額 」としか書いてありません。米国基準でも、持ち分法の投資差額の場合は、のれんとちがって、細かい規則はないようですが、三菱商事の例では、 DCF法による鑑定評価額(記事によれば1株5164円)を使っているようです(同社ホームページによる)。この金額は、ローソンの株価(記事によれば3780円)とも食い違っているので、市場価格をそのまま使うのではないこともわかります。
2002年4月17日 日経 企業合併に時価評価 国際会計基準理が方針決定記事要旨:
国際会計基準理事会 は17日の会合で、企業の合併・買収(M&A)に際して相手の企業を時価評価する会計基準の導入 方針を決めた。
企業の合併会計にはこれまで統一基準がなかった。現在、それぞれの企業の資産・負債を 帳簿価格で結合する方式と、買収する側と買収される側をはっきりさせて、 買収される側の資産・負債を時価評価する方式 がある。最近は米国など時価評価方式の国が増えており、基準理はこうした流れを無視できないと判断した。
時価方式は、合併時に発生した「のれん代」(取得価格と純資産の差額)を決算期末ごとに計算し、純資産が取得価額を下回った場合には差額を 評価損として計上する。
日本は基準理の活動に批判的。時価ベースの合併会計に関しては「買収・被買収の区別が明らかになるため、日本流の対等合併が難しくなる」(経団連)との理由で反対している。コメント:
合併会計(正確には企業結合会計)を取り上げた記事で、内容が正確なものは少ないのですが、この記事も例にもれず、重要な点でいくつか誤りがあるので、念のため指摘しておきます。
- 国際会計基準で、合併会計に統一基準がなかったというのは、誤りです。現行の国際会計基準には、 プーリング法 (記事でいっている帳簿価額で結合する方法)とパーチェス法 (買収される側を時価評価する方法)の2つの方法が規定されていますが、企業がそれらを自由に選択できるわけではなく、結合する企業の規模などの基準によって、どちらの方法を使うべきかが、統一的に決められています。
- それでは何が問題となっているかというと、プーリング法を廃止し、 全ての企業結合をパーチェス法で処理 すべきかどうかということであり、新しい基準には、そのようなパーチェス法へ一元化する考え方が取り入れられています。したがって、国際会計基準理事会が導入を決めたのは、「相手の企業を時価評価する会計基準」ではなく「相手の企業を時価評価する方法に一元化する会計基準」のはずです。
- のれんの評価損(国際会計基準や米国基準では、のれんの 減損といっているようです)のところも間違いです。記事では、純資産が取得価額を下回った場合の差額が評価損であるといっていますが、同じ文中で、のれん代を取得価格と純資産の差額(通常は企業の取得価格の方が純資産より大きい)と定義しているので、これでは、最初からのれんは評価減されてしまいます。
- 新しい国際会計基準におけるのれんの減損については、よく知りませんが、米国基準では、のれんの帳簿価額をその 時価と比較して減損処理を行っているようです。(のれんの時価の出し方は非常に複雑で、よくわからないので、説明は省略します)。国際会計基準もおそらく米国基準に似たような方法になると思います。
- 記事に添えられていた図表で、日本の主張の説明として、対応合併の場合には、「のれん代」を一定期間で償却するような図になっていますが、対等合併で プーリング法を使っていれば、そもそも、のれんは発生しない はずです。
また、記事によれば、経団連が、「買収・被買収の区別が明らかになるため、日本流の対等合併が難しくなる」との理由で、(パーチェス法一元化に)反対しているとのことですが、これもにわかには信じられません。現行の日本の合併手続においても、新設合併でない限り、 存続会社と消滅会社の区別は必ず生じます。だからといって、対等合併が阻害されているわけではありません。会計処理と対等合併かどうかということは、分けて考えることができるのではないかと思います。
2002年4月17日 日経 セコム 年金債務を一括償却記事要旨:
セコム は16日、グループの退職給付債務の積み立て不足約680億円を2002年3月期に一括償却したと発表した。連結純利益は前の期に比べ73%減の94億円前後になった模様だ。年金関連の会計方針を抜本的に変更した。
会計基準変更に伴う積み立て不足476億円を一括償却して特別損失に計上した。前期に年金資産の運用利回り低下で発生した積み立て不足約210億円も営業費用に計上。
年金の給付利率を年5.5%から3%に引き下げたため約300億円の特別利益が発生した。コメント:
セコムのホームページを見ると、(a)数理計算上の差異を翌年度から平均残存勤務期間で償却する方法から、発生時一括償却に変更し、(b) 過去勤務債務の処理について発生時に全額損益処理する方法を採用し、(c)子会社の会計処理変更時差異の残額を一括償却したことによって、記事に書かれているような結果となったようです。
セコムの場合、(同社だけの話ではありませんが)年金資産の運用がうまくいっておらず、(a)の変更により損失が一時に発生します。また、給付利率の引き下げは、年金の 給付水準の引き下げを意味し、退職給付債務を減らす結果となりますが、(b)の方法の採用により、一定年数で償却する方法を取った場合と異なり、一時の利益が発生します。同社ホームページによると、これらの影響を相殺して計算すると、176億円退職給付費用が多くなったとのことです。
退職給付会計では、数理計算上の差異や過去勤務債務について遅延認識 が認められて、一時的な運用の不振や、年金給付水準の変更の影響を緩和させることができるようになっていますが、この記事のような例をみると、その意味をあらためて考えさせられます。
2002年4月13日 日経 不良債権の処理損失 (きょうのことば)記事要旨:
金融機関が不良債権を処理する際に発生する損失。融資先企業の業績が悪化し返済が滞るようになれば貸し倒れに備えてあらかじめ積み立てておく引当金を増やし、実際に企業が倒産したり外部に融資債権を売却したりした場合には、返済を受けられない分が損失となる。前者を 間接償却、後者を直接償却といい、その合計が不良債権の処理損失となる。コメント:
金融商品会計基準は、破産更生債権等の貸倒見積高については、債権金額から直接減額する(= 債権と引当金を相殺表示する)ことを認めています(金融商品会計基準、注10)。また、会計士協会の実務指針は、契約上の債権が消滅しなくても、 会社の実質的な判断により、債権の回収可能性がほとんどないと判断した場合には、直接減額することとしています(123項、302項)。
つまり、一般には、この記事のように、「不良債権の売却、債権放棄、法的整理などにより債権が法的に消滅することに伴う損失計上」=「直接償却」と考えられていますが、会計処理上の扱いは、それとは少し異なるということになります。
2002年4月12日 日経夕刊 米SEC ゼロックスに制裁金 利益水増しで1000万ドル記事要旨:
米証券取引委員会( SEC )は11日、事務機器大手のゼロックスが1997年から4年間、不正な会計処理によって利益を水増ししていたなどとして、1000万ドル(約13億2000万円)の民事制裁金を科すと発表した。公開企業の粉飾決算に絡む制裁金としては過去最大。
SECがニューヨーク南部地区地裁に提出した民事制裁金の同意命令の申立書などによると、ゼロックスは97年から2000年にかけ、 事務機器のリースに関連して売上高を膨らませることにつながる特殊な会計処理を編み出した 。SECはこの処理が米企業会計原則から逸脱するとし、ゼロックスが収入や利益を不当に過大に表示したと認定した。
同時期に過大に表示された金額は収入で30億ドル超、利益で15億ドルに達した。
ゼロックスが不正会計処理に手を染めたのは、証券会社のアナリストらの利益予測 に決算を合わせようとしたため。コメント:
SECのホームページで調べてみると、粉飾とされた最大の点は、顧客からのリース収入を、リースの開始時点で売上計上できる製品価格の部分と、リース期間全体にわたって収益計上されるサービス収入や受取利息に配分する際に、製品価格に配分される金額を水増ししたということのようです。(「特殊な会計処理」というのは、やや大げさです)。
そのほか、営業利益を調節するために、引当金を不正に使ったこと、リースの売却で一時的な利益を上げたことを開示しなかったことなどが、問題とされています。
記事によれば、ゼロックスが不正な会計処理を行ったのは、利益予測に決算数値を合わせるためとのことですが、日本の企業経営者にも、同じような圧力がかかっていると思われます。ただ、日本企業の場合、含み益のある資産の売却などによる、粉飾とまではいえない利益操作に対しては、一般に寛容であるため、明らかな粉飾にまで踏み出すケースは少ないのではないかという気もします(甘い見方かもしれませんが・・・)。
2002年4月11日 読売 「特別損益」項目の廃止検討 国際会計基準草案 経産省見直し迫る記事要旨:
経済産業省は10日、世界的な会計基準作りを進めている国際会計基準審議会( IASB )が年内にも草案をまとめる新会計基準について、投資家の的確な判断を妨げる恐れがあるなどとして、IASBに草案の修正を求める方針を明らかにした。
経産省が問題視しているのは、新基準に盛り込まれる企業の損益計算書の見直しだ。現在の日本の損益計算書では、本業の儲けを示す「営業損益」や、金融収支などを示す「営業外損益」とは別に、リストラなどに伴う固定資産の売却損益などを示す「特別損益」という項目を設けている。IASBは「特別損益に何を計上するかの基準が明確でなく不透明」として、 特別損益の項目の廃止を検討している。
また、IASBは、企業間で持ち合い株式について、全面的に時価評価で 損益計算書に反映させる方向で検討している。コメント:
記事で取り上げられているのはIASBで検討中の「業績報告(Reporting Performance) 」のプロジェクトのことだと思われます。
記事では、特別損益(IASBでは異常項目と呼んでいます)項目の廃止を主に取り上げていますが、IASBのホームページを見ると、このプロジェクトは、単に、当期純利益に至るまでの途中の項目を省略するかどうかということ以上の、もう少し大きな問題を取り扱っているようです。
同ホームページによると、IASBの結論としては、が決まっているようです。
- 資本取引を除く 純資産に生じるすべての増減を一つの計算書(認識所得費用計算書)に記載すること(例えば、その他有価証券の時価の変動も、資本直入ではなく、認識所得費用計算書に計上される)、
- いったんこの計算書に計上された項目の リサイクルを禁止すること(例えば、わが国の「その他有価証券」の時価評価は、洗い替え処理なので、リサイクルする方法であるといわれます。)
英国の会計基準に近い案となっていますが、最終的な基準がどのように決まるのかはわかりません。もしこの案のとおりに決まり、それが将来、日本の基準に取り入れられるとすると、純利益の意味が大きく変わることにもなりそうです。
ところで、経産省がどういう資格で、IASBに意見を言うのかは知りませんが、わが国の会計基準設定主体である企業会計基準委員会で、理論的にも十分検討してコメントを提出するのが、筋ではないでしょうか。
2002年4月10日 NIKKEI NET 新日鉄、前期連結最終赤字300億円に修正記事要旨:
新日本製鉄 は9日、2002年3月期の連結最終損益が300億円の赤字になったようだと発表した。金融機関を中心とした保有株の評価損などで810億円の特別損失を計上したのが響いた。
特別損失は有価証券の評価損730億円、特別退職金の費用などその他で80億円の合計810億円を計上。 退職給付信託の設定益で220億円 、特別修繕引当金の取り崩しで150億円 の合計370億円を特別利益に計上するが補えない。コメント:
新日鉄のホームページで、決算見通しの修正に関するプレスリリースを見てみましたが、特別修繕引当金を何故取り崩さなければならないのかについては、全くふれていませんでした。少し不親切ではないかと思われます。
退職給付信託については、制度を設けた当初のねらいと異なり、単なる益出しの手段として使われる例が、増えてきたようにも感じます。
2002年4月10日 日経 旭化成、工場火災響く 今期の関連損失 20−50億円にも記事要旨:
3月に火災を起こした 旭化成 レオナ工場の復旧作業が難航している。消失を免れたナイロンの原料・樹脂工程は再稼働したが、通常の約4割の生産にとどまり、出火した繊維工程は復旧の見通しが立っていない。 2003年3月期は同工場関連の損失が20億−50億円規模になる可能性がある。
(同工場の)従業員は約400人で、総人件費は年30億円弱のもよう。操業停止が長引けば固定費を回収できず、工場の営業赤字が拡大。 損傷を受けた部分の除却損などの特別損失も十数億−数十億円規模で生じ、今期の利益を圧迫しそうだ。コメント:
記事によると、3月の火災で損傷を受けた部分の除却損を、2002年3月期ではなく、来年の3月期に計上するようです。常識的に考えると、火災が起きた2002年3月期に除却損を計上すべきだと思いますが、何か特別な事情があるのでしょうか。記事によれば、警察の現場検証が続き、「被害状況も確定できない」状況だそうですが、確定でなくても、現時点で損失見込みを計算して、2002年3月期決算に織り込むことも可能ではないかと思われます。
一方、火災と直接的な関係がない人件費の負担については、発生ベースの計上でよいと思います。
2002年4月7日 日経 民都機構への売却土地 企業の将来負担 評価損に記事要旨:
日本公認会計士協会は、民間都市開発推進機構に土地を売却したまま開発できず含み損を抱える物件について、企業に 評価損を計上させる。
民都機構は国土交通省の外郭団体で、都市再開発を進めている。企業の土地を10年間取得し、その企業が建物の建設などに専念できる事業を1994年に始めた。 契約期間内に開発できない場合、企業は売却価格に金利などを上乗せした金額で買い戻す契約だ。
会計士協会は帳簿からいったん外れた土地の損失を企業が将来負担する取引を問題視。開発が見込めない物件は 損失想定額を前倒しで期間損益に反映させるよう会計士を通じて指導する。
開発が遅れている物件も財務諸表にその土地の売却価格や買い戻し条件などを記載させ、投資家に注意喚起する。コメント:
民都機構との取引には、民都機構への土地の売却と、民都機構からの買い戻しという2つの局面がありますが、今回会計士協会が公表したもの(「民都へ売却した土地に係る留意事項」)は、買い戻し取引の方にスポットを当てているようです。
これによると、将来、民都機構からの買い戻しが行われて会社に損失が生じる可能性が高く、かつ、その損失を合理的に見積もることができる場合には、 引当金を計上する(評価損ではありません)ことになります。このような処理は、引当金の計上要件にも合致した望ましい処理だと思いますが、買い戻しによる損失を、購入契約による見込み損失というように一般化して考えると、必ずしも、わが国の会計慣行に定着している考え方とはいえません。
もちろん、購入するものが金融資産であれば、金融商品会計基準により、契約時点から資産が認識され、引渡前であっても、必要に応じて評価減がなされます。
しかし、不動産のような現物資産の場合には、通常、引渡までは資産が認識されません。それでは、契約で決めた購入価格よりも、時価が大きく下がってしまった場合に、契約額と時価との差額を引き当て処理するかというと、そこまで、やっている例はあまりないように思います。
民都機構との取引のケースでは、もともとの土地の売却とセットで考えたため、買い戻しの方も、きちんとした理論的な方法を打ち出したのだと思いますが、購入契約の見込み損失をどのように会計処理するかという一般的なルールの方も、今後検討する必要がありそうです。(注)「民都へ売却した土地に係る留意事項」では、その注書きにおいて、民都機構への土地の売却についても、留意するよう呼び掛けています。