
企 業 財 務 記 事 ウ ォ ッ チ ャ ー 2002年8月
2002年8月30日 日経夕刊 SECがブリストル正式調査
記事要旨:
米医薬品大手のブリストル・マイヤーズ・スクイブは29日、米証券取引委員会(SEC)が同社の会計処理に関する予備調査を正式調査に切り替えたと発表した。 卸売業者の在庫を積み増して自社の売上高を膨らませた疑いで、SECは4月から調査を進めていた。
コメント:
要するに、卸売業者に押し込み販売をしていたということのようです。
一般論をいえば、強引に営業して買ってもらったというだけでは、会計基準違反にはならないと思いますが、1)売り上げした商品を預かっている(未出荷売り上げ)、2)商品代金の支払い条件が緩くなっている、3)返品を自由に認めている、といった状況があれば、 実質的に判断して、売り上げと認めないということもあるのかもしれません。
また、卸売業者への報奨金などの経費計上が売り上げのタイミングとずれているような場合も当然問題になります。
米マスコミによると、ブリストル・マイヤーズのケースでは、予想利益に到達するために、無理をして売り上げを上げていたという背景があるようです。とても、対岸の火事とは思えません。
参考:ブリストル・マイヤーズ・スクイブのサイトより 1 2 、米ヤフーより 1 2
2002年8月30日 日経 ゴルフ場含み損6000億円 処理前倒しの動き
記事要旨:
赤字が続き資産価値が著しく低下したゴルフ場を抱える上場企業が60社近くあり、含み損の合計が現時点で約6000億円に達することが日本経済新聞社の調べで明らかになった。
資産価値の大半が失われていると判断できる「直近3期以上連続で最終赤字」のゴルフ場を所有する上場企業を調べた。該当する上場企業は56社、対象ゴルフ場の簿価合計は6053億円だった。現時点では 簿価の大半が含み損になっているとみられる。減損会計導入までに収益を大幅に改善しなければ、簿価の大部分を評価損として計上する必要がある。
最も多い大成建設は「白河高原カントリークラブ」、「軽井沢高原ゴルフ倶楽部」など5カ所の合計簿価が465億円に達する。うち 151億円は2002年3月期に損失引き当てを終えているという。
全般に1980年代後半に開発し、90年代に開場したゴルフ場が目立つ。その後のプレー料金引き下げ競争や利用者の減少 で、当初見込みに比べ収益確保が難しくなっている。
大京は2002年3月期、千葉県の「東庄ゴルフ倶楽部」の評価額を簿価264億円から21億円に下げた 。県内一の集客数を誇るが、売却を前提に含み損を処理した。
コメント:
ゴルフ場の収支を詳しく研究したことはありませんが、おそらく、ゴルフ場経営では、プレー料収入などは、そもそも、ほとんどあてにしていなかったのではないかと思われます(特にバブル期に開発された案件について)。つまり、ゴルフ場の造成費用は、 会員権の売却収入で回収してしまって、その後のプレー料収入は人件費や維持管理費をまかなえるだけあればよいという目論見で建設されたゴルフ場が多かったのではないでしょうか。
もちろん、目論見通りにいった場合でも、バランスシート上は、会員権の代金に含まれる預り金部分が額面で負債計上されているわけですが、会員権の値上がりが続いていれば、退会覚悟で預り金の返還を請求する会員もいません。半永久的に資金を無利子で借りられる(したがって、 負債の実質的な評価はゼロ)ということになって、資産の収益性がいくら低くても、事業が成り立つということになります。
しかし、会員権が予定通り売れない場合や、あるいは、はじめから会員権を売ることをあきらめて、パブリックのゴルフ場として開業する場合には、負債サイドは、銀行・ノンバンクからの借入金やゼネコンに対する未払金など、期限のある有利子負債になります。そうなると、資産の収益性が著しく低いことが表面化し、いつかは行き詰まってしまいます。また、会員権の値下がりが激しければ、預り金だけでも回収しようという動きが出てきます。
このように考えると、ゴルフ場利用者が少しぐらい増えても、焼け石に水です。当分はあり得ないことですが、会員権ブームが再来しない限り、ゴルフ場の評価額が大幅に回復することはないと思われます。減損会計が導入されれば、プレー料金で回収できる適正な簿価まで評価を下げざるを得ないでしょう。
2002年8月28日 日経金融 藤和不、重いビル含み損 (会社分析)
記事要旨:
1999年3月期に2900億円の金融支援を受けてグループ会社の不動産の評価損を処理した藤和不動産本体で、バブル期に取得した賃貸ビルなどの含み損が手付かずのまま残っている。
藤和不動産の有形固定資産の簿価は前期末で3132億円。中小の賃貸ビルがほとんどだ。
前期の賃貸資産利回り(賃貸資産に対する営業利益と減価償却費の合計額の割合)はわずか0.9%。三井不動産(5.0%)や住友不動産(3.9%)に比べはるかに低い。
「(他社から割高な家賃で借り、藤和不が顧客に割安な家賃で)サブリース(転貸)している物件の赤字が年間約20億円 発生しているため部門営業利益が低い」(経理部)という。この分を除外した部門営業利益はざっと30億円。それでも 賃貸資産利回りは1.6%に過ぎない。
都心部の大型優良賃貸ビルの賃貸資産利回りが4−5%台。藤和不の資産は 中小ビルがほとんどで大型ビルに比べ資産価値は相対的に劣るが、仮に利回り5%を前提 にすると、ざっと2000億円の含み損処理が必要という計算になる。
コメント:
記事では、賃貸ビルの含み損のことを中心に書いていますが、サブリースの会計処理も問題です。
サブリースで年間20億円の赤字が発生しているということは、仮にサブリースの残存契約期間が10年であるとすると、サブリースで約200億円の含み損を抱えていることになります。
引当金の考え方からすると、サブリースの損失は、当期以前の事象に起因し(契約は当期以前に締結されている)、 発生の可能性が高く(契約上ほぼ確実に発生する)、かつ、その金額を合理的に見積もることができる (契約や家賃相場から合理的に見積もることが可能)ため、本来は、引当金を計上しなければならないはずです。しかし、理由はよく分かりませんが、藤和不動産に限らず、わが国の実務慣行では、サブリースの見込み損失に対する引当金計上は強制されていないようです。
なお、記事では、賃貸ビルの含み損を利回り5%で計算していますが、記事でもことわっているように、中小ビルは資産価値が大型優良ビルと比べて劣るので、より高い利回りで計算することが必要になります。したがって、計算上、含み損は2000億円より大きな金額になります。
2002年8月28日 日経 米改革法 日本企業に波及 監査癒着防止など論点
記事要旨:
米国の不正会計事件をきっかけに、日本でも、公認会計士の中立性を高める会計監査制度の見直し気運が高まってきた。
見直し機運の背景にあるのが、米国議会が7月に制定した企業改革法の存在だ。米で株式公開する企業を監査する場合、日本など外国の監査法人であっても企業改革法を適用する「域外適用」が盛り込まれた。米証券取引委員会(SEC)に新設する監視機関が日本の監査法人に立ち入り調査することもありうる。
米企業改革法は監査法人が5年以上、同一企業の監査を続けることを禁じるなど監査法人と企業の間に厳格なルールを定めた。粉飾決算など不正行為を働いた経営者は株式公開会社の役員になることをSECの判断で禁止できるようにした。
日本の制度と異なり、大きな論点に浮上しそうなのが、同一企業への監査期間。日本公認会計士協会は会計士が同一企業への監査を 7年を越えないように基準を定めているが、強制力はない。
コメント:
米国企業改革法(サーベンス・オクスリー法)の中身をきちんとフォローしているわけではないので、確実なことはいえませんが、記事の中で、 監査法人が5年以上、同一企業の監査を続けることが禁じられていると書いてあるのは、間違いだと思われます。禁じられているのは、監査法人の 同じ社員(パートナー)が5年を越えて同一企業の監査に関与することであり、監査法人(会計事務所)が交代する必要はありません。日本の会計士協会が決めているのも、 関与社員の交代制であり、監査法人の交代に関するルールはありません。
それはともかく、米国の企業改革法は、1930年代の証券取引法制定以来の大きな改革だといわれているようです。戦後、米国の証券取引法をお手本にしてきた日本の開示・監査制度も、何らかの影響を受けざるを得ないのかもしれません。
参考: 中央青山監査法人のサイトより(ワードファイル)
2002年8月27日 日経 日商岩井・ニチメン 化学品、来月に全面統合 利益ねん出策の声も
記事要旨:
日商岩井とニチメンは26日、9月中に化学品事業を全面統合すると発表した。
両社は本体の事業を分社化してそれぞれの子会社を設立。その子会社を 折半出資の持株会社、グローバル・ケミカル・ホールディングスに譲渡する。
両社とも連結・単体で譲渡益を得る予定だが、譲渡価格が未定のため決算見通しは変更しない。
持株会社は2003年10月までに子会社4社を再編し、事業効率を高める。
業界内には「この時期に、新設する子会社株を時価評価で譲渡するのは決算対策が目的 ではないか」との声も聞かれる。
コメント:
一連の取引を分解してみると、1)両社がそれぞれ自社の化学品事業部門を(おそらく会社分割で)分社化する、2)両社が50%ずつ出資して持株会社を設立する(現金出資?)、3)分社化した子会社の株式を(時価で?)持株会社に譲渡する、という流れになります。
連結ベースで考えると、1)の分社化では、連結グループ内の取引であるため、原則として損益は生じないはずです(含み損の部分を損失計上することはあり得る)。2)の取引では、50%出資ということで、持株会社は、両社の関連会社になります。問題は3)の取引ですが、時価で取引が行われるとすると、日商岩井とニチメンには、子会社株式(連結の場合は、子会社の資産・負債)の売却損益が計上されることになります。ただし、50%出資の 関連会社(おそらく持分法が適用される)に対する売却なので、連結上、売却益の50%相当額は未実現利益として消去 されます。
売却された子会社は、以後、関連会社の子会社ということになるので、形式上は関連会社でなくなってしまいますが、持分法実務指針によると、この子会社に持分法を適用したうえで、関連会社である持株会社の持分法適用を行うことになります。つまり、持株会社が、あまり高い値段で、子会社を買収すると、投資差額(のれんに相当する)が膨らんでしまい、その後の日商岩井とニチメンの連結決算上、 投資差額の償却として、はねかえってくるということになります(持株会社の子会社を原価評価したまま持分法を適用することは会計基準違反です)。
最終的には、日商岩井とニチメンの合弁会社の傘下に、両社の化学品部門を統合するというスキームですが、全く売却益が出ない方法も考えられます。
たとえば、分社化するまでは一緒ですが、その後、株式移転によって共通の親会社(持株会社)を設立するという方法も考えられます。両社の事業の評価によっては、持ち株割合がうまく50%ずつにならないこともあり得ますが、その場合は、足りない分を増資によって現金出資して調整します。
いずれにしても、企業再編に関する会計処理が煮詰まっていない現状では、いろいろな会計処理のパターンがあり得るので、注意が必要だと思われます。
参考:日商岩井のサイトより 、 ニチメンのサイトより
2002年8月24日 日経 JR東海、引当金の承認申請
記事要旨:
東海旅客鉄道(JR東海)は、23日、国土交通相に対し新幹線の大規模回収引当金積み立て計画の承認を申請した。東海道新幹線は橋りょうやトンネルの老朽化に伴い、 2018年4月からの10年間で1兆1070億円改修工事費がかかると試算。 今後15年間で5000億円 を積み立てる。
工事費を運賃に転嫁させないよう、積み立てた引当金は税制上の準備金として課税を先送りできることが制度化されている。
コメント:
非常に政治的な会計処理のようなので、理屈で論じてもしょうがないのかもしれませんが、気になる処理ではあります。
まず、改修費が1兆円以上かかる見込みなのに、なぜ、5000億円の引き当てでよいのでしょうか。1兆1070億円の支出が、その支出以前の事象に起因するのであれば、実際に支出されるまでに、支出見込額全額を引き当てる必要があるはずです。したがって、改修が開始されるまでの15年間、あるいは、最長で、改修が完了するまでの25年間で、全額積まなければなりません。
また、この引当金の計上が、新たな会計処理の採用だと考えると、過年度分をどうするかという問題があります。大改修が必要となる原因は、これからの期間についてのみ生じるわけではなく、JR東海が新幹線を取得した時点以降、徐々に生じているはずです。したがって、引当金のうち、過年度分に相当する金額は、新しい会計方針の採用による過年度修正として、一挙に損失計上する必要があります。
以上は、引当金計上自体は正しいということを前提にした議論ですが、そもそも、このような一種の修繕引当金が必要なのかという議論もあり得ます。
つまり、15年後から始められる大改修は、改修後の収益に寄与する支出であるから、改修後の期間が負担すべきものであるという理屈です。この理屈では、大改修の費用は、実施した期の費用とするか、実施した期に資本的支出として資産計上して、その後の期間に配分するということになります。その場合でも、大改修が必要になるということは、現在保有している資産の劣化が、予定より早く進むということを意味するので、その分、減価償却を加速する必要があります。
参考: JR東海のサイトより
2002年8月23日 日経金融 フットワーク粉飾決算事件 ゛大先生゛に口出しできず
記事要旨:
破たん後に粉飾決算が明らかになったフットワークエクスプレスの事件で監査を担当していた会計士二人が逮捕された。二人が所属していた瑞穂監査法人で、現在、包括代表社員を務める笹部哲生会計士に聞いた。
――なぜ不正を見抜けなかったのか。
「昨年までは監査法人としての体裁をなしていなかった。5つのグループに別れ、それぞれが 独立採算でバラバラ だった」
「(監査の中心的な役割を担っていた)松川氏は日本公認会計士協会の理事を務めた経歴を持ち、 いわゆる大先生 。松川グループでは逮捕された二人の会計士も松川氏の判断に 口出しできるような状況にはなかった のではないか」
コメント:
記事では、中小監査法人や、大法人の地方事務所の問題点として取り上げられていましたが、大手監査法人の大都市の事務所でも、まだまだ、こういう傾向は残っているのではないかと思われます。もちろん、審査体制などはかなり整備されているので、不祥事になるようなひどいケースはないと思いますが・・・。
2002年8月23日 asahi.com 日鉄商事子会社、でたらめ帳簿 18億円損失の恐れ
記事要旨:
新日本製鉄系の日鉄商事は23日、水産物や飲料自販機の販売子会社のエヌエスエフ(本社・東京)の水産部門に「 重大な帳簿上の齟齬(そご)が発見され、対象額の約18億円について事実確認している」と発表した。
マグロやウニ、エビ、スルメなどを売る水産部門の帳簿を調べたら、実際は売上高が少なかったことを示す在庫資料や伝票などが見つかった。 取引実態とは異なる売上伝票や帳簿資料が計上されていた可能性があり、 最大で18億円の損失 が発生しかねない見通しだ。 エヌエスエフは、日鉄商事の100%子会社で、資本金1億円。従業員は約30人。今年3月期は売上高約140億円で黒字を計上した。関係者によると、「財務部門がおかしいと感じて調べたら見つかった」というが、棚卸しなど会計財務の基本が徹底されなかった可能性もあるため、「慎重に鋭意調査している」(日鉄商事)という。
コメント:
記事の例が当てはまるかどうかは全く分かりませんが、個人的なごく狭い範囲の経験からすると、水産物の取引では、冷凍倉庫で保管している商品について、業者間で転売を繰り返すといった取引が行われることがあり、それが架空取引につながる場合があるうるという印象を持っています。つまり、実需であれば、取引と品物の動きはほぼ一致しているはずであり、不一致(例えば売上数量の過大計上)があれば、すぐわかるわけですが、転売目的・投機目的の取引の場合、品物自体は同じ倉庫に保管されたままで、名義だけが転々と移っていくということになります。
それはひとつの取引形態ではありますが、悪意を持った当事者がいれば、取引の実態がないのに、伝票とキャッシュ(あるいは手形)が、業者間でぐるぐる回っているだけという事態にもなりかねません。しかも、見かけ上は、売掛金も在庫も回転しているので、内部管理でも、盲点になる場合が多いと思われます。
それが、ある日突然、架空取引のサイクルがストップすると、キャッシュの流れもストップしてしまい、債権が焦げ付いたり、架空在庫が発見されたり、場合によっては、実体のある取引と、架空取引が混在して債権債務が確定できないなどのために、関係者間で係争事件となったりします。
記事は、この子会社の管理がいい加減で、でたらめだったために、損失が生じたといったニュアンスで書いていますが、もしかすると、もう少し広がりがある事件なのかもしれません。
参考:日鐵商事のサイトより
2002年8月22日 日経 モノレール計画 ダイエーが中止
記事要旨:
経営再建中のダイエーは21日、子会社が横浜市で計画していた「モノレール大船・ドリームランド線」事業を中止すると発表した。グループ事業見直しの一環で投資回収が困難と判断した。
モノレールは、1966年から67年にかけ、旧日本ドリーム観光の子会社が運行していた。 休止後の82年、ダイエー子会社のドリーム開発が事業を継承、運行再開を検討してきた。
ダイエーはモノレールの橋脚の撤去費用などで約100億円の損失が発生するが、2002年2月期に 引き当て済みとしている。
コメント:
運行休止になってから30年以上、ダイエー傘下に入ってからでも約20年もたって、ようやく計画を継続するか中止するかのl結論が出たというのは、少しひっかかりますが、 撤去費用を事前に引き当てするという会計処理については、正しいやりかただと思います。
例えば、現在、工事が中断し作りかけのままとなっているようなゴルフ場が、日本中いたる所に(というと少し大げさですが)、残されていると思われます。計画が頓挫した以上、環境保全のために、いつかは現状復旧費用を投じて、元通りにする必要があるわけですが、その費用について、それぞれの企業できちんと引当金計上しているのでしょうか。
参考: ダイエーのサイトより
2002年8月20日 日経夕刊 ナナボシ粉飾 元会長ら3人逮捕 証取法違反の疑い
記事要旨:
昨年12月に経営破たんした元大証2部の発電設備工事「ナナボシ」の粉飾決算事件で、大阪地検特捜部は20日、証券取引法違反( 有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで、当時の経営陣3容疑者を逮捕した。
特捜部は、粉飾に協力した取引先の建設会社「紀州機鋼」など関係先を家宅捜索した。
関係者によると、A容疑者らは1998年3月期から2001年9月中間期まで の間、 総額約106億円の架空売り上げを計上。実際は赤字なのに、黒字決算だったとする虚偽の有価証券報告書を近畿財務局に提出した。紀州機鋼に 架空外注費をいったん送金、和歌山県内の水利組合などの名義で土木工事代金名目でナナボシに還流 させる手口で粉飾を隠ぺいしていた。
コメント:
100億円の売り上げ、10億円の利益を水増しするのに、「(借方)完成工事未収入金100億円(貸方)売上高100億円」「(借方)完成工事原価90億円(貸方)工事未払金90億円」という処理だけやっていたら、完成工事未収入金や工事未払金がいつまでも消えないので、誰でも、架空売り上げであることに、気がついてしまいますが、記事の例では、協力業者と共謀して、実際に下請代金の支払いや発注者からの請負金の入金といった、キャッシュの動きがあったように、見せかけていたようです。
請負工事の場合、「発注者との契約→下請け業者との契約→工事の施工→出来高の確認→発注者への請求・下請け業者への支払い」という流れになっているはずなので、それぞれのポイントで、きちんとチェックしていけば、実態のない取引を発見することは可能ではあります。しかし、監査では、どうしても、最終段階である、発注者への請求・発注者からの入金、下請け業者への支払いといったところをみることに重点が置かれがちです。それは、効率的なやり方ではあるのですが、記事の例のような、経営トップが関与し、キャッシュの流れまで操作した隠ぺい工作には対応できないのかもしれません。
2002年8月20日 日経 住友電の最終赤字180億円 9月中間
記事要旨:
住友電気工業は19日、2002年9月中間期の連結最終損益が180億円の赤字になる見通しだと発表した。需要低迷が続く光ファイバー・光部品関連の 生産設備の廃棄や評価減などで240億円の特別損失が発生する一方、 厚生年金基金の代行部分返 上で160億円の特別利益を計上する。
住友電では今後3年程度は需要回復が難しいと判断。設備の簿価を下げることで生産コストを下げる とともに、生産ラインの再構築も進める計画だ。これによって、2004年3月期は40億−50億円の増益効果を期待している。
また、厚生年金基金の代行返上に伴い、来期以降、年50億円の退職給付費用削減効果 が見込めるという。
コメント:
厚生年金基金の代行返上により、たしかに退職給付会計の対象となる退職給付費用は減ることになると思いますが、法定福利費(厚生年金の企業負担分)は逆に増えるのではないかと思います。年50億円というのが、法定福利費の増加分を控除したネットの金額であれば意味のある数値ですが、退職給付会計の対象となる費用だけとって、減ったといってみても意味がありません。要するに、代行のあるなしに関わらず、従業員の厚生年金は、企業と授業員で負担する仕組みになっているので、代行返上により、企業が運用の責任を負わなくなったとしても、掛け金の負担自体がなくなるわけではないということです。
設備の評価減については、評価減をルールに基づいて正しく行うことによって、結果として、設備の簿価が下がり将来の生産コストが下がるというのなら、良いのですが、将来のコスト(減価償却費)を下げるために、恣意的に評価減を行うとすれば(記事の例はそうではないと思いますが)、一種の利益操作です。
減損会計の導入前で、評価減のやり方に枠がはまっていないという現状では、少なくとも、どういう考え方、計算方法に基づき処理したのかについて、注記などできちんと説明することが望ましいと思われます。
参考:住友電気工業のサイトより
2002年8月18日 日経 会計基準 欧州企業変更相次ぐ
記事要旨:
欧州で国際会計基準(IAS)や米国会計基準を用いて決算をまとめる有力企業が目立ってきた。会計不信が深刻化し、 自国基準では米国などの投資家に受け入れられないとの危機感が強まったためだ。日本の企業決算も海外から不透明との批判が根強く、今後は IASや米国基準を用いるケースが増えそうだ。
欧州で会計基準を切り替える動きが活発なのはドイツやスイスの企業。航空大手のスイスは年内にIASに切り替え、金融大手のクレディ・スイス・グループは2004年をメドに米国基準を採用する。ドイツ銀行も今年から米国基準に変更した。
フランスやイタリアでは現在、自国基準しか認められていないが、欧州委員会は2005年から域内の上場企業にIASの採用を求めることを決めている。これを機に仏ソシエテ・ジェネラル、伊テレコム・イタリアなどが IASに変更する方針だ。
欧州の有力企業が自国基準からIASと米国会計基準への切り替えを進めることで、両基準が 「グローバルスタンダード(国際標準)」の地位を争う構図が一段と鮮明になってきた。
コメント:
記事では、自国基準が米国で受け入れられないことに、欧州企業が、つい最近気がついたように書いていますが、以前から、米国では、少なくとの上場企業については、 米国基準以外の会計基準は認めていません。したがって、米国で上場している外国企業は、従来から、自国基準で作成した財務諸表の他に、米国基準による財務諸表を作成していたはずです。
問題は、自国基準の代わりに、米国基準を使えるかどうかということですが、たしか、ドイツは、米国基準による決算書だけでよいというルールに最近なったところだと思います(うろ覚えなので間違っているかもしれません)。
また、IASへの切り替えは、企業が独自に方針として選択できるわけではありません 。EUのルールにより、EU加盟国の上場企業は2005年から、必ずIASを使うことになっています。要するに、EUの上場企業にとっては、 IASが自国基準になるのと同じことです。ただし、米国基準を使っていれば、しばらくIASの適用は猶予されるようです。
IASと米国基準が、国際標準の地位を争うであろうという点は、ある程度当たっていると思われます。IASは、英国基準の影響を強く受けており、固定資産の再評価や投資不動産の時価評価など、米国基準とかけはなれた会計処理が取り入れられています。そのようなこともあって、米国SECがIASを認めるという動きは、今のところないようですが、2005年が過ぎて、欧州企業が一致団結してIASを導入したという実績が上がれば、認めざるを得なくなるかもしれません。その場合でも、米国基準は米国企業や、欧州以外の外国企業向けに残るのではないかと思います。
わが国では、連結財規の改正もあり、米国に上場している企業は、米国基準に統一される(日本基準の連結決算は行わない)方向だと思いますが、IASが欧州で定着すれば、将来的にはIASも認めるようになるのかもしれません(現状では 、IASを日本基準の代わりに使うことは認められていないので、記事の記述は間違い)。そうなると、ローカル企業は日本基準、国際的企業は米国基準かIASを採用するという3基準並立(税法ベースの中小企業会計基準も加えると4基準並立)の形もありえます。
参考:IASPLUSより (IASと米国基準の相違点を簡潔にまとめた資料)(PDFファイル)、 中央青山監査法人のサイトより
2002年8月14日 日経 いすゞ支援2000億円 GM・みずほなど合意
記事要旨:
いすゞ自動車は14日、筆頭株主の米ゼネラル・モータース(GM)及びみずほフィナンシャルグループなど主力行と、抜本的な再建策の実施で合意した。 GMが48.5%の持ち株を全額減資して新たに12%出資。みずほなどはいすゞの持つ債務を株式化する。それぞれ1000億円、総額2000億円の支援となる。
今回の再建策でGMは全額減資で約500億円、増資で約100億円の資金を負担 。さらに米国とポーランドにあるいすゞのディーゼルエンジン 生産子会社の株式を買い取る 。いすゞが分離して設立する新型エンジン開発子会社にも出資 する。GMの支援額は総額1000億円に達する見通し。
減増資に伴い、いすゞに対するGMの出資比率は12%に低下する。
一方、メーン行のみずほや準メーンのUFJ銀行など主要取引金融機関には総額1000億円の債務の株式化 を要請し、有利子負債を圧縮する。いすゞは減増資と同時に、今年3月末で1000億円強ある資本準備金を取り崩す。
コメント:
記事では支援額は2000億円となっていますが、いすゞの純資産を増やすという意味の支援額は、GMの増資引受100億円と銀行に対する債務の株式化1000億円の計1100億円ではないかと思います。 GMの持分の減資は、他の株主にとってはプラスになるとはいえ、いすゞ自体の 純資産には影響しません 。また、生産子会社の株式をGMが買い取ったり、会社分割で新設するエンジン開発子会社へGMが出資することは、資金面では助かりますが、つきつめれば、優良部門の切り売りです。
GMの立場で見てみると、他の記事(19日の日経)によれば、いすゞに対する出資は、2001年度ですでに 全額償却済みなので、今回の支援による損失はないようです(おそらく持分法適用なので、何もしなくても連結上の簿価は下がっていたと思いますが)。記事では全額減資も資金負担に入れていますが、減資自体は、新たな資金の負担にはなりません 。海外生産子会社の買収、エンジン開発会社への出資は、その買収価格・割当価格にもよるのでしょうが、安く買えれば、得な取引になります。
海外生産子会社やエンジン開発会社に対する出資を増やし、日本国内のトラック部門などが中心となるいすゞの残りの部門に対する持株比率を12%(持分法の対象から外れる)に減らすことによって、GMにとって必要な部門に対する支配力を強め、その他の部門は距離を置くという方向なのでしょう。
銀行にとっては、債権の株式化についてどのような会計処理を行うかが問題となります。企業会計基準委員会では、 デット・エクイティ・スワップの会計処理を検討中のようですが、9月中間決算に間に合うのでしょうか。
参考:いすゞのサイトより
2002年8月9日 日経 ワールドコム 粉飾新たに33億ドル 総額71億ドルに
記事要旨:
7月に経営破たんした米長距離通信2位のワールドコムは8日、33億3000万ドル(約4022億円)の利益水増し が新たに見つかったと発表した。これまでの公表分と合わせると、1999年以降の利益粉飾額は71億8200万ドルとなった。
99年にさかのぼった今回の調査では、訴訟や貸し倒れなど将来の不測の事態に備えるための 準備金を不当に利益計上 していたことが明らかになったもようだ。利益水増し額は2000年分が28億6400万ドルに達した。
コメント:
米マスコミ報道によると、単純に引当金(reserve)を取り崩して、不当に利益計上したということではなく、もともと、それ以前の年度で、過大に引当金を積んでいたものを、業績不振の穴埋めのために、恣意的に取り崩して利益を調整したということのようです(それにしては金額が大きすぎるのが気になりますが・・・)。
こうした引当金(「rainy day reserves」というそうです)を使った利益操作は、90年代には、ワールドコムだけでなく、かなり広く行われていたそうです。売掛金や在庫の水増しといった粉飾らしい粉飾ではありませんが、引当金を取り崩した年度をみれば、実態よりも良い利益が表示されることになるので、不正な財務報告であることに違いはありません。ただ、引当金自体、主観的な要素が強く、引当金を取り崩したとしても、要引当額の見積もりを修正したのだといわれれば、それを否定することが難しい場合もあります。ワールドコムも、不正が、この引当金の問題だけであれば、言い逃れができたのでしょうが、以前公表した38億ドルの不正(経費を資産に振り替えて利益を水増し)があるために、洗いざらい出してしまおうということだと思われます。監査人が交代(アンダーセンからKPMGへ)していることも関係しているのでしょう。
日本でも、最近リストラ引当金がはやっています。引当金を計上すること自体は理屈にあっていますが、きちんと監視していないと、利益操作的要素が紛れ込んでしまうおそれがあります。
参考: ワールドコムのサイトより NY Timesのサイトより
2002年8月9日 日経 金融の先端 見えぬ実像 (ザ・ディスクロージャー 改革者たちの苦悩 3)
記事要旨:
大阪−京都を結ぶ阪急電鉄の京都線。利用者のほとんどは、自分が乗っている車両がカリブ海有数のリゾート、ケーマン諸島に籍を置いていることを知らないだろう。
今年3月末、阪急は鉄道車両84両をケイマンのペーパーカンパニーに売却 した。実際に移送したわけではなく、この会社からの 賃借という形 にして従来通り運行している。
取引で阪急は74億円の売却益を得た。帳簿価格は28億円。「せいぜい同じくらいでしか売れないと思っていた」(同社経理室)ところ、 102億円で売れた。
同業他社や金融界からも大きな反響を呼んだこの取引を持ち込んだのは三井住友銀リース。「2年半がかりで仕組みを練り上げた」という自信作だ。
もっとも、肝心の車両価格の算定は三井住友銀リースが連れてきた米国の評価会社が受け持った。当の阪急は「固定資産の譲渡に関するお知らせ」という一枚の開示資料を用意しただけ。「 どういう根拠で値段が決まったのか、詳細は分からない」という。
2002年7月28日 日経 米シティとJPモルガン 不透明取引で苦境
記事要旨:
シティグループとJPモルガン・チェースの米二大金融期間が、破たんしたエンロンとの不透明な取引の発覚をきっかけに苦境に立たされている。
米上院委員会で上院調査官が指弾したのは、天然ガスなどの取引があったように装ってエンロンに融資する手法。 海外の関連会社を経由した複雑な仕組みを駆使することで、エンロンは 融資ではなく取引に伴う収入 として処理した。
シティなどは「合法的な取引」としているが、金融機関が不透明な会計処理を支えていた 実態に批判が続出。
コメント:
記事によると、鉄道車両が予想以上の値段で売れたことを、会社は歓迎している様子ですが、資産の評価がどうやって決まるのかということを考えてみると、喜んでばかりはいられないと思われます。
資産の価値は、その資産が稼ぎ出すキャッシュ・フローで決まるのだとすると、車両に102億円の値段が付いたということは、102億円に金利と利益を上乗せしたキャッシュを、将来にわたって、その車両が稼ぎ出すというように、買い手が予想したからであるといえます。記事の例では、車両は阪急がリースバックして使い続けるということなので、「 102億円+金利+利益」は、阪急が鉄道業で稼ぐキャッシュ・フローの中から、リース料としてペーパーカンパニーに払い続けるということになります。要するに、資産評価が上がった分は、最終的には、リース料に反映され、阪急が負担するということになります(正確には、キャッシュ・フローの他、金利水準も評価額に影響します)。
また、記事の例は、阪急からすると、セール・アンド・リースバック 取引になります。リース会計基準の実務指針によると、リースバックの取引が、ファイナンス・リースに該当する場合、売却益(記事の例では74億円)は、一時に利益計上するのではなく、一旦繰り延べられ、リース期間にわたって利益計上されます。記事の例では、74億円の利益を一時に計上しているため、オペレーティング・リースだと推測されますが、阪急電鉄の車両を他の鉄道会社が使うということも考えにくい(かなり古くなってから、地方私鉄などに譲渡することはあるのかもしれませんが)ので、実際には、阪急が耐用年数がつきるまで使い続けるのでしょう。そうすると、実質的には、ファイナンス・リースに非常に近い形態なのかもしれません。
阪急の例のように、金融機関の側では、会計基準や税法規定をかいくぐり、さまざまな技法を駆使して、複雑なスキームを作り上げ、手数料を稼ごうとしています。金融機関が手数料を稼ぐには、スキームが複雑でわかりにくいほどよいのでしょうが、エンロン事件後の米国にみられるように、ディスクロージャー面では、不信感を招く恐れがあります。仮に会計基準をぎりぎりでクリアしているとしても、会社が投資家に対して、きちんと説明できないようなスキームは採用しない方が無難ではないかと思われます。
2002年8月9日 日経 ストックオプション基準作り 企業会計基準委 12月に公開草案
記事要旨:
企業会計基準委員会は8日、第二回ストックオプション当専門委員会を開き、ストックオプション(自社株購入権)に関する会計基準の公開草案を12月に発表するスケジュールをまとめた。会計不信によって 費用計上は避けられないとの声が多いため、基準作りに向けた作業を急ぐ。
コメント:
記事では、すぐにストックオプションを費用計上する基準ができそうなことが書かれていますが、インターネットで調べてみると、かなり重要な論点について対立があるようで、簡単には結論がでない感じがします。
まず、ストックオプションが費用かどうかという根本的な問題についてコンセンサスができていないようです。費用ではないという説は、ストックオプションは、株式を有利発行する約束をしただけだという解釈のようです。
また、仮に費用であるとしても、その評価を本源的価値(付与時における行使価格と時価の差額)でみるのか、 時価(公正価値)でみるのかという点も決着していません。
また、わが国独自の論点として、ストックオプションを貸借対照表上、負債 に計上するのか、 資本に計上するのかという問題があります。ワラント債に関する現行の会計処理との整合性からいけば、負債ということになりますが、海外では、資本に計上しているようです。いずれの説も理屈があるのだと思いますが、オプションが行使されないケースを考えると、負債ではまずいのではないかという気がしています。
つまり、現行基準のように負債に計上すると、株価が低迷して行使価格を上回らなかった場合など、ストックオプションが行使されなかったときには、負債計上された金額は利益になってしまいます。株価が順調に上がった場合には、利益は計上されず(これは当然のことですが)、逆に株価が低迷した場合には、利益が計上されるというのは、かなり不自然です。見方を変えると、適正な株価形成のための情報を提供するのが会計の役割であるはずなのに、株価によって利益額が直接的に左右されることになり、理屈に合わないのではないかということです。
参考: lotus21のサイトより
2002年8月7日 日経金融 三菱地所、9月中間の業績上方修正 土地再評価法が”貢献”
記事要旨:
三菱地所は6日、2002年9月中間期の連結純利益が当初予想を大幅に上回る見通しだと発表した。前期末に 保有土地を時価に評価替えしたにもかかわらず、今期約194億円の資産売却益を計上するのが主因。
菱地所は(再評価において)実勢価格を大幅に下回る固定資産税評価額 を利用。東京・丸の内地区を中心に「ざっと1兆円」(高木茂社長)の土地含み益を帳簿に表面化させずに温存した。
今回売却した三菱商事ビル別館の底地権は借地権との関係上、再評価時点で固定資産税評価額の1割、33億円にしか評価していなかった。このため175億円もの売却益が発生した。
同時に売却する神田橋パークビルは、前期末時点で62億円の評価損 が発生した。ところが実勢価格を下回る水準まで帳簿価格を切り下げたため、今回の売却では逆に利益を計上する結果になった。
lコメント:
土地再評価に限らず、販売用不動産の評価減や固定資産の減損会計でも、不動産の時価をどうやって算定するかは、大きな問題です。
ひとつのやり方としては、金融商品会計基準のように、時価を「公正な評価額」といった抽象的な概念で定める方法があります。実務上は、その概念になるべく近い評価額を探さなければならず、不動産の場合、取引所の相場のようなものがあるわけではないので、かなりたいへんです。
もう一つのやり方は、土地再評価のように、法令でいくつかの評価方法を列挙して、その中から自由に選べるようにする方法です(販売用不動産の取り扱いもこれに近いと思います)。列挙された評価方法から選択すれば、それが実態と合っているかどうかは、問われないので、企業にとっても監査人にとっても、楽かもしれません。ただし、この場合は、記事の例のように、全く実態からかけ離れた評価が使われる可能性があります。
もちろん、いずれのやり方でも、不動産の場合には、時価にかなりの幅が生じることは避けられません。それでも、なるべく実態に近い評価を行う努力はすべきだと思われます。記事の例のように、最初から努力を放棄してもらっては困ります(法律で認められている以上しょうがないわけですが・・・)。
土地再評価に関していえば、任意適用であったために、会社によってさまざまな目的で再評価を行っているようです。その目的によって評価方法も選択されていると考えられます。
記事の例では、バランスシート上の資産評価額を時価に修正することではなく、バブル期に取得した資産の簿価を、損益計算書を汚さずに引き下げることを主目的として、土地再評価を行ったようです。このため、なるべく評価額が低くなるような評価方法を選択したということだと思われます。
逆に、債務超過を免れるといった理由から、評価額をなるべくかさ上げしようという会社もあるでしょう。そのような会社では、鑑定士に頼み込んで、目一杯高めの評価をつけてもらっているのかもしれません。
時価評価したから透明性が高まったというように、単純に考えてはまずいケースもあると思われます。
2002年8月1日 日経 ヤマダ電 ダイクマ買収で「逆のれん代」合計170億円 5年分割計上へ
記事要旨:
ヤマダ電機はディスカウントストアのダイクマを買収したことに伴って特別利益を計上する見通しだ。 買収額がダイクマの純資産を下回って「逆のれん代」が発生 するためで、特別利益は合計で170億円前後になるもよう。5年間に分割して計上する案が有力。
ヤマダ電はイトーヨーカ堂からダイクマの発行済み株式数の88.4%を取得。銀行など少数株主の持ち株も買い受けたため、持ち株比率は90%強になったとみられる。取得額は計169億円。ダイクマの2002年2月期末の純資産は377億円で、ヤマダ電の持分を掛けた額から買収額を引いた約170億円が逆のれん代になる。
ヤマダ電は前期まで単独決算のみを作成していたが、ダイクマ買収に伴って今期から連結決算を作成する予定。 ダイクマが業種転換することによって除却損が発生するなどの影響もあるが、純利益の連単倍率は作成初年度から1倍を上回る見通しだ。
コメント:
野村ホールディングスに続く、負ののれんの例ですが、いくつか気になる点があります。
まず、記事では、買収額が被買収企業であるダイクマの純資産を下回った金額が「負ののれん」と書かれていますが、現行の連結原則では、 被買収企業の資産負債は、買収時点の時価で受け入れなければならないので、正確には、買収時点の時価ベースの純資産を下回った金額となります。
そうすると、もう一点、気になるのが、業種転換によって除却損が発生すると見込まれている点です。おそらく、店舗の内外装、備品などの 固定資産の除却に伴う損失だと思いますが、そうであれば、資産を時価評価する際に、そのことを織り込んで 低い金額で評価すべきと考えられます。記事だけでは判断できませんが、固定資産と負ののれん(連結調整勘定)が両膨らみになっている可能性があります。
また、業種転換によって除却損以外にも損失が発生することが予想されるのであれば、連結上、引当金を計上することも考えられます。買収額を決める際に、このようなリストラ損失を見込んでいたとすれば、引当金を計上することによって、買収額と資産負債の評価が整合することになります(ただし、このような引き当ては行うべきでないという考え方もあります)。
要するに、あのイトーヨーカ堂が、300億円以上の価値があるものを170億円で売ってくれるはずはないのであって、安くなった「わけあり」の要素を、できるだけ、会計処理に反映させる 必要があるのではないかということです。
残念ながら、現行の連結原則では、負ののれん(連結調整勘定)について、詳しい規定はありません。現在、企業会計審議会で企業結合会計を検討中なので、負ののれんについても、企業結合の基準の中で、明確な考え方が定められるものと期待されます。
参考: 企業結合に係る会計処理基準に関する論点整理 (企業会計審議会)