企 業 財 務 記 事
ウ ォ ッ チ ャ ー 2003年6月
2003年6月30日 日経 2005年商法改正 最低資本金規制完全撤廃へ
記事要旨:
政府は株式会社や有限会社の設立に必要な最低資本金に関する規制を完全に撤廃 する方針を固めた。2005年に予定している商法改正で現行の最低資本金制(株式会社で1000万円、有限会社で300万円)を廃止する方向だ。
政府は今年2月施行の中小企業挑戦支援法で、商法の最低資本金制の特例として、資本金が1円でも起業できる制度を導入した。経済活性化に向けてベンチャー企業などの設立を一段と促進するには、特例による時限措置ではなく、商法の最低資本金規制を廃止し、いったん起業すれば、その後は増資しなくてもいいようにする必要があると判断した。
米国には最低資本金制度がなく、これがベンチャー企業の設立増による90年代の米国経済の拡大をもたらした一因とされ、この面からも最低資本金規制の廃止を求める声が上がっていた。
コメント:
約十年前に最低資本金制が導入された際には、どの企業でも取引先が最低資本金をクリアできるかどうか(クリアしないと会社解散になり取引が継続できなくなる)ということで、大騒ぎしていたのが思い出されます。今度は最低資本金をなくしてしまうということになり、全くベクトルの向きが逆になってしまったようです。たしかに1000万円というハードルはやや高すぎたと思いますが、有限責任制をとる会社組織で起業しようという以上、ある程度自己資金を集めてこれるだけの能力を要求するのは当然であり、それだけの自己資金がないのであれば、個人事業者としてスタートすればよいのです。
最低資本金を1000万円にしたのは、商法上の理念に現実を無理矢理合わせるためだったわけですが、今回の規制撤廃は典型的な人気取り政策であり、どっちもどっちという感じがします。
また、記事では米国の方が規制が緩いといっていますが、起業した後は、日本の方が緩いといえるのかもしれません。例えば、わが国では、株式会社が債務超過になっても堂々と営業を続けていけるのに対し、海外では、有限責任制をとっている以上債務超過の株式会社の存続は認められないとして、すぐに増資などの是正措置を求められるようです。
2003年6月29日 日経 企業年金 積み立て不足13%増 上場企業3月末
記事要旨:
企業年金の積み立て不足が拡大している。3月期決算の上場企業が今後、費用処理を求められる金額は2003年3月期末現在で11兆700億円と、1年前に比べ13%増えた。
集計企業(金融などを除き前年と比較可能な1280社)の年金債務の総額は37兆8600億円と前の期より9%減った。年金資産の総額は15兆1400億円と24%減。代行返上の影響に加え、2002年度の運用利回りが3年連続でマイナスになったためだ。
積み立て不足は社員の定年までの平均残存勤務年数以内で費用処理を求められる。10−15年ほどで処理する企業が多く、集計企業では 年間1兆円前後(前期の経常利益の10%)の減益要因になる。
コメント:
記事で積み立て不足といっているのは未認識(未引当)の退職給付債務のことです。2003年3月末時点で約11兆700億円あるということなので、仮に10年間で処理するとすれば、確かに年間1兆1070億円ほどの負担になります。しかし、積み立て不足は1年前の2002年3月末現在でも約9兆8000億円(2003年3月の数字から逆算)あったわけで、2002年度にもこの償却のために9800億円(10年で処理することを仮定)が費用又は損失として計上されているはずです。したがって、2002年度と比べた場合、2003年度は1兆円ではなく 1300億円程度の減益要因にしかならないのではないでしょうか。
大げさなことを書いて危機意識をあおるのはやめてほしいものです。
2003年6月29日 日経 役員退職金 「株で支給」のなぜ Sunday Nikkei
記事要旨:
役員退職金の制度を変える動きが出ている。
日立マクセルは今月の株主総会で役員退職金の規則を変え、慰労金の2割を自社株で支給 する方式を取り入れた。任期ごとに慰労金総額の2割部分を自社株で積み立てておき、退任時にその合計株数を支給する。
日興コーディアルグループが今月導入したのは、現金による役員退職金をやめ、株式報酬型ストックオプションを新たに取り入れる仕組み。 オプションの行使価格を1円に設定し、役員退任日までは行使できない条件をつけることで、譲渡制限が付いた自社株を支給するのとほぼ同じ効果を持たせている。退任後に株価が上がれば得をするし、株価が下がれば損を出す可能性がある。
新制度を導入する企業は「報酬制度を変えることで株価を意識した経営をするようになり、 企業価値の向上 に結びつく」と効果を強調した。
こうした動きは経営者報酬に対する風当たりが強まった結果でもある。厚生年金基金連合会は6月、株主として参加した企業の株主総会で、退職慰労金についての議案の6割に反対した。
コメント:
役員の報酬を自社株や自社株から派生した金融商品であるストック・オプションで支払うことについては、法律で認められている以上、支払い手段の一形態として認めざるを得ず、またそのような支払形態をわざわざとることによって企業に特別なメリットがあるのなら反対する理由もありませんが、問題は 会計処理です。
役員報酬・退職金を、現金で支払っても自社株で支払っても、(当該役員以外の)既存の株主の持分を減らすことに違いはありません。ところが現金で支払う場合には費用が計上されるのに、自社株・ストックオプションで支払った場合には、現行基準を前提にすると全く費用を計上しなくてもよいことになっています。これでは、役員報酬・退職金が本当に成果に見合った適正なものなのかは判断しようがありません。
記事によれば役員退職慰労金の支払いに反対する機関投資家も出てきたようですが、自社株・ストックオプションによる報酬の費用計上(現行基準でそれが不可能なら米国並みに金額の開示)を求める機関投資家が現れてもおかしくないはずです。
ちなみに、以前の基準では自社株は資産計上されていたため、日立マクセルや日興のように自社株を役員に無償又は非常に安い値段で譲渡すれば、取得原価の金額(または取得原価から譲渡価額を差し引いた金額)だけ、損益計算書に損失が計上されていました。自己株の取引は資本取引であるという基準(これ自体は正しい)が企業会計基準委員会によって導入されたために、かえっておかしな結果と生じるようになっています。
ところで、記事では日興コーディアルの制度について「退任後に株価が上がれば得をするし、株価が下がれば損を出す可能性がある」と書かれていますが、行使価格の1円で取得した株なのですから(取得原価と比べて)損が出ることはありえません。
2003年6月28日 日経 プライムシスの債務超過 子会社配当で穴埋め
記事要旨:
プライムシステムは27日、監査法人の辞任で今月上旬にいったん延期した2003年3月中間決算を発表した。業務用システムなどの不振で、連結、単独ともに債務超過に転落した。ただ、昨年2月に東京証券取引所から買収したシステム 子会社が大幅な配当を実施することが決まり、永田仁社長は「6月末時点では 単独は債務超過から脱する 」と説明した。
配当するのは証券システム開発の東証コンピュータシステム(TCS)。65%出資するプライムシスがTCSに対し、配当額を1株6万円にするよう株主提案し、27日のTCSの株主総会で可決。この結果、 TCSの株主資本40億円のうち24億円が配当金として外部流出し、そのうち15億円をプライムシスが受け取る。
コメント:
プライムシステムがTCSを買収したのは昨年の2月ということなので、今回の配当のうち昨年2月以降に稼いだ利益から生じた部分はたしかにTCSに対する 投資の果実であり利益計上することができますが、昨年2月より前の剰余金からの配当はプライムシステムにとっては 元本の払い戻しに過ぎません。会計処理も本来は受取配当金ではなく子会社株式から控除 する処理にすべきだと思われます。あえて収益計上するのであれば、子会社株式を同額評価減すべきでしょう。
記事によると、子会社に配当させることによって債務超過を脱するねらいがあるようですが、 連結決算 では子会社からの配当は消去されてしまうので純資産を水増しする効果はありません。社長の説明のとおりあくまで単独決算の話でしかありませんが、それすらかなりグレーな会計処理を前提にしています。
2003年6月25日 日経 新興3市場上場 上期 主幹事調達額、日興トップ
記事要旨:
日本経済新聞社は24日、2003年1−6月に新興企業向け3市場に新規上場した45社について主幹事証券と監査法人のランキングをまとめた。公募・売り出しによる調達額では日興シティグループ証券がトップで、引受社数は大和証券SMBCが首位。監査法人の監査契約社数は新日本が12と他の大手監査法人を圧倒した。
2003年6月25日 日経夕刊 ケイビー事件地裁初公判 元会長ら粉飾決算認める
記事要旨:
冷凍食品会社「ケイビー」(破産)の粉飾決算事件で、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と商法違反(違法配当)の罪に問われた同社元会長A被告ら3人の初公判が25日、東京地裁であった。A被告は罪状認否で「その通りです」と起訴事実を認めた。
検察側は冒頭陳述で「A被告は架空売上を毎月計上、監査法人に不正が発覚しないよう書類も整えて粉飾決算 し、1996年に株式の店頭登録に至った」と、今回の事件以前からの粉飾決算を指摘した。
冒陳などによると、3被告は店頭登録後も東証2部上場を目指し、「特需」と称する架空売り上げを計上 、98年3月期から4期で計約406億円の売り上げを水増し。実際は赤字なのに有価証券報告書に利益を偽って記載し関東財務局に提出。
コメント:
統計を取ったわけではありませんが、新規公開の直前というのは、利益基準などを達成しなければならないというプレッシャーがあるせいか、粉飾決算の事例が比較的多いのではないかと思われます。
現在はどの監査法人も新しく監査契約を締結する場合には厳しくチェックしているはずで、ケイビーのような事件は起こりにくくなっているとは思いますが、他方、監査法人間の顧客獲得競争も激しくなっており、監査法人の担当者に対する株式公開の実績をあげるようにという社内外の圧力も相当なものだと思います。第2のケイビーが生まれる可能性がなくなったわけではありません。
2003年6月21日 日経 予定利率下げ 制度使わぬよう努力 生保協会長
記事要旨:
生命保険協会の横山進一会長は20日の記者会見で、破綻前の予定利率引き下げ を可能にする法案が衆議院を通過したことについて、「制度ができても使わないよう、各社は死にものぐるいの努力で契約者との約束を果たすべきだ」と、法が成立しても経営努力をぎりぎりまで続ける必要があるとの見解を示した。
長期金利上昇の影響については、「生保は長期の負債を抱えているためプラスに働く。債券価格の下落も株価の上昇で相殺される」との見方を示した。
コメント:
予定利率の引き下げや長期金利の上昇は、保険契約(通常は負債)の時価を引き下げる 方向に働くので、保険会社にはプラスになるはずです。しかし、現行の保険会社の会計ではその影響はすぐには財務諸表には反映されません。IASBでの保険会計の見直しに日本の生保業界はかたくなに反対していますが、このような経済実態の変化を決算に正しく反映させるためには、IASBで提案されている 保険契約の時価評価をわが国でも早急に検討すべきだと思われます。
特に予定利率の引き下げというのは、保険契約者による保険会社に対する一種の債務免除 ですが、現行の会計処理では、一体いくら免除すれば生保の財政状態がよくなるのか、あるいは、本当に引き下げが必要なくらい財政状態が悪化しているのか、といった実態が貸借対照表を見てもよくわからないという問題があります。
2003年6月21日 日経 繰り延べ税金資産 計上額は収益力次第
記事要旨:
りそなグループの監査を担当した新日本監査法人の竹山健二理事長に聞いた。
−−繰り延べ税金資産をめぐり、他の監査法人と見解が違ったが。
「繰り延べ税金資産について監査の実務指針の例示には、債務超過だと税金資産は原則計上できないと書いてある。あれは税効果会計を初めて導入するときに、収益予測の難しい場合には過去の実績から判断する例として示したものだ。赤字続きの企業でも、 将来確実にもうけが見込めるなら税金資産は計上できる」
−−将来の収益力判断は難しいのでは。
「景気動向で収益が大きく変動する建設や不動産などと異なり、 銀行は融資業務が中心で長期に安定した収益を見込みやすい。りそなの業務純益はそこそこ見込めるが、将来の不透明要因を考慮して厳しく見積もった」
2003年6月20日 日経 「税効果」依存 企業でも 繰り延べ税金資産34%増 NECなど株主資本上回る
記事要旨:
税金の前払い分にあたる「繰り延べ税金資産」が事業会社で増加している。2003年3月期決算企業(金融、新興市場を除く)の税効果会計に基づく繰り延べ税金資産(連結ベース)をまとめたところ、株主資本に対する同資産の割合は12%と前年より3ポイント上昇した。
株主資本に対する繰り延べ税金資産の比率の高い企業をランキングしたところ、上位には 建設 、 商社が並んだ。 電機 ではNECや三菱電機の繰り延べ税金資産の比率が高い。
コメント:
将来確実にもうけが見込める場合には繰り延べ税金資産を計上できるというのは、確かにそのとおりですが、銀行が長期に安定した収益を見込めるというのは本当なのでしょうか。融資業務で発生した不良債権の処理で多額の損失を出しているから、今のような事態を招いているのであり、また、タダのような金利で預金を集められる時代がいつまでも続くという見込みも少し甘すぎる感じがします。
逆に、景気動向で収益が大きく変動する業種は銀行と異なり収益の見積りが困難だとすると、建設、商社、電機などで多額の繰延税金資産が計上されている(自己資本を上回っている会社も多い)ことの説明がつきません。
2003年6月20日 日経 押し寄せる米国流 会計事務所の責任を追及 重み増す会計監査2
記事要旨:
監査の責任を厳しく追及する風潮は米国で高まる一方だ。米会計事務所のプライスウオーターハウス・クーパースは5月下旬、過去に手掛けたある企業の会計監査を巡り、100万ドルを支払うことなどでSECと合意した。米会計事務所アーンスト・アンド・ヤングはSECから監査の独立性を維持する体制が不備だなどと指摘された。
決算書の内容の改革が始まった点も見逃せない。SECはこのほど米企業改革法に基づき、 内部統制に関する情報開示 の規則を決めた。経営者が年次報告書の中で、 適正に決算書を作成するための組織を整えている ことを示さなければならない。会計士はこれらの内容を監査する。
コメント:
内部統制に関する情報開示について記事では米国の制度として紹介されていますが、わが国の証券取引法による開示においても、すでに一部取り入れられています(2004年3月期から)。
わが国の制度では、有価証券報告書等の記載内容が適正であることを代表取締役が確認 した旨、 財務諸表等が適正に作成されるシステムが機能していたかを確認 した旨及びその内容、などを記載した確認書を有価証券報告書などに添付することになっています。米国と違ってまだ強制ではないものの、横並び意識が強いわが国では同業他社のうちどこかがやれば他の会社も追随する傾向があるので、案外短期間で一般化するかもしれません。
そこでややこしいのは、財務諸表が適正に作成されるシステム(つまり財務諸表作成にかかわる「内部統制」)が有効に機能していることをどうやって確かめるか、また、確かめた方法をどうやって文章化し記載するかということです。多分、米大手会計事務所がそれぞれ作っているモデルを提携している日本の監査法人が借用し、会社への指導を行うということになるのでしょう(報酬が取れるのかどうかはわかりませんが・・・)。
参考: 中央青山監査法人のサイトより (米国の制度の説明です)
2003年6月18日 日経 NaITO 前期最終損失71億円に訂正
記事要旨:
機械工具商社のNaITOは5月30日に発表した2003年3月期連結決算について、12億9700万円としていた最終損失を71億800万円に訂正した。 6月2日に取引先の高陽産業が東京地裁に自己破産を申請。同社の関連取引先を含めた売上債権に対し貸倒引当金を計上するため。赤字拡大により、前期末に約13億円の債務超過となった。
2003年6月17日 日経 M・リンクス前期最終黒字に訂正 債務超過を回避
記事要旨:
メディア・リンクス は16日、2003年3月期の連結最終損益を9億8300万円の赤字から6600万円の黒字に訂正すると発表した。棚卸資産評価損を修正したためで、2億100万円と発表していた債務超過は回避する。
6月2日の決算発表ではソフトウエアの棚卸資産評価損を11億6200万円として特別損失に計上したが、同評価損を2800万円に修正した。
コメント:
売掛金や受取手形のある取引先が決算日後(ただし監査報告書提出日前)に倒産 した場合には、一般には決算を修正すべき 後発事象となるので、貸倒引当金の計算をやり直すのが原則です。ただし、商法決算が固まってから有価証券報告書を提出するまでに発生した事象についてはグレーゾーンになっており、注記でお茶を濁すケースも多いと思われます(会計士協会の実務指針でもある程度認めている)。しかし、NaITOの場合は、会社の規模と比べて影響が甚大であるため、原則通りの処理になったものと推測されます。
メディア・リンクスの場合は、逆に赤字を減らす方の修正です。同社のホームページを見る限り、 決算日後、売り上げ計上できた (又は売上確実になった)ため、評価減を取り消したとのことですが、直前に監査人が交代するなどいろいろな事情があるようなので、会社発表だけで判断してよいのかよくわかりません。
2003年6月14日 日経 銀行自己資本 監査が左右 繰り延べ税金資産除外なら「りそな債務超過」
記事要旨:
参院財政金融委員会は13日、11日の衆院に続き、りそなグループへの公的資金注入問題を巡る参考人質疑を行った。
質疑で民主党の桜井充氏は「(繰り延べ税金資産を除けば)りそな銀行は債務超過 ではないのか」とただした。
この質問への2人の監査法人トップの答えは対照的だった。4月にりそなの監査業務を外れた朝日監査法人の岩本繁理事長は「繰り延べ税金資産を除けば、資産よりも負債の方が多い」と財務内容に厳しい認識を示した。一方、現在りそなの監査を担当する新日本監査法人の竹山健二理事長は「総合的な判断から債務超過ではない」と強調。
コメント:
繰延税金資産を除いた場合に債務超過なのかどうかは、貸借対照表を見れば誰でもわかることであって、監査法人に聞くまでもない話です(りそな銀行単体、りそなホールディングス連結とも、繰延税金資産がなければ債務超過です)。
問題は、繰延税金資産なしだと債務超過になる場合に、繰延税金資産を計上できるのかどうかということです。会計士協会の「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」では、「 債務超過の状況にある会社や資本の欠損の状況が長期にわたっている会社で、かつ、短期間に当該状況の解消が見込まれない場合」には、原則として、「 繰延税金資産の回収可能性はないものと判断する」と書かれています。この「債務超過の状況」を繰延税金資産計上後で見るのか計上前で見るのかは、実務指針を読んでもよくわかりません。すなおに考えると、繰延税金資産計上後の最終的な数字でみて債務超過になっていなければクリアしているということになりますが、それでは、繰延税金資産を甘く査定して資産超過にしさえすればよいということになってしまい、この条項の意味がなくなってしまうと考えることもできます。
いずれにしても、債務超過かどうかで繰延税金資産計上額が全く変わってしまうというのも、ゴーイング・コンサーン問題を考慮した一つの割り切りとはいえ、あまり理論的ではありません。りそなの元の経営者は、監査法人が資本不足を警告していたら増資額を増やしていたはずだといっているようですが、仮に増資で1兆円集めたとしても(不可能だったと思いますが)、それを利回り1%の国債に投資していたら、年間で100億円、税金ベースだと40億円程度にしかなりません。5年分でも200億円にしかならず、約4000億円(りそな単体)の繰延税金資産の回収可能性にはほとんど影響しません。最終的には、繰延税金資産に対応する一時差異や税務上の欠損金を活用できるだけの課税所得を上げられるかどうかということを、実態に即してみていく以外に方法はないといえます。
2003年6月14日 日経 時価会計の凍結・減損会計延期 基準委が「拒否」発表
記事要旨:
企業会計基準委員会は13日、自民党など与党3党からの要請を受けて検討した株式の時価会計の凍結と固定資産の減損会計の導入延期について、見直すべきではないとの結論を正式に発表した。
コメント:
あまりにも当たり前の結論でコメントしようがありませんが、自民党では、まだ時価会計凍結の動きはなくなっておらず、凍結を盛り込んだ商法特例法の制定も検討されているようです(6月11日の日経新聞より)。土地再評価法の例もあり、まだまだ目を離せません。
参考: 企業会計基準委員会のサイトより
2003年6月14日 日経 道路4公団 詳細財務データ公表 資産評価膨らむ疑問
記事要旨:
日本道路公団など道路4公団は13日、民間企業並みの基準で作成した財務諸表の詳細データを発表した。大きな疑問点は3つある。
日本道路公団の資産額は債務額を5兆7600億円上回った。道路資産は29兆1700億円で、このうち 道路建設中の借入金金利などが1兆5100億円含まれている ことが貸借対照表の注記で明らかになった。民間企業では費用とするのが一般的で、資産計上する例は皆無に近い。
日本道路公団だけは、「資産の取得原価の資料がない」として、取得原価方式による財務諸表を作成しなかった 。
首都高速道路、阪神高速道路、本州四国連絡橋の3公団は実際の資産の取得原価をもとに、物価変動率や地価変動率などを用いて時価( 再調達原価)を算出した。日本道路公団は時価方式しかないため「肝心の時価の算出根拠が不透明」(会計専門家)。
昨年、同公団は5兆円の債務超過状態にあるとの試算が明らかになった。公団は試算の正当性を否定したが、この場合の会計基準は取得原価方式。
日本道路公団は「約1兆4000億円の補償費を資産に計上した」という。取得原価はわからないはずなのに、どうして補償費だけ過去の累積額がわかるのか疑問が残る。
2005年度に導入が予定されている減損会計にも対応していない。
コメント:
借入金利息については、たしかに発生時の費用とする方が健全な会計処理 ですが、高速道路のように建設に長期間要する固定資産については、原価算入もそれほどおかしな会計処理だとは思いません。民間企業で原価算入しないのは、税務でどちらでもよいことになっていて、原価不算入を選択した方が有利だからです。また、費用計上を強制したところで、例えば「日本道路建設公社」みたいな組織に道路建設を担当させ、そこから 金利込みの金額で道路を取得する仕組みにすれば、同じことです(もちろん、過去の分はできませんが・・・)。
取得原価方式による財務諸表を作成しなかった点については、記事のいっているように不自然です。再調達原価がわかるのなら、そこから建設物価の変動率を使って、取得原価に近い金額を出すことは可能なはずです。記事によれば、補償費については原価がわかるということなので、建設費の取得原価推定額にその金額を足せば、取得原価に近い金額は算定できると思います。 時価ベースの資産評価だけでは、民間企業並みの基準で作成したとはいえません。
また、時価の算出に再調達原価を使っている点も問題です。記事では証券会社アナリストが「キャッシュ・フローを計算して、そこから時価を算出するのが一つの方法」といっていましたが、将来も通行料収入で賄っていくというのであれば、路線別に、通行料から、減価償却費以外の人件費、維持管理費などを差し引いてキャッシュ・フローを見積り、そこから時価を算定する方法が合理的だと思います。そのようにすれば、結果的に減損会計にも対応した数値となるはずです。
2003年6月13日 日経 アドバックスが債務超過に転落
記事要旨:
人工雪ゲレンデ運営のアドバックスは12日、2003年3月期末で5400万円の債務超過に転落したと発表した。前期の連結決算で人工雪の 特許権を一括償却、新たに特別損失7900万円を計上したため。
2003年6月9日 日経夕刊 事業化遅れる第3世代携帯 欧州各社、免許の評価苦慮
記事要旨:
欧州の通信大手企業が、第3世代携帯電話(3G)事業免許を2003年3月期決算でどう評価するかで苦慮している。
英mmO2は3月期決算で96億ポンドの一時損失を計上し、最終赤字が膨らんだ。一時損失のうち 59億ポンド(約1兆1000億円) が英国とドイツの3G免許の評価損。事業化の遅れなどで 3G免許の資産価値が約3分の1に目減り したと判断した。
反面、最大手の英ボーダフォンは今期の償却を見送った。同社は欧州各社の免許に合計140億ポンド を投じており、2003年度中の事業開始を目指す。ジェント社長は「将来キャッシュを生み出す 事業を減損する必要はない」と強気の姿勢を崩していない。
コメント:
スケールは全く違いますが、無形固定資産の評価(減損・臨時償却)の問題という点では共通しています。
アドバックスの場合は、同社決算短信を見ると、人工雪の事業は営業損益の段階で大幅な赤字 (特許権の償却前から赤字の模様)となっています。今はまだ減損会計適用前ですが、従来の臨時償却の理屈からいっても一括償却は当然だと思われます。
英国の携帯電話会社のケースは、同じ英国会計基準に従っているはずですが、個々の会社の見積によって、会計処理が大きく異なっているようです。帳簿価額を回収できるだけの将来キャッシュ・フローを生み出す見込みのある資産であれば、たしかに評価減する必要はないと思いますが、ボーダフォンのアニュアルレポートを見ると、大きな赤字が連続しており、客観的には、簿価の回収可能性は非常に疑問です。厳しいといわれている英国基準ですが、このような無形資産の評価となると、結局経営者の見積次第ということなのでしょうか。
参考:アドバックスのサイトより ボーダフォンのサイトより mmo2のサイトより
2003年6月7日 日経 法定準備金取り崩し相次ぐ 配当・自社株買い原資確保
記事要旨:
配当や自社株買いの原資を確保するため、企業が法定準備金の取り崩し に動いている。取り崩し額が3000億円を超す富士通をはじめ京王電鉄、三菱樹脂などが今月下旬の株主総会で決議する見通しだ。
もともと資本準備金は額面を超える「プレミアム」として株主が払い込んだ部分。それを取り崩して自社株買いなどで払い戻すのは、利益水準に比べて膨張気味とされる日本企業の資本構成の是正につながりそうだ。
コメント:
企業会計原則では、資本剰余金と利益剰余金を区別することが7つの一般原則のひとつとされ、昨年公表された法定準備金の取り崩しに関する会計基準でも、 資本準備金を取り崩した金額(その他資本剰余金)を利益剰余金と混同してはならないとしています(配当も、その他資本剰余金からの配当と利益剰余金からの配当を区別して表示する)。
しかし、その他資本剰余金とマイナスの利益剰余金を相殺することは認められる ことになっており、記事で取り上げられている例も、ほとんどが、資本準備金の取り崩しで利益剰余金のマイナスを消したうえで、その後生じた利益から配当を行う(あるいは自己株取得の枠を広げる)事例のようです(ちなみに、その他剰余金からそのまま配当するというのは、最近の銀行のように切羽詰まった状態の会社だけだと思われます)。
もちろん、これを認めないと、利益でマイナスの利益剰余金を完全に消すまで利益剰余金からの配当ができなくなってしまいますが、現商法ではその他資本剰余金からも配当できるので、仮に相殺できないとしても開示だけの問題であり、会社や株主にとって不利になるわけではありません。
理屈が首尾一貫していないという感じがしますが、もともと、資本剰余金と利益剰余金の区別というのは、 資本取引と損益取引の区別 ほどには重要でないのかもしれません。
なお、記事では資本準備金を額面を超えるプレミアムであるといっていますが、新商法では株式の額面という概念自体がなくなっています。株主から拠出された金額のうち資本金にしなかった額としかいいようがありません。
参考:法定準備金の取り崩しを予定する企業(記事による) 富士通 京王電鉄 、三菱樹脂 、 曙ブレーキ工業 、三菱伸鋼、東京製綱
2003年6月6日 日経 ゼネコン、借入金を圧縮 特定銀行向け債務買い戻し 実質的な債務免除
記事要旨:
ゼネコン(総合建設会社)が特定銀行向けの債務を安く買い入れ、借入金を圧縮する動きが増えている。銀行が債権回収会社(サービサー)などに債権を簿価より安く売却、その債権をゼネコンが買い取る仕組みだ。 実質的な債務免除の効果がある。
サービサーなどは銀行からの債券購入価格よりも高値でゼネコンに売却し利益を出す。一方ゼネコンは有利子負債を圧縮できるうえ、債務額と買い入れ額の差額を「 債務買い戻し益」などとして特別利益に計上できる。
コメント:
金銭債権の時価(債務者からすれば負債である金銭債務の時価)は、金利水準、満期までの期間の長さ、債権の信用リスク(格付け)などによって決まります。一方、金銭債務は貸借対照表には債務額(額面)で計上されるので、 金利や格付けの変動によって、簿価と時価との間に差異が生じることになります。そのため、債務を時価で買い戻せば、簿価である債務額との差異だけ、債務償還損益が生じます。
債務償還損益はこのように金利の変動によっても生じますが、記事で取り上げられているゼネコンの場合は、 格付けが悪化し、債権の時価が大きく下がってしまった ために生じた利益であり、記事でいっているように実質的な債務免除といえます。
参考:債務買い戻し益を計上した会社(記事による) 長谷工 、松村組、森本組、飛島建設 、フジタ 、三井建設
2003年6月5日 日経 1億8000万円 不正資金提供 ダスキン元会長ら逮捕
記事要旨:
清掃用品レンタル大手のダスキンの元会長らによる不正資金提供事件で、東京地検特捜部は4日、取引先の 広告会社に1億8000万円を過剰に支払い ダスキンに損害を与えたとして、元会長A、元専務B、広告会社「スパイス」元社長Cの3容疑者を商法違反(特別背任)容疑で逮捕した。
調べによると、A容疑者らは共謀し、1999年7月から2001年4月まで数十回にわたり、スパイスやC容疑者の利益を図るため、ダスキンが運営する「ミスタードーナツ」の店頭で配る景品の企画料名目で景品1個につき3円を上乗せする方法で、スパイスに計1億8000万円を不正に支払った疑い。
特捜部や関係者によると、A容疑者は資金繰りに困っていたC容疑者から相談を受け、B容疑者に「うまいことやってやれ」などと指示。B容疑者はスパイスに企画料名目で支払うことにしたという。
2003年6月5日 日経夕刊 福岡市3セク強制捜査 ケヤキ不透明取引
記事要旨:
福岡市の第三セクター「博多港開発」によるケヤキ・庭石購入事件で、福岡県警捜査2課は5日、同社など関係先数十カ所を商法の特別背任容疑で一斉捜索した。
この日捜索を受けたのは同社をはじめ、市から告発された同社のA元社長とB元常務らの自宅、C元市議の関係会社など。
市の告発状や県警の調べによると、A氏らは具体的な利用計画や業務上の必要がない のに、1999年8月と2001年12月に計 400本のケヤキを、2000年5月には 1万トンの庭石を購入、博多港開発に 約7億7300万円の損害 を与えたとして商法の特別背任容疑が持たれている。
一連の取引には、C氏が株主などを務める造園会社「海浜公園振興」と学習塾「時習館」、文具販売会社「イゴス」の関係会社3社が介在し、 3億8000万円の転売益を得たことも判明。
コメント:
経費を水増請求させて支払ったり、必要のない物品やサービスを(しかも相場より高い値段で)購入したりといった、手口としてはごくありきたりの不正事件ですが、いずれも企業のトップが絡んでいたために、かなり大きな金額になるまで見過ごされてしまったのでしょう。
ダスキンの事件は税務調査がきっかけで発覚したようですが、会計監査をきちんとやっていれば発見できたかどうかはわかりません。1億8000万円をまとめて払っていたのなら気がついたかもしれませんが、「単価×景品個数」のようなもっともらしい計算で、かつ契約書などが形式的に整っていれば、よほど注意深く見ていない限り、発見できなかったと思われます。また、仮におかしいと思っても、税務署のように反面調査ができるわけではないので、不正であることを突き止めるところまではなかなかいけません。
福岡の3セクの場合は、ケヤキや庭石が経費ではなく資産に計上されていれば、より詳しく調べていたでしょうが、会計士に庭石の価値がわかるはずもなく、仮に会計士が監査していたとしても、不正を暴くところまでは行かなかったと思われます。
いずれにしても、不正の発生と経営者の資質は大いに関係しており、だからこそ新しい監査基準で、経営者とのディスカッションが強調されたり、コーポレート・ガバナンスのような高いレベルの内部統制が取り上げられているのだと思います。また、強制捜査する権限のない会計監査では、経営者不正の疑いが強ければ、監査人の方から監査を辞退することも一つの方法です。最近は上場会社でも監査人の交代事例が多いようですが、その中には、経営者が信頼できないために、監査人の方から契約を解除した例もあるのかもしれません。
ところで6月5日の日経には、ダスキンの記事の10分の1のスペースで、日経の子会社不正問題に関する株主代表訴訟の記事が載っていました。こちらは約100億円が闇に消えてしまったという事件で、金額的にはダスキン事件の50倍の規模の事件です。扱いがかなりアンバランスな感じがします。
2003年6月5日 日経 税効果会計 厳格運用広がる
記事要旨:
2003年3月期決算では税効果会計の厳格運用が焦点になった。銀行だけでなく事業会社でも繰り延べ税金資産を取り崩し、最終赤字が膨らむ例が目についた。
税効果会計が厳格に運用されると、どんな影響が出るのだろうか。ある公認会計士は「銀行の 不良債権処理のペースが落ちる のではないか」とみる。債務免除を受けたある建設会社の役員も「銀行は不良債権処理に慎重になってきた」と話す。事業会社の不良資産処理にも同じことがいえる。
コメント:
繰延税金資産が積み上がるのが怖いから不良債権の引当を十分に行わないとしたら、本末転倒です。監査人は、繰延税金資産のような目に見えるところだけ厳しい処理を求めるのではなく、その他の資産の評価についても厳格な監査を行うべきです。
2003年6月4日 日経 経営リスク開示広がる 前3月期 記載、倍増の29社
記事要旨:
企業が経営の存続にかかわる重要なリスク情報を開示する動きが広がっている。日本経済新聞社が集計したところ、上場企業(新興3市場を除く)が発表した2003年3月期の決算書で、リスク情報の開示に踏み切ったのは29社に上った。
破綻リスク情報の開示は企業監査の基準整備やディスクロージャー(情報開示)向上の一環として、 2003年3月期から上場企業に義務付けられた 。売上が急減したり、債務超過に陥るなど企業の存続が危ぶまれる事実がある場合、企業はその情報を開示しなければならなくなった。
今回一番多かったのは債務超過に関する記述で、29社のうち11社あった。続いて多かったのが事業の悪化に関する内容。このほか、資金繰りに関する記述も目立った。
コメント:
記事で取り上げられているのは、ゴーイング・コンサーンの前提に関する開示の話ですが、これとは別に、一般的なリスク情報(「 リスクに関する情報」)の開示も平成15年度から行われます。有価証券報告書の記載ルールである開示府令では、「特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生」などを書くこととされており、今すぐ経営に大きな影響を及ぼすものだけでなく、将来マイナスの結果をもたらす可能性のある事項をかなり広い範囲で開示することになりそうです。(もととなっている金融審の報告書でも「 できる限り幅広く、かつ、具体的に記載されることが望ましい」とされています)。
なお、ゴーイングコンサーンの開示について、記事では上場企業に義務付けられたと書かれていますが、実質的に、会計士・監査法人の会計監査を受けている会社は、すべて対象となっています。したがって、会計監査人の監査対象となっている商法上の大会社であれば、債務超過になっている第三セクターの会社なども、債務超過をどうやって解消するのかなどについて開示することが必要となります。
参考: 経営財務より
2003年6月1日 Yomiuri On Line 日経新旧11役員を提訴へ、2株主が94億賠償請求
記事要旨:
日本経済新聞社の子会社の手形乱発問題に絡み、日経新聞の株主2人が、当時の社長だった鶴田卓彦相談役(75)と杉田亮毅社長(65)ら新旧役員計11人を相手取り、 総額約94億2000万円の賠償を求める株主代表訴訟 を今週中に東京地裁に起こす。
提訴するのは、日経新聞の元ベンチャー市場部長・大塚将司氏(52)ら。
関係者によると、日経新聞の100%子会社の内装工事会社「ティー・シー・ワークス(TCW)」(東京都千代田区)は遅くとも1999年ごろから、架空取引に伴う手形乱発を開始。TCWは 架空の内装工事をでっち上げ、別の会社に下請け発注するなどの形を取り、 工事代金として手形を振り出し ていた。下請け会社はこの手形を 金融会社などに持ち込んで現金化 した後、一部をTCWに還流。還流した資金の一部は取引を主導した元内装工事担当部長が流用していた。TCWは手形の決済時期が来ると、同様の手口で手形を振り出しては現金を工面して決済資金に充てたため、損失が膨らんだ。
TCWの手形帳や印鑑は日経新聞の経理局が保管しており、経理局はTCWから要請を受けるたびに、手形の振り出しに応じていたという。
日経新聞は、TCWの手形が市中に出回ったことなどから不正経理に気づき、2001年8月末に TCWの経営陣を刷新。損失を抱えたTCWに対し、同年12月から翌2002年にかけ、 約74億2000万円を融資したほか、TCWが借り入れた約20億円の債務保証 もしたが、ほぼ全額が回収不能になっている。
大塚氏らは訴えの中で、当時の経営陣について「手形乱発を見逃した 上、回収の見込みがないと知りながら、TCWに対する 融資や債務保証 をした点が、取締役としての注意義務違反にあたる」と主張している。
コメント:
不正の手口自体は監査論のテキストに出てきそうな典型的なものです。以前の報道では粉飾決算というところに力点が置かれていましたが、手形やお金の流れを見れば、 工事を仮装して手形をだまし取ったという不正です。売上の前倒しや原価・経費の先送りなどの経理操作を行っても(ばれたときの信用失墜は別として)会社に実損はないと考えられがちですが、日経子会社の場合はそのようなスキを見せた途端、よからぬ人物たちに会社を食い物にされてしまったという例だと思います。また、商取引に 手形を多用するわが国特有の不正といえるかもしれません。
この問題に関して日経の取締役に責任があるかどうかは法律問題なので何ともいえませんが、少なくとも不正があることを知っていてそれを放置していたとすれば責任は免れないと思います。厳しく見れば、大きな不正を防止できる程度に 子会社の内部統制を整備していなかったことの責任もあるかもしれません。
子会社の手形用紙や印鑑を親会社で管理していることは、一種の内部牽制であり、そのこと自体は問題となる事項ではありません。しかし、そこまで管理していながら不正に気がつかなかったのはなぜなのかは、疑問として残ります。
訴訟では、不正発覚後の子会社への融資や債務保証についても問題にされるようですが、損失が生じることがわかっていても、子会社の債権者に迷惑をかけないように親会社が資金面である程度責任を負うというのは、あり得る話です。そのことまで善管注意義務違反であるというのは少し酷な感じもします。
ただ、2001年8月の時点で不正経理が内部的にわかっていながら、2002年度決算までこの件で損失を計上せず、株主に説明もされていないことは(非公開会社とはいえ)大いに問題です。計算書類上できちんと開示を行うことも取締役の責任範囲であるはずです。