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1986年1月10日
朝日新聞 夕刊
「西田式健康法」の“教祖”として知られる医学博士の経営していた健康食品会社が、他社が医薬品として開発したカルシウムイオン水を勝手に製造・販売していた事件で、警視庁保安2課は10日、この医博ら会社幹部4人を薬事法違反の疑いで逮捕した。この会社は、健康食品ブームに目をつけ、自社の製品を売り出すため、医博らが出版した本の中で製品の薬効を次々に宣伝する「バイブル商法」で業界大手にのしあがっていた。最近、業界で目立つ同種の商法に捜査のメスが入るのは初めてで、効き目がさだかでないものを「健康食品」の名で売りつけ急成長をとげた業界のあり方がまたも浮き彫りにされた。
捕まったのは、東京都町田市玉川学園2丁目、西田博(55)ら4人。西田は、東京都新宿区四谷4丁目にある健康食品販売業「ベルグ」や神奈川県相模原市下九沢にあるカルシウムイオン水製造業「中医研」などの社長を務めていたが、警視庁の摘発を受け去年12月、両社の社長を辞めた。
西田のほか、横浜市緑区いぶき野、中医研元専務、谷尾精一(52)▽川口市川口4丁目、ベルグ元事業部長、野崎祐宏(53)▽調布市染地2丁目、ベルグ元学術部長、門叶春樹(37)も捕まった。
調べによると、西田は、55年2月に中医研を設立。ここで作ったカルシウムイオン水を「中医研電解カルシウム」という商品名でベルグを通じて売り出した。一方で、「西田達弘」のペンネームで書いた著書「核酸食でシミはらくに治せる」「かゆいかゆい皮膚はこれで治せる」などの中で、「アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎に効く」とのその薬効をうたって、商品を宣伝。さらに、いかによく効くか体験者の声を集めた「治験例集」を全国1100店にのぼる薬局に配り、販売促進に利用していた疑い。
このカルシウムイオン水はもともと他の薬品会社が医薬品としての認可を厚生省から得て発売している。しかし、西田は厚生大臣の許可を得ないで、それをまねて作りながら「清涼飲料水」の名目で、原価1本222円ほどのものを3800円で売っていた。
調べによると、イオン水は56年3月から昨年9月までに155万4000本が製造され、54億円を売り上げ、中医研とベルグ両社で計20億円余の粗利益を得ていたという。
保安2課は、清涼飲料水として作っている商品を、薬効をうたって売っているのは、薬事法に違反する疑いが強いとして昨年9月に中医研やベルグなどを家宅捜索し、薬局関係者らの事情聴取を進めながら容疑を固めてきた。
西田は、北海道・旭川で薬局を経営するかたわら、北大医学部などで研究開発した漢方医学と西洋医学に民間療法を加えた独特の「西田式体内浄化法」を普及するため、48年に「日本体質改善指導協会」をつくり、全国の薬局を組織化。その一方で、「10日で5キロやせる法」などの本19種類を次々と出版して、自社の商品を宣伝、事業を拡大してきた。
本の内容はいずれも体験談を寄せ集めて、いかにも薬効があるようにみせかけ、しかも、巻末にその商品を置いてある薬局名を並べ、「協会会員の薬局で親身に相談にのります」と読者を誘っていた。また、テレビでも宣伝し、健康食品ブームにのって急成長をとげていた。
1986年1月11日
朝日新聞 夕刊
薬事法違反の疑いで警視庁保安2課に摘発された「西田式健康法」は、単行本で宣伝、健康食品の売り上げを伸ばしていたが、それらの本をベストセラーにする「からくり」があったことが、11日までの保安2課の調べでわかった。出版と同時に、傘下にある全国の薬局、薬店に数十冊ずつ購入を割り当て、一挙に数万部が売れたように見せかけていた。 警視庁に逮捕されている「西田式健康法」の考案者、西田博(55)は、「医学博士 西田達弘」のペンネームで、19冊もの本を書いている。どの本も西田が経営していた会社がつくった健康食品の「効能、効果」を宣伝しており、印税収入だけでも2億5000万円が見込まれるほどだった。
民間調査機関などによると、健康法ブームにも乗って、大半の本がベストセラーになっており、とりわけ、無許可製造・販売の疑いがかけられているカルシウムイオン水に力を入れて宣伝している「かゆいかゆい皮膚はこれで治せる」は、公称55万部。ほかにも、80万部や30万部の発行部数の本があった。出版業界では、5万部を超えれば「ベストセラー」といわれており、西田の著書は不思議がられていた。
保安2課は、西田らが本を出すたびに、自社の商品を販売するために組織している日本体質改善指導協会加盟の全国1100余店にのぼる薬局、薬店に数十冊ずつ購入を割り当てていたことを突き止めた。商品と抱き合わせで本を店頭に並べて宣伝している店も多かった。ノルマを果たさないと、「処分を受ける」といわれており、この方法で西田の本はすぐにベストセラーになる仕掛けだった。
また、歌手、俳優、テレビタレントなどを「私も西田式健康法の体験をした」として、普及にひと役買わせている本もあった。
こうして話題づくりの土台を築くと、週刊誌や新聞などで「ベストセラー」「大評判」などと自賛して人気をあおり、売り上げ増につなげていた。西田が健康食品などの販売会社としてつくったベルグ(東京・四谷)は、この5年間にざっと5倍も売り上げを伸ばし、年商100億円にまで急成長していた。
保安2課は、本の出版そのものについて法的責任は追及できないとしているものの、薬事法の趣旨からみて好ましくない記述が多いといっている。本を媒体に健康食品を宣伝するやり方は「バイブル商法」といわれ、その草分け的存在だった西田が逮捕されたことで、業界に波紋が広がっている。