*猪突盲進*




2006年4月21日

グリフォンの背中に乗って
みんなが寝静まった頃に
月に向かって飛び立つ

暗い部屋の黄色い照明に怯えながら
ひとりで泣いていると
月明かりがカーテンから漏れて
涼しい風が吹き込んでくる
顔をあげると窓の外にグリフォンがいて
私は背中にまたがり月へと旅立つのだ

満月に影を落とし
そこは決まって東京の空の下で
高層ビルの間とか
東京タワーよりも高いところとか
海ほたるよりもきれいなところとか
友達のことも忘れて
走り抜ける

見たことのない景色と
吸ったことのない空気と
会ったこともない人の影とで
笑いながら私は風化していく
そうしてすっかり
父のことも母のことも弟のことも
片思いの男の子のことも
忘れてしまって

明日の朝には
抜け殻のベッドの上で
子どもがひとりいなくなったと
捜索願いが出される
私はあるときからいなくなり
誰かの心には残り
誰かの心からはいなくなる

私はいなくなる
そのためにグリフォンを待ち
子どものまま歌を歌う
本当は
東京の子どもでもなかったし
ベッドや子ども部屋のある家でもなかったし
夜中には狐や鳩の鳴き声がした

だけど
グリフォンと一緒に
月の夜をひとっとびする夢を見るときは
いつのときも月は明るかった







2006年4月8日

お兄ちゃんお兄ちゃん
長い髪をした
女みたいなお兄ちゃん
細い体で
女を抱くの
同族愛みたい

女がキィと鳴くと
体ごとばらばらになって
煙のように掻き消えて
残された女からは
血も愛液も全て枯れて
老木のように
立ち尽くしたまま
百年が過ぎるの

(あんたがたどこさ・・・)

お兄ちゃん
好き勝手なこと言って
未来も現実も
過去までをも塗り替えて
私から全てを取り上げて
なにもかも約束させといて
それなのに
ひざまずく前に
ひとりで完結してしまうなんて
一体どういうこと?

お兄ちゃん
あなたの人を見下した目つきが嫌だった
自分のことを自嘲気味に語るのが嫌だった
死ぬときを決めているのが嫌だった
愛してないのに愛してる振りをしてるのが嫌だった
本当は優しくてすぐに傷つくのが嫌だった

私は
あなたのために生まれてきた道具じゃない
何度も髪を切り捨てられ
ごみ処理場に連れて行かれたのに
あなたに復讐するために
あなたの枕元でナイフを突きつけたりしたくない

私はあなたの おもちゃじゃない

しとしとと
夜半に降る小雨のため
着物の内側に隠れた小汗が
撒き戻るように引いていきます
私の持つ刃物は
閃きが銀色で
魚の腹のよう

口元に咥えて
あなたに近づけば
元の姿と引き換えに
私は幸せに戻れるっていうの?


TOP