[PR]テレビ番組表
今夜の番組チェック


*猪突盲進*




2006年6月11日

どこに逃げても追いかけてきて、私を笑う。
その彼女の顔には見覚えがあり、
だけど忘れてしまった誰かの顔でもあった。

私は意識を集中し、
彼女とは、
一体いつ、どこで、どうやって出会っていたのかを知ろうとする。
もしかしたら彼女とは
ただのすれ違いざまの誰かと誰かだったのかもしれない。
だけれど追いかけたくなる何かと誰かの狂気に
私たちは繋がって久しいのだろう。

私を意識しながら
私とは別の人のことを言おうとする彼の批判とか批評とかエトセトラとかは
飛ばしているつもりで旋回する紙飛行機みたいだ。
思い切り良く発射して、
足元にポトリと落ちる。

一体どうして?
私はどうして?
ここにいなければならないパフォーマンスに縛られてなければいけないのだろう。
彼らに対する最大の慈愛行為は
彼らの攻撃の対象になり続けてあげるということである。
さすれば彼らは、
安心して私だけに囚われていることができる。
彼らを私から解放してあげれば
彼らは私ではない誰かに向かって飛んでいくだろう。

私のエネルギーは
強大な引力があるのだとすれば、
それが才能なんだろう。
悔しくても。

才能って、いいことばかりじゃない。
人はその才能を欲しがるけれども。

お願いですから、私から離れてください。
だけれどもっと私は、
私はもっと発っていきますけれど。
それが願いですから。
だけれど私は、求められるがままに引き摺られて、手を取り合って、息の根を殺してきたんだろう。
私は彼女の手をとってあげることが最大のパフォーマンスであり、慈愛であり、サービスであり、生きている証の共依存だったのでしょうか。

「行かないで。私だけの側にいて。」と、
しきりに私の足に絡みついてきている自称“女のコ”が
私の耳元で朝昼晩と構わず「ぶぅぅぅん」と羽音を立てている。
彼女はそれを自分では「かわいらしい声」と自負していて、
しかし鈴虫の彼女の音は、時として鳴きすぎてしまい煩わしい。

鈴虫少女の住む虫かごの中の様子はとても殺伐としている。
意外と彼女は肉食で、彼女に食べられるのは大抵は力の弱い雄の虫ばかりだった。
そうして雄では補えない栄養分を求めて、彼女は私の耳元で「行かないで」と囁く。

彼女を手で払うには、相当の力と体力と気力が必要だった。
鈴虫女の彼女の内臓の中には、猛毒が仕込まれている。
間違っても彼女を叩き潰してはいけない、攻撃をしてはいけない。
彼女は一度食したものをよく噛み砕き、胃の分泌液で柔らかくした後に
それを吐き戻して他の雄たちに食べさせる。
さすれば雄たちは彼女から離れず、そのまま彼女の猛毒の前に裸にされた。
実のところその猛毒とかいうのもただの胃液に過ぎないのだけれど
彼女はそれを猛毒に仕立て上げるだけの鳴き声を持っていた。
鈴虫が鳴くところに猛毒が垂れ、
真実、毒なんて垂れていないテーブルの上にも毒が出現する。
それは彼女が自分の体内に毒を飼っていることを信じているからであり
彼女の信ずるところ、火はなくとも燃えているようなトリックが起きる。

鈴虫の鳴き声が響く。耳元で煩わしい。
「そろそろビタミンαが足りないの」と、聞こえる。
私は自分の体の中からそれを削り取り、最大限の彼女の欲しがる栄養素を与える。
少しでも彼女の満足する顔が見たくて。
朝昼晩と構わず鳴き毟る彼女の羽音に耳を澄まし、私は彼女の声を聞こうとする。
そして彼女の欲しがるものを与える。
彼女が逃げないよう。
彼女が雄を食べるだけで満足して私から逃げないように。
彼らからでは得られない栄養素を彼女に与え、私が彼女を縛るのだ。
私は、彼女を愛している。

鈴虫の鳴き声が響く。耳元で煩わしい。
私は、鈴虫女の彼女を愛している。




2006年6月2日

2006年5月21日 なるべくたくさんの力を使って、ここから逃げ出さなければならない。右を見て、右を習い、左を見て、左に習う、並び順を間違えない人たちのために。私は列を崩さず、しかし直ちに、自分ひとりだけの真っ直ぐに伸びる強かな道を。食い殺された理性の鉄壁の袋小路に。四方八方の敵味方関係なく私へ投げかけられる言葉。蔑みは受け入れるだけ欲望の果てへと続いていく。私の言葉なんて、貴様に追いつかなくてもいい。だから濁した心の全てでもって投げかけることを諦めるから、よころばしき猛獣の餌食となって消えよ。到底手の届かぬ深部に心を馳せて逃げて逃げて逃げて逃げ切って。

あなたの痛いところを突いた私の言葉は、あなたに痛いところがあったから突き刺さっただけにすぎなくて、別に私はあなたの神さまじゃない。勘違いするなよ、誰もあなたのためになんか生きてない。じゃあむしろあなたのために私が生きてみせますから、あなた私の人生の全てを引き受けて生きてくれますか?どういうことか分かってますか?愛し合おうって言ってんじゃないんだよ。介護してくれって言ってんだよ。お前の一生かけて私を介護しろよ、この勘違い野郎。自分ひとりでも満足に立てない人間が、どうやって誰かの重みを抱きながら生きられるのか、まずその馬鹿から治してこいよ。薄気味の悪い害虫だな。お前の人生になんて興味がないから私の人生からも姿かたち全て消えうせていなくなれよ、この下衆野郎が。私の行く道とお前の道とを重ねて同じ道にしなくていいから、まず、消えろ。交差して交わろうともするな。もう私に二度と交わるな。そんなに生きるの面倒くさかったら死ねばいいじゃない!!

さあ、早く、逃げなければいけない。どこの誰が私のことを蔑もうとも。私を陥れようとも。だけど私はその誰の向ける悪意にも負けない。なぜなら、どこの誰が向ける無責任な悪意よりも、私が私自身に向けている悪意のほうがより強くて大きいから。あなたたちの悪意は、私が私に向ける悪意よりも小さくて醜くて美しい。



もう一度、チャンスをください。
私が私として生まれ変わるだけの。
もう一度、私に私のチャンスをください。
私をやり直すだけの時間とやさしさを、ください。
「今度こそ」という約束は誰にも掲げません。
私は私のためだけに、私に謝罪をさせてください。
私の選ぶことと私が弱くて放り出したことが、
私の、一番中心部の核となるところを
しめやかに殺し始めていたことを知り
侵食されて喰い潰されていった私の心と体の
悲鳴に私は犯されていった。

どうしても逃げられない輪の持ち主に
円の内側へ誘われる。
またとない逃げ場所へ嬉々として
足を踏み外していく若者たちを見習って
同じように飛び込む。
何度溺れても甘美だった。
その甘くて底なし沼の



最大の悪意とは
自分の都合のみを考えること、
だと思う。



TOP