恐らく韓国詩人の中で最も日本で知名度のあるのは「金芝河」だろう。
金芝河は現代韓国文学の栄光を一進に受け、その書籍はかつて日本の一部若者達を熱狂させたものでもあった。
「わが魂を解き放せ」「良心宣言」「獄中から」彼の暗いパセティックな本は人間の暗部と葛藤を掘り下げた名著でもある。
しかしながら、金芝河はその栄光を現在では失っている。
転機は1991年の「姜慶大政局」にからんで、金芝河は反体制派運動側の学生達が相次いで焼身自殺など、命を落とすのを見かねて、朝鮮日報という保守系新聞の牙城を媒体として「若者よ、死に急ぐな」と訴えたのである。
これを契機に、金芝河は反動保守の烙印を押され、歴史の闇に葬られることとなった。
しかし、彼自身もともとこのような儒教的善悪二元論の権化のような存在であり、ある意味しっぺ返しであったとも言えなくない。
その彼も時と共に儒教的束縛からの脱皮を図り、現在は「律呂」運動即ち環境運動・宇宙的思想運動に取り組んでいる。
彼の孤独に苛まれた詩は時として人間の心の闇を強調するが、それはただ陰鬱な景色ではなく、孤独感への集約とそして未来への希望を混ぜ合わせたような自我の叫び、本質の詩でもある。
彼の作品を一編載せて結びとしよう。

金芝河(1941年〜現在)
すべてが立ち去って(作者:金芝河)
すべてが立ち去って
私だけが残るだろう
松葉が茶色く変わって
鳥たちがいなくなり
けものも魚も
虫もみないなくなり
周囲の友人たち
ひとりふたり病気で死んでいなくなり
私だけが残るだろう
地球の上にひとりだけで
地球すら土も石も
水も空気までもみな死に
国の名前をつけた
幻だけが残るだろう
最後は
身動きできない天罰のごとく
私だけがぽつんと残るだろう
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