第二章 高校一年、冬(冬休み前後

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(3)女の子の部屋 

 

「こんにちはー。おばさん居る?」

 月曜日の放課後。健一が和美の家にやって来た。

 ドアを開けて玄関に入り、靴を脱ぎ、スリッパを履いて勝手にパタパタと音をさせて廊下を中へ向かって歩いて行く健一。このあたり、健一の家に着たときの和美の行動とソックリである。

 台所に入ると、和代が晩御飯の支度を仕掛けている最中だった。

「あら、健ちゃん。うちに来るのは珍しいわね。和美はまだ帰ってきてないけど、一緒じゃなかったの?」

「うん。あいつ、何か買い物があるって言って、駅前の大通りのほうまで出かけていったよ。今日は和美に用じゃなくって、おばさんにこれ、うちのお袋から。お歳暮で一杯貰い過ぎたんで、半分食べてって。」

 そう言って、健一は紙袋一杯に入ったミカンを、和代に差し出した。

「まあ、おいしそうなミカンね。康子にアリガトウって言っておいてね。あっ、そうだ。健ちゃんには美味しいケーキがあるの。食べてって。」

 そう言うと、健一を席に座るよう促し、ショートケーキを冷蔵庫から取り出して皿に入れ、紅茶を注いで健一に差し出した。和代は健一の対面に座って紅茶を飲みながら、パクパクとケーキをほうばる健一の姿を眺めながら話し掛けた。

「それ、昨日買ってきたんだけど和美は要らないって。なんか最近甘いもの食べなくなっちゃったみたい。」

「あの和美が? 珍しいね。甘いものには目がないあいつにしては。」

「そうなのよ。ダイエットでもしているみたいなの。やたら最近体重とかウエストとか気にしているようだし。恋をすると女性はそういうところ、必死になるから。」

 和代はそう言うと、健一の顔を見ながら、フフッと笑った。健一はケーキをほうばりながらドキッとし、慌てて紅茶を飲み干した。

 やがてケーキと紅茶を平らげた健一は、ご馳走様と言って席を立ち、することもないので家に帰ろうとすると、和代が話し掛けて制止した。

「ああ、もうちょっと待ってなさいよ。そのうちあの娘も帰ってくるでしょうから。部屋にでも行って待っていればいいわ。」

 健一は一瞬考えたが、じゃあそうすると言って、和美の部屋がある二階へと上がっていった。

 

 健一が和美の部屋に入るのは、ずいぶん久しぶりだった。最近、放課後や休みなどはよく一緒に過ごしてはいるが、ほとんどは外か健一の家であり、とくに夏以降、二人が急速に接近してからは、初めてであった。しばらくぶりに訪れる和美の部屋は、相変わらず綺麗に整理されていて、几帳面な和美の性格が出ているなと、健一は感心しながら見入っていた。一通り興味深く部屋を見回した健一は、ベッドの上に畳まれて置かれていた洗濯物に目が行った。トレーナーらしき上着とTシャツのようなもの。そしてその上には、ブラジャーがひとつとパンティーが二枚ばかし、一緒に置かれていた。

 一瞬、ドキッとしてなぜか緊張した健一だったが、やがてその洗濯物のほうへ歩んで行き、一番上に乗せられた洗い立てのブラジャーとパンティーを、思わず見つめ続けてしまった。ブラジャーは白だったが、以前に見た、夕立の後で干してあったものとは少しデザインが違うもののようであった。二枚のパンティーのうち、一枚はブラジャーとお揃いのものらしく、同じようなデザインの刺繍が施されていて、もう一枚は薄いピンク色のチェック柄のものだった。

 ベッド脇に突っ立ったまま、しばらくそれらを眺めていた健一だったが、やがてそんな自分に恥ずかしさを覚えたのか、鼻の頭を指で撫で摩りながら、所在無さげに辺りを見回し、和美の勉強机のほうへ行き、椅子に腰掛け深いため息をついた。

(あーあ。なんかあの夏の日以来にドキッとしたな。下着に興味あるなんて、俺って変態か?いや、そうじゃなくって、本当は下着の中身が………。)

そんなことを考えながらも、またいやらしいことを妄想しかけている頭の中をどうにか押さえ込んで、気を紛らわすために、本棚にあった一冊の本を取り上げ、一呼吸おいてから、その本を読み始めた。

 

 本を読み始めてから一時間くらい経った頃、いきなりドアが開いて、和美が部屋に飛び込んできた。

「なあにぃ!? 何で健ちゃんが一人でここに居るのよー!」

 和美はビックリしたような顔つきで、椅子に座って本を読みふけっていた健一を見やり、そう言った。

「なんで、って言われても困るんだけど。おばさんが部屋で待っていなさい、って言ったもんだから。」

「それは今お母さんから聞いたけど。だからって、主のいない女の子の部屋に、男の子一人で勝手に入り込むなんて……。」

 和美はそう言いかけて、ベッドの上に置かれた洗濯物の塊を発見し、そのうえにしっかりブラジャーとパンティーが載せられているのを見て、慌ててそれらを隠すようにベッド脇に飛び移った。

「だからぁ。こういう見られたく無い物だってあるんだからさあ。」

 和美は顔を赤らめながら恥ずかしそうにそういったが、健一はちょっとムッとした表情で答えた。

「そんな目に入りやすいところに洗濯物おいてあるんだから、しようがないだろ。見たくなくっても、部屋に入ってきたら勝手に目に入っちゃうよ。それにおばさんが部屋で待っていろって言ったから来ただけで、自分から勝手に上がってきたわけじゃあないよ。そりゃあ、そこで断るのがエチケットだって言うなら、それまでだけどさ。」

 そう言われると、和美も何も言えなかった。よく考えれば健一は何も悪いことはしていないのだ。自分の母親に、いつまでも子供同士の付き合いに対する気遣いが無いだけで。

「帰るよ。」

 不機嫌そうにそう言って健一は席を立った。和美は、ヤバい、ここで引き止めないとまた気まずいことになる、と思い、必死で言い訳した。

「ごめん、健ちゃん。あたしが間違ってた。健ちゃんぜんぜん悪くないもんね。うちの母さんがちょっと気遣いできてないだけで。あたしも言い過ぎた。帰ってきたら、健ちゃんが部屋で待っているって言われて、いきなりだったからビックリしちゃって、それで。………」

 そう聞くと、健一も立ちかけていた体をもう一度、いすに預けるように座り直した。

「そんな、謝ることじゃないよ。こっちも勝手に入ったのは事実なんだし。」

 そう言いながら、健一はまたいつもの優しい笑顔に戻った。それを見た和美はホッと安堵の表情を浮かべて、健一に再び話し掛けた。

「ごめんね、ホント。ゆっくりしていって。健ちゃん、久しぶりにあたしの部屋に来てくれたんだもんね。」

 そういうと、ようやく和美はコートを脱ぎ、壁に掛けてあるハンガーに吊り下げた。

 和美は、洗濯物をタンスにしまい込みながら、ふと思った。

(見られたものが下着くらいですんで良かったぁ。もし、あんなもの見られたら、あたし絶対嫌われていた。幸い気づかれていないようだし。でも部屋の中、変なところないかしら。まさか健ちゃんが来るなんて考えてもいなかったから、ぜんぜん整理もしていないし。)

 あんなものとは、一昨日オナニーで使用したばかりのローターのことである。今はベッド下のダンボール箱の中に再び仕舞い込んでいるが、同じ部屋の中に健一が居るというだけで、内心ドキドキが続いていたのだった。

(あのときのイヤラシイ匂い。まさか今頃まで残っていないとは思うけど。あたしは自分の部屋だから気付かないだけかもしれないし。………)

土曜日。和美は一度イッてしまった後、再びローターに手を伸ばし、再度イッてしまったのだが、その後入浴し、寝る前になってまたまた体が疼いてしまい、この日だけで結局合計三度もイッてしまっていたのだった。当然そのぶん部屋には自分の愛液などの体臭が染み付いているのではないかと、和美は気になっていたのだった。実際にはそのような匂いを、健一が感じることはなかったのだが。

 

 しばらく和美は制服のまま健一と話を続けていたが、やがて思い立ったように健一に言った。

「健ちゃん、ちょっとあたし、着替えたいんだけど、いいかな?」

 そう言うと、ブレザーのボタンをひとつだけ外した。その姿を見て健一が慌てて、

「ああ、ごめん。じゃあ俺、廊下に出ているよ。」

 と、当たり前のセリフで和美に答えた。和美は、当然健一はそう答えるだろうと予想していて、すぐに返答した。

「いいよ、健ちゃん、そのままで。部屋の中に居てくれても。」

 健一は一瞬、えっ?、という顔をしたが、和美はさらに続けて、

「あの、着替えるとこ、見ないでいてくれれば、それでいいから。」

 和美にしてみれば、ずいぶんと勇気のいるセリフだった。ただ着替えるだけで、エッチなことをするわけではないにもかかわらず、健一がいる同じ部屋で下着姿になるということに、正直抵抗を感じなくはなかった。しかし、この程度のこともクリアできないようだったら、この先健一との仲を発展させていくことなんて絶対出来ない、そう和美は思っていた。

(なにも健ちゃんに見られながら着替えるわけじゃあないんだし。大丈夫だよね。)

 そう思う和美。

 健一も、最初どうしようか迷っていたが、和美がそう言うならと納得し、

「じゃあ、こっち向いているから、着替えなよ。」

 そう言って、勉強机のほうを向いて座り直した。

 

 和美は健一が反対のほうを向いてくれたことを確認すると、ブレザーのボタンをすべて外し、そして脱いだ。一度ベッドにそれを置いて、スカートのジッパーに手をやって下げ、フックを外すと一気にスカートを足から抜き去った。白いカッターシャツの裾から、ピンクのパンティーと可愛らしいお尻が露になった。

(見られていないって分かっていても、やっぱり健ちゃんが傍に居るっていうだけで、恥ずかしいな。)

 そう思いながら着替えを続ける和美だったが、じつは健一には、この和美の着替えシ−ンが一部始終見えてしまっていた。健一は確かに机に向かって座りじっとしていたが、ちょうど健一が向き合っている机の斜め右隅のほうに、和美が普段の身繕いなどで使っているのであろう手鏡が、ちょこっと立てかけられており、その鏡の方向が見事に和美の着替えシーンを映し出してしまっていたのだ。健一は、見たら和美に悪いと思いつつも、下着姿を見てみたいという欲望には勝てず、つい目をチラッと、そのうちにじっと、鏡を見続けてしまっていた。

 

 和美は上半身カッターシャツ、下半身はパンティー一枚という姿になっていた。ピンクのパンティーが健一には眩しかったが、そのパンティーが少しお尻の割れ目に食い込んでしまっており、そのため和美の尻肉が一部はみ出した形になっていたのを見て、健一はドキッとした。

 次に和美はネクタイを解き、シャツのボタンをひとつずつ外して脱ぎ去った。パンティーとお揃いであろうと思われるピンクのブラジャーの、肩紐と背中の部分が鏡を通して健一の目の中に飛び込んできた。次に和美は通学用のソックスを、立ったままで片足ずつ取り去る。お尻を健一の居る方向に向けていたから、ちょうど前かがみになってお尻を健一に突き出すような仕草となり、健一にはたまらない悩ましげな姿に見えた。両方脱ぎ終えた和美の身を包むのは、ブラジャーとパンティーだけになった。

 和美は健一に見られているとは知ることもなく、ブラジャーとパンティーだけという姿のまま、制服とシャツをハンガーにかける作業をしていた。そのとき和美は初めて健一にブラジャーのカップを見せるように、横向きになった。夏に見たブラジャーのサイズに比べ、少し大きめに見えるカップだったが、あまり細かいことまで健一にはよく判らなかった。パンティーの前部分はよく見えなかったが、特に何の飾りもついていない、シンプルな形のようだった。

 和美は横を向いた姿勢のまま、部屋着用のソックスを履こうとしていたが、立ったままの状態で前かがみになって履こうとしていたため、ブラジャーのカップ部分が少し緩んだ状態になり、その瞬間、和美の乳房の大部分が見えてしまったのだった。色白の乳房で、カップの大きさの割には小ぶりなようにも見えたが、鏡を通じてではよく分からなかった。また、白い乳房の先端には、その周囲とは異なる色の部分が見えたような気がしたが、健一にはそれが乳首や乳輪部分であったのかは、これまたよく分からなかった。

 ソックスを履き終えた和美はTシャツを着て、ジーンズを履いた。ジーンズを太股の辺りまで持ち上げたとき、一度手を止め、和美は両手をお尻のほうへ回し、割れ目に食い込んでいたパンティーのズレを直した。そのしぐさにゾクッとする健一。やがてジーンズが和美のお尻を包み込むと、ようやく和美のセミヌードショーが終わりを告げた。和美がTシャツの上からセーターを着ると、健一は鏡から目を離した。

「健ちゃん、もういいよー。」

 和美がそう言うと、健一は座ったまま椅子を回転させて、ゆっくりと和美と向き合った。和美はセーターの裾部分を直しながら、ちょっとはにかんだような笑顔を見せた。

(ちょっと緊張しちゃったけど、終わってみればそんな大したことじゃあなかったなあ。)

 和美はそう思いつつ、ベッドに腰掛けた。健一に、着替えの一部始終を覗かれていたとは知らずに。

 

 その後、しばらく部屋の中で雑談していた二人だったが、やがて健一が試験勉強もあるからと言って、帰ることにした。健一は、実はすぐにでも帰ろうと思っていたのだったが、和美の着替えシーンを覗き見するうちに、ペニスが勃起を始めて堅くなってしまったので、普通の状態に収まるまで、しばらく耐えていたのだった。

 途中まで一緒に行くという和美と共に、家を出る健一。まだ夕方の6時前だというのに、12月の空はすでに真っ暗になっていた。二人ともコートを羽織り、白い息を吐きながら並んで歩いていた。

しばらく黙り込んだままの二人だったが、やがて和美が口を開いた。

「ねえ、健ちゃん。」

 と、健一に呼びかけただけだったが、和美が何か言いたそうにしているのは明らかだった。

(もしかしたら今が自分の気持ちを伝えるいい機会かもしれない。家だと家族が居たりして落ち着かないし、ましてや学校だと周りに友達が大勢いて、二人きりになれない。通行人は自分たちだけみたいだし。チャンス!)

 そう考えた和美は健一に話し続けた。

「ねえ、健ちゃん。」

「ん?」

「健ちゃん、あたしね。その、あたし、あたし、………。」

 あたし、まで出てそこから先が喉元につっかえて言葉になって出てこない。和美は自分で自分のことをもどかしそうに思いながら、何とか続く言葉を捜していたが、結局

「あたし、……次の試験がんばるから。健ちゃんも頑張ろうね。」

 という、当り障りのない言葉しか出てこなかった。

(ああーん。言えないよぉー。こんな緊張しちゃって。あたし、やっぱ駄目だぁ。自分から告白なんて、絶対出来ないよぉー。)

 心の中で、そう嘆く和美。すると、今度は健一が和美のほうに向かって話し掛けてきた。

「和美。」

 ふと歩みを止める健一。和美も23歩先に進んだところで立ち止まり、健一のほうを振り返った。

「なあに?」

「和美。俺さあ。和美のこと…………。」

 そこまで言いかけて、言葉を詰まらせた健一。和美は直感した。

(やだ、これってもしかして。告白? うそぉ。やだ、健ちゃんのほうからあたしに告白してくれる。そんなぁ、嬉しいけど。とっても嬉しいけど、でも。あたし、どうすればいいの? 聞いているだけでいいの?)

和美は落ち着きなくあれこれと心の中で思いを巡らしつつも、外見上は健一の次に出てくる言葉を冷静に受け止めようとしていた。

「和美のこと、俺。俺………。」

 しばしの沈黙のあと、ようやく健一が言葉を続けた。

「俺、和美のこと……期待してるから。」

「はっ?」

 一瞬、健一が何を言ったのか、理解できない和美。さらに続けて健一が言う。

「クリスマスパーティー。今年は和美が料理を作るって聞いたから、楽しみで、期待しているんだ。頑張って美味しいもの、作ってくれよな。」

 ようやく、和美は健一の言っていることが理解できた。毎年、松下家と遠山家は家族全員でクリスマスパーティーをすることになっている。今年は康子や和代から教わった和美が、初めて料理を担当することになっていた。健一はそのことを言っていたのだった。

「ああぁ。そう。クリスマスね。料理。頑張る。うん、頑張って美味しいもの作るから、期待していてね。」

 和美はそう言って、ニッコリ笑って健一に答えたが、それこそ期待していた内容とはまったく違った健一の言葉に、すっかり気が抜けてしまっていた。

(なによー。健ちゃん。てっきり告白してくれるものとばかり思っていたのに。期待して損しちゃったよ。)

 心の中で不満を漏らす和美。だが、

(もしかしたら、健ちゃんも告白しかけてやっぱり言えなくって、それで変な話題を持ち出したりしたのかも。)

 そんなふうにも考え始めていた。確かめようもないことではあったが、その和美の思惑は当たっていた。

(和美ぃ。そんなにじっと俺のこと黙って見つめ続けられたら、照れちゃって言えないじゃないか。せっかく良いチャンスだからと思って、腹をくくったっていうのに。)

 そうぼやく健一。健一も、和美の家を出たあたりから、告白しようかどうしようか、迷っていたのだった。そして和美と同じく、二人きりで歩いている今なら良い機会だと考えたのだったが。

「それじゃあ、あたし、この辺で。」

「ああ、そうだな。それじゃあ、また。」

「うん、また明日学校で。」

 そう言って手を振って別れ、それぞれの家に帰る二人。告白一歩手前まで行った自分を、一歩前進したと受け止めている反面、やっぱり言う勇気がまだないなと、ため息をついてしまう健一と和美だった。


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