俳 句・水澄みて羊肥える所

このページには、2000年2月〜先月分まで、ホームページに上げた俳句を 一覧できるようにしました。 私は「鬣TATEGAMI」などには、テーマでもって俳句作品を 書いていますが、ホームページの俳句作品はより自分の身近なところ、 日々動いている心の様子を、毎月の俳句として載せています。 佐藤清美


うたかたと人魚をしまい海の蔵
鎌倉や指は夢見る形にて
立春の光をもらい来し仔犬
春の夜や星を並べてオセロをし
祝祭に満ち来る星の下一人
蒼天にふるえ言の葉飛び立てり
海風のうぐいす止まれ絵の中に
鳶の上がる海懐かしき寂しさよ
ほくほくと歩いておれば蕗の薹
雪月花漆の国に玉手箱
曇天の海続きおり旅眠し
子らの目に島どこまでも湾曲す
海の旅より澪標となる身かな
返信は飛行機雲に春の暮
目に虫の棲む時刻なり不可知論
春愁のビス打ち込まれ今日晴れて
桐の花咲きたる上に媼いて
夏きざし三半規管に潮満ちる
少年の数ほどもある木下闇
オーロラの通話中なり磁気嵐
燃え尽きて夜を無音にフィラメント
熱風を水圧とせし抜手かな
熱風を断ち切っており昼の月
何事か決めたる夢を見し晩夏
鬱の日の痛み止めなり時刻表
晩夏光置き去りにされるもの幾つ
目の端に荒野を捉え万霊節
起き抜けのまなこ埋めおり羊雲
根の国の虹を拾って歩くかな
街灯のふつりと消える犬の朝
一夜経て冬の滲みし空となる
いくたびか刀自探したる遠野かな
もみじ坂涅槃に続く黄金(きん)であり
水脈の消え入る所冬の声
小春日を因数分解する教室
立冬や犬と見る空モノクロに
町角に声を残して冬ごもり
年の夜神の寄りこむ家があり
日を記す指先におり寒気団
水仙の水ゆきわたる匂いかな
ひととせをかけて蜘蛛の巣育ちおり
オリーブと月が待っている詩人
なくした思いの幾つ春の雪
老木の画龍点睛梅の花
春の暮雲は金魚にもう少し
桃咲くやじゃんけんかごめかくれんぼ
墜落のパエトンまで虹を架け
花闇に身を沈ませし映画祭
折り詰めや父母のなき世も桜見て
聖五月殺めし鳥の目の中に
次郎まで桜結びに園遊会
水纏う一日は夢に囚われて
春の窓千々にガラスの花咲いて
滴りに列車待ちおり山の駅
転生の見えそうでいて天気雨
鯨ゆく空の雲湧くところまで
こわっぱは滑り降りたと夕の虹
昨日より影見つからぬ夏曇り
堪えきれぬ顔して空も雷雨待つ
アルバムに貼るのに足りず夏惜しむ
百日紅熱の眼で見し空の色
月兎くまなく団子集めけり
白秋や井戸の小石の鳴っており
潜水し浮上のきわの常世かな
塵芥飛ばして風の冬はじめ
支障なし十一月の明るくて
地に海にユメスミネズミ何匹いる
クリスマスオーナメントは片翼のみ
初明り夢のはやさで夜を越え
歌はつばさ海へと伸びる滑走路
一人野を行く心地して雪明かり
ようやくの立春小吉缶蹴りす
シーソーを揺らし三月始まりぬ
花吹雪思考を一時停止して
桜山遠く灯りのさざめいて
天心に光るはがねの薔薇である
ビルの間を空色に変えグライダー
麦秋の日々日に溶けて軽くなり
病みながら海辺の夏を夢に見て
夏至の空黄泉までをゆく蝶となり
曇天の光のままに夏椿
夢の一つ此の世の果てで待つ母ら
飛行雲午睡の夢の空に伸び
しらしらと夏の路上のカエルの死
鬼蓮の目覚めもおもむろであるか
空に風に終わり近づく夏の旅
花道や蝦夷にアテルイあり吹雪
羽持ちたしウスバカゲロウほどの
多忙にて踊るは子犬のワルツかな
母と行く萩の小径の通りゃんせ
諸々が抜けたり秋の狂詩曲
「めぐり逢い」学生一枚薔薇匂う
家路にて一つしあわせのチョコレート
はらぺこでプーさんと行く秋の森
一息に駆け上る坂明けの春
身に沁みて母の雑煮に湧く勇気
茶を一服朝を始め年を始め
ほのぼのと夜明けを灯す雪浅間
自若自若氷の世界に踏み出して
春隣空地に犬のための空
冬の闇道の奥では雛の市
待てるのは落雁舌でとけるまで
春浅く嵐が止めばまた嵐
たったその一会のために沈丁花
伝奇考暮れては蝶となるべきか
花嵐海への旅の始まりに
鳥を追う五月に潤むまなこにて
手をつなぎ五月の庭に立てば夢
問い一を解けねば問いは百の花
色のない七月を抜け楽園へ
食卓に並べば緑光り合う
雨に沈む夏はこれからだというのに
グロリオサ散るがなんだというのでしょう
つかの間の九月明るい夢を見て
我が星座夕星一つづつ選び
まなざしは空の十月探し出す
耳の奥に十一月の細い月
星月夜夢見るゴッホの夢を見て
旅をしていつもあなたが懐かしい
電飾の一つは灯るわが心
冬楽しはぐれ台風来ていれば
健やかに夢見も良くて来る明日
佇めば暮れる無音の雪の庭
かなしみにみかんを積んでお正月
青空に軌跡を追えば雪の華
ともかくも人を殺めぬ春を待つ
何処へか旅する鉄路霜の朝
梅満開古代の風の吹き抜けて
別れては巡る三月花を待ち
零れても夢ユキヤナギほどほろほろ
目覚めたら探さなければ春コート
約束をひとつ果たして花の下
海に来て足跡を消す聖五月
病めば行く五月の風の吹くところ
昼寝覚め古い恋歌くるしくて
龍宮へわたしを運ぶ波を待つ
今日の日も風の麦秋生きていて
日々負けてあんずジャムにははちみつを
ひとしきり森を濃くして夏の雨
身に水を満たし夏の日健やかに
言の葉もひと息をつく秋休み
夜の奥雨に輝き秋祭り
餓えては十月の空深くなる
日は昇り地の揺れ止まず凍てる町
神木はまた春を待つ姿して
冬青空白く蕾をたくわえて
かくれなき冬日が路に落ちている
初御空望み少なく健やかに
雪は降る富士は彼方に在るはずで
春を詠む誕生月の始まりに
今日の日を大事だいじに雛の姫
目つむれば優しき光春の雪
他意なくも打ち込まれしは薔薇の棘
別れるも逢うも青空花の下
ひたひたと犬も駆け行く花の闇
燕来てこの風を喜んでいる
昼眠く熊ん蜂たち影いくつ
田の水に雲は流れる身は鳥に
六月はどこまで昇る空の夢
誘われて山には白い花あちこち
梅雨つづく浅い眠りに溺れては
水を遣り死者の声聞く月となる
怠惰なる夏は夕暮れまた夢に
漂泊よ海に海猫山に猫
なつかしき秋には思う遠くの野
秋光に佇み愛も止めている
岸辺にて秋には秋の声を聞き
ときめきは金木犀に逢うために
捨ててゆく秋の真中の静かな日
冴え返る空の隅には雀いて
身に沁みて霜月の朝濡れている
銀河までマフラー巻いて咳の人
月替わりポインセチアにうきうきし
保留して兎にも角にも年の暮
ボクはまっさら夜明けの蒼を抜けてきて
初参り今年の夢の儚くて
歓びを夜を照らしている雲に
夜にもはややがての春の風混じり
春の雪返信いまだ届かずに
春寒にだいじだいじに飴なめる 
花咲いて夜へ夜へと誘われる    
飛花落花夢の中まで探す音
坂下に転がるこころ春の夜
廃屋は新緑の中わたくしも
身にならう梅雨の空の光り方
射す光屈託ひとつ夏の朝
内側の底へミューズを連れ出しに
微炭酸雨の光の中にいて
梅雨の闇眠る睡りをねむれずに
いかように煮ても焼いても夏の雲
八月は何もかも叶うかと
風を連れ九月の鳥は庭に来る
秋光に失われてゆく背の翼
短くも秋祝祭の子どもたち
あわあわと晴れれば秋は幸福に
あきふゆのあわいこわれるおとがする
モミの木を飾ろうあかりを灯すように
年の果て回収できない昨日のわたし
新しく旅を始める今日があり
凧あげて明日のわたしも風まかせ
あなたへの手紙に春は隣にと
春立つ日声を遠くへ届けねば 
春浅く刺ある日々に休まらず
終映のスクリーンには花の闇
けものらの山にも花の日々は来て
鯉幟闇に遡上を試みる
夏の夜の灯りは甘い輪郭で
水無月の星の交信ハローハロー
途切れては歌は誰かの胸にあり
朝澄めばウグイスの森近くなる
さきわいを織姫の名を持つ人に
あきらめるもののひとつにちろるちょこ
水面にも明かりを灯し夏祭り
雲低く垂れこめタイフウがくるんだ
浮き足で台風圏に住む一日(ひとひ)
秋闌けて景色に感光する瞳
立ち込める香りは金木犀雨の
月射して憂いは路のどこにでも
けものにも人にも秋の一日(ひとひ)あり
水仙のいのちをもらう花器であり
老いてゆくことの一つかお元日
また淋し淑気の中に身を置いて
こころにも雪降るけはい満ちている
春待てば豊かに尽きてゆく月日
四十歳雛も出さずに雛祭
三月の明日別れる人がいて
白蓮は空にさざなみ生んでいる
一瞬のごくらくであり桜山
どこへ行こう五月の夢に風は棲み
朝始まる少女木下の闇を踏み
青空の下麦秋にたちどまる
青い宝石殺めて羽は手の中に
地図の旅遠くかすかに夏の海
日雷ひとつは恐がりやの君に
明るくて捉えきれない夏の蝶
秋の旅寂しい景色あちこちに
途上にて花野で尽きてゆく時間
月変わり冬の遊びを考える
母と来て山には冬の桜咲き

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