[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

直線上に配置

バレンタインデー特別企画

SFショートショート


『私を食べて!?』



深夜2時。
ある病院の一室で、
女が小声でボソボソと、
わけの分からないことをつぶやいていた。



霊的な能力の高い人であれば、
女のベッドの脇に立っている
悪魔の姿が見えたかもしれない。



女と悪魔は

魂の取り引きについて

真剣に話し合っている最中だった。




「おまえの命は、
あと2年しかもたない。
悲しいだろうが本当のことだ」



「あと2年…。
まだやり残したことがたくさんあるのに…」



「そこで、どうだろう、
私と契約すれば、
あの男と
3ヶ月間だけつきあえるよう、
私が力を貸そう。
そのかわり、
契約した3ヶ月が過ぎれば、
おまえの魂は、悪魔のものだ」



「ちょっと待って。
それは私が3ヵ月後には死ぬってこと?」



「死ぬのではない。
悪魔に売られた魂は、
死後の安楽な世界へは行けない。
悪魔のエネルギー源となる。
つまり、おまえの魂は消滅するのだ」



「冗談じゃないわ!
好きな男と3ヶ月間つきあうだけで、
魂が消滅するなんて、
割に合わないわ」



「そうかな?
充実した3ヶ月と、ただ生きているだけの2年と、
どちらを選んだほうが賢明か、よく考えるんだな。
おまえは自分が思っている以上に、
あの男のことを愛している。
その思いが、こうして私を呼び寄せた。
悪魔を呼び寄せるほど、恋する気持ちが強いのだ。
しかし、あの男はすでに結婚している。
子供もいる。
おまえが入り込む余地などない」



「あなたに言われなくても、
そんなこと、わかってるわよ」
女はムッとした。



「何度も言うようだが、
私と取り引きしなくても、
おまえは2年後には死ぬ運命なんだ。
少しくらい死期が早まっても、何も困るまい」



「困るわよ!! 
悪魔に魂を売ったら、
私は完全に消滅するんでしょ?
魂のカケラも残らないんでしょ?」


「ああ、そうだとも」


「たった3ヶ月で、
あなたは私の魂を手に入れる。
悪魔にとっては都合のいい話ね」



「そんなことはない。
あの男の気持ちを
妻からそらすのは大変なことだ。
愛し合っている夫婦の思いを捻じ曲げて
おまえと不倫させるのだ。
悪魔の力をもってしても、
3ヶ月が限界だ」



「そんなに愛し合ってるのね、あの二人…」



「そうさ。お前の好きな男は結婚していて、
その上、奥さんを心から愛している。
どうだ?くやしかろう?」



「くやしいなんてもんじゃないわ。
そうね・・・、
このまま何もしないで人生を終えるより、
燃え尽きて消滅したほうがスッキリするかもね」



悪魔は「してやったり」とほくそえんだ。



「そのかわり、私にも条件があるの」


「なんだ?」



「私の魂を悪魔に引き渡す日を、
2月14日のバレンタインデーにしてちょうだい」



「そんなことならお安い御用だ」



「それから、もうひとつお願いがあるの」



「まったく欲深い女だな。
言ってみろ」



「2月14日に私の魂を回収する際、
ほんの少しの時間でいいから、
私の魂を、
チョコレートの中に封じ込めてほしいの。
そして、そのチョコレートを彼に届けてほしいの」



「いったい何をたくらんでいるんだ?」



「彼に食べてもらいたいのよ。
チョコレートに封じ込めた私の魂を。
そうすれば、
彼と私の魂は一つになるわ。
お願い!ほんの数時間でいいから、
私の最期の時を楽しませて」



「フフフッ。おまえも考えたな。
よかろう。それくらいのサービスはしてやるよ」



こうして、女と悪魔の取り引きは成立した。
秋も深まった少し寒い夜のことだった。



悪魔は約束どおり、
女が、愛する男とつきあえるようにセッティングした。



女は幸せだった。
このまま永遠に時間が止まればいいと思った。



しかし、残酷にも時は流れ、
明日は悪魔に魂を引き渡す日となった。


女は男に言った。


「この3ヶ月間、とても楽しかったわ」


「おいおい、急に何を言い出すんだ?
まるで今日でお別れみたいじゃないか」


「そうよ、人生なんて、
ある日突然、終わりになることだってあるの」


「縁起でもない、そんなこと言うなよ」


「ごめんごめん。
ちょっとセンチメンタルな気分に浸ってみただけ。
そうそう、明日はバレンタインデーね。
明日の朝早く、
あなたのお家の郵便受けに、チョコレートを入れておくから、
あなたひとりで全部食べてね。
必ず全部食べてね!」


「明日はどこか行くのか?」


「ちょっと用事があって…」


「ボクには言えないようなこと?」


「たいした用事じゃないわ…」


女の横顔は寂しそうだった。


「わかった。君がそう言うのなら、
これ以上は聞かないよ」と男は言った。


「チョコレートは受け取ったらすぐに食べてね。
絶対よ!約束よ!」
女は念を押してそう言うと、
クルリと男に背を向けて走った。涙が頬をつたった。


2月14日。バレンタインデーの朝。


女に言われたとおり、男は郵便受けをのぞいたが、
チョコレートなど入っていなかった。
新聞が配達されるより早く起きた男は、
まだかまだかと、郵便受けを何度ものぞいたが、
結局、女からのチョコレートは届かなかった。



男は女の身に
「何か大変なことが起こったのではないか?」と心配して、
女の携帯電話に電話をかけ続けたが、
連絡はとれなかった。



では、女はどうなったのか?



バレンタインデーの朝、
悪魔は女の魂を回収しにやってきた。



悪魔は女に言った。
「願いどおり、おまえの魂はチョコレートに封じ込めて、
あの男のところへ届けてやるから心配するな。」



「悪魔って、意外と優しいのね」
女は少し微笑んだ。



しかし、悪魔は女との約束を守らなかった。
素早く女の魂を抜き取ると、
その場でごくりと飲み込んだ。



「まったくバカな女だ。
チョコレートの中に魂を封じ込めろだと?
そんなに高度なワザを持っていたら、
今ごろ俺さまは悪魔ではなく、
天使、いや、それどころか神様になっていたかもしれん。
さあ、こんなところでグズグズしている暇はない。
欲深い人間の魂が、俺さまを呼んでるぜ」


そうつぶやくと、
悪魔は風のように立ち去った。




バレンタインデーにあわせて、急いで書きました。
SFショートショートいかがでしたか?
読んで頂いてありがとうございました。

2004年2月14日



トップに戻る
直線上に配置