俺の名はリュークと言う。
 内乱の絶えないバルメキア帝国の地で傭兵家業を営み、もう十二年になる。
多くの同僚達が、様々な理由で傭兵を辞めていった。
 不具となり、戦士として使い物にならなくなる者。女ができ、もっと安全な、別
の稼業に鞍替えす者。運に恵まれず命を落とした者。
 ごくまれにではあるが、武勲を上げ、正騎士として帝国に召抱えられ、貴族
の仲間入りを果たした者もいた。
 そんな中、幸か不幸か、俺は生き残り続け、傭兵のまま今も暮らしている。
今では傭兵の中で俺の名を知らぬものはモグリと見做される位には、名前の
通る戦士になっている。
 数え切れない程の死線を、俺は掻い潜っててきた。酒場でエール酒の肴に
語られるくらいの、チンケな英雄譚ならいくつか持っている。
 だが正直な所、俺は焦っていた。俺も今年で三十になる。そろそろ傭兵と
しては潮時なのでは、とこの頃思うのだ。肉体的にもピークは過ぎたことを
痛いほど自覚している。まだ若い奴等に戦場で遅れをとることはないが、
長時間剣を打ち交えていると、呼吸に乱れが出るようになった。
 加えて長い間、共に生き残り、傭兵を続けてきた戦友のギースが、
先日ついに傭兵稼業から足を洗った。先月の戦で敵の首領を討ち、その功績
を称えられてバルメキア正騎士に召抱えられたのだ。
 傭兵仲間の間では、ギースの大出世を祝う宴会が三日三晩催されたが俺は
ギースを心から祝福することはできなかった。正直、納得がいってなかった。
あいつがが反乱軍のリーダーの首を刎ねたまさにその時、俺はすぐ隣で戦っ
ていたのだ。首領を討ち取ったのは俺でもおかしくなかった。
 それを察してかギースは俺に、自分の部下として働いてくれないかと誘っ
てくれた。月に金貨三十枚の賃金と(これは俺達傭兵の半年分の稼ぎにあた
る)あいつの貰いうけた屋敷での生活を約束してくれた。これはいち兵卒と
しては破格の待遇と言える。だが、俺はその申し出を断った。
 俺は奴と、あくまで対等な立場でいたかった。ギースの実力は認めていた
が、一対一の斬り合いになれば勝つのは俺だ、という絶対の自信があった。
俺は長剣での攻撃の間に絶妙なフェイントを挟み、もう一本の小剣で相手の
急所を付く必殺のコンビネーションを持っている。俺が片手で扱える剣にこ
だわっているのはそこに理由があった。二刀流は確かに地見だし、卑怯な印
象を周囲に持たれるが極めて実践的な戦法だ。
 それに対してギースは、身の丈程もあるような大きな両手剣での戦いを好
んだ。その戦いぶりは華麗で、豪快で、若い後輩に奴の剣はずいぶんと人気
があった。だが、戦闘は宮廷舞踊じゃない。確実に敵の命を奪うことかでき
ればそれで良いのだ。

 ギースと対等になるために。俺はどうしても名を揚げる必要があった。今
ではあいつは、ちょっとした英雄扱いだ。俺は悔しかった。何としても、あ
いつと同じ高みに上りたかった。
 そして俺の知る限りで、その方法がひとつだけ存在した。

「不死の護符」を手に入れることだ。

 卑しくも戦争で飯を食っているものならば、その名を知らぬものはないだ
ろう。強力な魔力を持ったこの護符は、手にした者に不死身の肉体を与える
力を有している。六百年程前、無敵の戦士としてその名を世界中に轟かせた
伝説の剣闘士が、高名な死霊使いに造らせたと言われている。剣闘士はそれ
以後、どれ程の傷を受けても命を落とさず、実に三百年に渡ってあらゆる戦
争に参加し続けたと、歴史書には記されている。
 その後剣闘士は「不死王」を名乗り、バルメキア南部に聳える氷穴山脈に
迷宮を築き、今も暮らしているというのが専らの噂だ。事実護符を我が物と
し、不死身の肉体を得ようと目論んだ多くの戦士達がその迷宮に向かったが、
誰一人として生還する者はなかった。数年前にはバルメキア王が、噂の真偽
を確かめる為に軍隊を迷宮へと差し向けたが(無論バルメキア王も、不死の
肉体を欲していたのだ)生還した者は十名に満たず、護符を持ち帰ることも
無かった。生き残った兵士達の証言によれば、迷宮内は屍鬼の巣穴になって
おり、おびただしい数の生ける屍達が徘徊しているとの事だった。
 俺はこの護符に自分を賭けてみることにした。迷宮に巣食う無数の屍鬼共
は、恐らく護符を求めて迷宮に入った戦士たちの成れの果ての姿だろう。
「不死の護符」は、死霊使いの邪悪な儀式によって産み出されたものだ。不
死生物と何らかの関係があっても不自然な話ではない。大量の屍鬼が迷宮内
を徘徊しているという事実は、護符が迷宮に存在してることを裏付けている、
と俺は判断した。
 無論これは推測に過ぎない。そんなあやふやなものに命を賭けるなんて、
馬鹿げているのかもしれない。だが、俺はもう傭兵を続ける気がないのだ。
このまま傭兵を続けていては、ギースと対等になることなどできない。あい
つと気兼ねなく付き合う為には、自分を高みへと引き上げてくれる「何か」
がどうしても必要なのだ。俺の考え付く限り「不死の護符」以上にふさわし
いものは無い。あれを手にすれば、俺は戦士としての絶大な名声を手にする
だろう。
「不死の護符」は、あらゆる戦を生業にする者にとっての憧れである。
 それだけは、揺ぎ無い事実だった。
 だから俺は、「不死王の迷宮」へと出向いたのだった。