結局俺は、迷宮に住む事を選んだ。俺が新たな「不死王」となってから既に
一年が経過していた。始めの頃は暗く、じめじめしたこの新居に不満を覚えず
にはいられなかったが一月もすると慣れてしまい、寧ろそれが快適に感じられ
るようになってきた。「住めば都」というやつだろう。今では冷たい石の玉座
が、俺の一番くつろげる場所になる程、成長?を遂げていた。
ここには特に不自由は無い。好きな時間に起きて、好きな時に食べて、寝る。
護符の魔力下にある俺には、もう睡眠も食事も無用なものになっていたが、以
前の生活習慣からだろうか、腹は空くし、眠くもなった。「玉座の間」の西側
にある部屋には天蓋付きのベッドがある。恐らくはかつての不死王の寝室だっ
たのだろう。今は俺の寝床となっている。
食事は屍鬼共に命ずれば、持ってこさせることができた。唯一の女性(雌?)
である元女戦士の屍鬼に調理をさせている。もっとも奴等は既に死んでいるせ
いか味覚を失っており、食事はお世辞にも旨いとは言えない代物であった。
今や誰もが求めて止まない「不老不死」という願望を叶えた俺だったが、そ
の幸福を持て余し始めているのも事実だった。食うに困る事もなく、病に倒れ
る不安も無い。ただただ好きなように、気ままに生きていれば良いのだが、産
まれてこの方傭兵稼業一本でやってきた俺には「好きなように」というのがな
かなか難しかった。退屈しのぎに迷宮近くの森で狩りをしたり、近くの村へ遊
びに出掛けたりもしたが、すぐに飽きてしまった。屍鬼達と余興で戦ってみた
こともあったが奴等の戦闘能力は低く、不死王となった俺の相手にはならなか
った。
「肉男」―クレバス付近にいた醜悪なデブの化物に俺はそう名付けた―とも戦
ってみたが、あの化物は臆病で、少し傷つけるとすぐに迷宮の奥へ引っ込んで
しまった。どうやら肉男は前の不死王にペットとして飼われていた愛玩動物の
ようだった(実に悪趣味だ、と俺は思った。)そんなわけで不安や焦りとは無
縁だったが、退屈で味気ない日々が過ぎていった。
そんな日々の中、ベッドに潜り、目を瞑ると、俺は一人の女のことをよく思
い出した。
ジョアンナ、あの娼婦は今頃どうしているだろうか?あいつは話上手だった
し、床上手だった。俺はジョアンナに特別な感情を抱いた記憶は無かったが(
というか産まれてこの方戦しかしたことのない俺には、恋心というものがよく
わからないのだ)あいつと一緒にいる時間はとても楽しかった。ジョアンナに
惚れていた傭兵は数知れなかった。それも無理はない。あいつは確かにいい女
だ。
そういえば俺が迷宮に旅立つ前の日、あいつは俺に「死の予言」をしたっけ
な。結果的にジョアンナの予言ははずれて、俺は不死王となり生きているわけ
だが、恐らくゼムンの街では「リュークは死んだ」って事になっているだろう。
ジョアンナは、少しは悲しんでくれたんだろうか?今あいつの元を訪れたら、
きっと相当驚くだろうな。
「もう一度ジョアンナに会いたい」
いつしか俺の中に、そういう気持ちが産まれていた。
けれどもゼムンの街に近付く訳にはいかない。
不死の護符を奪われる危険だけは、どうしても避けなければならないのだ。