
ブシュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥッ
俺の全身から血液が噴出した。
この一年の間に受け、護符の力によって修復された傷が、すべて再現されて
いった。バーザルから先程受けた腕、肩への傷。自分でも忘れていた小さな傷。
ありとあらゆる傷が俺の体に再び姿を現した。
そして最後に、俺が護符の力を確かめる為に、自ら左腕につけた傷が、その
姿を表した。
「ははははははははははははは!」俺は笑っていた。
爽快な気分だ。
今、確かに生きている。
俺は目を覚ましているかどうか分からぬバーザルの方を向き、言った。
「護符はくれてやる。勝手にしたらいいさ」
そう言うと俺は、玉座のほうへ歩いていき、冷たい石の椅子に腰掛けた。
全身から血が流れ出している
全てがいとおしい。
最高の気分だった。
体中を伝っていく血液の温度を感じながら、俺は今確かな「生」を味わってい
た。久しく忘れていたこの感覚。悪くない最期だ。
俺は死を覚悟した。
ふと、玉座の傍らに目をやるとちっぽけな「紐」が目についた。
なんだったけな?俺はその紐をじっと見た。
赤茶色の髪で結われ、ところどころに枯れた草が挟み込まれている。
それは、迷宮に旅立つ前、ジョアンナがくれたお守りだった。
頭の中に、様々な思い出が浮かび上がってきた。
はじめてジョアンナの客となった日。
命からがら負け戦を生き延び、
その凄惨な光景を、彼女の暖かい胸の中で話した夜。
敵の総大将を討取って手にした大金で、娼館のスイートルームを貸切にして
ジョアンナと上等のシャンパンを空にした日もそういえばあったな。
そして彼女との最期の記憶。
「お守りだ」と言って、
俺の腕に自分の髪で結った腕輪を括りつけるジョアンナ。
部屋を後にした俺を、見えなくなるまでじっと彼女は見つめていた
その視線を背中が記憶していた。
嫌だ。まだ死にたくない
もう一度、あの女に会いたい。
俺は玉座から立ち上がり、体を引きずって謁見の間の出口へと向かった。
迷宮を出よう。
長剣を杖代わりに歩き、よろめきながら俺は扉を開けた。
扉の向こうには、主を失い、血と肉を貪る獣と化した屍鬼共が、俺から流れ
る血液の匂いに惹かれ、群がってきていた。
ぐおるるるるるるるるるる。
腐敗した肉体を持った、忌まわしい人外の下等生物共が、俺を餌にしようと
待ち構えている。生気を失った眼球。だらしなく開いたままの口からは泡混じ
りの涎が垂れ下がり、ふらふらとした足取りで、こちらへとゆっくり近付いて
くる。
五体、七体、いや、十体はいるだろうか。
俺は残された力を振り絞り、直立姿勢をとると両手で長剣を握り締めた。
「とっととはじめようぜ、化物共!」
怒号を上げながら俺は屍鬼共に切りかかっていった
まだ死ぬわけにはいかない
もう一度、ジョアンナの顔を拝むまでは。