

第194回 リーガル・マインド的憲法論(2003/06/14)
イラク新法なるものが成立しようとしている。イラクの戦後復興に、自衛隊を派遣しようというのだが、憲法の制約上無鉄砲にやるわけにはいかないので、法律で条件を整備しようというわけだ。先年のアフガニスタンと同じであるが、法律で条件が整備された以上、その条件を守ってもらいたい。
もちろん、イラクへの自衛隊の海外派遣の正当性を組み立てる論理は難しい。噂の大量破壊兵器はどこに行った?国連査察団では決して見つけられない核ミサイルや生物兵器をイラクは隠し持っているというのが戦争を始めたそもそものきっかけであり(その意味においてこそ、国連決議の拡大解釈も有効と云うべきだ)、それをまずは見つけなければ道理が立たない。
そんなことをさておいても、自衛隊をどうしても出したいというのが政府の考えである。アメリカの強い要求でもあるだろうし、おそらく、自衛隊の側にも外へ出たいという強い気持ちがあるだろう。
今回の自衛隊派遣が実現すれば、かなり画期的なことである。十年前の湾岸戦争のときにも掃海艇がペルシャ湾に出ているし、アフガニスタンのときにも新法を作って、インド洋で海上自衛隊が活動をしていた。しかし今回は、陸上部隊である。陸上部隊が堂々異国の地を踏むというのはまた特別の感慨がある。公式には、1945年に中国大陸と東南アジアから撤兵して以来ではないだろうか。
その意味で、不肖ナショナリストのMasa.Nが派兵そのものに反対するわけもない。むしろ、慶すべきことだとすら思っているが、しかし、陸上部隊が派遣され、自衛隊がその軍靴で他国の地を踏むとなると、平和憲法の枠内でという解釈はほぼ限界に来ている。
振り返ってみれば、湾岸戦争のときの「小沢調査会」のレポートがすでに解釈の限界だったのだ。どこの国に、憲法前文の解釈を以って本文の意味内容を新たに規定しなおす政治家がいるだろうか。してみれば、アフガン、そしてイラクへの自衛隊派遣は、とっくの昔に憲法解釈の限界を超えている。それを無理に枠内でやろうとするから、「非戦闘地域」で「安全が確認された」ところへ自衛隊を派遣するなどという意味不明の言辞を弄することになる。
イラク各地では、致命的な痛手ではないもののまだ米軍がゲリラ的な攻撃に曝されており、どこに行っても安全な地域などないのだ。敗戦に打ちひしがれ、地域や軍閥ごとの抵抗がない、ドイツや日本のような従順な戦敗国ではないから当然だ。そんなところで戦闘地域か非戦闘地域かなどという議論そのものが馬鹿げている。
憲法を守るために安全な地域へしか派遣ができないというのなら、そろそろ政府も、堂々改憲論議を持ち出してもいいのではないだろうか。
小沢調査会に典型的なように、日本を「普通の国家」としたいナショナリストと呼ばれる人たちも、改憲については及び腰であった。改憲の最大の問題は9条であり、現実には20万以上の兵力を抱え、いまさら他国に進出して領土を拡大しようという野心もない現状で何が問題かといえばおそらく徴兵制だろう。
しかし昨今の戦争形態の変化を見れば、20万以上の兵力に加えて徴兵制を無理に導入することもない、という感覚も共有されつつあるように思う。20万というのは、なかなかの兵力だ。米軍ですら世界中で常備軍は50万程度である。100万以上の兵力を抱える巨大軍事国家は中国と北朝鮮だが、中国はなんてったって分母が多いし、北朝鮮は数だけだ。
問題点をクリアする可能性が高くなっているのであれば、そして、今の小泉政権の力量(人の話を聞かないし、結局のところアメリカの言いなりになるしかないのだという諦念に支えられて政策を遂行する力)からすれば、改憲の可能性は十分にあると思う。
自衛隊は出すけれども、絶対安全が確認されなければ駄目などというのはあまりに暢気な議論だ。この暢気さを打破する方法は、改憲か護憲かに議論を戻すことだ。自衛隊を軍隊と認めてこそ、敵兵が目の前に迫ったときどう対処するのか、自衛隊員にひとりの殉職者も出さないことを優先するのか、といった話ができるようになる。
さらには、現在の論調が暢気なだけではなく、法を遵守するというリーガル・マインドそのものをモラル的に損なっていることも問題だ。明らかに憲法を逸脱した活動を保証する法律を作ろうとしたところで、その法律を遵守せよという気持ちには到底なれない。現実に、先のイラク戦争の折、アフガン新法を逸脱して自衛隊の給油艦が米空母に燃料を提供したばかりである。
姜尚中さんら、反ナショナリズムを訴える人たちの意見に同調するわけではない。しかし少なくとも姜さんの論調に敬服するのは、彼がリーガル・マインドの喪失を嘆いており、その喪失が、たとえば在日朝鮮人の問題などでどれだけ暴力的に機能するか、ということを訴えているからだ。そういう意味では、彼は大変「当たり前」のことを常に言っている。
あまりに暢気な議論をしているので、昨日は与党3幹事長がアメリカ大使公邸に呼ばれ、アーミテージ国防副長官から叱咤されたらしい。先日は野中、古賀、青木3幹部が首をそろえて公邸に呼び出されていたし。情けない国だ。