第428回 韓国・壊れゆく近代国家(2005/07/19)

 

 自民党の山崎前幹事長がソウルでお友達の韓国政府の外交担当大臣に聞いてきたところによれば、北朝鮮の金正日朝鮮労働党総書記は「日朝国交正常化を望んでいる」のだそうだ。

 それだけのニュースと思われるかもしれないが、これは非常に嘗めた態度である。かりにも一人前の国家同士が、別の国経由でメッセージを発するというのは嘗めている。嘗めている裏には、画策が透けて見える。

 これには三つの効果がある。ひとつは、六ヶ国協議を前にして日本をまともな相手とみなしていない、日本を軽視しているという姿勢を示すことができること。本来ならば直接伝えるべき内容を別人を介して伝えるというのは、東洋的伝統に則れば、皇帝をはじめとする貴人と庶民の落差である。もちろん、まともな近代国家のすることではない。

 二つ目は、韓朝の南北関係の緊密さを、さらに言ってしまえば一体感をアピールできること。そして三つ目は、南北のどちらが優位かというときに、南をスポークスマン扱いすることで北の優位を示すことができること。しかしかりにも、相手を貶めるような発言を安易にしてはならないというのは国際関係の礼儀である。

 

 翌日になって、韓国外交通商省はこの発言を否定した。それは山拓さんの勘違い、ということのようである。

 確かに山拓さんなら勘違いしかねないが、しかし、それ以上に、韓国政府の幹部が日本に金正日の意向を伝えた、ということのほうに真実味がある。山拓さんと会談したこの大臣、平壌を訪問した際、帰りの飛行機に乗る直前に金正日との面会可能との知らせを受けて尻軽々、嬉々として面会に行き、食糧支援の約束までしてしまった人物なのだ。

 みずからが背負った国家の体面が潰れていることを痛痒も感じないその外交センスには、朝鮮日報すら苦虫を噛み潰したような論評をしていたほどである。山拓さんの勘違いし「かねない」以上に、この大臣の言い「かねない」危険のほうが、どうも高そうに思える。

 

 実際、昨今の韓国は、左派万歳、右派や親日派は穢れているとまで考えている節がある市民派弁護士大統領のもとで、少々おかしくなっている。おかしくなっているというのは、モダニストである僕の立場からの意見だ。つまり、基本的人権とか、市民の権利とか、機会の均等とかということに関心ある人間ならば、ということである。

 統一は民族の悲願だというのは分かるし、反日気分が盛り上がるのもまあ積年の恨みだからしょうがない。しかしその前に、かりにも近代国家であるならば、一党独裁、トップは世襲、万能の指導者のもと、体制と異なる意見を持てば勿論、体制に従順であったとてトップの心変わりひとつで強制収容所に送られ非人間的な生活を送っている国に一言もの申すべきであろう。

 しかし現在の韓国にはまったくその気配がない。一時期は日米韓というのは経済的な豊かさに裏打ちされて最も自由な国なのか、と僕は思っていたことがあったが、アメリカは勿論日本においてもそれは錯覚だったといたく恥じている。

 

 昨今のホワイトハウスの判断は文字通り神憑りを見せ始め、『スター・ウォーズ』に象徴的な、キリスト教的というよりはゾロアスター教かマニ教といった異教に近い善悪二元世界を現実世界に投影しつつある。それをよりちゃちなかたちで日本政府も再現しつつある。

 韓国もまた同様に、理性的判断を失わせる思考停止型の二元論に陥っているようだ。これは、日本は鏡としなければなるまい。盧大統領の政策は、本来近代の価値観に忠実で論理的であるはずの市民派政治が、突き詰まるといかに訳の分からないことになるかという典型例になりつつある。しかも、それが日米とは逆側に、すなわち、北朝鮮寄りに走ってしまっている。もはや、民主派であるはずの人間が民主的価値を結局放棄してしまうという笑えない矛盾に嵌ってしまっているのだ。

 これを可能にしているのが、アメリカでは善悪二元的な世界観、日本では小泉首相がやっている「イエスかノーか」のチキン・レースによってもたらされている思考停止状況である。おそらく、韓国でも同じような状況にあるのだろう。韓国が今後どのような政策を取ろうとそれは自由ではあるが、まずはこの、思考停止を止めないと日米と韓国の亀裂を無意味に深め、無用な混乱をもたらす危険水域まで来ているように思う。

 

 これは単に政治や思想の問題ではない。もうひとつ注目しておくべきことがある。

 この種の思考停止に力を貸しているのは当然メディアの強い力である。そしてメディアは、日米韓いずれでも資本と強く結託している。韓国でも同様だ。テレビはもちろん強い影響力を持っているし(いくら冬ソナとはいえ21世紀にもなって70%超の視聴率はそれはそれで異常である)、よく知られているが、ネットの普及率も韓国は日本を上回っている。

 韓国を代表する資本グループ現代は、北朝鮮との結び付きを推進している主役だ。既に大量の資本を投下し、資金援助も陰に日なたに行い、食糧支援等の輸送車を自社の車で行っている。その結び付きは、贈賄疑惑で自殺したグループの幹部の追悼集会が平壌で行われるという異常さである(南鮮の反動による陰謀によって死に追いやられたのだそうだ)。

 最近も、グループの幹部が平壌で金総書記と面会している。その手土産が、韓国政府が発表した食糧支援と経済援助、さらに光ファイバー通信網の敷設である。これに対する共和国の“褒美”は、これまでの金剛山に加え、軍事境界線のすぐ北にある高麗王朝の古都・開城と、共和国のみならず民族の聖地である白頭山(金日成・金正日父子の誕生の地という伝説になっている)の観光開発優先権を現代グループに与える、というものだ。

 

 僕は韓国人ではないが、余計なお世話と知りつつ言えば、ほとんど売国行為である。

 日本は、アメリカ経済と密着しすぎているから(アメリカの債券を大量に買っていたりするから)、アメリカを離れて経済活動をすることは不可能に近い。しかし韓国はそうではないようだ。これから先行き不安定なアメリカ経済にくっついているよりは、北朝鮮、というよりもその向こうの中国との結び付きを重視しているのだろう。

 それは民主国家に対しては裏切りでさえあるが、それを「反日」と「民族統一の悲願」のスローガンで覆い隠す。メディアの強みだ。美人の北朝鮮の党員タレントが南のCMで歌い踊り語れば誰だって親近感を持つ。そのことが繰り返されていれば、核も収容所も人々の脳裏から消えていくのだろう。

 本来そういうことには批判的であったはずの大統領も、いまやメディアの下僕である。そういえば、先の大統領選挙の勝因の一つは、韓国の“2ちゃんねらー”的ネット市民の大活躍によるものであった。まさか、メディアには逆らえないのである。

 もし南北融和し、統一が事実上成り、一般の韓国市民が抑圧されたとしても、大統領も現代もそのことに見向きもしまい。それは悪意を以って見向きもしないのではなく、あたかも、それが彼らにとって当然の報いであると考えられて見捨てられていくのである。

 韓国民のために、忠告しておきたい。反日は結構だ。反日感情が邪魔するなら、日本の拉致問題に協力してくれなくったってかまわない。竹島の領有を主張することもあるだろう。しかし、もっと見据えるべき現実が、軍事境界線の向こう側にはある。それはいつ、ソウルの現実になるかもしれないのだ。

 

 もちろん、日本人にとっても対岸の火事ではない。『半島を出よ』のように北朝鮮軍がやってくるリスク以上の危険が充満しつつある。最も人民民主主義的な素振りをした政治家が、メディアを煽り、メディアに煽られているうちに、「人民」にとって最も基本的な民主主義が失われていく。

 人民の味方だと自分を思い込んではいるがその実異論に不寛容で人を切り捨てることを辞さない政治家、思考を停止させる常時二択の思想、そして金になるなら何でもやり自己の矛盾を認識することもない資本。

 要素は、わが国にもすべて揃っているのだ。

 


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