第477回 国政調査権はいいけれど、返す刀に要注意(2006/02/21)

 

 意外と早く民主党は崖っぷちに追い込まれてしまった。問題をぶち上げた当の永田議員は雲隠れ、党首は強気なことを言っているが何も補強資料はない。これが芝居だったら、すなわち、一度死に体になって自民党をいい気にさせておいて一挙に逆襲というプランがあるのなら、僕は敬服してこれまでこの党を貶してきたことを深く謝るが、これまでのこの党の行動からしてそれもあまり期待できない。何しろ、党自身が「メールの真偽を証明することは難しい」とのたまってしまったのである。そんな資料を基に国会論戦を挑んだ自身の見識が問われる話だ。

 

 証明することは難しいから、送金の事実に絞って国政調査権を、という主張にズラすようだが、そんなもので国政調査権の発動を認めてはならない。これは、自民支持か民主支持かというのとは別次元の話だ。調査権は伝家の宝刀だ。その意味は、たとえば、令状なしで銀行に私的取引の資料提出を命じたり、ふつうは絶対に開けることが許されない信書の開封を郵便局に命じることができる、すなわち重大な私的権利の侵害をもたらす危険を負っているということだ。

 社会全体として考えたときに、こういう制度がないほうがいいと云っているのではない。ただしその運用については、自分の身に降りかかってきたらどうか、ということを基準として考えるべきだ。

 

 今は、調査権を発動すれば、塀の中にしゃがむホリエモンと、BSEの感染が疑われる幹事長をとっちめる手段としては快感かもしれない。しかし、これが濫用されるような基準を作ってしまっては、返す刀で我々がバサバサに斬られる。人間生きていれば、一つや二つ反政府的行動はあるものであるし、だからといって合法な反政権活動だったら文句をいわれる筋合いはない。

 国政調査権はそれを斬る力を持っている。オチオチ銀行取引もできないし手紙も書けなくなる。発動はよほどのことであり、残念ながら、あんなメールのコピー紙切れ一枚でどうこうされる類の話ではない。そんなことを認めれば、あの、前原さんの引きつった笑顔による爽やかな知的恐怖政治が開始されることになる。そう、民主党は笑いながら、その本質のどこかで、世間をこき下ろしているところがある。知的でない、スマートでない人たちを、知的でない、スマートでないという理由でバッサバッサと斬り捨てかねない。そこに扉を開くことは、何としても避けたい。

 

 前にも書いたけれど、永田さんは以前、自分の追求が不発に終わったとき、「世論がついてこない」と不満を露わにしたものだった。しかし今回に関しては残念ながら、世間知らずの永田さんよりは世論のほうがまだ良識があったというべきだ。そして永田さんの最大の問題は、自分の名を挙げんばかりのこのメール騒動によって、かねてから噂されていた、前回の選挙における武部幹事長とホリエモンのかなり怪しい金の流れがあったのではないかという本質的な問題から、世間や政治の関心をメールの真贋にずらしてしまったことにある。

 本当に知りたいのは金の流れのほうだ。選挙素人だったホリエモンが自在に、つまり違法に金を動かしたという傍証はあちこちにあり、そこに自民党も深く絡んでいたと推察させる状況証拠もある。それなのに、話をメールの話にしてしまった永田さんの責任は重い。おそらく、数年ぶりに訪れた反小泉・反自民の風に乗って世論が熱狂的に雪崩を打つと踏んだのだろうが、さすがに甘かった。

 

 今日の党首討論で前原さんが一発逆転することができるか。いや一発逆転とかではなくて、短い討論時間で議論のターゲットをメールの真贋から金の流れに修正し、さらに、国政調査権の発動を求めるところまで持っていけるかどうか。小泉さんは余裕綽々に、メールの真贋を問い、永田さんの責任を問うてくるだろう。前原党首に課せられた使命はあまりに重く、失敗すれば党の崩壊につながりかねない。

 日本の左翼を徹底的にダメにした民主党が崩壊しても、僕としては痛くも痒くもないのだが、いちばん困るのは微妙に延命され小泉政治がサポートされてしまうことだ。事実、民主党はその党勢を、自民党と戦うことではなく社会・共産両党の勢力を食い潰すことで成長してきた。賢い、アメリカ留学MBA取得松下政経塾出身、という散々な匂いのする世間知らずの政治家を多数抱えており、そのことは、似たような匂いを持ちつつも民主党とは違って自分をカモフラージュする術にも長けている小泉政権を助けてきた。

 今回も次のようなシナリオがありうる。メールの真贋について追い込んでいけば自民党は負けないだろうが、あまり追い込みすぎると実は抱えている不透明な金の流れに世論ないし検察の関心が向いてしまう。一方民主党も、あまり追い込まれると党の崩壊につながりかねない。そこで、メールの真贋だけに実質的に論点を絞り、永田議員、あるいはまかりまちがっても武部幹事長の切り捨てだけで済ませお互いなかったことにしよう、というわけだ。こればっかりは困る。今回困るばかりか、これからもずっと、困ることになる。僕のような考え方をする人間が困るわけであって、もし僕が小泉さんなら、やはり民主党をぬる〜く延命させるだろう。

 その意味でも、今日の党首討論の結末は注目だ。あと、そろそろ、無言を貫く小沢さんの出番なのだが、なかなか出てこないね。

 


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