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第50回 オランダ・イタリア紀行 Vol.13
ああ、もう疲れた。歴史が長い街の歴史を語るのは疲れる。
ここから先は、キリスト教の街ローマを語ることになるのだが、それをきっと街を歩きながらでも紹介できるだろう。というわけで、とりあえずローマに到着しよう。スキポール空港を飛び立っておよそ2時間半、北海沿岸からヨーロッパ大陸をほぼ南に下って地中海沿岸に出る。機上から、イタリア半島が見える。イタリア半島は山がちだといわれるがそれも日本と比べれば何のことはなくて、緑色をしたなだらかな丘がゆっくりとした傾斜で海につながっている。
やがて、広い海沿いの平地が見えてきた。さらに接近するとそこが空港であることがわかる。レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港である。ローマの南西およそ30kmにあり、地元では空港が所在する街の名前、「フィウミチーノ」と呼ばれている。ただ、KLMのチケットにも「スキポール→フィウミチーノ」と書かれていたから、より一般的な呼び名なのだろう。無事ローマに到着したが、いきなりイタリア人の能天気さにやられる。いつまで経っても手荷物が出てこない。一時間経っても出てこない。いらいらして、担当のアリタリア航空の社員をつかまえて文句を言ったら、「まあ、そのうち出てきますよ」と軽くいなされる。いなされた理由はもうひとつ、オランダ人と違ってイタリア人はみんながみんな英語がバッチリ、というわけではないのだ。しかし国際空港の航空会社の社員がこれでは不安だ。
さらに30分ほどすると荷物が出てきた。いったいどこの便の荷物に紛れ込んでいたんだ?その上、外は傷だらけのローラ状態になっていた。まったくひどい扱い方だ。ノートパソコンをトランクに入れておかずによかったよ。
空港からローマまでは、鉄道で一時間ほど。イタリアも近代国家をつくってから結構頑張ったおかげで、鉄道は発達している。到着する駅は、テルミニ駅だ。走っていると、こんな古代ローマ時代の遺跡が見えてくる。否がおうにも期待は高まる。
テルミニ駅は、ムッソリーニによる市街地再開発のときに作られた、機能的な駅舎である。最も写真手前側の白い部分は、1960年のローマオリンピックに際して増設された部分らしい。
テルミニ駅といえば、古い映画ファンにはたまらない、ヴィットリオ・デ・シーカ監督によるネオレアリズモの名作『終着駅』の舞台である。『終着駅』の原題はStazione Terminiだから、そのまんまですね。イタリア全土、そしてフランス、オーストリア、スイスへの国際列車もこの巨大な駅へ滑り込む。この駅は、ローマ市内の中でも最も治安が悪いところとして不評である。だが、到着が夕方になることはわかっていたので、宿はとりあえずこの駅の周辺で押さえておいた。確かに雑踏ではあるが、著しく危険というほどではない。ローマ名物物乞いのおばさんたちには囲まれたが事なきを得た。
日本でもらっておいたバウチャーの地図を頼りにホテルを探して駅周辺をうろうろするが、なかなか見つからない。大通りはともかく、路地は大変込み入っていてはじめてやってきた人間にはほとんどわかりようがない。あきらめて駅に戻り、案内所で訪ねるとここのおじさんは英語で丁寧に教えてくれた。
しかし、ようやくたどり着いたホテルでキーをもらい、部屋に向かうと、何と!エレベーターを降りたらそこから工事中の階段があり、埃だらけのその階段を昇っていくと、工事が終わって内装をしたばかりでまだ埃っぽい部屋にたどり着いた。
バイト数を惜しまず4枚並べたところに、僕の怒りを感じてほしい。ほこりを被ったままの壁、電流計がはみ出た壁、洗面所のコップはビニール製、床はタイル剥き出しで裸足にもなれない。いやもちろん安宿だったら文句は言わない。だが、一泊一万円もしたんだぞ!東洋人だと思ってこんな宿で嘗めやがって!
と怒りに燃えて、カウンターのおっさんに文句を言いに行くが、おっさん陽気に「すまんのお、わしは英語がよくわからんのじゃ」というニュアンスをイタリア語で漂わせて言い逃れる。畜生。しかし夜になってきていたので、ここから宿を探す気力もなく、今日はここで断念することにした。その代わり、といっては何だがうまいものを食いに行く。しかしローマのローマたるゆえん、やはりうまそうなところはそれなりの額がするのでちょっと遠慮していた。おまけに駅近くのレストランにはほとんど日本語のメニューと張り紙が!なおかつ、そこに連れ立った卒業旅行と思しき女子学生たちが!カモだよカモ。あんなの。
そういう、高くて日本語のある店を遠慮しながらウロウロしていると、いかにも老舗のワイン屋にたどり着く。
ワイン屋のおっさんはたいそう愛想がよく、英語もぼちぼちで、ともに語り、赤ワインをグラスでもらった。うまい。そんなに高いワインではないのだが、うまい。もちろん高いワインは当然うまい。だが、安いワインは安いなりにうまいというのがイタリアの長所である、と、これからの三日間でいやというほど実感することになる。この日は、このおっさんに紹介してもらった小さなレストラン、というか、大衆食堂みたいな店で食べた。パスタと、鳥のオリーブオイル焼き。いやトマトパスタの旨かったこと美味かったこと。オランダという食文化の欠損した国からやってきたからなおさら喜びがこみ上げてくる。当然、赤ワインもうまかった。
食の喜びだ。地中海は豊かだ。そして古代文明を生んだのだ。
明日から神聖なるローマ・歴史の旅に出るので、今夜のうちに俗っぽい話は済ませておきたい、ということで、「イタリアテレビ事情」をご紹介しておく。イタリアのテレビ局はけっこう充実しているが、おどろくほどクイズ番組が大好きである。
このクイズ番組。左が解答者で右の男前が司会者。スタジオにはお客さんがいて、そのなかには解答者の奥さんもいる。解答はすべて選択肢形式で、問題が難しくなるにつれ、選択肢が増えていく。そして解答によって与えられる金額もあがる。司会者は、この8択の場合、解答者が答えたのを残して「これはちがいます」「あれはちがいます」とつぶしていって、さんざん時間を使って盛り上げるわけだ。
そう。これがイタリア版「クイズ・ミリオネア」なのである!しかし何と男前のみのもんた!
帰国後、知り合いのイタリア人に聞くと、日本の「ミリオネア」のパクリなんだそうだ。もっとも、日本の「ミリオネア」もイギリスの番組「Do you want to be a millionare?」のパクリだから、これはユーラシア大陸を往復した孫パクリ、ということになる。
なかなか楽しいのは、金額である。リラは桁が多い。デノミをやればいいのにやらないから、レートでいうと100リラでやっと5円である。マクドナルドのビッグマックセットを食べるのに10000リラも払わなければならないのはちょっと気が引ける。そういう国なので、賞金の額が、もとい桁が尋常ではない。おもわず一、十、百、千、万と桁を数えてしまう。
なお僕はイタリア語はテンでわからないが、画面を見てもらうとわかるとおり、質問はすべて字幕で出るのでなんとなくわかる、というしだいである。
これもクイズ番組。なんとさきほどの裏で放送している。左の司会者の後ろには、女好きイタリア人らしく、露出の多い姿の女性たちがスタジオにずらりとならんで立って踊って笑っている。右の解答者は、インカムをつけている。
スタジオにはギャラリーとともにバックバンドがいて、始終演奏をしている。バックバンドが曲を演奏すると、解答者が曲名を答えるクイズ番組だ。
そう。これこそ、(「ドレミファドン」+「音楽は世界だ!」)/2、である!
左の画面で背広を着ている司会者は大変陽気で大声で喋り歌い、みずからピアノも弾く。解答者が正解したときも不正解のときも即興で音楽をつける。後で聞くと、エンリコ・パピという、イタリアでは大変人気のあるタレントらしい。バックバンドには当然ノブさんみたいなおじさんがいて、絶妙の音をつけている。
おかしいのは、日本ではいまや珍しくなったスタジオ生CMをやるのだ。突然音楽が変わるとポップコーンが運ばれてきて、司会者が歌いだす。バックバンドものりのり。後ろのお姉ちゃんたちはポップコーンを回し食べしながら、踊っている。いやイタリア的だ。なかなか楽しい。言葉の意味はまったくわからないが、見ているだけでテンションが続く不思議な番組だった。
当然だが、イタリア人はカルチョ大好きである。サッカー中継は欠かせない。
この試合は、欧州チャンピオンズリーグのACミラン対ガラタサライ(トルコ)。ところがこの試合にミランが負けて、試合のあともえんえん3時間ぐらい、評論家たちが「ミランはなぜ負けたのか」を追求していた。おまけに負けた選手(ボバン)が番組の中継に引っ張り出されて苛められていた。かわいそうに。イタリアでプロサッカー選手をやるのは大変なことだ。しかしミランがどうなろうと、ローマ市民はASローマが絶好調で首位を走っているので、ロマニスタさんたちはご機嫌だった。僕を日本人と見るや、「ナカタ、ナカタ」と声をかけてサポータータオルを売りつけようとしたおっちゃんたちにこのあとしきりに出会うことになる。
だが、俺のサッカー知識をなめると痛い目に遭うんだ。わしはローマよりはラツィオのファンなのである。シニョーリ全盛時代のラツィオは本当に強かった。おんなじローマならラツィオを応援したいところだ。ご機嫌ロマニスタどもよ、日本人をなめるでないぞ。