
水が水に溶けてゆく柔らかさなま温かく海に降る雨
杖の先笑うと言いて盲人が明るい月の光を行きぬ
さみしさが手足をもがれ雨の日の柱にしばりつけられている
雨の粒あとからあとから青き葱つたいて落つる葱の色して
食卓に皿を置きつつ不意にして此の世がとてもなつかしくなる
よく光るきれいな月と思う日も泥のかけらと思う日もあり
いっせいに霧晴れあがる街角に売る鬼百合へ近づく少女
前世茄子なりし茄子 今日あかつきの茄子の木にいる
ねそべりてうす目開けいるワニほどに世に愛らしき物なかりける
林檎を齧りながら思えらくかじるものとかじられるもの
キーウィーを輪切りにするにキーウィーも顔というもの持つあわれなり
夏うさぎセピアとなりて後ろ向き動けない一瞬がある
夕暮の時は危ふし息詰めてまっ赤な月に撫でられている
月夜茸平らな耳を戦がせて動けぬものの荒き息づき
誰を父誰を母ともなさざりしミクロの頃のわれを哀しむ
ここからが頭、ここからは尻ですと、言いつつ白き猫を押さえる
すべっこいずんべらぼーの肌をして牛が来ましたさびしいんだよ
からっぽ という言葉が空っぽの洞へふらふらと我をみちびく
媼ふたり死にたくないねと語りつつ杖突きてゆく空の彼方へ
言葉とは悲しみを盛る器かな 仕方なかったときみは俯く
こおろぎが鳴いているのよこんなにも広い宇宙のこんな小径で
海と空と一つになりて徒ならぬ引きずるような青さであった
昼と夜と入れ代わる時人類は大人しくなる束の間なれど
銀色の煙吹きいる煙突の真下の街はアルツハイマー
濡れることわたしはかまわないのです 犬は傘など差していません
散りたがる花のこころを知りながら風はかたわらを避けて吹きゆく
警察官が警察官を逮捕して悠悠曳きゆく春のあけぼの
顔にまで泥のとばちり刎ねあげて蓮根掘る人こちら向きたり
いつしらず始まりていし人生を生きているから生きているだけ
失うものまだあるらしく生きているいったいぜんたいいつまで生きるの
星は死ぬ時生まれる時も爆発を遂げねばならぬ宇宙おそろし
今宵はも遊びをせんとやほろ酔いの月が太陽に隠れたりして
足音にふうりん草の散るようなそんなさみしさあたりいちめん
以上、高松光代歌集『月光揺籃』『あくる日』より。
あんまりおもしろいので羅列してしまいました。
くわしくは「純泥日記」の「こどもの日日記」を読んでください。モリタより。