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第2節 部分労働者とその道具

さて、さらに細かい点に立ちいってみるならば、まず第一に明らかなことは、終生にわたって同一の単純な作業を行う労働者が、自分の身体全体を、その作業の自動的・一面的な器官に転化し、こうしてその作業に使う時間は、全系列の諸作業を順次に行う手工業者よりも少ないということである。ところで、マニュファクチュアの生きた機構を形成している結合された全体労働者は、まさしくこのような一面的な部分労働者たちから成り立っている。それゆえ、自立的手工業にくらべると、よりわずかな時間で、より多くのものが生産される・・すなわち労働の生産力が高められる(27)。また、部分労働の方法も、それが一人の人の専門的職能に自立化されたのちに、さらに完成される。同一の限定された活動をたえず反復し、この限定されたものに注意を集中することにより、目的とする有用効果を最小の力の支出で達成するすべが、経験を通じて教えられる。なお、また、世代を異にする労働者たちがいつも同時に一緒に生活し、同じマニュファクチュアで一緒に働くのであるから、こうして獲得された技術上のコツは、やがて固定され、堆積され、伝達される(28)。

(27) 「きわめて多様な製造業が、分割されてさまざまな職人たちに割り当てられるようになればなるほど、その製造業は、必然的に、よりよく、よりすみやかに遂行され、時間と労働との損失もより少なくなるに違いない」(『イギリスにとっての東インド貿易の諸利益』、ロンドン、一七二〇年、七一ページ)。

(28) 「容易に行われる労働は、伝承された熟練である。(Th・ホジスキン『通俗経済学』、四八ページ)。

マニュファクチュアは、実際に細目労働者の熟練技を生みだすのであるが、それはすでに社会の中に存在していた自然発生的な職業分化を作業場の内部において再生産し、系統的に極度にまで推し進めることによってである。他方、マニュファクチュアが部分労働をある人の終身の職業に転化させるということは、それ以前の諸社会が職業を世襲化させ、それをカースト〔固定的職業別身分制度〕に石化させ、または、一定の歴史的諸条件がカースト制度に矛盾する個人の変異性を生みだす場合には、それを同職組合に骨化させるという傾向に照応している。カーストおよび同職組合は、動植物の種および亜種への分化を規制するのと同じ自然法則から発生するのであって、ただ、ある程度の発展度に達すると、カーストの世襲性または同職組合の排他性は社会法則として定められる点だけが違うだけである(29)。

「ダッカのモスリンは優美さで、コロマンドル〔インド南東の沿岸地域〕のサラサその他の布地は色の華麗さと耐久性で、今だかつて他にひけをとったことがない。しかも、それらは、資本も機械設備も分業もなしに、あるいは、ヨーロッパでの製造に多大の利益を与えている他の何らかの手段もなしに、生産される。織物業者は単独の個人で、顧客の注文によって織物をつくるのであり、しかもその織機は簡単極まる構造のもので、時には木の棒だけを粗雑に組み立ててつくられている。この織機はたて糸を巻くための装置もなく、このため織機はその全長分だけ伸ばしたままにしておかなければならず、しかも形がまったく整っていなくて、その上広い場所をとるので、生産者の小屋の中には置く場所もない。それゆえ、生産者は屋外で労働しなければならず、そこでは天候の変わるたびに労働が中断される(30)」。

 この技巧をインド人に、クモに与えるのと同じように与えるものは、世代から世代へと積み重ねられ、父から息子へと継承された特殊な熟練にほかならない。それでも、このようなインドの織物業者は、マニュファクチュア労働者の多くの者にくらべると、きわめて複雑な労働を行っている。

(29) 「工芸も、・・・・エジプトでは、ふさわしい程度の完全さに到達した。というのは、この国に限って、手工業者たちは、他の市民階級の仕事に手を出すことをまったく許されず、法律によって彼らの部族の世襲となっている職業だけを営むことを許されるからである。・・・・他の諸国民の場合には、職人たちがあまりにも多くの対象に注意を散らしすぎているのが見られる。・・・・彼らは、時には土地の耕作をやり、時には商業に従事し、時には同時に二つまたは三つの工芸にたずさわったりする。自由国家では、彼らは、たいてい民会に出かけて行く。・・・・これに反してエジプトでは、手工業者はだれでも、国務に関与したり、同時にいくつもの工芸を営んだりすると、重罪に処せられる。このように、彼らが職業に精を出すのをさまたげうるものは何もない。・・・・その上彼らは、祖先から多くの基準を受け継いでいるが、さらに新しい長所を見いだそうと熱心に考えている」(ディオドロス・シクルス『歴史文庫』、第一巻、第七四章〔一一七、一一八ページ〕)。

(30) 『イギリス領インドの歴史的および記述的報告』、ヒュー・マリー、ジェームズ・ウィルスン等の著、エディンバラ、一八三二年、第二巻、四四九、四五〇ページ。インドの織機は竪型である。すなわち、たて糸が垂直に張られている。

一つの製品を生産する際のさまざまな部分過程を順次にやりとげていく一人の手工業者は、時には場所を換え、時には用具を替えなければならない。一つの作業から他の作業へと移行するため、彼の労働の流れが中断され、彼の労働日にいわばすき間がつくられる。これらのすき間は、彼が同一の作業を一日中引き続いて行うようになると圧縮される。すなわち、彼の作業の転換が減少する程度に応じて消滅する。生産性の増大は、この場合、ある与えられた時間内における労働力の支出の増加、すなわち労働の強度の増大によるものであるか、または労働力の不生産的消費の減少によるものである。すなわち、静止から運動への移行のたびに余分な力の支出が必要とされるが、この支出は、ひとたび得られた標準速度をさらに長続きさせることにより、相殺される。他面、同一種類の労働が連続することにより、活動の転換そのものの中に回復と刺激とを見いだす活力の緊張力と高揚力が破壊される。

労働の生産性は、労働者の熟練技に依存するのみでなく、彼の道具の完全さにも依存する。同じ種類の道具が、切ったり、穴をあけたり、突いたり、叩いたりなどする用具のように、異なる労働過程で使用され、また、同じ労働過程で同じ用具が異なる作業に役だてられる。けれども、一つの労働過程のさまざまな作業がたがいに引き離され、また、部分労働者の手で行われる部分作業がそれぞれ可能な限りふさわしい、したがって特有の形態をとるようになると、これまでさまざまな目的に役だってきた諸道具の変化が必然的となる。これら道具の形態変換の方向は、この形態を変えないために出くわす特殊な困難の経験から生まれる。労働用具の分化・・これによって同じ種類の各用具がそれぞれの特殊な用向きの特殊な固定的諸形態を持つようになる・・および労働用具の専門化・・これによって右のような特殊用具がそれぞれ専門の部分労働者たちの手の中でのみ十分な働きをする・・が、マニュファクチュアを特徴づける。バーミンガムだけで約五〇〇種のハンマーが生産されるが、そのおのおのが一つの特殊な生産過程のために使用されるばかりでなく、いくつかの種類のものは、しばしば同じ過程の相異なる作業にしか役だてられない。マニュファクチュア時代は、労働道具を部分労働者たちの専門的な特殊職能に適合させることにより、それらの道具を単純化し、改良し、多様化する(31)。それによって、マニュファクチュア時代は、同時に、単純な諸用具の結合から成り立つ機械設備の物質的諸条件の一つを作り出す。

(31) ダーウィンは、彼の画期的な著作『種の起源』の中で、動植物の自然的諸器官に関して、次のようにのべている・・「同一の器官がさまざまな仕事をしなければならない限りにおいて、その器官の変異しやすさの根拠は、おそらく自然選択が形態の小さな変差の一つ一つを保存したり、押さえつけたりする際に、同じ器官が一つの特殊な目的だけのために役立つようになっている場合にくらべて、それほど注意深くはないという点に見いだされるであろう。たとえば、あらゆる種類の物を切るのに使われるナイフはだいたいにおいてほぼ一様の形でよいが、一つの用途だけに用いられる道具は、異なる用途のすべてに対し異なる形をとらなければならない」〔『種の起源』、第五章「変異の法則」。八杉竜一訳、岩波文庫、上、一九二〜一九三ページ〕。

細目労働者と彼の用具は、マニュファクチュアの単純な諸要素を形成する。次にわれわれは、マニュファクチュアの全体の姿に目を向けることにしよう。


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