
グラ刃牙オリジナルストーリー
BMR File-3 伝説の喧嘩師・花山薫の謎を追え!(作・えぬ様)
秋田書店・BMR調査室。隊員のカトウとハナダが、読者からの手紙を読んでいる。
「ふああっ、全く、俺たちBMRも落ちぶれたもんだよなー。1999年に人類が滅亡するという予言が大外れしちまってそれ以来、信用が完全になくなって、原稿料も印税も、パッタリと途絶えてしまったんだからな……」
「カトウさん、そんな弱音を吐いていてはだめですよ。いくら資金も信用もなくなったからといっても、まだまだ日本各地からミステリアスな事件に対する疑問が送られてきているんですから。手紙は僕が読みますから、カトウさんは『Ans.Qでございます』をチェックしてくださいよ。この調子じゃ、また朝までかかってしまいますよ」
「へいへい。全く、ハナダは真面目なんだからねえ。わかりましたよ、やりゃあいいんでしょ……」
億劫そうにパソコンを起動するカトウ。
「『Ans.Q』か…あそこは匿名で書き込みできるから、質問になってないような荒しみたいな発言とかもたくさんあって、まともな意見交換ができてないんだよな……あれ?」
「どうしました、カトウさん?」
「ああ、ひとつ気になる質問を見つけてな」
「気になる質問?」
「この質問だよ」
気づいた
さんの疑問
バキ4巻の93ページ5コマ目で、花山の顔にある6という数字は何ですか?
「たしかに、その前後の書き込みの流れからすると、ずいぶん具体的な質問ですよね」
「ハナダ、ちょっと確認してくれないか?」
「はい。『バキ』の4巻ですね? ページ数がほとんど書かれてなくて、探しにくいんですけど……あ!」
ハナダの表情が一変する。
「ありましたありました! 確かに『6』という数字が花山薫の口元にあります!」
「どれどれ…」
カトウ、ハナダの開いたページを興味深げに覗き込むが、すぐに幻滅の表情に変わる。
「…誤植だな」
「カ、カトウさん!」
「だってそうだろ? どう見たって、この数字が絵の一部とは考えられないじゃないか。多分、原稿になにかのシールの跡がまぎれこんだんだろ」
「しかし、それでは……」
「ハナダの言う通りだ。はじめから誤植と決め付けてしまっては、BMRの隊員失格だぞ」
「バ、バキヤシ!」
「バキヤシさん!」
バキヤシ登場。
「カトウ、BMRの設立目的を忘れたのか? 読者から送られた些細な疑問を膨らませ、無理矢理ミステリーを捏造する。そのためのBMRじゃないか?」
「あ、ああ……」
「それではバキヤシさん、この花山薫の顔に描かれた『6』も、何かのメッセージが込められているということですか?」
「そうだ。それが何を示しているかはまだわからないが、おそらく重大なメッセージが秘められているに違いない。それに、花山薫に関しては、今まで調べたいと思っていたことがたくさんある。よし、今回のBMRは、花山薫の謎について調べよう! ハナダ、カトウ、早速調査開始だ!」
「はい!」
「よし、やってやるぜ!」
BMR File-3
伝説の喧嘩師 花山薫の謎を追え!
数日後、都内の某喫茶店。
「カトウ、ハナダ。この方が、今回取材に応じてくれた、木崎(仮名)さんだ」
「お初にお目にかかります。木崎(仮名)です」
「木崎(仮名)さんは、花山薫氏にもっとも近い人物だと、お聞きしましたが…」
「へい。あっしは花山組には先代の頃からお世話になっておりまして、2代目──薫坊ちゃまのことは、赤ちゃんの頃から知っておりやす」
「それでは単刀直入にお尋ねします。花山氏のこの顔にある数字に、見覚えはありませんか?」
写真を見せるバキヤシ。木崎(仮名)の表情が微妙に変化する。
「……いえ、あっしには……なんのことだか……」
「確か花山氏は4年前、フクロウビルで範馬勇次郎氏に襲われ、『もう一線にはもどれない』と言ってたはずですよね。それなのに、数ヵ月後には簡単に復活して、範馬刃牙氏と範馬勇次郎氏の試合に立ち会っていますし、その後最大トーナメントにおいてもバリバリ闘っていました。その理由について、木崎(仮名)さんは何かご存知ではないのですか?」
「……すいません、これから出入りがありますんで、これで…」
「木崎(仮名)さん!」
立ち去る木崎(仮名)。
「あーあ、怒らせちまったじゃないか、バキヤシ」
「しかし、あのバキヤシさんの質問に対する反応は、尋常なものではありませんでしたね。何か確証があって訊ねたんですね、バキヤシさん」
「ああ。おれは花山薫は、実はクローン人間ではないかと考えている」
「クローン!」
「考えてもみろ。花山氏の喧嘩は、いつも自分も大怪我を負うような闘いばかりだ。それなのに数ヵ月後、あるときに至っては数時間後に、ぴんぴんした姿で我々の前に現れている。こんなことができるのも、花山薫に代わりの体があるからではないだろうか?」
「バキヤシさん!」
「それが本当だとすると、とんでもないことなるぞ……!」
「よし! 今度はクローン技術の権威に話を聞いてみよう! ハナダ、早速アポをとってくれ!」
H大学農学部・長谷川教授の研究室
「……そうですね、クローン羊ドリーの成功以来、世界中のクローン研究者たちは、先を争うようにあらゆる動物のクローンを開発していることは事実です」
「それでは教授、人間のクローンを作ることも可能ですか?」
「ええ。もっとも、先進諸国ではクローン人間の研究は法律で禁止されていますが…その法律を守つもりがなければ、我々がクローン人間を作ることは、技術的には不可能ではありません」
「!」
「(やっぱり花山薫は、クローン人間だったんだ…)」
「でもよー、クローン人間って、いれば便利だと思わないか? 自分の代わりに会社に行ってもらったり、テストを受けてもらったりできるんだろ? オレも一体クローンがいれば、毎日遊び放題なんだけどなー」
カトウの言葉に、ふっと笑う教授。
「残念ですが、それは全く不可能です」
「!」
「いくらクローン細胞といっても、その中身は普通の細胞と何ら変わりはありません。いくら培養したところで、その成長速度は人間と全く同じなのです。ですからもしカトウさんが20歳の自分のクローンを欲しいと思ったとしたら、その20年前に培養させなければいけないわけです。もちろん、今から20年前にそんな技術はありません。ですから、成人のクローンの存在など、10年20年後はどうかとしても、少なくともこの現代にはありえません」
「……」
意気消沈して、ホテルにもどるBMR一行。
「バキヤシさん、自分の仮説が否定されたからって、そんなに気を落とさないでくださいよ」
「そうだぜ。失敗は誰にでもあるんだからさ。なんにしても、せっかく取材で北海道へ来れたんだ、ホテルに荷物を置いたら、ススキノでも遊びにいこうぜ!」
「カトウさんはいっつもそれなんだから」
「ははは。…ところで話は変わるけど、ホテルの部屋番号って、なんか変だよなー。俺たちの部屋は隣り合っているはずなのに、番号それぞれ802、803、805だろ? いつも思うことだけど、どうして4番を飛ばすんだ?」
「日本では『4』っていう番号は『死』を意味するということで、縁起が悪いということになっているんですよ。もちろん現代ではそんなことを気にする人は少ないですが、やっぱり客商売だと敬遠されるんですよ」
「しかし、予約をコンピューターで管理するんだったら、飛び飛びの番号がついてるのは不便じゃないか?」
「そうとも限りませんよ。いくら802号室とかいっても、それまでに800個の部屋があるわけじゃないでしょう? 部屋番号は部屋の順列をあらわしているのではなくて、鶴の間、松の間とかいうのと同じ、名前みたいなもんなんですよ」
「(…番号が、名前…?)」
「どうしました、バキヤシさん?」
「そうか! わかったぞ! カトウ、ハナダ! 今日の飲みは中止だ! さっそく東京へ戻って、調査再開だ!」
再び、秋田書店・BMR調査室。
「ハナダ、我々BMRが歴代の調査において、バイブルのようにあがめていた預言書が、二つあったな?」
「はい。終末戦争を予言した、ノストラダムスの『諸世紀』と、その名のとおりバイブル、新約聖書の中にある『ヨハネの黙示録』ですね」
「それでは『ヨハネの黙示録』のその部分を読んでみてくれないか?」
「はい。また私は見た。海から一匹の獣が上ってきた。これには十本の角と七つの頭があった。その角には十の冠があり、その頭には……」
「もう2000年になったってのに、また『黙示録』を聞く羽目になるとはね……」
「……ここに知恵がある。思慮ある者はその獣の数字を数えなさい。その数字は人間を指しているからである。その数字は……」
「どうした、ハナダ?」
「666!」
「! ……ま、まさか、バキヤシ……!」
「そうだ! 花山薫の顔につけられた『6』の刻印! それは、『ヨハネの黙示録』による反キリストを示す悪魔の数字、『666』をあらわしていたんだよ!」
「!」
「!」
「まさか、花山薫が、悪魔の化身だったなんて……」
「……そう考えてみれば、花山氏の常人離れした握力……それはまさに、獣……!」
「カトウ、ハナダ! お前たちは花山薫のこれまでの行動をもう一度調べ上げ、花山薫が悪魔の化身であるという証拠を掴んでくれ! おれはもう少し預言書をあたって、その対策を考えてみる!」
「おうっ!」
「はい!」
数日後、秋田書店・BMR調査室。
「しかし、バキヤシの言葉に従って花山薫を洗いなおしてみたが、それほどはかばかしい成果は得られなかったな」
「そうですね。花山氏について、あまり悪い噂は聞きませんでしたね」
「ああ。……俺は、花山薫って本当はいい奴なんじゃないか、って思い始めてきた」
「僕もそう思います。暴力団の組長というわりには、読者の支持も高いですからね」
「なんにしても、この調査結果をバキヤシに報告するのは、なんだか気が引けるな」
「とはいえ、真実をつきとめるのがBMRの仕事ですから、正直に報告しないと……」
「そうでもないぞ」
バキヤシ、晴れ晴れとした顔で登場。
「バキヤシさん!」
「なにか預言書の方で、わかったことでもあったのか?」
「ああ。お前達の言うとおり、花山薫はいい奴だった。悪魔の化身なんていうのは、俺たちの思い過ごしだったんだ。そしてそれよりも大切なことが、預言書には示されていたんだ!」
「いったいどういうことだ、バキヤシ!?」
「まずはこれを見てくれ」
1999年の7番目の月に
空に恐怖の大王が現れるであろう
彼はアンゴルモアの王を蘇らせ
戦争の前後に幸せに統治することだろう
「ノストラダムス『諸世紀』のなかの、もっとも有名な一節ですね」
「しかしこの予言は、去年人類が滅亡しなかった以上、外れ予言だ」
「そうとは限らない。この予言では、恐怖の大王が現れるということが書いてあるだけだ。もともと、ノストラダムスの時代の暦と現代の暦では、1ヶ月近いずれがある。そして、予言自体の精度にも1ヶ月程度の誤差があるとしよう。そう考えて1999年9月……俺たちに、何が起こった?」
「俺たちに起こったこと? ……というと、まさか!」
「『バキ』第二部開始!」
「そうだ! 1999年9月! それは『バキ』の第二部が開始された時! すなわち、ノストラダムスの予言にあった『恐怖の大王』とは、5人の最凶死刑囚のことを示していたんだよ!」
「ちょっと待て! 予言では恐怖の大王は『空に現れる』と言ってるだろう? 俺たちは今までそれをヒントにして、大王の正体を核爆弾だ何だと結論付けてきたじゃないか!」
「読み替えだよ。いるだろう、『空』の名前を冠する死刑囚が」
「空師・柳!」
「ではまさか、僕が先日読んだ『ヨハネの黙示録』の中にあった『海から一匹の獣が上ってきた』という一節も、スペックのことを暗示しているのでは!?」
「そのとおりだ。『諸世紀』と『黙示録』は全く同じことを予言していた。そしてその正体こそ、敗北を求めて暴れまわる、最凶死刑囚だったんだよ!」
「…で、でも待ってくださいバキヤシさん! 死刑囚が恐怖の大王であったことはわかりましたが、それが花山氏とどういう関係があるのです?」
「そうだぜバキヤシ! 花山薫が『666』の刻印を持っている以上、奴もまた恐怖の大王なのではないのか?」
「いや、そうではない。花山薫の持っている刻印は『6』。決して悪魔の刻印『666』ではなかったんだよ!」
「!」
「それじゃあいったい花山薫の『6』の刻印の意味は……」
「いみじくも刻印のある『バキ』4巻の同じページで、恐怖の大王の一人であるスペックが花山薫に対して言っている。『(地下闘技場戦士たち)5人の中で、アンタがイチバンこっち側だ』と。すなわち花山薫の『6』の刻印は、悪魔にもっとも近い者ということを示していたんだ!」
「それでは結局、花山薫の正体は、いったい何なんですか?」
「そうだぜ! 悪魔じゃなかったら、いったい何だというんだ?」
ハナダ、カトウの矢継ぎ早な質問に、ふうと一息入れるバキヤシ。
「ところでお前たち、ノストラダムスの予言が、1999年で終わりではないことを知っているか?」
「え? どういうことだ?」
「ノストラダムスにもヨハネの黙示録にも、終末が訪れたあとには、救世主の出現が予言されているんだ。『諸世紀』の最後にはこう記されている」
どんなに長く待ってもやってこない
ヨーロッパからではなくアジアに現れる
ヘルメスの進路から出て
東洋の王たちすべてを超えるだろう……
月が20年も力を持ちつづけ
太陽が今度は力を握る
そのうえ太陽は最後の力を示しやがて終わる
わが予言もかくして終わる
「ヨーロッパではなくアジア……太陽……もしかしたら、これは救世主が日本から現れることを示しているのではないですか?」
「そうだ。そしてその救世主は、1981年1月21日生まれだということもわかっている」
「それじゃあ、その救世主って奴は、すでに日本人の中にいるってことじゃないか!」
「そうだとしたら今は19歳の青年ということになりますよね。19歳……まさか!」
「どうしたハナダ!」
「19歳というと、花山薫氏の年齢が19歳なんですよ!」
「!」
「そうだ。そしてさっき確認のために、木崎(仮名)氏に電話で問い合わせてみたところ、花山薫の誕生日が、1月21日であることが判明した!」
「1981年1月21日生まれ!」
「それじゃあ花山薫の正体は…!」
「そうだ! 花山薫こそ、人類を終末から救う、救世主だったんだよ!」
「!」
「!」
「悪魔に最も近いもの。それは天使! 花山薫の『6』の刻印は、神の使いであることを示していたんだ! そして悪魔に最も近い能力を持つからこそ、それに勝つことができる! 俺の推理が正しければ、花山以外の格闘士は、死刑囚を一人も倒すことができない! そして花山薫は、すべての死刑囚と闘い、全員に勝利するんだ!」
聖書の終わりにはこうある……
ハルマゲドン、神と悪魔との闘いは
神が勝利を収め
その後『至福の千年王国』築かれるであろう…と
BMR File-3 「伝説の喧嘩師・花山薫の謎を追え!」 完