
3.借家権の鑑定評価手法
3―1基準前史
上記のようにその財産性が借地権とは異質なものと考えられる借家権であるが、不動産鑑定評価基準は借家権に関する評価手法を、それが当然に財産権であるかのように規定している。
鑑定では借家権価格を求める手法は、借地権に関する手法を援用する事により可能ではないかと考えられた。しかしながら、昭和41年の借地法改正により借地権に譲渡性が付与されたのに対し、借家権についてはこれを付与する法制がとられなかった(裁判所による許可制度も設けられなかった)ことから、借家権については権利価格が明確な形で発生する事はなく、借地に関する理論を援用する事に疑問が提示されたのであった。
なお論者の中には借家権価格の発生を「 営業用建物の賃貸借についてはその財産的性格を純化させていく方向」を好ましいと考えるものと、借家権価格というものを「必
内田 借地借家法改正問題の課題 ジュリスト851p11
ずしも好ましい存在とはいえない」と考えるものがある。
「借地・借家法改正に関する問題点」の説明 第二 二 1正当事由の内容
一部の鑑定士の中には、それがイデオロギー的要素に発するものか、否かはともかく、「立退き料等の額に一定の歯止めがかかる」ことを好ましい事と考える者がいるようである。
不動産鑑定 1991.7 不動産鑑定セミナー 「借家権と立退き料」における宮野氏の発言
ところで、借地権価格が大正時代にはすでに認識され、その本質についての議論が始まっていたのに対し、借家権価格についての議論が始まるのは遅く、しかも鑑定手法といえるものが提示されるのは昭和30年代に入ってからである。
昭和34年発行の花島によると「借家を独占し且つ収益を取得し得る権利の価格が借家権価格であって、有形的利用権の価格範疇に属する。借家権価格の生成と本質については法的にも経済上からも幾多の疑義があり、誰しも、その所在を明確に探求し得ない程不明瞭な点があるにも拘らず、巷間に於ては借家権の名目に於いて売買があり、特に大都市の小売商店街に於いては間口一間当何万何千円という価格で取引される例が少なくない。
かくの如き多額の借家権の権利益(金? 筆者) を支払ってまでも借家するという理由は、その位置を独占して有利な営業を営むことによって、他の位置で営業するよりも多くの超過収益を挙げ得るという見込みがあるからである。」と述べる。
同年の嶋田では、借家権の評価手法は直接には触れられていないが、貸し家及びその敷地について、かなり手法が具体化し、借家人が買得(取得 筆者)する場合と第三者が買得する場合に場合分けがなされ、それぞれ前者の場合は「自用の場合(自用の建物及びその敷地)の査定価格から借家人に帰属する借家権価格を控除した額を標準とし、収益価格及び個別資料等を参酌して定める(中略)尚有償で受授(授受 筆者)した一時金(敷金、権利金、保証金、協力金等の名目で)がある場合にはこの額及びその条件をも考慮すべきでありましょう。」とされ、「店舗等では営業権、造作権、居住権、立退料等が混在し、住宅等では居住権、立退料、維持修理を借家人が負担してきた等が混在していますので実情をよくは握(まま 筆者)して修正率を定むべきでありましょう。(中略)修正率(賃貸人帰属分 筆者)は40%〜60%」とされるので、結果的に借家権価格は、上記要因に応じて、自用の建物及びその敷地の価格の40%〜60%ということになる。
一方、第三者が買得する場合には「敷地を含めた一体としての収益価格を標準として査定」するとされるので、この場合、借地権価格は、自用の建物及びその敷地の価格から当該収益価格を控除したものとなるのであろう。なお当時、限定価格における増分価値というものは認識されていない(注)が、上記両価格の差が、今日いわれるところの増分価値に該当するものとなるのであろう。
(注) 鑑定評価基準の解説 p227
「当該建物及びその敷地価格に近隣における借家権割合を乗じた価格(借家権価格であって(イ)とする。)を当該建物及びその敷地価格(借家権の設定されていない、いわば自用の建物及びその敷地価格であって(ロ)とする。)から控除した価格を標準として取り入れたのは、貸家及びその敷地の価格と(イ)との合計額は、おおむね、(ロ)に等しくなると考えられたからである。」とされる。なお限定価格における増分価値が認識されるのは69年基準において特に借地権について議論が起きた為であり、借家権についても借家権についての議論が導入され、増分価値が認識されるようになる。
この二分法はその後、借家権評価において、評価基準のとるところとなる。
62年(昭和37年)に始まった、基準制定作業に少なからぬ影響を与えたのは、38年制定の損失補償基準及び39年4月の相続税財産評価通達であろう。
損失補償基準(用地対策連絡協議会制定)は土地収用法を受けて、具体的に用地買収を行う際の基準を定めたものであるが、これは公共事業で借家権を必要とする際には、借家権そのものを補償するのではなく、借家人補償(=経費補償)を行う事を原則とし、基準34条及び同細則第18を定めた。
借家権補償ではなく、借地人補償を原則とした根拠は、「用地取得により借家権が消滅したものとみることができるのかどうか」という点で、一致した結論を得る事ができなかったことが挙げられるが、実質的には経費補償とする事で、建物価格や土地価格からの控除主義を採らなくてもすむという点に着目されたものとも考えられる。
具体的内容については後記 5.補償方式参照
もっとも一方で、明確に借家権の対価と認識される場合には借家権補償が行われることになっており、基準も18条で、借家権補償に関する規定を持っているが、その規定内容は、「借家権の補償については借地権の例に準じる」と言うものである。
では同基準が借地権補償をどう規定しているかといえば、これは「正常な取引価格をもって判断する」ということになっている。ところが借家権についての取引事例と言うものは非常に希有であるので、実質的にこの条項をもって借家権価格を判定することには無理がある。借家権補償がほとんど行われない理由はこの実務上の困難さに理由があるのかもしれない。
この基準が、基準細則 第18―2において借家人補償(代替費用補償)の手段として
借家権利金等の一時金の額の把握が困難な場合に、「割合価格」(*)を採用した事が、その後の借家権価格補償の大きな契機となる。
(*)ここでいう割合価格は、一たん床面積1u当たりの単価を求めた後で、補償対象床面積を乗じるので、財産評価通達方式や現在鑑定手法として用いられる割合方式とはやや異なる。
同通達では「借家権の価額は、その権利が権利金等の名称をもって取引される慣行のある地域にあるものを除き、相続税または贈与税の課税価格に参入しない」と規定したが、これは東京等すでに権利金慣行が成熟している地域においては借家権を資産として認識し、課税対象とすると言うものであった。その計算法は後記の通り、
借地権(転借権)価額 ×30%+ 建物の固定資産税評価額×30%=借家権価格
とするものであった。
65年(昭和40年)制定の基準は比準価格という概念を借家権に持ち込む。これは30年代を通じて鑑定界に広がっていた「借家権とは借地権と規を一にするものである」という神話への信仰がみごとに結実したものである。
しかしここで注意しなくてはならないのは「戦後、昭和20年代においては、権利金の授受はアパート、事務所等についても行われるにいたったが、これらは地代家賃統制令の脱法手段としての色彩が強く、前払家賃としての性格のものだったようである。現在東京では一部の店舗等を除いて、権利金授受の慣行は表立っては影をひそめている。今日、借家権の対価として頭に浮かぶものとしては、ビルの賃貸借にあたり貸主に預託される保証金あるいは協力金と称ばれる長期低利の預託金、アパートの賃貸借にあたり貸主に支払われる礼金、一般の貸家の明渡しあるいは公共用財産の取得にあたり借家人に支払われる立退料あるいは移転補償等があげられよう」不動産鑑定1965 9 p42
と述べられており、少なくとも昭和40年代初期には東京では借地権の場合に見られる設定権利金も権利譲渡も行われてはおらず、その後の借地借家法の改正においても借家権譲渡に関する非訟手続きは作られなかったものの、さしたる混乱は起きてはいない。
にもかかわらず以下のような基準が制定され、堂々と適用されるにいたるのである。
参考 借家権価格の考え方 発生史的視点に立って 梨本幸男 不動産鑑定 1991・
8 p49
3―2 65年制定基準
自用の建物及びその敷地ー貸家及びその敷地
比準価格
割合価格( 自用の建物及びその敷地 *借家権割合) を関連つける
契約後あまり時期を経ていない借家権を評価するときは、契約に当たって授受された権利金及びこれに関する契約条件等を考慮して得た額を特に考慮するものとされた。
この時期の鑑定理論は借地権価格と底地価格の合計が更地価格に一致すると考えており、同じく、貸家及びその敷地の価格に借家権価格を加算したものが自用の建物及びその敷地の価格に一致すると考えていたものと思われる。(左土)
自用の建物及びその敷地ー貸家及びその敷地=借家権価格という発想は大野・谷沢によって主張されたようである。
その発想は借家権には立退き料(代替家屋入居のための費用)及び居住の権利が潜在しているので、 自用の建物及びその敷地は借家権の存在により半分程度になる(すなわち借家権の価格は自用の建物及びその敷地の半額に近いという問題意識がある。
また同書では、この借家権価格は敷金・保証金・権利金を含むものとされている。
比順価格及び割合価格の発想は佐土がふれている。割合価格については「近隣における借家権割合=貸家及びその敷地を当該借家人に譲渡する場合を想定した場合において成立すると見られる借家権割合」が把握できる場合には、建物及びその敷地の価格(自用の場合の)にこの割合を乗じた価格は、実務上かなり有力な標準となし得る」とする。
上記の手法の先後について、評価基準制定委員長の嶋田は「この基準のうちの借家権の鑑定価格については、借家権割合を当該建物および敷地の価格に乗じた価格を、まずもってこようということもあったのですが、この価格割合は、その近隣または地域における平均地(値? 筆者)的なものであって、かくては算定評価の場合と同じことになるのではないか、個別精密に行われるべき鑑定評価の場合には という意見もありまして、いろいろな考え方のうちでいちばん個別性を把握する標準としまして、当該建物およびその敷地の価格から収益価格を控除した額をまずさきにもってきた」とのべている。
3―3【69年制定基準】
1.借家権価格を求める手法
比準価格 を 標準 とし
(正常実質賃料ー実際支払い賃料)を収益還元した価格を比較考量
69年制定基準は借地権価格+底地価格<更地価格であるとし、その増分価値を初めて認めた。これとの整合性から基準は借家権価格+貸家及びその敷地価格<自用の建物及びその敷地であるとした。これに伴い、 自用の建物及びその敷地ー貸家及びその敷地=借家権価格 であるという借家権価格を求める手法は「契約期限の満了等によって賃貸人に帰属する市場性の回復等に即応する経済価値の増分についての判断が困難である」(p213)として参考価格化された。
また借地権と同じく、正常実質賃料と実際支払賃料の差額が借家権価格を構成するとし、その収益還元価格が借家権価格を構成するとした。(賃料差額還元方式)
この基準における借家権に関する賃料差額還元方式は「借家権に係る不動産の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払い賃料との乖離(いわゆる借り得部分)および乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現在価値」を借家権価格として求めようとするもので、平成1年に改定される現行基準とは似て非なるものであった。
さらに従来利用されていた割合価格についても参考価格とされた。
理由は「借家権については個別性が強いため借家権割合により適正に価格を求めることは困難であるである」からとされた。
なおこの基準では借家権に立ち退き料・営業権を含んでいる場合に留意との注意がなされた。
3―4【91年制定基準】
1.評価手法
比準価格 を標準とし
自用の建物及びその敷地ー貸家及びその敷地を 比較考量
割合価格
借家人が不随意の立ち退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等
当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借に必要とされる新規の実際
支払い賃料と現在の実質支払い賃料の差額の一定期間に相当する額に賃料の前払
的性格を有する一時金等の額等を加えた額
自用の建物及びその敷地ー貸家及びその敷地の額 に所要の調整を行って得た価
格を関連つける。
この基準では従来一元的に考えられていた借家権価格を、一般の場合と不随意の場合に分類し、この両者では評価方法が異なるとしている。
すなわち、前者においては借家権を通常の財産価値として把握するのに対し、後者はこれを補償の原理から把握しているものである。
借家権の取引慣行がある場合について、「自用の建物及びその敷地ー貸家及びその敷地」方式及び 割合価格 が復活し、従来取られていた賃料差額還元方式が排除された。賃料差額還元手法は、借家においても借地と同じように借り得部分が発生しているとする考え方である。しかし「良心的な方が損をし、ずるい方が得をするしくみ」との批判(不動産賃貸借の危機 )をうけており、裁判上でも、この手法を借家権価格査定の中心にすることには慎重であるべきとの指摘がなされている。この事情が考慮されたものと考えられる。
一方で、「借家人が不随意の立ち退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等」については、補償方式及び、「自用の建物及びその敷地ー貸家及びその敷地」方式(=控除法)によることとなった。
なお借家権評価手法について鑑定界ではそれは「継続的取引関係」を前提とする価格であり、正常価格は成立しないのではないかとの疑問が提示されている。
(上記セミナー 竹村発言 p8参照)
3―5【 各手法について 】
1.比準価格
手順
借家権の取引事例を事情補正・標準化補正した上で、地域要因比較及び個別要因比較を行う。
事情補正
これはおそらく、取引の事案がどのような法律に基づくものか。あるいは取得主体は公的か民間か。どの程度の緊急性のある事案であったのか等が考察されるものと思われる。
標準化補正・個別補正・地域補正
土地または土地を含む不動産について取引事例比較法を適用する際は、ドーナッツ方式つまり、事例を一旦事例の近隣地域内の標準的事例に置き換えた上で、地域要因比較を行い、対象不動産の近隣地域における価格水準を把握し、これに対し、対象不動産の有する個別性に応じた個別要因補正を行う事により、対象不動産の価格を求める。しかしながら建物等の不動産においてはこのような手順を踏む事は困難であるので、建物の仕様等を比較要因にして、ダイレクトに比準作業を行う事が一般的なようである。
借家権についても同じく、事例とのダイレクトな比較が手法的には適正であると考えられるが、この場合の比較要因としては、建物の価格のほか、比較考量項目として基準に挙げられているものが、比較要因となるものと思われる。
その他実際の適用例としては、近隣における新規の賃貸の事例(保証金)を参考にするものや、プロジェクト方式として土地価格の10%前後が水準打とする手法もあるようであるが、(鑑定協会東京会 平成3年p48)前者については新規の保証金と立退き料との間の関係は、保証金が費用補償の一部にすぎない上、両マーケットの牽連性の証明が必要であって、説得力を有しているとはおもえず、一方、プロジェクト方式と称されるものについてはこれは明らかに割合方式であって、比準方式とは呼べないであろう。
借家権取引が慣行化している場合は、考慮することになっているが、この慣行が明確に成立している都市は存在しないようである。また慣行がないとはいえないという都市においてもそれが立退き料として慰謝料的な性格を持つものであるのか判然としない場合や、営業権の対価を含む場合がある。
妥当性根拠
批判
借家権は個別性が大変強くて、一定水準以上の事例はきわめて少ない。
手法
「自用の建物及びその敷地」の価格を3手法の併用により求めた上、収益価格を標準に、積算価格及び比準価格を比較考量して「貸家及びその敷地」の価格を求め、これを控除する。
妥当性根拠
この手法の妥当性根拠は、先にも述べた通り、借家権に係る増分価値がない場合及び借家権価格が自用の建物及びその敷地価格の相当割合を占め、その経済的な把握が引き算という手法によって可能であるという前提がまず必要となる。
仮にこの前提が成立する場合、賃借人がいない不動産とこれが賃貸された後の不動産とで取引価格に差異が生じているとすれば、これは借家権が発生した分だけ、自用の建物及びその敷地に減価が発生したものだというのである。
批判
このような手法が現在の借家権価格把握の上で発想されるのは、おそらく、借家権価格の上限値を把握しようとするものであろう。
まず、第一にこのような手法では不動産の賃借人募集にかかる費用を無視した議論となる。すなわち、購入した不動産は自分で利用するのであれば、借家権価格=立退き料を支払えば、この不動産を空き家にすることができるという意味において、この手法は適用できる。この際、借家権価格の中には借家人を転居させるのに必要な一切の費用(=移転料を含む)が含まれている。
しかしながら投資を目的とする場合、賃借人が存在する事を好意に捉える場合がありえるのである(現在の鑑定理論ではこの募集費用と言う概念が全く考慮されていない)
第二に、この手法は自用の建物及びその敷地の価格を求めるに際しては積算価格を、貸し家及びその敷地の価格を求めるに際しては収益価格を重視しようとするころであれば、妥当性を持ち得たであろうが、現在の収益価格重視の時代においては、自用の建物及びその敷地の価格と貸し家及びその敷地の価格の価格の間にかつてほどの乖離は認められなくなっている。
自用の建物及びその敷地の価格の収益価格を求める際に想定される直接法収益と、貸し家及びその敷地の価格の収益条件を分析し、借家権価格を求める(賃料差額還元方式)というのであれば、まだ理論的妥当性は残されているが、自用の建物及びその敷地の価格及び貸し家及びその敷地の価格の価格を求める上で、一旦積算価格概念が混入しているにもかかわらず、両者の差額が借家権価格であるというのは首肯し難いように思われる。
この手法に対しては、「(貸家及びその敷地の価格について)収益価格を標準ということになると、現在の賃貸条件あるいは一時金である保証金、敷金等の金額が低い水準の場合は収益価格が低く出ます。したがって、自用の建物及びその敷地の価格から控除した差額は大きく出る。家主が、安い賃料で貸家を提供していた場合は、借家権の評価額は大きくなる。つまり、恩恵的借家は借家権が大きくなる」と批判される。 不動産鑑定 1991.7 高田
さらには「家賃の非常に高い、繁華性のあるところのほうが、借家権価格としては低くなるということがあります。これもよくよく吟味してみませんと矛盾を来たす。高度商業地のほうが借家権が安いという結果が出るおそれもないではないという難があります。」と指摘する。
(竹村氏も同セミナーにおいて同じ趣旨を述べている。)
割合価格を相続税評価通達により計算すると、これは借家人の有する宅地等に対する権利の評価(31条)と借家権の評価(94条)を合算するものである。
=借地権(転借権)価額 ×30%+ 建物の固定資産税評価額×30%である。
*下線部が借地権価格である理由について
「この割合(借家権割合)は、借家権の基礎となるものは敷地の使用権または支配権を含む建物の占有価格であるが、借地権価格中にはある程度これらの権利価格が織り込まれている事、借家人にとっては借家が家主の所有地上にある場合でも使用上何等違いないことの理由から敷地価格は借地権価格に基礎がおかれている。」
不動産鑑定 1991.8 p52 梨本幸男
鑑定評価においてはこの借地権価格及び建物評価額が評価手法の適用によって求められるとされる。例えば「鑑定評価の現代的課題」(昭和58年)では、「借家権割合については、借家権割合(借地権の誤記か 筆者)の30%〜40%(地域により異なるが)とされている。しかし判例上および裁判上の和解並びに裁判外において移転交渉等により、徐々に高額化の傾向にあり市街地再開発上の借家権評価に採用されているのは借地権価格の50%である。これから、賃貸借契約の長短、家賃の高低および地域的開差、借地権価格の高低、居住用か営業用かなどにより30%から50%の範囲で不動産鑑定士が実情に即して総合的に判定を行うことにより決定して良いのではないだろうか。」とされており、「建物については、相続税評価基準において固定資産税額の30%とされているが、建物の現在価値の30%〜50%の範囲で、借家人自身が維持補修にかけた費用等を総合的に判断して鑑定士が判定した額を、上記敷地に及ぶ借家権価格を加算した額をもって割合価格に基づく借家権価格とする。」とされる。
同一の書物であるが、p312では田坂勇鑑定士が、「今後も10年、15年間は賃貸借が存続するものとして採用する場合の借家権割合は、東京はじめ大都市地域のごとく借家権が比較的成熟している地域では、建物価格に借地権価格相当額(所有地の場合でも、借地権が付着しているものとして査定する)を加えた額の20%〜30%を標準的なものとして採用している」とされる。
鑑定士の間では(あるいは相続税基本通達では)借家権割合及び借地権割合について幅はあるものの、その手法は統一されていたが、これとやや異なる割合価格が用いられる例もあったようである。
東京都では補償運用細則で、「たとえば商業地域の場合は、その土地の坪あたり更地価格の25%、それから建物の現在価格の4割との合計額の範囲内で補償できるように定めた。最高額を出す場合を例にとりますと、土地の更地価格の25%、それから建物の現在価格の40%、これを合算した価格にその建物の坪数を乗ずるという計算をしています。これが住宅ですと、土地に係る割合が10%以内、建物に係る割合は商業と同じの40%以内です。」と説明されている。
不動産鑑定1964(昭和39年)・7
*路線価評価方式では借家権は相続財産とされていないが、家主側の貸家評価において、家屋の評価額から借家権評価額として借家権価格の一定割合を控除する事が認められている。
妥当性根拠
嶋田には割合価格を借家権価格の評価に用いるとの記載は見られないが、佐土では「近隣における借家権割合(貸家及びその敷地を当該借家人に譲渡する場合を想定した場合におい成立すると見られる借家権割合)が把握できる場合には、建物及びその敷地価格(自用の場合の)にこの割合を乗じた価格は、実務上、かなり有力な標準となしうる」p228 と説明されている。
一方で、昭和55年の鑑定協会研究成果物では、「敷地に対する借家権割合は、相続税の評価におけるごとく借地権に対する一定割合のものとして把握することは借地上の貸家について考えると合理性を有するものと考えられる。しかし、本来的には借地権と借家契約に伴う敷地利用権では権原が異なり、借家権に附随する敷地利用権は敷地が所有地であろうと借地であろうと本来無関係である。」P57 としてこの割合方式において借地権割合を考慮することに疑問を呈している。
手法
「当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払い賃料と現在の実際支払い賃料との差額の一定期間に相当する額に賃料の前払的性格を有する一時金の額等を加える。」
旧基準では「当該借家権に係る不動産の正常実質賃料相当額から実際支払賃料を控除した額を還元」と表現されており、評価基準の規定は賃料差額還元方式というよりむしろ、後記の補償方式の差額賃料補償に一見類似する規定となった。
しかしながら両手法の間には超えられない壁がある。すなわち賃料差額還元方式は求められた正常実質賃料と現在の支払賃料の差額を資本還元し、これに一時金の額を加算するのであるが、補償方式における差額賃料補償は比準賃料から現行賃料を控除したものの一定期間分を算定すると言う。前者で有期還元する場合には金利概念が入り、複利計算がされるから数値は大きくなると言う原理的かつ微細な問題以外に、前者では正常実質賃料と実際支払賃料の間で差額が査定されるのに対し、後者(補償方式)の場合は差額の査定が正常支払賃料と実際支払い賃料の間でなされるという点が大きく異なる。
(正常実質賃料が正常支払賃料に、自己の預けた一時金に元利均等償還率を乗じたものを加算した上で、年賦償還するのであるから、実質的にあとで、一時金相当額を加算するのと同じ答えにはなる)
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