2006年
1月号意識してワントーン上げ受話器とる 我を知らない相手のために
つなぐ手に通う血管 葉脈のように静かにはりめぐらせて
もう君は包囲されている幾重にも連なる我の視線の軌跡に
上げかけた手をポケットに戻し入れ孤独を選ぶ雑踏の中
紅の陽は青空を焼き尽くし闇夜に星の火花を残す
2006年
3月号それぞれの願い包んで神社へと集う着物の色は鮮やか
一年に一度の逢瀬を許されて賀状の返事は我へと届く
ランナーはただ駆けてゆく はつはるの光輝くゴール目指して
猜疑心抱えて「開かずの踏切」を待っているのはレプリカの我
トラックのヘッドライトに照らされて猫背で歩くわたしがふたり
2006年
4月号やわらかな陽射しとらえる自転車で午前十時のスーパーに行く
熱々のシチューの海から拾われたブロッコリーはほっこり崩れ
白菜の甘みが足りぬ寄せ鍋は春の訪れ静かに告げる
距離・視線・返事全てが曖昧で だからあなたを好きでいられる
2006年
5月号君が居て我が笑って一曲の音を奏でた日々にさよなら
どうすればずっと一緒にいられるか 答えの出ない問い繰り返す
我を呼ぶ声はだんだん遠くなる 散り散りに舞う桜のように
明日はもう誰の荷物も入らない空のロッカーじっと見つめる
制服の背中見送る我はひとり歩き出せずにまた春は来る
2006年
6月号愛されていると信じている君に嘘で固めた触手を伸ばす
瞬きを千回しても現実は変わらず 涙を誤魔化せるだけ
運がよく今夜は雷雨 轟音に隠して君への想い唱える
現実は受け入れ難し 春祭り遠くから見るわたしはひとり
名も知らぬ種に水やる 慎重に育てることは教育に似て
2006年
7月号一面に芝桜咲く畑にて青いTシャツ着た我は笑む
春色の布がひらりとはためいた車窓の向こうに花畑あり
活けられた花は全てをさらされて息苦しそうに瓶の水飲む
見えなくていいものもあると知りながらルーペ手にして君を眺める
携帯もテレビも切ってひたすらに針を進める独りの我は
2006年
9月号淡色の花瓶は黙って受け入れる 真紅の薔薇も純白の百合も
傷ついた少年の目は閉じたまま 陽光を待つ蕾の如く
公園のベンチにガムの包み紙ひとつ光ってSOS出す
風鈴が鳴って気づいた この風を味方につけて歩いていこう
地球儀をゆっくり辿る指先に増幅してゆく未知への希望
2006年
10月号砂浜を駆けていく足 少年の希望にぬるい白波からむ
教室の隅で主を失った机に残るかすかな指紋
少年は「恋を失うぐらいなら要らない」と言う 青葉の下で
秒針を追いつつ無言の抵抗をする 少年は膝を抱えて
如雨露へと光を集めひとすじの虹を発する朝の水遣り