(1)日本聴能言語士協会の会員に向けた、「FCに対する批判的見解」
日本聴能言語士協会会報第27巻第3号(通巻第93号:2003年2月発行)の1〜2ページ掲載
2003/2/1
会員の皆様へ
日本聴能言語士協会 運営委員会
FCに対する批判的見解
2002年4月28日にNHKは、NHKスペシャル【奇跡の詩人】という番組を放
映しました。「脳に障害のある子が文字盤を使って作る詩が、多くの大人を癒してい
る」という構成の番組でした。番組によるとその子は脳性マヒ、あるいは重症心身障害があると思われ、家庭でドー
マン法という訓練を行っていました。そのドーマン法により与えられたFC
(Facilitated Communication)という手法で詩を作っていたのですが、FCでは介
助者がその子の手を持って五十音表文字盤に対する指さしを介助し、また文字盤の方
も介助者がもう片方の手に乗せて動かしていました。つまり指す指と文字盤の両者が
同時に速い速度で動き回り、読み取りも介助者が行っていたので、果たして本人の意
思を表現しているのかという批判が番組に対して起こりました。後日担当プロデュー
サーが放送の中で釈明したり、NHK会長が国会に呼び出されたりするなど社会問題
となりました。当協会にもFCに関する問い合わせがありました。調査していくと、療育機関に来な
くなった家族がドーマン法を受け入れFCを行っている例が少なからずあること、ま
たドーマン法はすでにやめFCもおかかしいと感じているのに、FCだけはやめられ
ずに悩んでいる例のあることがわかりました。またドーマン法ではありませんが公的
な研究機関においてFCを組織的に研究、推奨していることもわかりました。FCの
影響は表面化していないところで、一定の広がりを見せていました。この問題はコミュニケーション能力に障害がある子の意思伝達介助にかかわる技法や
代替手段の保障であり、またコミュニケーションが十分とれない親子や家族を、心理
面を含めてどう支援していくかという職能倫理にかかわってきます。STの社会的責
任に照らして放置できないと判断しましたので、事実関係を整理し情報を提供して、
会員の注意を喚起したいと思います。・FCは1980年代にオーストラリアにおいて創始され、1990年アメリカに紹
介されると瞬く間にひろがりましたが、やがて大きな社会問題を引き起こしました。
1990年代前半に激しい論争や裁判が起こされ、終息していきました。(ドーマン
法がFCを摂取する以前の)そうした歴史を概観した総説には、以下の論文がありま
す。毛塚恵美子 Facilitated Communication論争の軌跡をたどる。児童青年精神医学と
その近接領域 43(3);312−327(2002)・日本にFCを紹介したのは、国立特殊教育総合研究所の落合俊郎氏(現広島大)だ
と思われますが、最近の氏の見解は以下の論文に見ることができます。国立特殊教育総合研究所 特別研究報告書 障害のある子どもの書字・描画における
表出援助法に関する研究。平成12年3月・ドーマン法は1970年代より日本でも営業をしており、FCを創出したわけでは
ありません。ドーマン法がどのようにFCを取り入れ、使っているかについて問い合
わせましたが、返答がなく、検討することができませんでした。・国会(衆議院決算行政監視委員会、2002年11月14日)でこの問題が取り上
げられた際、厚生労働省がドーマン法に対して示した見解は以下のホームページで見
ることができます。http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html
・小児神経学会がNHKに対して出した質問状、および小児科学会が出した見解は、
以下のホームページで見ることができます。http://plaza.umin.ac.jp/^jpeds/saisin.html/#37
・番組に対してネット上などでわき起こった反響や、アメリカにおける各種学会の声
明は以下の本にまとめられています。滝本太郎、石井謙一郎編 『異議あり!「奇跡の詩人」』 同時代社 2002,6
以上より、現在のところFCと称される文字盤使用や書字介助が、臨床的および科学
的検証を経た技法であるという見解には至りませんでした。FCが本人の意思を正し
く表現しているかどうかについて、今後とも注意深く見守り、検証する必要があると
考えます。会員の皆様は、障害がある子の人権を第一に考え、冷静・適切に対応されますよう、
呼びかけます。
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*参照(1)厚生労働省の見解
2002年11月14日、衆議院決算行政監視委員会で、菅義偉議員による質問
○上田政府参考人
*参照(2)コミュニケーション・アシスト・ネットワーク(CAN)
(2)日本小児神経学会からNHKへの公開質問状とNHKからの回答
日本小児神経学会からNHKへの公開質問状
日本放送協会(NHK)殿
1. この番組は小児神経学的な立場からみると、琉奈君から発せられたメッセージ
2. ドーマン法については、米国小児科学会が2度にわたりその非科学性について
3. 我が国においてもドーマン法については多くの批判があり、小児神経科の診療
我々はいかなる方法にせよ、過度の訓練を強制的に障害児に行うことは、子供への虐
日本小児神経学会 理事長 埜中征哉
(10月下旬NHKに送付)
NHKの回答
参考人:日本放送協会専務理事、板谷駿一氏;厚生労働省社会援護局障害保険福祉部長、上田茂氏
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/005815520021114002.htm
○菅義偉委員
まず、これは厚生労働省にお尋ねをしたいんですけれども、このドーマン法について国はどんな認識を持っておられるのか、お尋ねをします。
ドーマン法につきましては、その内容や考え方が医学的に必ずしも明らかではございませんが、米国の小児学会において、ドーマン法は有効性が認められないとの見解を出していると承知しているところでございます。また、日本の小児神経学会におきましても、今回の番組の放映を受けて、米国小児学会の声明を引用した上で、ドーマン法については多くの批判があるとの見解を示しているところでございます。このように、専門家の間では、ドーマン法は脳に障害を持つ児童に対し一般的に用いられる手法ではないものと認識されていると私どもは承知しているところでございます。
CANとは、言語や聴覚に障害のある人を支援するために、言語聴覚士などの専門職と、当事者・関係者が共同で設立した、特定非営利活動法人(NPO)です。
(日本小児神経学会誌「脳と発達」第35巻第3号、p.281-282)
去る、4月28日午後9:00〜9:50、貴総合テレビにて放送された、NHKスペシャ
ル「奇跡の詩人―11歳脳障害児のメッセージ―」につきましては、放送後から多くの
反響があったと聞いておりますが、日本小児神経学会の会員の多くがこの番組の内容
に疑義を持っております。また障害を持つ子どもの親からも会員の医師に問い合わせ
がまいっております。障害を持つ子どもの診療に当たっている立場から社会活動・広
報委員会を中心に検討いたしました結果、下記のような問題があるという結論に至り
ました。質問状をお送りしますので、誠意をもってご回答下さるよう要望致します。
ご回答につきましては学会誌によって全国の学会員に通知することにしております。
を母親が受け取っているかどうかきわめて疑問に思われます。どのような方法で確認
されたのでしょうか。
声明を出していますが、それを把握した上で、この番組を放映されたのでしょうか。
を否定したり、就学を拒否されるだけでなく、強制的な訓練法を親に押し付けるあま
りに家庭崩壊などをきたした方々がおられること、かつ極めて高価な指導料をとって
いることなどを知っておられたかどうか、
についてお答えください。
待にも繋がるものと考えています。まして、高額の負担を親に負わせたり、半ば強制
的に押し付けることは大きな問題であると思っております。
この番組をみた親族からなぜドーマン法を受けさせてこなかったなのかと強く非難さ
れたお母さんもおられます。この例からわかるように、この番組は結果的にドーマン
法を推奨しているといわれても仕方のない側面をもっています。ドーマン法を中断し
た幾人かの親たちから中断したことを非難されているように思われるという悲鳴にも
似た声が多くの学会員にも届いております。この番組がもたらしたこのような誤解や
混乱について責任をもって対応されるとこを心からお願い申し上げます。
日本小児神経学会社会活動・広報委員会委員長 岡田伸太郎
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平成14年12月26日
日本小児神経学会
日本放送協会 NHKスペシャル「奇跡の詩人」に関する10月29日付けの当協会海老沢会長あての質 |
*参照
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(3)日本小児科学会の「NHKスペシャル-奇跡の詩人-報道について」
経緯と趣旨
2002年4月28日午後9時からNHK総合テレビで、NHKスペシャル「奇跡の詩人- 11歳脳障害児のメッセージ」が放映されました。重い脳障害をもつ児に母親らが必死に療育に取り組んだ結果、「奇跡」とも呼べる発達を遂げているという内容でした。
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要約版
略語: AAP, 米国小児科学会
「パターニング」は、神経学的な損傷による"神経学的な組織化"を改善するようデザインされた一連の体操であると主張する一部のグループ により、脳損傷や学習障害やダウン症や脳性麻痺や自閉症のような神経学的な障害のある子供たちの治療として40年以上も主張され続けてきた(1-5)。米国小児科学会の2度にわたる警告(3, 11)を含めて、多くの組織が、この治療法の問題点について、警告を発してきた(6-10)が、現在においてもこのグループ の活動による混乱が後をたたないので、あらためて米国小児科学会としてこの治療法の現状を論評することにした。
パターニングではグループ が信奉するパターン通りに、複数の人が子供の頭や手足を日中に何時間にもわたって行うことが要求される(14)。両親にとって肉体的にも経済的にも非常に負担の大きい方法であるにもかかわらず、両親が妥当性を尋ねたり完璧な準備をしない場合には、患児の惨めな予後がほのめかされるので、両親が治療を拒否するのは困難となる。治療の選択肢としていくつかのプログラムがあるが、指示される摂生法は両親を含めた家族の膨大な時間と財力を消費させ,ストレスや養育放棄の誘因となる(15,16(251-252ページ))。
これほどの犠牲を家族に強いながら、これらのプログラムにおける子供の発達の評価法妥当性はまだ証明されていない。パターニング理論の中心的原理である、"神経学的な組織化"は、大脳半球優性と個別の連続した系統発生の関係を過度に単純化された概念であるが、この仮説を支持する科学的な研究報告は存在せず、一般に受け入れられている神経学的発達の観点と矛盾している。
結論と推奨
パターニングを提供する治療プログラムは未だに根拠のないままである;即ち、それらはあまりに単純化された理論に依拠し、種々の関連の無い状態に対して有効であると主張され、症例報告や逸話的なデータにより支持されているが注意深くデザインされた研究では支持されていない。大部分の症例では、この治療法を受けた患者に見られた改善は、成長や発達か、ある特定の技術の集中的な練習か、集中的な刺激の非特異的な効果に基づくものと説明出来る。
医師と治療者は、この特殊な治療に関する論争と入手出来る証拠をしっかり認識しておく必要がある。過去と現在の分析と研究と報告を基にアメリカ小児科学会は、パターニング療法は特殊な利点を未だに提供出来ず、その支持者の主張は証明されないままで、家族に課せられる要求や期待が非常に過大なために幾つかの事例では結果的に経済破綻をきたしたり、両親と兄弟姉妹の関係に大きなストレスが生じたと結論する。
障害児委員会 1999-2000年
(4)
日本小児科学会倫理委員会
ドラマではなくドキュメンタリーとしての番組でした。放映後内容について多くの疑問が当局によせられています。6月6日には海老沢会長の弁明もありました。しかし、疑問には学術的専門性からの意見を問うものが多くあります。一つに脳性麻痺の訓練法の一つであるドーマン法であり、もう一つが意志伝達法の一つであるファシリテイテイド・コミュニケーション法(FD法)についてでした。
日本小児科学会倫理委員会としては、番組内容そのものに批評を加える立場にはないと判断しましたが、問題点の前者については、今回は1999年に出された米国小児科学会のドーマン法を含めたパターンニングの批判声明を支持する立場から、その内容の主たる部分を邦訳しここに掲載しました。
小児科学会 政治的声明
Pediatrics 104巻 5号 1999年11月号 1149-1151ページ
神経学的に障害のある病児へのパターニングを用いた治療(RE9919)
アメリカ小児科学会 障害児委員会
更に、パターニングの治療効果として主張されている結果も、科学的な統計的分析では、ほとんどもしくは全くこの治療の利点を示さなかった。この治療で利益を得たとされている何人かの障害児は誤診されていたか不当に悲観的な予後とされていた。きちんとした比較試験(40)では、パターニングはその他の方法より優れていると見なすことは出来ないと結論づけられた。
委員長 Philip R. Ziring 医師
Dana Brazdziunas 医師
W. Carl Cooley 医師
Theodore A. Kastner 医師
JAPAN SKEPTICS NEWSLETTER No.48