絵本のなかのトムとジェリーたち
2002/11/11
図書館では、「トムとジェリー」のビデオが、こどもたちに大人気です。毎日、一回は、だれかが「トムとジェリー」を見ています。
ねこに食べられるはずのねずみが、智恵を使ってすばしっこく逃げ回り、反対にねこを散々な目に遭わせる。でも、ほんとは仲のいい友だち、という落ちもつく。
絵本にも、このタイプのお話があります。大きなねこにつかまって危機一髪の小さな生き物たち、すずめや、ねずみが、舌先三寸で逃げおおせます。
『さよならのうた』松岡節・作、いもとようこ・絵、ひかりのくに、2001年10月
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3b6414ed735de0104e81?aid=p-morioka00730&bibid=02081095&volno=0000
『おはなし こねずみ ロミュアルド』アンヌ=ジョナス・作、フランソワ=クロザ・絵、なかいたまこ・訳、フレーベル館、1999年11月
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3b6414ed735de0104e81?aid=p-morioka00730&bibid=01707579&volno=0000
『さよならのうた』は、ねずみじゃなくて、すずめのチュンとねこのゴンのお話です
子すずめのチュンが、かあさんすずめの暖める卵が孵って、弟、妹が生まれたのを見て、大喜び。
まんまるい目を見張って小躍りして、「ばた ばた ばた ちゅん ちゅん ちゅん」と飛んで行き、一番先に出会った、ねこのゴンに、「ねえ、ゴンちゃん」と声をかけてしまいます。
「なんだね」とぎょろりと目をむくゴン。絵本の右のページには、大きなゴンの顔。ゴンの頭だけでチュンより大きい。きばが見えています。
左のページには、もはやあわててもおそいチュンの頭から大きな汗が一滴。
しどろもどろで言い訳するチュンに、ますます怒って、次のページを開くと、ゴンが爪の出た前足でチュンをつかまえようとします。開いた口からは舌も出ています。追い詰められたチュンは、口からでまかせを。
「あ、あ、あのね。"さよなら"って いう うたが いま はやっているんだけど、ゴンちゃん しってる?」
強くていばっているゴン、知らないとは言えず、
「あったりまえだ。よーく しってるさ。」
「いいか、うたうぞ よく きけ」
両手(両前足)を組んで、両足(両後ろ足)をそろえて、目はきょろきょろと上を向いて、神妙なスタイルで、「さよならのうた」を歌いだすゴン。
絵本のページには、音符と「さよなら」の文字が躍っています。
「♪さよなら さよなら♪」
次のページを開くと、チュンにおだてられて、ゴンはますます図に乗り、両手(両前足)を背中に回して、胸をはって、目を瞑って、
「♪さよなら さよなら♪」
次のページを開くと、2ページ見開きで、ゴンが、上を向いて、両手(両前足)を広げて、掌の肉球も見えて、絵本のど真ん中の、ゴンの真っ赤な大口から、堂々たる美声で(?)がんがんと、
「♪さよなら さよなら♪」「♪さよなら さよなら♪」
こうして、
> チュンは、むちゅうで うたって いる ゴンに きづかれないように、そうっと あとずさり。
> はやく にげないと いつまでも ゴンが うたっているはずが ありません。
> さっと そらへ まいあがると、おおいそぎで おうちへ かえって いきました。
これは、すずめが、ねこに、歌を歌わせて、逃げるお話でした。
『おはなし こねずみ ロミュアルド』は、ねずみのロミュアルドと、ねこのチベールのお話です。
子ねずみのロミュアルドは、図書館の壁の穴に住むねずみです。ある日、とうさん、かあさんの留守中に、穴から抜け出したロミュアルドは、図書館の本から、ページをかじるな、と注意されます。そして、そのかわりに、竜の出てくる物語をお話ししてくれました。ページがめくれるにつれて、海に出て行く帆船や、森の中で緑色の竜と戦う騎士が見えます。
> ロミュアルドは、あつくてあせびっしょりになったり、さむくてぶるぶるふるえたり、おおよろこびしたり、おそろしい目にあったり、わらったりしました。
お話を聴きおわったロミュアルドは、家に帰ってから夢見るような気分で過ごし、次の日には、以前よりも大胆になって、ちょっと遠出をして、いとこたちのいる穴へ行こうとします。ところが、いとこたちのいる穴の手前で、ねこのチベールにつかまってしまったロミュアルド。
緑色の目のチベールがしっぽをおさえているロミュアルドのすぐ前の壁の穴の中に、同じような小さなねずみたちの顔が見えています。
チベールは、ゆったり、鷹揚に構えています。ロミュアルドが、
「まって、チベール! おはなしをしてあげるから」
というと
>「いいだろう、ちびねずみ。ゆっくりたのしませてもらおうじゃないか。だけど大きな声ではなせよ。おまえ、声までちびだからな。ちょっとでも聞こえなかったら、すぐ食っちまうぞ。」
次のページを開くと、両ページいっぱいに、ねこのチベールが左肩肘をついて、目の前の小さなねずみのロミュアルドを見下ろしています。右足の先は、ロミュアルドのしっぽの先にひっかかっています。爪は引っ込んでいますが……
> そこでロミュアルドは気をとりなおして、
緑色のりゅうが出てくるものがたりをはじめました。
ひとこともわすれずにぜんぶおぼえていたのです。
>ものがたりがすすむにつれて、
しっぽをおさえているチベールの前足から
すこしずつ力がぬけていくのがわかりました。
>そのうち、チベールはゆったりすわり直し、
とうとうロミュアルドの前にねそべって、
足も、フォークのようなつめも、
おなかの下にひっこめてしまいました。
ロミュアルドは、いとこたちや、心配してやってきた仲間のねずみたちを救うために、次から次へと物語の続きを作ってはチベールに聴かせます。そこに集まってきた全部で40匹のねずみたちも、物語に夢中になってしまいました。
それからというもの、ロミュアルドは、毎晩、チベールが眠るまで、お話をしてきかせるようになりました……おしまい。
これって、「千夜一夜物語」じゃないですか!
あのシェーラザードが、王様に首をはねられないために、千夜一夜、物語をして、そのあいだに、こどもを三人生んで、とうとう、死刑を免れて、妹も王様の弟と結婚した、というお話。
実は、千夜一夜物語のなかにも、死刑を免れるために、おもしろいお話をする囚人の話が出てくるのです。
そうか、みんな、絶体絶命の境地に舌先三寸で命を助かる、っていうタイプのお話が好きなのね。
では、最後に。ねこじゃなくて、とらにつかまって、ねずみやすずめじゃなくて、にんげんのこどもが、舌先三寸で逃げる話といえば。
そう、あの「ちびくろ・さんぼ」です。今は、灘本昌久訳「ちびくろサンボ」のほかに、「おしゃれなサムとバターになったとら」、「とらのバターのパンケーキ」など、いろいろな題名で出ています。
お話をして聞かせるのでもなく、歌を歌わせるのでもなく、服や靴や傘をあげて、おしゃれさせて、逃げるのですね。おかげで、はだかになってしまった、ちびくろ・さんぼ。でも、最後に、とらのほうがバターになってしまって、サンボのおかあさんがホットケーキを焼いて、サンボが逆にとらを食べてしまうのでした。
厳密には、「ちびくろ・さんぼ」は、「トムとジェリー」タイプとは違います。「さよならのうた」でも、「おはなし こねずみ ロミュアルド」でも、食べられる側のすずめやねずみだけでなく、食べる側のねこにも、なまえがついています。チュンとゴン、ロミュアルドとチベール。お互い、なまえがあります。だから、ともだちにもなります。トムとジェリーも同じ。
でも、「ちびくろ・さんぼ」では、とらにはなまえがありません。そして、最後には、とらは、食べられてしまいます。
それにしても、一寸の虫にも五分の魂。こどもだからって、馬鹿にするなよ、というのが、「絵本のなかのトムとジェリーたち」のお話でした。