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ドーマン法以外の障害児者療育の一例

2002.12.16. by saihikarunogo

ドーマン法について知るには、ドーマン法以外の障害児者療育についても、ある程度知っておくのがいいと思います。

「異議あり!『奇跡の詩人』」(同時代社、2002年)に寄稿されている杉本健郎さんは、「いのちキラキラ重症児教育 堺市百舌鳥養護学校分校からの発信」(重度重複障害児教育のありかたを考える会、クリエイツかもがわ、2002年)の編著者の一人でもあります。

この本は、全国的にもめずらしい、生徒数が13人という小規模の養護学校の報告です。
杉本健郎さんは、ホームページの「不定期日記」コーナーにも、この養護学校のことを書いています。
2001年2月10日の日記です。
http://web.kamogawa.ne.jp/~sugimoto/topi/index.htm

 鬱状態のまま、7日には堺市百舌鳥養護学校分校の講演に行きました。たった13人の重度の子ども達が通う学校ですが、子ども達の目線にたった我が国の一つのモデルになるような教育が取り組まれていると思います。「医療的ケア」にもみんなで取り組み、分校では3度目の講演でしたが、小児神経専門医の立場からみても討論はいつも的を得たものです。一番気に入っているのは、子ども達の通学がタクシーだということです。他のマンモス養護学校のように1時間以上かけて大きなバス(しかも業者委託が多い)で通学するのではないのです。堺市内と言う限られた域である上に、短時間のタクシー通学です。しかも、地元の中学校の敷地内あります。健常児との交流では、小学校ならもっとよいのですが。確かに一人一人の子どもの単価は高くつくでしょうが、21世紀、世界のどの地域でも模索している重度重複児の教育を、我が国流に討論していくための、代表例なのです。お金がかかると言う理由で、つぶしていいものでしょうか?アメリカのように「ドーン」と大金を寄付してくれませんかね。

 

この「いのちキラキラ重症児教育 堺市百舌鳥養護学校分校からの発信」については、「奇跡の詩人」情報交換用掲示板でも、御紹介しました。

http://bbs4.otd.co.jp/476470/bbs_plain?base=609&range=1
http://bbs4.otd.co.jp/476470/bbs_plain?base=610&range=1
http://bbs4.otd.co.jp/476470/bbs_plain?base=611&range=1

既に御覧になった方には申し訳ないですが、まだ御覧になったことがない方のために、転載します。


「いのちキラキラ重症児教育 堺市百舌鳥養護学校分校からの発信」(重度重複障害児教育のありかたを考える会、クリエイツかもがわ、2002年)

第1部 生きぬく力をつくる-百舌鳥養護学校分校の教育
「第3章 こころ豊かに〜ゆっくりでも着実に発達〜2 ぼくの言葉で伝えたい」p.93-95.(田中登代子)
(註: 93ページに、昂行君を抱っこしている写真があります。田中先生も昂行君も笑っています)

 昂行くんは、小頭症です。脳の大部分が損傷を受けていると医師から説明を受けています。知的障害、視覚障害、運動障害があります。運動機能面は、全身を突っ張らせる強い筋緊張があり、立つことも座ることもできません。手や足は、ほとんど動かすことができず、生活のすべてに介助が必要です。てんかん発作をおさえる薬を4種類、1日に3回飲んでいます。
 入学した頃は、自分の周りで繰り広げられるさまざまなことは、単なる刺激でしかなく、その刺激で、反射的に全身を突っ張らせる緊張状態になってしまう様子でした。"音"には大変敏感で、私たちが話しかける声にも眼をしばたかせていました。座位保持装置に座るとますます緊張が強くなるので、学校生活全般で「抱っこ」を中心にゆったりと活動できるように心がけていました。その頃は、まだ、表情もかたく、午前中の活動中にも眠ってしまうことがよくありました。

(1)外界の変化を楽しむ(してもらうあそび)
1 好きなあそびを十分に行う--1,2年生

 まず、昂行くんが"快感"と受けとることはなんだろうということから取り組み始めました。抱っこで揺すってもらうことに心地よさを感じとっているように思いました。なかでも縦方向に揺すってもらうと、表情が穏やかになったり、緊張が和らいだりすることがありました。それで、昂行くんの好きな縦ゆれのあそびをたくさんやろうということになりました。

"おうま"

 「おうまはみんな」の曲に合わせて、教師の膝の上でぱっかぱっかと上下に揺すります。「昂ちゃん、楽しいね!」「もっと、しようね」と言葉をかけてまた揺する。毎日の繰り返しの光景です。ある日、揺すられて気分が盛り上がり、顔いっぱいに笑顔が広がりました。そして、「ガハッ!」と笑い声をあげました。初めての笑い声でした。

"こおろぎ"

 最初にこおろぎの擬音を聞かせ、次にミニトランポリンに乗って抱っこで縦ゆれをします。昂行くんは、「りーん、りーん」と鳴り出すと『あれっ? なんだろう』と耳を傾けています。「こおろぎが鳴いているね」「こおろぎみたいにぴょーんと跳んでみよう」と言葉をかけて跳び始めます。毎日繰り返しているうちに、ぴょーんぴょーんと跳ねると、笑顔と共に「オー、オー」と声をあげるようになりました。こおろぎの歌に合わせて揺すられるのが楽しくて仕方がないのです。そんなある日のことでした。「りーん、りーん」と鳴り始めただけで、昂行くんは「ガハッ!」と笑い、次に「オー、オー」と言ったのです。

 『あっ、こおろぎだ!』『ぼく、わかったよ』『早く跳ぼうよ!』
 私には、昂行くんの「オー、オー」がこんなふうに聞こえたのです。

 毎日感じる縦ゆれの快感が"好きな遊び"になり、身体を揺すられる快感は心も動かしました。笑顔がやわらかくなり、声に出してその快感を表現しました。
 こおろぎの擬音のやわらかな音色には、眼をしばたかせることなく耳を傾けるようになりました。視覚障害がある昂行くんには、"音"が外界をとらえる大切な手がかりとなります。"こおろぎ"のあそびで初めて、音を好きな縦ゆれあそびと結びつけてとらえました。
 そして、さらに、好きな縦ゆれを中心にしたあそびを十分にしてもらう中で、笑い声は、だんだんやわらかくなり、「アハッ!」「ゲラゲラッ!」というようになっていきました。そして、その楽しさを、"笑い声"、"満面の笑顔"、"「オー、オー」と言う"、"きらきらした目の輝き"など、豊かに表現するようになっていきました。
 この頃の昂行くんは、まだ私たちの言葉かけをとらえてはいませんでしたが、抱っこをして人のぬくもりを感じさせることや昂行くんの気持ちになって言葉をかけることが、人との関係をつくっていく上で大切だと考えて取り組みました。


「いのちキラキラ重症児教育 堺市百舌鳥養護学校分校からの発信」(重度重複障害児教育のありかたを考える会、クリエイツかもがわ、2002年)

第1部 生きぬく力をつくる-百舌鳥養護学校分校の教育
「第3章 こころ豊かに〜ゆっくりでも着実に発達〜2 ぼくの言葉で伝えたい」p.95-96.(田中登代子)
(註: 97ページに、昂行君を抱き上げて車に乗せようとしている写真があります。昂行君は胸に頭をもたせかけて目を瞑っています)

2 楽しい遊びの世界を広げる--3年生

 好きなあそびを軸にして一つ、また一つと楽しめるあそびの世界を広げていきました。そのひとつに"あずきあそび"があげられます。

"あずきあそび"

 斜めにしたポリエチレンの波板の上にあずきをポトン、ポトンと落とす。昂行くんは、この音を聴いて『ん?』と集中する。ポトン、ポトンのスピードと量が増してくる。ザッザッザッ……、ザザザザー。ぴたっと音が止まる。昂行くんはまた『ん?』。しばらくしてからまた、ポトン、ポトン……と始まる。これを『ワーイ、おもしろいなー!』というような表情で聴いている。どんどんあそびに引き込まれる様子。あずきを今度は、パンパンパンと弾くように落とす。波板の下の方にいる昂行くんにあずきがピチピチと跳ねて当る。足や手、胸にまで跳んでくる。「ゲラッ」「ゲラッ」と笑っている。この感触がおもしろいらしい。あずきの流れが止まる。「ゲラゲラー」と大笑い。そして「ワァー、ワァー」「オー、オー」と、やや興奮気味。このはずむ気持ちが持続して、手であずきを触ることも抵抗なくできたのには驚きました。
 昂行くんは、あずきの動きはとらえることができませんが、緩急をつけたリズミカルなあずきの音と静寂の繰り返しなど、音の変化をとらえ、楽しむことができました。
 この頃の昂行くんは、何かが始まるという雰囲気を感じたらうれしくてたまらない様子で、あそびへの期待感に顔が輝いていました。遊ぶ中で声が多く出るようになり、笑い声もはじけるような笑顔と共に、「ゲラゲラゲラー」と笑いころげるような感じになりました。
 "バスごっこ""電車ごっこ""船の旅"などそれぞれ違うゆさぶりと音を組み合わせたあそびや、"あずき""おから"など音やゆさぶりに加えて感触を味わうことを組み合わせたあそびをいろいろ行いました。また、昂行くんは"光"をとらえていることから、"光" や"光の色"を感じさせることを組み込んだあそびも行いました。そのような中で、"好きなゆさぶり"だけでなく音や光も楽しめるようになり、あそび全体をもとらえて楽しむようになりました。あそび以外のことにも気持ちを向けるようになりました。
 笑顔で遊んでいる昂行くんに「楽しいね!」と言葉をかけるとその楽しさがいっそう増すようでした。「もう1回やろうか」と言うと「アハハッ!」と応えます。「じゃー、もう1回やるよ」と言葉を返します。昂行くんの笑顔に私たちの心もはずみます。昂行くんが『ん?』と考えている様子の時は、「今の音、なんだろうね」などと思わず言葉をかけてしまいます。こんなふうに私たちの言葉かけにも耳を傾けてくる昂行くん、気持ちの交感ができていると実感できるうれしい瞬間でした。
 遊ぶ楽しさを知り、満喫する。さらにその気持ちを教師と交感する。このことを十分に経験したことが、次への発達の原動力になりました。


「いのちキラキラ重症児教育 堺市百舌鳥養護学校分校からの発信」(重度重複障害児教育のありかたを考える会、クリエイツかもがわ、2002年)

第1部 生きぬく力をつくる-百舌鳥養護学校分校の教育
「第3章 こころ豊かに〜ゆっくりでも着実に発達〜2 ぼくの言葉で伝えたい」p.98-99.(田中登代子)

3 外界のいろいろな変化をとらえる力を広げる--4年生

 あそびは、今までのように単に楽しいと感じさせるだけでなく、違った雰囲気や変化を盛り込みました。使用する音楽もそれまでは楽しくはずんだ曲想のものが多かったのが、設定する状況にあった曲想のものに変わりました。

"キャンプごっこ"

 みんなで歌って楽しく遊んでいたら、静かに『ゆうやけこやけ』の局が流れてくる。まず、部屋の電灯を消し、次にカーテンをゆっくり閉めていく。最後に暗幕をこれもゆっくり閉める。昂行くんは、『あれっ!』『周りが……』という表情。「だんだん暗くなってきたねえ……」と教師の言葉にも『……』。すっかり暗くなる。「真っ暗になったね」と言葉をかける。「ウー」と昂行くんの低い声。  初めての経験にじーっと様子を伺っていました。真っ暗になった時は、ちょっと不安になったのかもしれません。回を重ねていくうちに、余裕も出てきて、『あっ、これ、これ』『だんだんに暗くなっていくなー』と状況を見守っている様子でした。そして真っ暗になると「アハハハッ!」と笑い、その顛末を楽しんでいるかのようでした。

 昂行くんは、次第にいろいろな雰囲気をとらえるようになりました。
 ここで私たちが大切にしたことは、昂行くんのさまざまな心の動きや表現を受けとめて、心に寄り添った言葉かけを行うことでした。
 あそびの切れ目で言葉をかけると、声や表情で応えてくれます。それは、以前のようなはじけるような笑顔と「オー、オー」言うだけではありません。"その時々の感情を込めた""うっとりした""不思議そうな""考え込んだ""納得したような"など、さまざまな表情です。声も文字にすると「オー」ですが、長く声を引っ張っていたり、トーンが違っていたり、「ウー」と言ったりさまざまな感情を込めて言っていることが伝わってきました。昂行くんのそのような気持ちに応えて「昂ちゃんは、○○て思ったんだね」と言葉を返して気持ちを交感することを大切にしました。
 このように取り組む中で昂行くんは、外界のいろいろな変化をとらえる力を広げていきました。同時に、豊かな心も自分のものとしていったのです。

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このあと、「(2)自分から外界に働きかけて遊ぶ力をつける」(p.99-104)という章があります。

103ページに、昂行君が給食を食べさせてもらっている写真があります。
そして、105ページの「(3)おわりに」で、昂行君が、小学1年生の時は、自分の周りで起きていることをとらえられずに眠ってしまうことが多かったのに、中学3年生になった今では、日常生活での自分の経験に基づく内容は、言葉でとらえることができるようになり、自分の気持ちを言葉で伝えることはできないが、声や表情、また、昂行君なりの「言葉」で表現することができるようになった、と書かれています。

106ページに、昂行君のおかあさんの書かれたコラムがあります。昂行君のありのままを姿を認め、できるようになったこともできないことも認め、言葉を話すことができない彼の代弁者となっていきたい、と結ばれています。


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