修羅聖痕


季節は春。
場所は日本、今はもう存在しない場所。
ゆえに名を知るものなき桜の森で。
一人の少女が駆けていました。
恐怖にヒキツッタ顔で。

怖い恐いこわい
コワイコワイコワイコワイ
来ないで、来ないで
来ないで!
走りながら振り返った少女の瞳に映ったモノは
悪意の爪
イキモノの形をした悪意・ギア
ソノ爪が少女めがけて迫ってくる。
とっさに右腕を目の前に突き出した直後
少女は跳ね飛ばされ、山の斜面を転がり落ちていった。
追おうとしていたギアの足が不意に止まる。
呼び声
主人の声に従って、次の攻撃ポイントへ。
ギアは翼を広げてその場を飛び立っていった。


・・・・・・
・・・声が聞こえる。
あの声。
恐ろしい男の人。
アタシは聞いてしまった、男の呟きを。
辺りは人々の悲鳴とあらゆる種類の破壊音、そしてギアの雄たけびに満ちていた。
だが、確かにソレは聞こえた。
ギアたちに囲まれた男の口から。
愉悦に満ちた低い声
「まずは日本人からだ。」
フードに隠れ、顔は下半分しか見えない。
その口元が突如、裂けた。
亀裂が入ったような不気味な笑顔
「君たちには、是非甘美な滅びをご賞味いただきたい・・・ん!?。」
背筋に冷たいものが走り、アタシは思わず後ずさってしまった。
男が隠れているアタシに顔を向けた。
“音は立ててないのに!”
男は張り付いたような笑みを浮かべたまま
「出ておいで、お嬢さん。」
嬉しそうな声で、呼び掛けて
近付いてくる。
「盗み聞きをするような悪い子には、お仕置きしないと、ねえ?」
2,3歩手前まで来て、初めて男の目が見えた。

狂気に赤黒く染まった瞳

頭の中が真っ白に吹き飛ぶ。

気がつくと、ギアに追われ、森の中を闇雲に走っていた。
満月の月明かりがふと、翳る。
本能的に後ろを見やったその先には
「あの男」と同じ赤黒い瞳


*****


満月の下、人影が1つ、桜の森を悠然と進んでいく。
炎のはぜる音が近くなってきた。
辺りには、植物以外の生き物が発する『熱量』は感じられない。
“遅かったか・・・。”
胸中で苦々しく思う。
満開の桜に囲まれた湖の中州で、その木造の建物は燃えていた。
滝にも似た崩壊音と勢いよく逆巻く炎に包まれて
その光景は息が詰まるほど、壮麗。
“滅びの美学、か。”
おもわず、三島由紀夫の『金閣寺』を思い出す。
この国の民の文化・感性には、ふさわしいかもしれない。
とすると、今火を消し止めて、痛々しい木造建築の焼死体をさらすよりは、
消し炭になるのをそっと見届けるべきなのではあるまいか。
結論は出た。
火の粉が雪のようにあたりに降り注ぎ、
湖面は静かにゆれながら、朧に燃え盛る建物を映している。
それを彩る、
まさに、幽玄の世界
やがて、時を告げる鐘の音が。
いまわの際の辞世
それを見届けて、「彼」は背を向けて、
再び歩き出した。
その右目は、先程の炎を映したかのような、鮮やかな 深紅


*****


ショックに身を震わせ、目を見開く。
まず、目に飛び込んできたのは、金色に輝く満月
そして、満開の夜桜
動くものの気配は無く、聞こえるのは、森のざわめきと自分の動悸
とりあえず、近くにギアはいないようだ。
少しだけ安堵して、右手をついて体を起こそうとした。
「イタッ!」
手が地面につく代わりに腕の付け根辺りに激痛が走る。
右を上にして、目をきつく閉じ、泣きうめく。

「動くな」
不意に静かで低い声が響く。
ビクッ
少女はあからさまに怯え、恐る恐る顔を上げる。
すぐそばに誰か立っている。
恐怖と痛みでぐしょぐしょの顔
男は思わず苦笑する。
少女の目には、それは微笑のようにも見えた。
満月と同じ色の瞳が少女を見下ろしていた。
「動くからせっかく打った針が抜けたじゃねえか。」
おもむろに膝をつき、めんどくさそうに少女の右肩に針を打つ。
あまりに素早かったので、少女は反応できなかった。
「ほらよ、痛くねえだろ。」
ビリビリと電流でも走っているかのような痛みが、嘘のように消えていた。
と、同時に麻酔をかけられたように感覚が霧散する
意識はハッキリしているが、自分の身体が遊離し、把握できない。
きょとんとして、男の顔を見る。

精悍でどこか厳しい、が、穏やかな顔
後頭部でまとめられた髪は赤茶色
月色の瞳

日本人でないのは確かだ。
だが、その口から紡がれるのは 流暢な日本語
言葉遣いは荒いが、声音は静かなものだ。

「お父さん・・・」
2年前に他界した父には、どこも似ていないのに思わずそう呟いていた。
男がほんの少し、眉を寄せた。
ハッとしてあわてる少女
「あ、あの、ご、ごめんなさい。その・・変なこと言って。」
男は黙って目を閉じてしまった。
少女がなおも謝ろうと口を開きかけた、その時
「・・・似ているのか?」
いきなり問われ、面食らいながら
「ううん、似てない。ただ・・・態度と口調が少し、そんな風だったかな。」
「だったかな?」
いぶかしく思い、問い返す。
少女は男が気を悪くしていないと知って、ほっとして笑った。
「うん、2年前に死んじゃったんだ。アタシ、小さかったから良く覚えてないの。」
にこにこと少女。口を利いてもらえるのが、嬉しいらしい。
そんな少女をどこか複雑な表情で見つめながら
「そうか・・・。」
ややあってから
「今日はもう寝ろ。」
少女は話し足りないらしく、抗議
「今までずうっと寝てたから、もう少し起きていられるよ。」
「自覚がなくとも、疲れてんだ。いいから寝ろ。」
ピシャリと言われ、毛布をかけられた。
しぶしぶ従い、目を閉じる。


*****


目を閉じた途端、眠りに落ちてしまった少女を目の端に捉え、声無く嘆息
“まだ気づいてはいないが、明日はさすがに・・・”
自然、気が沈むのは避けられず
あどけない少女の寝顔に、胸が痛んだ。
今はまだいい、傷は深く、何よりあまりにも疲労しすぎている。
とにかく、ゆっくりと心身を休めるのが先決だ。
だが、後日、否応なしに少女は対面せざるを得ないのだ
自らの負った傷と、それ以上に深いであろう心の傷と。

“・・・考えて、どうにかなる事ではない・・・か。”
事態は既に自分の手を離れてしまっている。

胸にわだかまる、いくきれかの感情
行き当たるとすれば、それは『哀しみ』と『怒り』、そして『後悔』
だが、『絶望』だけは、無い
“まだ、早すぎる。“
結論を出すには
そして
全てをあきらめるには。

いまだセッティングすらキマラナイ舞台の上で
“まだ、夜明けには遠い・・・”

そして、『ハジマリの男』の瞳は
閉じられた。


*****


焼け落ちた建造物に背を向けて程なく
かすかな命の気配に気づいた。
あまりにも弱弱しく、今にも消えそうな『熱量』
感覚に導かれるまま、歩むことしばらく
次第に聴覚が鼓動と呼吸音を捉えだす。
リズムが速い
“子供だ”
まだ視野には入っていないが、確信する。
迷う素振りも見せず、道から外れ斜面を下りていく
足をとられることは無く、こともなげに一定のリズムで。
他よりも一回り以上大きな桜の木の前で立ち止まる。
視線を下へ

地面から突き出した木の根に抱かれるようにして
一人の少女がうずくまっている

桜色の長い髪は土にまみれ
顔の左側と右肩からはまだ血が流れ出ている。
おまけに、右肩の先・右腕は見当たらない。
生きているのが不思議なくらいの状況

溜め息を一つ
“面倒見るしかなさそうだな・・・”
放っておけば、確実に死ぬだろう
だが、その方がひょっとすると幸せかもしれないが

ふと、何かに気づき、少女を見つめる。
ほんの僅かに唇が動いた。
“た す け て”
音にはならなかったが、ハッキリとそう動いた。

・・・あまりにもタイミングが良すぎる。
たぶん、ギアに追われている夢でも見ているのだろう。
それでも、それは少女の意思のように思えた。
辛くとも、生きたい
“やられっぱなしの現状を打破したい”

口の端が上がるのを感じて、思い直す。
・・・ただの思い込みだ
だが、ひょっとすると本当に生きたいのかもしれない
ともあれ、生きるか死ぬかは、彼女が決めること
俺の決めることではない
「いいだろう、助けてやるさ、命ならな。」
聞こえているわけはないが、声に出して言う。
そう、目覚めたらまた言っておかねば
“命は俺が救えても、心は自分で救うしかない”
少女の前途は苦難に満ちているだろう
生きるのを放棄したくなることもあるはずだ
生死を決めるのは、その時でも遅くは無い
これから、保護先が見つかるまでは、少女と過ごす羽目になる
色々と手を焼かねばならない。
だのに、なぜか嫌な気はせず
ただ少し、“面倒くさい”と思った。


*****


・・・ユメか・・・。
目を開くが、視界がぼやけ 頬を水が伝う感触
「また、アイツの夢だ。」
見慣れた、いつもの夢。
何故、何度も繰り返し 同じ夢を見るのだろう?
“この傷跡と一緒にアイツの記憶も刻み込まれちまったってーのか?”
自分の思いつきなのに、むず痒くなって頭を左右に振る。
乱暴に涙を振り払ってから
「全く・・・焼きが回ったぜ!。」
湿っぽさを吹っ切るために、威勢良く一声あげて
勢いよく体を起こす。
「絶対とっつかまえて、目に物見せてやる!。」


*****


其の時、初めて親友の目にかつての光が宿った。
それは、信頼する者への柔らかい眼差し
続いて、懐かしそうに語り出す。
「悪い夢から覚めた そんな気分だ フレディ。」
あの頃と同じ、唐突な話し方
苦笑と共に、涙が滲んだ。
何気ない風を装って、返事をする。
「高村光太郎の『レモン哀歌』か?。日本文学が好みなのは、相変わらずだな。」
「お前には、ずいぶんと付き合わせたからな。」
「全くだ。そのくせ、俺の趣味には付きあわねえ。とんでもないヤツだ。」
「そうか?。こう見えても、お前の趣味にも詳しくなったんだぜ。」
ぎこちなくはあったが、笑みを浮かべておどけた声を出す。
「ほお、んじゃ一つご披露していただこうかね?。」
明らかに返答に詰まる友
口からでまかせばかり言うくせに、嘘や隠し事は下手
本当に、昔に戻ったみたいだ。
「クイーンが好きだったよな!。ボーカルがお前と同じ名前でさ!。」
やはり唐突に、勝ち誇った調子で言う。
ぽたり
涙が一粒落ちた
「正解」
「な?。ちゃあんとわかってるだろ?。」
「ああ、確かにな。」
だんだんと友の声がかすれてきた。
そろそろ、時間らしい。
荒い息をつきながら、それでも口を開く
「わかってるからな・・・。」
悔しそうに放たれた、その言葉が最期となった。
しばらく、目を閉じて佇む。
胸のうちをよぎる様々な想いを鎮め、
ソルは、変わり果てた親友の亡骸に静かに背を向けた。


*****


名も知らぬ恩人は、自分の命を救い、世話をしてくれ
何より心の支えで居てくれた。
そして
ある日、泣きすがる自分を一度抱きしめてくれた
別れ際の挨拶代わりに。
それが最初で最後の抱擁だった。
今も耳に残っているのは
それでも、しがみついて離れようとしない自分に言った言葉。
「お前が強くなりゃあまた会うこともあるかもな。」

苦笑交じりの、気休め程度の台詞
今思えば
聞き分けのない子供をなだめすかすための苦肉の策。
少し考えれば、分かることなのに
アタシは何故か信じてしまった。
疑うことが出来なかった。
否、頭では分かっていた。
ただ、信じるより他にどうしようもなかったのだ。

そのまま、時は経ち
それは“俺”の生き方になった。

「腕を磨き、“あの男”に復讐する。」

そんな大義名分を掲げ、自分を鼓舞する。
事実、それは嘘ではないし、
本心からの言葉だ。
だが・・・

“今日は一体どうしちまったんだ?。”
何時になく、深みにはまってしまう。
ずっと考えないよう、努めてきたのに。
「チッ、嫌な気配だぜ。どんどん強くなっていきやがる。」
先ほどから、強大な妖気がある地点に集まりつつある。
本能的に“何か”を感じて、身震いしながら
歩を進めていく。
一歩一歩 それは予感から確信に変わっていく。
胸の奥が期待に熱くなっていく。
熾烈を極めるであろう闘い 
それへの期待ともう一つ

・・・懐かしい気配・・・

梅喧は知らず、駆けていた。
自分を置いていった人
“絶対に名乗りはするものか。”


*****


ふと、人の気配に立ち止まり、そちらを見やる。
柱の影に人影
“女か”
着物に身を包み、腰には刀
右腕には腕の代わりに、暗器を忍ばせ
左目は傷跡で塞がっている。
隻眼ながらも眼光は鋭く、腕は相当なものだろう。
何より、その体全体からは命のやり取りを知る者の殺伐とした匂いが漂っている。
しかし
僅かに、結い上げた桜色の髪だけが、かつての面影を残している。

ソルが梅喧を認識するには、それで充分だった。

当時と何一つ変わらないソルを見た瞬間
梅喧は悟った
自分はこれ程までに、会いたかったのだと。

オモイノタケをありったけの殺気に籠めて、言い放つ。
「一つ、手合わせ願おうか。」
“会いたかった!”と叫ぶ代わりに。






<懺悔と謝罪、そして弁解・・・>

“タイトル”

「修羅に聖痕があっちゃあ、マズイだろ!?。」
マッタクデスネ!
って、終わっちゃったワヨ!。
ダメじゃないデスカ!。
でーも、大丈夫デース!。
ちゃんと意味が込められているので。
・・・私もいまいち理解し切れていないけどね!。墓穴。

“本文”

「・・・もしかして、『これ』が梅喧・・・?。」
ソノトオリデゴザイマスッ!
すみません、ごめんなさい!。
ものすごくカッテにつくりました!。
オフィシャル設定も夢も希望も全てソッチノケです!。
深夜、腹とアタマの具合がワルい状態で、シャワー浴びてたら唐突に浮かんだんです。
きっと、1日中電波系の歌をエンドレスで聴いてたので、受信しちゃったんでしょう。
そんなわけで、かなり苦し紛れな至らないお話ですけど、もしも!、
少しでも気に入っていただけたら、幸いです。

・・・・・
ちなみに、ソルについてはもはや何も言えませんね(苦笑)。
主役は梅喧、彼はゲストってことで、ご容赦ください。
あーくーまーでー、ゲスト!
ホストじゃないですよ、ゲスト!(しつこい)。
実は、「旦那ってば、何だかんだ言って優しい、。」
とか思ってるんですけど、焼却処分されかねないので、御内密に・・・びくびく。
ああ、また一つ、夢を壊したような・・・(哀)。
もっとヘヴィなバッドガイを思い描いている皆様、
全ては『春ノ夜ノ夢ノ如シ』。
もう春終わっちゃいましたけど、そういう事にしておいてください。

では、これにて 
皆様もよい“夢”を・・・



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