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ジェトロ・稲葉公彦さん講演資料



講演「中南米をめぐる自由貿易協定(FTA)の動きについて」

2003年 5月14日に行われた定例会で日本貿易振興会 (ジェトロ)ブエノスアイレス事務所・稲葉公彦さんが講演をされました。その際に用いられた資料をここに記載いたします。



1.ラテンアメリカ自由貿易連合
中南米における地域統合は、60年2月調印のモンテビデオ条約に基づいて設立されたラテンアメリカ自由貿易連合(LAFTA)まで遡る。加盟国はアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、メキシコ、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラの11カ国だった。LAFTAは73年までに域内関税の譲許によって、自由貿易地域を完成させることを目標とする野心的なものだった。また、ボリビア、エクアドル、パラグアイは低開発国とされ、特恵優遇措置が講じられたが、基本的には二国間での関税譲許を加盟国すべてに均霑する最恵国(MFN)待遇を原則とする規律の高いものだった。
しかし、65年頃には関税引き下げが頭打ちとなった。さらに、LAFTAのメリットを享受できるのが、ブラジル、メキシコ、アルゼンチンといった域内大国に偏っていることに対して、域内中小5カ国が不満を募らせた。そして、69年10月にボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ペルーがサブリージョナルな統合としてアンデス共同市場(ANCOM)を発足させたことにより、LAFTAは分裂状態に陥った。その後、LAFTAは73年にカラカス議定書を締結し、自由貿易地域の完成期限を80年に先送りしたが、実現をみないままラテンアメリカ統合連合(ALADI)に移行することになった。

2.ラテンアメリカ統合連合
LAFTA加盟11カ国は80年8月に80年モンテビデオ条約を調印し、新たな経済統合の機関としてラテンアメリカ統合連合(ALADI)を設立した。81年3月の協定発効をもって設立されたALADIの加盟国はLAFTA11カ国と99年8月に加盟したキューバだが、その経済規模は中南米全体の95%に達する。ALADIはLAFTAの失敗を踏まえ、自由貿易地域完成の期限を設定していない。また、加盟国のうち自由貿易のメリットを享受しにくい低開発国に配慮するため、加盟国を低開発国、中進国、先進国に3分類し、開発の進んでいる国はより大幅な関税引き下げを開発の遅れている国に対して譲許するようにしている。このため、LAFTAが原則とした最恵国待遇は、ALADIではもとより適用されていない。さらに、部分到達協定(AAP)、経済補完協定(ACE)といった加盟国の間における二国間、または複数国間協定のスキームも設立されている。加盟国間の協定の中で一般的に広範な貿易を網羅するのが経済補完協定(ACE)で、現在40協定が締結されている。南米南部共同市場(メルコスール)はACE No. 18、G3自由貿易圏はACE No. 33、チリとボリビアのメルコスール準加盟はそれぞれACE No. 35、ACE No. 36としてALADIに登録されている。また、2000年9月の南米サミットで合意された南米統合の柱であるメルコスールとアンデス共同体(CAN)の自由貿易協定もACEが用いられることになっており、すでにアルゼンチンとブラジルはメルコスール準加盟のボリビアを除くCAN4カ国とそれぞれACE No. 48、ACE No. 39を締結しているが、パラグアイとウルグアイのCAN4カ国とのACEが遅れているため、メルコスール4カ国とCAN5カ国の自由貿易協定が完成せずにいる。なお、加盟国のうち、アルゼンチン、チリ、キューバはすべての加盟国とACEを締結しており、エクアドルとボリビアもCAN加盟国を除くすべてのALADI加盟国とACEを締結している。

<ALADIの経済補完協定(ACE)一覧>



3.ALADIと授権条項
ACEを含めてALADI枠内の貿易協定には、GATT24条が規定するFTAの要件は適用されない。一例を挙げれば、チリ・メルコスールACEが締結された時点では、自動車部門の関税引き下げは除外されており、チリがブラジルから輸入する大型車両に関税割当が設定されていただけだった。「実質的にすべての貿易について関税、その他の制限的な通商規則を撤廃」する考えはなく、また、もとより妥当な期間内に自由貿易地域を創出する発想もない。この点からALADIの枠組みはLAFTAに比べ規律が低いと言わざるを得ない。極論すれば、ALADIは自由貿易ではなく、特恵貿易の枠組みを形成しているといえる。これはより現実的な貿易自由化を目指した結果であるが、一方でその柔軟性が域内貿易自由化の円滑な推進に寄与している。ALADIが特恵貿易の枠組みを構築するだけで、GATT24条が規定するFTAの要件を満たしていないにもかかわらず、GATT/WTOの規定に抵触しないのは、その設立根拠である80年モンテビデオ条約が、「授権条項」と呼ばれるGATT東京ラウンドにおける79年の締約国団決定に基づいてGATTに通報されたからだ。授権条項は先進国が開発途上国に適用する一般特恵関税を最恵国待遇の例外として正当化するとともに、開発途上国間のFTAを一定の要件に基づいて認めるものだ。授権条項はGATT24条との関係については言及しておらず、80年モンテビデオ条約はGATTに通報されただけで、審査を受けることなく今日に至っている。91年11月発効のメルコスールの設立根拠であるアスンシオン条約も授権条項に基づいてGATTに通報されたが、いまだ審査は完了しておらず、88年5月発効のCANの設立根拠であるカルタヘナ協定も同様だが、審査そのものが開始されていない。メキシコはNAFTAやEUとのFTAなど中南米の域外ともGATT24条に基づくFTAを結んでいるが、一方でALADIの枠内でブラジルと自動車部門に限定した関税割当を中心とする特恵貿易協定も締結している。授権条項に基づくALADIとGATT24条のダブルスタンダードで柔軟に進めるのがメキシコのFTA政策の特徴だ。他方、FTAが締結される前のメキシコとチリのACEやメキシコとウルグアイのACE、チリのコロンビア、エクアドルとのACEなどは、ALADI枠内の協定であるにもかかわらず、実質的にすべての貿易を自由化するという視点でみても、GATT24条と整合的であり、自由貿易協定といっても遜色ない。

4.アンデス共同体
コロンビア、ベネズエラを中心とするアンデス共同体(CAN)はアンデス共同市場(ANCOM)として69年に発足したが、共通外資規制への批判、ペルーとエクアドルの国境紛争などにより、80年代まで経済統合の進展をみせることはなかった。しかし、90年代に入ってからはペルーを除き統合を加速させた。92年1月の第6回アンデス首脳会議において域内関税の撤廃が決定され、93年1月末に実施された。対外共通関税(CET)も95年2月に導入され、関税同盟へと進化したが、ペルーだけは決定に従わず、93年8月には一時的に脱退した。その後、ペルーは復帰したが、CETには参加しないまま、域内関税の撤廃だけを進めてきた。ペルーのCETへの参加が決定したのは、2002年1月の第14回アンデス首脳会議においてである。同首脳会議では、2004年1月からのCETの税率段階の縮小も決められ、ボリビアだけが20%の税率を用いないものの、CETはほぼ完成に至る。さらに、サービス、投資、労働力移動の自由化などを含む共同市場の2005年中の創設も再確認された。CANの統合加速の背景には、米州自由貿易地域(FTAA)、南米統合、将来的なFTA締結をも視野に入れたEUとの政治・協力協定の模索など、CANとして一体化したかたちでの対外交渉が増えていることがある。ただし、一方でコロンビアにおける反政府ゲリラの活動の活発化とゲリラとの徹底抗戦を主張するウリベ大統領の就任、急速に不安定性が増しているベネズエラのチャベス政権など、各国とも内政面での課題が山積しているおり、それらが統合進展に向けた力を削いでいる。事実、米州自由貿易地域(FTAA)の市場アクセス交渉における基準関税についても、CAN内部でのコンセンサス形成が遅れた。なお、現在の名称であるアンデス共同体(CAN)は97年に改称されたものである。

5.メルコスール
91年3月調印のアスンシオン条約により創設されたメルコスールは、94年末までに自動車部門と砂糖を除くすべての品目の域内関税を撤廃する計画だったが、計画は繰り下げられ99年末に完了した。95年に対外共通関税(CET)を導入し、共通関税分類に基づく約85%の品目に共通関税を適用することとした。メルコスールはラテンアメリカにおける新たな経済統合の性格を有する。第1に加盟国は80年代に始めた経済自由化を柱とする構造改革の帰結として、比較優位と競争力を有する産業を中心とする貿易拡大を目指している。第2に中南米経済統合の核となっている。チリ、ボリビアの準加盟のほか、EUとFTAの交渉を進めている。FTAA交渉にも一体化して臨んでいる。98年下半期にブラジルとアルゼンチンが同時に不況に陥り、さらに99年1月のブラジル通貨レアルの切り下げにより両国間に貿易摩擦が発生し、「メルコスールの危機」が叫ばれた。その後、両国は協議を通じて問題を解決し、2000年4月にはマクロ経済の収斂を盛り込んだ「メルコスール再建に向けた宣言」を発表したが、レアルの切り下げがきっかけとなったアルゼンチンの経済危機は深刻化の一途をたどり、統合の足を引っ張った。2001年3月には、アルゼンチンが競争力強化を目的に消費財の関税率引き上げと資本財の関税率引き下げを行ったため、事実上、メルコスールの対外共通関税は停止している。兌換法を放棄し、新たな経済モデルの構築を目指したドゥアルデ政権だが、主要な課題は次期本格政権への宿題として先送りし、同政権中に持続可能な経済成長を確保するためのプログラムは策定されなかった。2003年1月にIMFとの債務繰り延べ交渉が合意に達したが、繰り延べ対象債務は2003年8月までに返済期限が到来するものに限られ、新規融資はなかった。ここに来て、アルゼンチン経済は安定化してきているが、これは重要課題を先送りし、かつ、対外公的債務の返済も滞らせたままでの安定に過ぎない。2002年7月5日にブエノスアイレスで開催された首脳会議には、メキシコのフォックス大統領が出席し、メルコスールとメキシコの間で自由貿易地域の設立を約束する協定が調印されたほか、両地域間の自動車協定も合意に達した。また、EUとのFTAやFTAAなど、域外との通商交渉にメルコスールとして一体化して臨む姿勢は崩れていない。さらに、地域統合プロセスを優先すること、ならびに実現している協力の深化が再確認された。この背景には、統合に向けた強い政治的な意思があるものと思われる。それが、ブラジルのレアル切り下げ以降、貿易摩擦が多発したにもかかわらず、統合体としてのメルコスールを支えている。アルゼンチンの為替切り下げ、ウルグアイの変動相場制以降により、メルコスール加盟国の為替制度は均質化した。これが域内経済に収斂をもたらすことが期待される。

6.メキシコのFTA
メキシコは北米自由貿易協定(NAFTA)に加盟するとともに、EU、欧州自由貿易連合(EFTA)、G3自由貿易圏、中米北部3カ国(エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス)、ニカラグア、コスタリカ、ボリビア、チリ、イスラエルとFTAを結んでいる中南米域内のFTA先進国だ。このように多くの国々とFTAを結ぶことができるのは、NAFTA加盟により、自国の市場の開放度を著しく高めたからだ。NAFTA加盟交渉を行ったブランコ前商工振興相は「交渉開始時には米国にメキシコが飲み込まれるのではないかと不安だった」と述懐している。不安とは裏腹に、NAFTA加盟は多大な貿易創出効果と投資促進効果をもたらした。メキシコの輸出総額は93年の519億ドルから2001年には1,585億ドルに増大した。90年代後半5年間の対内直接投資額は年平均約110億ドルで、これらの投資が新規雇用を創出した。メキシコが31カ国と締結しているFTAの中で注目すべきは、米州諸国の中では初となった2000年7月発効のEUとのFTAだ。EU・メキシコFTAでは、発効後3年以内に再交渉することを前提として、メキシコは農産物約300品目、EUは約600品目をペンディング品目として関税撤廃の対象外にした。この措置はセンシティブ品目の交渉に時間を費やし、FTAの発効が遅れることは国益に反するとの考えに基づく。また、ブラジルとはALADIの枠内で自動車部門での特恵貿易協定を締結している。同協定で用いている完成車の関税割当はメキシコとブラジルの両国で生産する自動車メーカーの意向を色濃く反映している。メキシコのFTAは極めてプラグマティックだが、その背景には民間企業の意向を常にモニターしつつ、FTAなどの通商交渉を行うというメキシコの手法がある。
なお、メキシコは日本とのFTA交渉を2002年11月に開始し、約1年間での交渉完了を目指している。

7.チリのFTA
中南米でメキシコに次ぐFTA先進国はチリである。チリはカナダ、メキシコとNAFTA型のFTAを結び、2002年11月にはEUともFTAに調印した。また、2000年末に開始した米国とのFTA交渉2002年12月に合意に達した。韓国とも2002年10月にFTA交渉に合意、2003年2月に調印した。さらに、中米5カ国ともFTAを締結済みで、コスタリカとは既に発効している。ALADI枠内のACEも活用しており、メルコスールに準加盟しているほか、エクアドル、コロンビアとのACEはGATT24条との整合性が高い。チリはラテンアメリカ諸国の中でいち早く市場原理に基づく構造改革を実施し、その経済自由化度は突出している。関税政策では市場原理に歪みを生じさせないために、全品目に同一の関税率を適用する一律関税を採用しているが、99年からはこの関税率を毎年1%ポイントづつ引き下げきており、2003年に6%に達し、この引き下げスケジュールは完了した。また、貿易自由化の基本は多国間主義であるとして、WTOを第一義と考えている。チリ政府は、FTAを中心とする二国間・地域間の貿易自由化(バイラテラル)を進めるとともに、自発的な関税引き下げ(ユニラテラル)、WTOを中心とする多国間での貿易自由化(マルチラテラル)を並行して進めている。なお、チリは90年代にFTAを急速に進めたが、この背景には90年の民政移管がある。73年のクーデター以降17年間続いたピノチェット軍事政権は、経済面では多大な功績を残したが、民主主義に反することから外交面では孤立を余儀なくされた。従って、民政移管後の外交関係の回復にFTAやALADI枠内のACEが活用されたとみることができる。チリもメキシコと同様に日本とのFTA締結を希望している。メキシコは、北米、欧州とFTAで結びついており、チリもEUおよび米国とのFTAを発効させれば、メキシコと同じ立場になる。FTAは、貿易創出効果を持つが、同時に貿易を歪曲する効果がある。すなわち、ある製品のコストが同じであれば、FTAを結んでいる国からの輸入が優先されるが、非締結国の製品の方が品質的には優れていることもある。この場合、結果的に市場原理が機能しなくなる。この歪曲効果を極小化するためにも、両国にとって日本とのFTAは重要といえる。

8.先進国とのFTA
中南米のFTAは規律の高いLAFTAに始まったが、ALADIに引き継がれた時点で授権条項に基づくものとなり、自由貿易ではなく特恵貿易が指向された。しかし、メキシコのNAFTA加盟以降は、包括性と規律の高いFTAが締結されるようになっている。GATT24条に基づくFTAを経験したメキシコ、チリはEUともFTAを結ぶようになった。メルコスールがFTAAと並行してEUとのFTA交渉を進めているのも、GATT24条と無関係ではない。FTAAが発効する頃には、CANをはじめとするその他の中南米諸国もEUとのFTAを追求することが予想される。
この点が授権条項に基づくアセアン自由貿易地域(AFTA)と異なるところである。

<GATT/WTOに通報されている中南米諸国の自由貿易協定(FTA)>


<米州地域のFTA一覧>

@ 米自由貿易協定:米国、カナダ、メキシコ

A 南米南部共同市場(メルコスール):アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ

Bアンデス共同体(CAN):ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラ

C中米共同市場(CACM):コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア

Dカリブ共同体(CARICOM):アンティグア・バーブーダ、バハマ、バルバドス、ベリーズ、ドミニカ国、グレナダ、ガイアナ、ハイチ、ジャマイカ、英領モントセラト、セントキッツ・アンド・ネービス、セントルシア、セントビンセント&グレナディーン、スリナム、トリニダードトバゴ

E ラテンアメリカ統合連合(ALADI、多数の経済補完協定を有する):アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、キューバ、エクアドル、メキシコ、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ

FG3自由貿易圏(G3):コロンビア、メキシコ、ベネズエラ

G二国間FTA:カナダ&チリ、カナダ&コスタリカ(未発効)、チリ&メキシコ、ボリビア&メキシコ、コスタリカ&メキシコ、ニカラグア&メキシコ、中米北部3カ国(エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス)&メキシコ、中米共同市場&ドミニカ共和国、中米共同市場&チリ(コスタリカ&チリを除き未発効)

(注1)英領モントセラトはFTAA非構成国

(注2)A、B、C、Dは関税同盟



9.米州自由貿易地域

(1)概要

米州自由貿易地域(FTAA)とは、北米、南米、カリブの34カ国(キューバを除く)から構成される自由貿易地域で、現在、その創設に向けて交渉が進められている。域内の人口が約8億人の巨大経済圏であり、国内総生産(GDP)は約13兆ドルで世界経済全体の約40%を占める。英文正式名称が、「Free Trade Area of the Americas」であることから略して「FTAA」と呼ばれている。他方、域内のスペイン語圏、ポルトガル語圏では「ALCA」と呼ばれている。

FTAA構成国>

アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、バハマ、バルバドス、ベリーズ、ボリビア、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ国、ドミニカ共和国、

エクアドル、エルサルバドル、グレナダ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、ジャマイカ、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、

セントキッツ・アンド・ネービス、セントルシア、セントビンセント&グレナディーン、

スリナム、トリニダードトバゴ、米国、ウルグアイ、ベネズエラ


構成国間の差異は大きい。人口は2億8,000万人の米国と4万1,000人のセントキッツ・アンド・ネービスとでは約7,000倍の差がある。米州開発銀行(IDB)のエコノミストは、FTAA交渉における小規模経済国への配慮の重要性を説明する際に、「リオデジャネイロのマラカナン・スタジアム(サッカー場)は15万人を収容したことがあるが、これはベリーズの人口約24万人の8分の5に相当する」と説明した。また、1人当たりの国内総生産(GDP)も米国の3万5,082ドルとハイチの208ドルとでは約170倍の差がある。FTAAの市場規模の大きさは類をみないが、構成国の多様性でも比較できるものはない。
FTAA域内では、すでに数多くの自由貿易協定(FTA)が締結されている。これらはFTAAにとってはサブ・リージョナルなFTAとなる。FTAAを構成する34カ国はパナマを除いて、そのいずれかのFTAに属している。

(2)米州サミットとFTAAの経緯

 FTAAは、94年12月に米国のマイアミで開催された第1回米州サミットで、34カ国がその創設に取り組むことが合意された。FTAAは米州大陸全域において、財およびサービスの自由な市場アクセスを実現するものと定義づけられるとともに、FTAAを創設するための協定交渉を2005年までに完了することも合意された。この決定に基づいて、その後、交渉の前段階にあたるワーキング・グループを設置してのワークプログラムが開始されることになった。 交渉の前段階でのワークプログラムは、第2回米州サミットがチリのサンティアゴで開催された98年4月まで続いた。同サミットでは、貿易交渉委員会(TNC)と9つの交渉グループを設置した上での交渉の正式開始が宣言された。 2001年4月にカナダのケベック・シティで開催された第3回米州サミットでは、2005年1月までのFTAA交渉の完了と同年中の協定発効を目指すことが合意された。また、同サミットを境にFTAA交渉は第2段階に進み、それまでに確立された方法論をもとに本格的な交渉に着手することが確認された。さらに、FTAA交渉の透明性を確保するために、協定条文をドラフト段階からFTAA公式ホームページに掲載することを決めた。 米州サミットでは繰り返し、交渉完了期限が確認されて来ている。この確認の繰り返しについて、2001年4月に開催された第6回貿易相会合の議長を務めたアルゼンチンのジアバリーニ外相(当時)は「多様な34カ国が自由貿易地域を形成するためには、元首が定期的に集まって、その意思を確認し合うことが重要であり、それ自体が交渉の進展を意味する」と解説した。また、FTAA協定の性質を規定する「均衡がとれ、包括的でWTOとの整合性がとれた一括合意方式」および「小規模経済国への配慮」も繰り返し確認されている。他方、第2回および第3回米州サミットの合意事項は、その直前に開催された第4回および第6回貿易相会合における合意事項と同内容である。従って、FTAA交渉にとっての米州サミットの位置付けはそれまでの交渉の進展を是認するところが色濃く、実際の決定は貿易相会合で行われている。

(3)貿易相会合とFTAA交渉
 FTAA交渉の貿易相会合は、次のとおりこれまでに7回開催されてきている。

FTAA交渉貿易相会合>

1回:9562930日、於:デンバー、米国

2回:9632021日、於:カルタヘナ、コロンビア

3回:9751516日、於:ベロオリゾンテ、ブラジル

4回:9831819日、於:サンホセ、コスタリカ

5回:991134日、於:トロント、カナダ

6回:200147日、於:ブエノスアイレス、アルゼンチン

7回:2002111日、於:キトー、エクアドル

第1回会合では、ワークプログラムの開始が決定され、7つのワーキング・グループが設置され、第2回会合でさらに4つのワーキング・グループが設置された。なお、設置そのものは第3回会合以降になったものの、第2回会合では4つのワーキング・グループのほかに紛争解決ワーキング・グループの設置も決められていた。ワーキング・グループのテーマは次のとおりである。

12のワーキング・グループのテーマ>

@市場アクセス、A税関手続き・原産地規則、B投資、

C規格および貿易の技術的障害、D衛生植物検疫措置の適用、

E補助金・アンチダンピング・相殺関税、F小規模経済、G政府調達、

H知的財産権、Iサービス、J競争政策、K紛争解決


第3回貿易相会合では、98年4月開催の第2回米州サミットでFTAAの正式交渉を開始する見通しが確認されたほか、交渉開始に向けた次官級準備グループの設置が合意された。次官級予備協議は第4回貿易相会合で創設される貿易交渉委員会(TNC)へと繋がっていく。また、FTAA交渉の原則として、全構成国による合意と一括合意方式が確認された。前者はFTAA交渉の決定は国の規模に関係なく全員一致を原則とすること、後者は構成国が各テーマを多角的に交渉し、最終的に全テーマで合意に達した時点で協定を締結することを意味する。さらに、FTAAが創設されても、既存の自由貿易協定はより規律の高い内容を持つことによって解体されることなく共存しうることも確認された。第2回米州サミットの直前に開催された第4回貿易相会合は、FTAA創設に向けた取り組みが進展していることを示すものだった。同会合では、第2回米州サミットにおいてFTAA交渉を開始するよう構成国の元首に提言することが合意されるとともに、正式な交渉を開始する上での枠組みが発表された。まず、FTAA交渉を総合的に進める機関として、貿易交渉委員会(TNC)の設置が決定された。これは次官級の会議で、第3回貿易相会合で設置された次官級準備グループが交渉の中にビルトインされたといえる。そして、TNCの下に次の9つの具体的テーマ毎に交渉グループが設置されることになった。

<9つの交渉グループのテーマ>a)市場アクセス、b)投資、c)サービス、d)政府調達、e)紛争解決、f)農業、g)知的財産権、h)補助金・アンチダンピング・相殺関税、i)競争政策

交渉グループはそれ以前のワーキング・グループの改組、発展という性格を持つ。ワーキング・グループの中で、交渉グループにそのまま継承されなかったものについてみると、A税関手続き・原産地規則、C規格および貿易の技術的障害、D衛生植物検疫措置の適用は市場アクセス交渉グループに包含された。F小規模経済は交渉グループと別に設置される「小規模経済国諮問グループ」に引き継がれることになった。他方、交渉グループでは、新たに農業交渉グループが設置されたが、これはワーキング・グループでは@市場アクセスに含まれていた。農産物の市場開放を求める南米諸国が強く求めたため、市場アクセス交渉グループと分離することになった。また、交渉グループおよび「小規模経済国諮問グループ」のほかに、「市民社会の参加を目的とする政府代表委員会」、「電子商取引官民専門家委員会」などの設置も決められた。交渉グループは98年9月30日までに交渉を開始することとなったが、その開催は同一都市で、次のスケジュールで行われることになった。また、ロジスティクス面で交渉を支援する運営事務局の設置も決められ、同事務局は交渉グループと同じスケジュールで開催都市に設置されることになった。

<交渉グループのスケジュールと開催都市>

期  間

開 催 都 市

9851日〜2001228

マイアミ、米国

200131日〜2003228

パナマ・シティ、パナマ

200331日〜20041231

メキシコ・シティ、メキシコ(注)

(注)第4回貿易相会合ではメキシコ・シティが開催都市とされ、事務局が設置されるこ
とが決められたが、2002年5月にメキシコ政府はプエブラ市を開催都市とし、そこに事務局を設置すると発表した。メキシコ政府は、FTAA協定発効後の常設事務局のプエブラ市への誘致を目指している。

 FTAA交渉の議長国と副議長国も決定された。原則18カ月でローテーションしていく。そして、議長国が任期の最終段階で貿易相会合を自国で開催することになっている。議長国、副議長国は次のとおりである。

FTAA交渉の議長国、副議長国>

期  間

9851日〜991031

カナダ

アルゼンチン

99111日〜2001430

アルゼンチン

エクアドル

200151日〜20021031

エクアドル

チリ

2002111日〜20041231

米国、ブラジル(共同議長)


第5回貿易相会合では、税関手続きなど貿易円滑化措置について合意された。これは、第4回会合で貿易円滑化措置に関して具体的な成果を2000年末までに上げることが決められており、それに従ったものであるが、FTAAのメリットの先取りとして捉えられる。さらに、第5回会合は交渉グループに対して第6回会合までにそれぞれの協定条文のドラフトを取りまとめることを指示した。第6回貿易相会合は、FTAA交渉が第2段階に入ることを示したといえる。まず、2005年1月末までのFTAA交渉完了と2005年12月末までのFTAA協定発効を目指すことに合意した。また、2002年5月15日までに関税交渉、ならびに投資、サービス、政府調達の市場開放分野に関する本格的な交渉を開始することを決め、それまでに交渉の方法、手法を固めるよう交渉グループに指示した。さらに、同会合では、「貿易と労働」、「貿易と環境」について議論されたが、労働は国際労働機構(ILO)、環境はWTOと整合的であるべきとの考え方に収斂した。なお、第6回会合の議長を務めたアルゼンチンのジアバリーニ外相(当時)は、「貿易と労働」、「貿易と環境」をFTAA交渉に持ち込むことに賛成だったのは2カ国だけで、他の32カ国は反対だったとコメントしている。エクアドルの首都キトーで開催された第7回貿易相会合は、キトー閣僚宣言を採択したが、その中には2005年1月までの交渉の完了と2005年12月までのFTAA協定の発効というスケジュールの再確認のほか、市場アクセス、農業、サービス、投資、政府調達の各交渉グループにおける自由化提案の2002年12月15日からの開始、「西半球協力プログラム(HCP)」などが盛り込まれた。この会合をもって、エクアドルが議長国、チリが副議長国を務める段階が完了し、米国とブラジルが共同議長国を務める最終段階へと交渉が進んだ。

(4)交渉グループ
第6回貿易相会合において、2002年5月15日までに関税交渉、ならびに投資、サービス、政府調達の市場開放分野などに関する本格的な交渉を開始することが決められた。市場アクセス交渉グループにおいては、構成国がそれぞれの関税撤廃のスケジュールや除外対象品目リストなどを提示しつつ、相互に調整を行っていくことになる。換言すれば、これまでは市場アクセス改善のための一般的ルール作りであったが、これからは構成国の利害に基づいて相互に駆け引きが行われることになる。

主要な交渉グループの概要と関連事項は次のとおりである。
@ 市場アクセス交渉グループ
関税・非関税措置、セーフガード、原産地規則、税関手続き、原産地規則に関する(税関)手続き、規格および貿易の技術的障害から構成される。関税の撤廃が規定される部分であるので、FTAA協定の中心的部分である。FTAA交渉においては小規模経済国に対する配慮の重要性が繰り返し言及されていることから、構成国が同じスケジュールで関税を撤廃していくことは考え難い。経済規模が小さく、国内産業が競争力に欠けている構成国についてはより長期の経過措置や例外適用が講じられるものとみられる。原産地規則についても小規模経済国には優遇的な条件が適用される可能性もある。
FTAAはWTOと整合的でなければならないため、実質上のすべての貿易にかかる関税が撤廃される必要があるが、小規模経済国の貿易額は極めて小さいため、仮に全面的に除外したとしても、要件は満たされるとのコメントが米州開発銀行エコノミストから聞かれた。極端に言えば、NAFTA、CAN、メルコスール加盟国が関税撤廃を10年以内に実施すれば、容易に「実質上のすべての貿易」という要件が満たされることになる。

A 投資交渉グループ

投資ルールに関するもので、内国民待遇(NT)、最恵国待遇(MFN)、二重課税防止などが条文ドラフトに盛り込まれている。また、紛争解決に関して詳細な規定が盛り込まれるものとみられるが、条文ドラフトには「国対国」に加えて、「投資家対国」の紛争解決メカニズムも記されている。これは、NAFTAに盛り込まれているものと同様である。

B サービス交渉グループ
WTOのサービス交渉では加盟国が開放する分野を明示するポジティブ・リスト・アプローチがとられているのに対して、NAFTAでは加盟国が留保する分野だけを明示するネガティブ・リスト・アプローチがとられている。後者は前者に比べて、市場の開放度と透明性を高める傾向がある。交渉担当者にとっては、原則すべて自由のネガティブ・リスト・アプローチは厳しい交渉を強いられることになる。
FTAAはNAFTAの延長という性格を持つため、ネガティブ・リスト・アプローチが採用される可能性があり、ある構成国の交渉担当者は原理的にはネガティブ・リスト・アプローチであるべきとコメントしている。
国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)のエコノミストによると、ポジティブ・リスト・アプローチとネガティブ・リスト・アプローチの併用方式が採用される可能性が高いとのことだ。小規模経済国への配慮などを考えると、併用方式の採用も現実味を増すといえる。

C 政府調達交渉グループ
WTOの政府調達協定に参加しているFTAA構成国はカナダと米国だけである。従って、FTAAの政府調達ルールがWTOと同程度に規律の高いものになるかが注目される。
NAFTAと同様に内国民待遇が規定されることから、政府調達の入札に参加する構成国の企業は当該国企業と同じ待遇を享受できることになる。米国、カナダのようにWTOの政府調達協定に参加している国の政府調達においては、非FTAA構成国に差別的な待遇が与えられることはないものとみられるが、政府調達において自国企業を優先しているFTAA構成国の政府調達においては米国、カナダなどが内国民待遇を享受できるのに対して、非FTAA構成国は不利な立場に立たされることになる。これは、すでにNAFTA加盟国のメキシコの政府調達において明らかになっている。

D 紛争解決交渉グループ

WTOよりも迅速で、効率的な紛争解決メカニズムが提供されることが求められる。

E 農業交渉グループ
農業交渉グループはアルゼンチン、ブラジルなどの主張で設立されており、両国など南米の農産物輸出国は米国、カナダの関税および農業補助金の撤廃を強く求めるとみられる。米国はWTOでは日本や欧州連合(EU)の農産物市場開放を要求しているが、FTAA交渉では逆にアルゼンチン、ブラジルから農業補助金の撤廃を求められることになる。なお、ブラジルは農業補助金の撤廃(削減)に関して、米国の譲歩が得られなければ、仮にFTAA交渉の完了が遅れるとしても合意することはできないと発言している。農業補助金について、米国はWTO新ラウンドの農業交渉との整合性を主張している。極論すれば、FTAA交渉では農業補助金については具体的な議論を避けるというスタンスであろう。2002年に新農業法を成立させ、農業補助金の拡大の基礎を確立した米国政府は、WTO新ラウンドで農産品の関税引き下げを提案しつつ、欧州および日本に圧力をかけ、一方で農業補助金の削減には一切応じない方針であるとみられる。

F 補助金・アンチダンピング・相殺関税交渉グループ

保護主義的なアンチダンピングの発動をいかに規制するかに関心が高い。特に米国のアンチダンピングの頻繁な適用には他のFTAA構成国は大きな不満を抱いている。チリとカナダの二国間FTAにはアンチダンピング税の相互不賦課が盛り込まれているが、これと同じ内容が協定ドラフトにも盛り込まれている。無論、アンチダンピング税の賦課は、国内の公正な取引を維持するものであり、各国の競争政策に基づくべきであるとの主張も併せて記されている。

(5)主要国の対応

<米国>
 米国政府はFTAAの主唱者であり、牽引車である。FTAAは米国にとってはNAFTAの拡大を意味し、自国企業にとってより望ましいビジネス環境を米州全域に広げることになる。民間企業の意見を聴取しつつ、FTAAを推進するのが米国政府のスタンスである。なお、農業など守りの部分ではWTOとの整合性を訴えるものとみられる。米国にとっての関心分野はサービス、投資、知的財産権などの通商交渉の新分野である。

<ブラジル>

 ブラジルはFTAA交渉では、南米側、あるいは開発途上国側のリーダーであり、交渉の最終段階で米国と握り合う立場にある。域内貿易の自由化により、一部には米国企業により市場を占有されるのではないかとの懸念もある。このため、まず南米諸国を団結して、米国に対する交渉力を高めることを目指している。それが端的に現れたのが、2000年8月31日から2日間、ブラジリアで開催された南米サミットだった。 FTAA交渉では、農業補助金について米国から譲歩を引き出すことを重視しており、それが達成できない限り、交渉に合意することはないとカルドーゾ前大統領は発言していた。

<メキシコ>

 メキシコは交渉の終盤に事務局を務める。ラテンアメリカであり、NAFTA加盟国であるメキシコには米国とブラジルの調整役が期待される。メキシコはすでにNAFTAに加盟しているため、市場開放などに伴って受ける痛みはほとんどない。むしろ、中南米諸国で唯一米国とFTAを締結しているという地位が相対的なものになってしまうことにデメリットを感じていると思われる。

<カナダ>
 カナダは全般的に米国に近い立場にあるが、アンチダンピングに関しては米国に反対する立場にいる。

<チリ>

 チリはFTAA構成国のうち、カナダ、メキシコ、中米5カ国とFTAを締結し、南米の主要国とラテンアメリカ統合連合(ALADI)枠内の経済補完協定を締結している。カナダ、メキシコとのFTAはNAFTA型の包括的なものであり、メキシコと同様に市場開放などに伴って受ける痛みは小さい。
 2002年12月に合意に達したチリと米国のFTAにおいて、米国はFTAAの雛型を実現することを目指した。交渉分野はFTAAよりも多い17分野だった。チリ・米国FTAはNAFTAよりも包括的で、自由化度の高い協定になったとみられている。

(6)FTAA交渉の見通し
 2002年の中南米地域経済はマイナス成長だった。2001年の中南米地域の財とサービスの輸出は前年比3.8%減少した。中南米の域内貿易も2001年に3.0%縮小した。メルコスールの域内貿易にいたっては14.0%減少した。アルゼンチン経済危機は長期化した。これら経済活動の停滞がFTAA交渉の足枷になることが懸念される。また、2002年3月の米国政府による鉄鋼セーフガード発動、5月の新農業法成立は南米主要国から保護主義であるとの批判が上がった。特に補助金を大幅に拡大する新農業法はFTAA交渉の進展に支障をもたらす可能性がある。さらに、WTO新ラウンドの進捗もFTAA交渉に大きな影響を与える。シアトルでの閣僚会議で新ラウンドの立ち上げが失敗した後は、各国は二国間、地域間のFTAを推進しようとしたが、ドーハで新ラウンドが立ち上げられた後は、世界的にみるとFTAのテンポは減速した。一方、新ラウンドの農業交渉が本年3月までに成果を上げることができなかったため、今後はFTAのテンポが加速する可能性がある。WTOメンバーの多くが2005年の新ラウンド合意に黄信号が灯ったとみているからだ。ただし、FTAA交渉においては、米国の農業補助金が大きな課題とされており、米国は農業補助金についてはWTOとの整合性を主張するため、WTO交渉の遅れがそのままFTAA交渉の遅れに繋がる可能性が高い。なお、米国はEUとメルコスールのFTA交渉の進捗も常に意識しているはずである。すなわち、EUとメルコスールのFTA交渉が進展すると、米国はFTAA交渉を急がなければならなくなるとみられる。経済のグローバル化の進展に伴って「企業が国を選ぶ」状況になっている現在、FTAA構成国は企業誘致のために自国のビジネス環境の改善に努めることを宿命づけられている。ビジネス環境の改善に有効なFTAAは各国にとって避けては通れないものになるものとみられる。

(7)日本にとってのFTAA

日本にとってFTAAは、NAFTAの閉鎖的な側面が米州全域に拡大することを意味する。日本の中南米向け輸出は2001年で179億ドルだが、FTAAによる貿易転換効果により、これは少なからず影響を被るものとみられる。例えば、自動車の輸出は32億ドルだが、優遇関税もしくはゼロ関税で輸入される米国、カナダ、ブラジル、メキシコなどFTAA構成国の自動車との価格競争で苦しい立場に立たされる。また、政府調達や政府関係機関のプロジェクト入札では、内国民待遇がないことから、FTAA構成国と比べて著しく不利な立場に立たされるものとみられる。さらに、メキシコが欧州連合(EU)とFTAを発効させ、チリもEUとのFTAに調印し、さらにメルコスールもEUとFTAを交渉中であることも考慮しなければならない。米州諸国がEUとのFTAを発効させると、南北米州と欧州というFTAAよりもさらに巨大な市場が形成されることになるが、日本はその三角形の枠外に置かれることになる。




「WTOとFTAについて」


1. 地域統合とWTO
世界貿易機構(WTO)は、関税貿易一般協定(GATT)第1条およびサービス貿易に関する一般協定(GATS)第2条において、メンバー(国)間で差別を行わないこと(MFN:最恵国待遇)を基本原則としている。ただし、次の3つの規則に適合する場合に限って、基本原則の例外として、一部メンバーに対して他のメンバーよりも有利な貿易条件を供与する地域貿易協定(RTA)の実施が認められる。

1)GATT第24条第4項〜第10項に基づく関税同盟または自由貿易地域

本規定の詳細は、「1994年GATT第24条の解釈に関する了解(Understanding on the Interpretation of Article XXIV of the GATT 1994)」で明らかにされている。

2)途上国の特恵貿易取り極めに関する、いわゆる授権条項(Enabling Clause)
東京ラウンド交渉時の締約国団決定である「途上国の一層有利な取り扱い、互恵主義およびより完全な参加に関する1979年決定」のこと。

3)サービス貿易分野におけるRTAを規定したGATS第5条


RTAは、
@協定国間の域内産品の貿易を自由化(関税撤廃)するが、非協定国に対する措置は共通化しない「自由貿易地域」と、A協定国間の貿易自由化のみならず、非協定国に対する関税なども共通化する「関税同盟」に大別される。
前者の典型は北米自由貿易協定(NAFTA)であり、後者の代表例は欧州連合(EU)といえる。また、前者では域内産品を定義する原産地規則が重要な意味を持つ。一方、後者では対外共通関税により、協定国のどこで輸入したとしても域外産品に対しては同じ関税が支払われるので、域内の貿易においては原産地規則は意味を持たない。なお、一般的に「自由貿易協定(FTA)」という用語が使われるが、WTO協定ではRTAとされている。RTAが自由貿易地域、または関税同盟を創設するための協定であるので、基本的にRTAとFTAは同義として捉えることができる。

2. GATT第24条およびその解釈了解にみる自由貿易地域創設の要件
@ 第三国に対する関税、通商規則の引き上げの禁止
A WTOに対する通報、情報提供
B 中間協定:自由貿易地域の設立のために中間協定を締結することが認められているが、「合理的な期間内」に自由貿易地域を完成しなければならない。この「合理的な期間」は解釈了解で原則10年と定められている。
C 域内の自由化:自由貿易協定については、域内産品の「実質上のすべての貿易」について関税、その他制限的な通商規則を廃止することが求められている。

3. GATT第24条およびその解釈了解にみる関税同盟創設の要件

@ 関税、通商規則引き上げの禁止:関税同盟の場合、第三国に対して適用されてきた関税の全般的な水準や通商規則を全体として引き上げてはならない。
A 補償:関税同盟の場合、従来の関税の全般的水準よりも高くなっていなくても、ある構成国の譲許税率が引き上げられることがあり得るが、その場合には、譲許表の修正の手続きに従って補償すべきものとされる。
B WTOに対する通報、情報提供
C 中間協定:関税同盟の設立のために中間協定を締結することが認められているが、「合理的な期間内」に関税同盟を完成しなければならない。この「合理的な期間」は解釈了解で原則10年と定められている。
D 域内の自由化:関税同盟は少なくとも域内の「実質上のすべての貿易」について、関税、その他制限的な通商規則を廃止すること、および域外に対する「実質的に同一の関税、その他の通商規則の適用」が求められる。

4. FTAの現状

@ GATT/WTOに通報され、発効しているFTAは2003年1月20日時点で147件である。90年代の発効件数が多く、全体の約62%に相当する91件である。特に95年から99年までが60件と多い。さらに、2000年以降の3年間でもすでに30件が通報されており、増加傾向に変化はない。
A 90年代には北米自由貿易協定(NAFTA)、東南アジア諸国連合(ASEAN)自由貿易地域(AFTA)、南米南部共同市場(メルコスール)といった大きな影響力を持つFTAが発効した。
B 世界の経済規模上位30カ国・地域のうち、いずれのFTAにも属していないのは、中国香港と台湾の2地域だけである。

<本件照会先>

 日本貿易振興会(ジェトロ)ブエノスアイレス事務所
 電話:4327-2399 ファクシミリ:4327-2708
 電子メール:infobuenosaires@jetro.go.jp
 住所:Tte. Gral. J. D. Peron 955 Piso 7, (1038) Capital Federal, Argentina



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