
声 明 文
北海道知事が約百年にわたり管理してきたアイヌ民族共有財産の返還手続処分は無効であることの確認を求め、札幌地方裁判所に提訴した裁判は、本日、これを却下するとの判決が出された。
この返還処分にはあまりにも多くの問題点があるにもかかわらず、裁判所がその実体審理に踏み込むことなく門前払いの判断を下したことは、全く原告の主張を認めない点で不当であると断じざるを得ない。
まず第1に、政府も国連で民族差別法と認めた「北海道旧土人保護法」によってアイヌ民族の財産権を侵害し、北海道長官が「共有財産」を一方的に指定し、管理していたと称しながら、100年間に作られた管理台帳は6冊しかなく、疑問の多いその管理経過を、本件訴訟では一切明らかにせずに、ただ「有利な行政処分であり、訴えの利益がない」とのみ言う被告北海道の主張を認めた点で本判決は不当である。
原告は、道の資料のみによる財産管理経過を明らかにし、その中で38項目の疑問点・問題点を指摘したが、これらの疑問点に答えずして適正な共有財産の返還など有り得ない。被告北海道知事は、その具体的審理に応じず、「訴えの利益」という法律論に固執する不誠実な態度に終始した。これは100年間にわたる管理責任の公正な点検を放棄し、その問題点を隠蔽しようとするものであった。
裁判所は、この不当な被告の態度を追認したものといわざるを得ない。
第2に、被告北海道が進めてきた「共有財産」の返還手続は、憲法31条に基づき、本来、返還される主体であるアイヌ民族の意思が反映され、「共有財産」設置の経過と趣旨に照らして、これにふさわしい手続がとられるべきであった。にもかかわらず、道ならびに国の返還手続はアイヌ民族の意思を何ら反映せず、一方的にきめられたものであった。
加えて、法的根拠なしに管理してきた「指定外財産」の返還手続に至っては、法律に基づく返還を強調していながら、法的根拠に基づかない返還も含むという大きな矛盾を抱えている。
返還申請の期間を1年間に限定し、共有者のうち返還請求をした者のみを返還の対象とし、さらに、その請求者の代表者のみに返還するという、個人の財産でないものを個人に返還するという矛盾。逆に、指定外財産に個人名があるものを一般に返還請求を求めるという矛盾。これらの矛盾に対し何ら触れることなく、本判決は形式的訴訟要件論に終始するもので、この点に踏み込もうとしない裁判所は、怠慢の謗りを免れない。
第3に、二風谷判決で「文化享有権」が認められたこと、国連の「先住民族権利宣言草案」を踏まえたアイヌ民族の権和と、「アイヌ文化振興法」にいう「民族としての誇りが尊重される社会の実現」を目指すようになったことを踏まえて、共有財産の検証が行われるべきである。
原告は、口頭弁論の都度意見陳述を行い、明治以後のアイヌ民族に対する差別政策、同化政策の中で虐げられ苦しんできた実態を述べ、共有財産の性格とその実態を明らかにするよう努めてきた。これら意見陳述と法廷でのアイヌ語使用を一定の制限のもとではあるが認めたことは、前進面と評価したい。しかしながら、返還としないとする3名の尋問のみを行ったが、その中では、先住民族アイヌの独自の生き方や家族制度が浮き彫りになり、狭い法解釈では当てはまらない、先住民族としての独自の権利を認めることが必要なことが明らかになったにもかかわらず、これについても、行政のやり方を追認した判断を裁判所は行っている。
提訴以来、2年半の口頭弁論を行ってきたが、被告道の態度は、財産管理の疑問点にも答えず財産管理の実態を隠蔽し、実体審理を回避し、終始門前払いをのみを意図した不誠実なものであり、アイヌ民族をはじめ、道民、国民を欺くものである。
我々原告は、「アイヌ文化振興法」の新たな発展を目指し、アイヌ民族の権利を尊重するにふさわしい判決を求め、控訴することをここに明らかにする。
2002年3月7日
アイヌ民族共有財産裁判原告団
同弁護団
アイヌ民族共有財産裁判を支援する全国連絡会