| 値段の安さにひかれてクナッパーツブッシュ「ワーグナー名演集」を買ってみました。私にとってはワーグナー初体験だったわけですが、これがなんともすごい演奏で、完全に参りました。こういうものが千円で買えるとはいい時代になったものです。
解説を読むと、クナッパーツブッシュはワーグナーの演奏家としてフルトヴェングラーと覇を競うほどの人だったらしいですね。私が聴いた印象では、クレンペラーなんかに近い資質をもつ人のような気がします。こまかいことはあまり気にせず、ひたすら音楽のスケール感を重視するというか……まあ、素人のあてずっぽうですけど。
フラグスタートという歌手もすごいですね。60歳を超えてこの声の張りとつやはいったいなにごとでしょう……全盛期のレジーヌ・クレスパンと比べても遜色ありません。この人の若いころの録音を聴いてみたくなってしまいました。といっても、年代が古くなればなるほど音質もわるくなるので、そのあたりが問題といえば問題ですが。
ともあれ、いままで漠然と頭のなかに思い描いていたワーグナー像をくっきりと浮き彫りにしてくれるような演奏で、とりあえずは大満足の一枚でした。このディスクはデッカ盤で、録音が古い(58〜60年)にもかかわらず非常に音がいいです。もしワーグナーを聴かず嫌いの人がいたら、ぜひこれを聴いてみられることをおすすめします。
さて、べつのところでちょっと触れたジュディット・ゴーチエの「ワーグナー訪問記」ですが、これは彼女の自伝的作品「日々の首飾り」の三冊目(1909年)を改題して出したものだそうです。
VISITES A RICHARD WAGNER, Judith Gautier, Le Castor Astral, Bordeaux, 1992,
1869年、当時24歳だったジュディットは、夫のカチュール・マンデスとヴィリエ・ド・リラダンを伴って、スイスのトリープシェンに隠棲していたワーグナーを訪問するのですが、そのときの体験をのちになってまとめたもののようです。登場人物は、ワーグナー夫妻はもちろん、ルートヴィヒ二世、フランツ・リスト、ハンス・リヒター(この人がクナッパーツブッシュの師だったこと、今回のCDの解説で知りました)など多士済々で、ジュディットらの一行はいたるところで彼らの款待を受けながらミュンヘンまで特権的な(祝祭的な?)旅行をつづけるといった内容です。ジュディットは若さと美貌と才気を兼ねそなえていましたから、まさに行くところ可ならざるはなかったわけです。
ヴィリエの奇行については書きだすと長くなるので……彼がいつも言語不明瞭で、初対面のワーグナーを面食らわせたこと、ワーグナーの飼い犬の鼻面に手が当っただけでもう狂犬病になったと思いこんで、トリープシェンからリュツェルンまでいっさんに薬を買いに走っていったこと、紳士貴顕のあつまる夜会での朗読の最中、なぜかパニック状態におちいり、やおらズボンのベルトをゆるめて靴を脱ぎ、そばにあったピアノの上に座りこんでしまったこと、等々。
彼の奇行にはそれなりの理由があるのですが、それはごく身近な友人たちにしかわからないていのものなので、いつもまわりの人を唖然とさせたり、ひんしゅくを買ったりしていたようですね。とにかく健康状態には異常なほど気を配っていたようで、その点、カントに似ているような気がします。カントも足の血行を気にしたあげく、特製の靴下どめかなにかを発明したのではなかったでしたっけ。ディ・クィンシーの本にそんなことが書いてありましたね。
ところで、前から一度お訊ねしようと思っていましたが、管理人さんの音楽生活において、ワーグナーはどのような位置をしめているのですか。「私とワーグナー」みたいなかたちで書いていただけるとありがたいのですが。
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