釣行日:平成15年12月13日(土) 中潮 天候/晴れ 

<釣り物> ヒラメ
<釣 果> ヒラメ2枚
<船 宿> 外房大原 力漁丸
<釣り場> 外房 大原沖
<タックル> 竿/SHIMANO 海攻ヒラメTYPE1 270、リール/Daiwa ミリオネアCV-Z250F(道糸:PE4号)、仕掛け/ヤマシタ ヒラメ仕掛け(親バリ:チヌ7号・孫バリ:チヌ6号・ハリス6号1m・幹糸7号1m・捨て糸4号50cm・全長1.5m)、オモリ/80号
<エ サ> 活イワシ
<釣り座> 右舷ミヨシ3番目
<同行者> TAKE氏、あねご嬢
<どう食ったか> インド人もビックリのヒラメカレー、刺身、肝和え、しゃぶしゃぶ

<日 記>

 「明日の晩ご飯のおかずはヒラメのお刺身でいいのかしら?」


 昨日の夜、家内がこんな直球勝負に出てきた。

 「いや、俺としてはやっぱりカツカレーがいいと思うな」
 「えっ、カレーなの!?」
 「おお、釣れるかどうかも分からない魚を期待しない方がいいよ」
 「でもそれじゃ…」
 「分かった、そしたら間違ってヒラメが釣れたら刺身にしようよ」
 「カレーは?」
 「もちろん、カレーも作っておいてよ」
 「ヒラメのお刺身をおかずにカツカレー?」
 「心配すんなって、どうせ釣れないんだから」
 「分からないじゃない、まさかってこともあるかもよ」
 「だったらカツの替わりにヒラメのフライを乗せたカレーライスを作ればいいじゃん」

 釣行前日の我家ではそんな会話がなされていた。

 ヒラメ釣行にわずかばかりの期待を寄せている家内、それに引きかえ見事なほどネガティブ思考な私。
 好対照ともいえるし、両極端ともいえる見解の相違であった。

 「ところで、ヒラメカレーって美味しいの?」
 「知らないよ、そんなバカなことやるの俺くらいだろうし…」
 「じゃあ明日、ウチでヒラメのカレーを作ったら日本初になるのかしら?」
 「いや、ヘタすると世界初だろうね」
 「でも、カレーに乗せるなんて、ヒラメに失礼じゃない?」
 「ふん、失礼なのはアイツらの方だよ!」

 ヒラメは私の中で「貧果率」「手ブラ率」「とほほ率」共にナンバーワンの魚である。
 思い出せば過去、ヤツらには幾度となく煮え湯を飲まされていた…。

 そこで私は、ヒラメが2枚以上釣れたら是非ともその高級魚を
カレーライスの上に乗せてヒラメの尊厳とか自尊心とか高級感とかを冒涜してやろうと決めていた。要するに復讐である。

 「おらおら、みんなからチヤホヤされていい気になりやがって。今までの態度はなんだ、ええっ!?こっちは高い交通費かけて来てやってんのに顔を出さないとは何事だ!?自分を何様だと思ってんだよ、コラ!お前なんて所詮薄っぺらな魚じゃねぇか。お山の大将になるのもいい加減にしろっての。ウチの家じゃお前はただの下魚だ!下魚は下魚らしくハウスジャワカレー中辛の上にでも乗ってれ!」

 と、今までの非礼を弾劾しながら、持ち前の淡白な味を台無しにするカレーライスのスパシーな風味と一緒に頬張ってみたいのだ。

 まあ、人様からすれば変態である…。
 見方を変えるとヒラメに対するSMプレイにも映る…。
 しかし、それくらいしないと私の積年の恨みは晴れないのだ…。

 そして本日、TAKEさんのお誘いに便乗して外房は大原まで出向き、
カレーライス用食材確保の釣行となったのである。


 確率論的勝算の皮算用

 今朝の午前1時、私とは逆にヒラメと蜜月状態にあるTAKEさんの車がいつもの待ち合わせ場所に到着。
 実は彼、今までのヒラメ釣行で一度もボウズを食らったことがない、ヒラメキラー。

 それに引きかえこの私、ヒラメとの対戦成績は1勝4敗…
 その1勝も平日にKOBUさんと小湊まで行き、乗船者が私たち2人だけという仕立て状態でのもの。つまり釣れてあたり前の状況で手に入れた勝利なのだ。

 しかし、今日は普通の土曜日。
 当然乗船客も多いだろうし、それに逆比例して配分は少なくなるはず。かなり厳しい闘いが予想された…。

 だが、私にはある勝算があった。
 それは私が提唱する
「同魚種における継続的ボウズ率8割以上絶無の法則」によるもの。
 つまり、どんな魚と対戦し続けようとボウズ率が80パーセントを越すことは無いに等しいという確率論なのだ。

 先述のように、私のヒラメとの対戦成績は1勝4敗、5回に4回はボウズである。要するに現時点で80パーセントの確率でボウズを食らっていることになる。

 もしも今日、ヒラメでまたしてもボウズになると仮定すれば負け率が83.3パーセントとなり、ボーダーラインの80パーセントを超えてしまうのだ。
 これは可能性からいって非常に低い。どれくらい低いかといえば航空機事故に遭遇する確率よりも低いのである。

 今、私の手元にはある資料がある。
 それは(財)日本レクレーション普及振興協会発行の「関東における釣りの実態とその対象魚(2001年版)」という小冊子だ。
 ここに、非常に興味深い調査結果が記されている。
 以下、その報告を抜粋してご紹介したい。


 我々調査員は、東京湾・相模湾・外房・茨城県の一部において、沖釣り師を対象にある調査を行った。それは一人の釣り人が本命として狙った魚を全く得られずに帰宅する可能性についてである。

 まず、調査対象魚を特定することから始まり、それを「アジ」「キス」「マダイ」「スルメイカ」「ヒラメ」「カサゴ「メバル」の7魚種とした。これは比較的ポピュラーな魚を対象にすることで、調査結果に普遍妥当性および正確性を持たせたかったからだ。
 また、調査時期も各季節ごとに行い(禁漁期を除く)、水温や天候による影響や偏りを極力無くすように努めた。
 次に、調査を依頼する釣り人は、年間の平均釣行回数が50回以上のヘビーアングラーとし、合計48名の方々の協力を得ることが出来た。

(中略)

 結果を導き出すための計算方法は、一般的に用いられる久里浜式(※注 「総釣果数」÷「総釣行回数」×「釣行人数」×「魚種数」)を採用した。

 それによって得られた結果は、(別表1)「対象魚別釣果率表」を参照されたい。

 「0尾」の列で限定すると、一番難易度が高いとされるヒラメで19.4パーセントと最も高く、次いでマダイ。反して一番低い数値がキスという結果になった。
 総括すれば、この7魚種において釣果が0尾になる平均的な確率は10パーセントにも満たないというのが実状である。

 また、0尾となった釣り人を継続的に観測した結果、同魚種を狙い、次回も再度0尾になる可能性は平均18パーセント、同様に3回目も0尾になったのは約4パーセント、4回目も0尾の事例に関しては0.6パーセントであった。さらに、5回連続で0尾に至っては0.012パーセントと顕著に減少する傾向にあったのである。
以上、「関東における釣りの実態とその対象魚」〜第4章ボウズ丸儲け〜より



 この資料からも分かるように、今日の私は釣れないわけがないのである。
 私が唱える、ボウズ率が80パーセントを越えることがないという理論は完全なる統計学上の分析データを元にして成り立っており、本日私が丸ボウズを食らったとしたら統計学は破綻するのである。

 だが逆に、勝率10割のTAKEさんが今日、ヒラメを釣る可能性はこの理論から推し量ると絶望的なほどに低いのであった…。



 あねごさんの優しさ

 午前3時半、TAKEさんがハンドルを握る愛車は紆余曲折しながらも無事、大原港に到着。

 私たちが今回、お世話になる力漁丸さんの船が繋留されている場所は、TAKEさんが同宿のHPからプリントアウトしてきてくれた地図を参考に、どうにか見つけることが出来た。

 「昨日、店に電話したら女将さんが、ヒラメ船は大きい方だって言ってたけどホントにこれですかね…」とTAKEさんが不安そうにつぶやく。
 「多分そうでしょ。“力漁丸”って書いてあるし…」私が答える。
 「でも、船に一本も竿が挿してないですよ…」今イチ確信が持てないでいるTAKEさん。
 「挿してないってことはまだ誰も来てないってことじゃないですか?」あくまでも脳天気な私。
 「そうかなぁ〜」TAKEさんは猜疑心をあらわにした。
 「きっと千葉の人は来るのが遅いんですよ…」私はまったく根も葉もないことを言い出す始末。

 夜明け前の港で街灯に薄暗く照らされる眼前の船、確かにTAKEさんが言うとおり、船ベリには一本も竿が挿さっている様子はない。
 出船まであと1時間半しかなく、しかも、ヒラメの乗合船ということを考えればこの状態は妙に怪しい…。

 「取りあえず乗ってみますか?」
 「うん。そういえば誰か、ヒラメはミヨシの方が釣れるって言ってませんでしたっけ?」
 「じゃあ、ミヨシに座りましょうか…。あ〜っ、もうクーラー置いてある!」


 手前に泊めてある別船のせいで本船内の様子が分からなかったが、乗り込んでみると四隅にはしっかりと大型のクーラーが持ち主の代わりに
「ここは俺の席だかんな!」と主張していた…。
 どうやらここは竿ではなく、クーラーを置くことで席取り完了の証明をするようだ。

 私たちは大した理由もなく右舷を選ぶ。
 右側のミヨシは1番目にクーラーが置いてあるだけだ。
 そこでTAKEさんがミヨシ2番目、私がその隣り、そしてもう一人の参加者である、「姉御丸のCatchi&Get」の管理人、あねごさんには3番目に座ってもらうことにする。

 無事に釣り座の確保も済み、私たちは取りあえず店へ向かうことにした。
 地図で見る限り、港からは大分離れているようなので再度、車に乗り込む。
 間もなくして店に到着するが、引き戸には鍵が掛かり、店中は真っ暗。すでに出船時間まで1時間を切っているというのに…。

 私たちが店の外で成す術なく途方に暮れていると、先日のケータイ水没事故によって新しく買い換えた私のP505is(五反田のドコモショップの可愛いオネーサンが笑顔で\38,800も請求しやがりましたよ、ええ大損ですよ今回ばっかりはまったく…)が鳴った。

 「今、着きましたぁ。船はどこですか?」あねごさんからである。
 「あれ、あねごさんって前に力漁丸に乗ったことあるんでしょ?」
 「6年も前だもん覚えてないよぉ!」私も6年前に生まれた次男坊の生年月日を時々忘れる。あねごさんの気持ちがよく理解出来た…。
 「長福丸と反対側の船着場です。船に力漁丸って書いてあるから行けば分かりますよ。席は右舷のミヨシ2〜4番目です」勝手に行っとけ状態である。

 満を持したTAKEさんが店に電話を入れると、乗船して待機しているよう女将さんから指示が出された。

 船着場に戻り、ようやくあねごさんと合流。
 女性に対して常に紳士的な態度である私は、ミヨシ寄りの私の席と交換するかと彼女に訊くが、船長の下がいいとの答え。見た目どおりに奥ゆかしい女性である。

 さらには、前夜にアルバイトをしていたお店で握ったというおにぎりとミカンを私たちに差し入れてくれた。
 ああ、なんという優しい気遣い。なんという細やかな心配り…。
 私は深い感動にむせび泣きながらそのおにぎりを頬張った(ええ、大袈裟です…)。



 嬉しい一枚

 優しそうな笑顔の中井聡船長が舵を握る船は、定刻よりも30分ほど遅れた午前5時半、外房の大海原へと向かった。

 今日の大原の海はベタベタの凪。
 空には星明りが見え、天気も上々のようだ。
 これでヒラメが釣れれば申し分ないのだが、そればかりは始めてみなければ分からない。

 「ぼく、大原って始めてなんですよ。前から来たかったんです!」と嬉しそうなTAKEさん。
 「納竿のとき、『チクショー、大原なんて絶対来ない!』ってことにならなければいいですけどねぇ」朝から縁起でも無いことを言い出す私。
 「でも、タカギさんとTAKEさんには是非、ヒラメを釣ってもらいたいんです」とあねごさん。

 彼女にとってこの大原はホームグラウンドであり、私とTAKEさんはいわばビジター。愛するこの海の良さを私たちに分かってもらいたくて出た言葉なのだろう。

 船は航程30分弱でポイントに到着。
 バケツリレーでイケスからイワシが3尾ずつ配られる。

 「開始時間の6時までまだ5分ほどあるので準備だけしておいて下さい」と船長からのアナウンス。なるほど、出船が30分遅れたのはスタートの時間に合わせてのことだったのだ。

 私は早速、エサのイワシの鼻に親バリを、背びれの後に孫バリを刺して開始の合図と同時に仕掛けを投入出来るよう準備をした。

 本日の私の竿は、
「オレンジ色の憎いヤツ」シマノ海攻ヒラメ。これに買い換えた途端、ヒラメ連続ボウズ記録に終止符を打つことが出来たラッキー・ロッド(偶然でしょうけど…)。
 あねごさんは、数々のヒラメ釣行を共にし、自分の腕のように使い慣れてるダイワの専用竿。
 そしてTAKEさんはシマノの新製品「舳(みよし)」を持参。この竿、元々はコマセマダイ用に購入したのだが、マダイに臨むチャンスに恵まれないまま本日が初おろしとなるのだった。

 「この竿、こんなに軽くて細いのにグラス製なんですよ!」と目の前の竿を自慢するTAKEさん。
 持たせてもらうと確かにグラスで出来ているとは思えない軽さ。何気に欲しくなる私…。

 そして午前6時、中井船長から開始のお知らせが耳に届く。
 私はエサとオモリを海に沈め、イワシを海底へと送り込む。

 水深は想像以上に浅く、20メートル少々で着底。
 私の仕掛けは捨て糸が50センチでハリスは1メートル。タナの設定を1.5メートルとして、イワシが底から1m上にあるイメージで攻めることにした。

 凪の海、穏やかな天気、のんびりとした船上。
 ひとたび機嫌を損なうと、荒れ狂って釣り人に容赦なく牙を剥く外房の海も今日に限っては優しかった。
 船内はなんの変化もないまま、時間だけがゆっくりと経過していく…。

 前日、近所の居酒屋で深夜までアルバイトをしていたあねごさん。睡眠時間は1時間ほどらしい。
 赤帽の仕事が忙しいTAKEさんも同様に70分しか寝ていない。
 しかし、私の場合
「明日は外房でヒラメだから午後は消えるかんな!」と部下に言い残し、勤務時間内の午後5時には自宅にいた。おかげで3時間は睡眠を取れ、眠気は皆無。

「ムニャムニャ…、もう食べられない…」
<ヒジョーに気持ち良さそうです>

 ふと、あねごさんに目を向けると船ベリに顔を突っ伏し、うたた寝状態…。

 「そうだよな、本業を終わらせてから夜遅くまでバイトして釣りに来てんだもん、そりゃ眠いよな…」私は自分の不真面目な勤務態度を恥じた…。

 「それなのに自分のことより俺たちの釣果を心配てくれるなんて、ホントいい人だよな…」あねごさんの優しさに触れ、目頭が熱くなった…。

 「だけど、寝ていても竿を放さないなんて…。頑張り屋さんなんだから…」私は近くに毛布があるのなら掛けてあげたい気持ちだった…。

 スタートしてから1時間30分が経過した。
 突如、あねごさんが
「あれ、オマツリしてませんか?」とひとり言のようにつぶやく。

 私はリールを巻いてみた。うん、確かに重い…。
 マツった仕掛けを回収しようとさらに巻き上げてみる…。
 だがその時、隣りのあねごさんが意外なことを口にした…。

 「あっ、してなかった…」と。

 「あれれ、じゃあなんで俺の仕掛けは重いんだ…。っていうか、時々引くんだよね…」
 明らかに魚が食っているシグナルの伝わる竿を手に私の期待は高まった。

 仕掛けの幹糸が見え、海水を通して目に飛び込んできたのはまさかの本命…。
 取りあえずあねごさんにタモをお願いする私。

 「セ、センチョーッ、タモ〜ッ!!」あねごさんのヘルプコールが船内に響き渡った。
 船長の差し出す網に収まったのは1キロ近い本命。孫バリに掛かっていた。

 「やったーっ!!」あねごさんが喜んでくれる。
 「タカギさんに釣ってもらうと僕も嬉しいです…」TAKEさんが祝福してくれた。
 私は素敵な仲間に恵まれているようだ。

 極力ニヤけた笑顔にならないよう努めて、ヒラメを絞め、タルの中で血抜きをする。
 内心、非常に嬉しいのだが、周囲の釣れていない人への配慮と
「俺、これくらいじゃ喜ばないもんね…」的慎みを忘れないのが私の流儀である。

 「さてと…」

 さり気なさを装いつつクーラーを開けた私は、祝杯用に持参してきたワンカップのフタも開けた。
 空は冬晴れで気持ちよく、喉を流れる冷酒は清らかな芳香をたたえ、くゆらせたタバコの紫煙は外房の澄んだ空気に少しだけ色を添えた。

 私は心から満足していた。
 そう、結果的にはオマツリと思って巻いてみたらヒラメが食っていたのだとしても…。



 ベタ底勝負

 あねごさんのヒラメのタナはいつもベタ底だそうだ。

 そのあねごさんは押し寄せる睡魔と疲労のため、相変わらずの「うたた寝釣法」をしていた。
 だが突然、何の前触れもなくスクッと立ち上がる。
 私は寝ぼけているのかと心配になった(ウソです…)。

 「アタリだと思うから、糸を送ってみて!」と船長があねごさんに話し掛ける。
 事情を理解した私は、期待を込めた眼差しでその行方を見守るが、残念ながら食い込まなかった様子。
 回収されたイワシにはしっかりとヒラメの歯型が付いていた。

 エサを付け替え、気を取り直して仕掛けを投入。
 今度は手持ちで慎重にヒラメからの魚信を待つあねごさん。
 すると、すぐさまアタリが到来したようだ。だが、これもヒラメがエサを放してしまったらしく、惜しくもファール…。

 それまでずっと1.5メートルのタナでやっていた私は、あねごさんがベタ底狙いだったのを思い出し、底ギリギリで勝負に出た。
 突然、根掛かりしたかのように重くなる竿先。
 私は当然、ベタ底だからカジメにでも引っ掛かったのだろうと思い、竿を立てて仕掛けを引っ張る。

 操船しながら、私の竿先を見ていた船長、
 「それ、アタリだよ!ゆっくり巻いて!」
 と、操舵室から指示を出す。

 やや緩めにドラグを調整していたので思うように糸が巻けない。
 そこで、ハリス6号の強度を信じ、少しだけ締め込み、ヤリトリを開始する。

 一枚目とは明確に違う重量感に私の竿はのされた。

 「竿を立ててね!」タモを手に、私の横で待ち構える船長がアドバイスをくれる。

 ときおりズシンと突っ込む竿先…。
 空回りするリールのハンドル…。
 私は、海の中で自らの命を賭けた必死の抵抗を見せているのが本命であることを確信していた。

 ようやく仕掛けが見え始める。
 海面の下には紛れもないヒラメの魚体が現れた。しかもデカイ…。

 船長の熟練の手さばきで見事にネットイン。
 船床で鈍い音を立て暴れているのは体長約60センチ、体重ジャスト2キロの良型ヒラメ。
 私は祝杯を開けるのが早過ぎたことを少しだけ後悔した。

 愛竿を置き、私が釣った良型ヒラメを指でツンツンして遊んでいるあねごさん。その彼女に向かって船長がこう言った。

 「アタっているよ!」と。

 あねごさんが振り返り、竿を手に取る。

 さっきの私と同様に、根掛かりしたかのような竿の曲がり具合。
 慎重に巻き上げて取り込まれたのはこれまた良型の本命。

 この3人組で私だけがヒラメを釣っていたのでやや気まずい思いをしていたが、これでようやく気が楽になる。
 あとはTAKEさんが一枚を釣ってくれれば全てはハッピーエンドに終わるのだ。


 せっかくのヒラメを…

「バ、バカヤローッ!!」

 港に帰る船上でTAKEさんは吠えた。
 その激情の吐露は、同行者の心を鋭くえぐり、深い悲しみを抱かせた。
 私も何度か同じセリフを海に投棄した経験があった。今やヒラメ釣りには必須のセレモニーとなっていた…。

 帰港後、宿から支給されたお弁当を食べていると、TAKEさんが私にこう語りかけた。
 「タカギさんの気持ちが分かりましたよ…」と。
 私はただ、無言でうなずくしかなかった…。

いろいろとお世話になり、ありがとうございます。 お疲れ様でした…。
<あねごさんの釣果> <TAKEさんの釣果>


 「どう、釣れた?」
帰宅後、家内が訊いてきた。
 「うん、なんとかね…」そう言いながらクーラーを開けて中身を見せる私。
 「うわぁ、今までの中で一番大きいんじゃないの!?」
 「そうかもね…」
 「と、ところで、本当にヒラメカレーにしちゃうの?」
 「う〜ん…」


 私は取りあえず、ヒラメへの敬意を表するために刺身で食べることを家内に提案した。
 結局、その夜はカツカレーにヒラメの刺身というヘンな取り合わせとなった。

 2日後、ハウス「ザ・カリー(辛口)」で作ったカレールーの上に魚のフライを乗せた一品が食卓を飾った。
 そのフライの上にはタルタルソースがたっぷりとかかり、コロモの下部分は早くもカレーが浸透している。
 私はまず、カレー本体より先にフライを口に運んでみた。
 その白身の魚とタルタルソースとの相性は悪くないと思った。

 「でも、イシモチのフライのが旨いよな…」
 「う〜ん、そうねぇ。イシモチの方が身が厚くて美味しいかも…」

 次に、別のフライにブルドッグソース(中濃)を垂らしてみる。

 「あれれ、アジフライのが断然旨いぞ…」
 「なんか、ソースの味しかしないわね…」

 最後にその魚フライを小さく切って、カレーライスと一緒に頬張る。

 「……。」
 「ヒラメってカレーに合わないのね…」
 「ああ、やっぱりコイツは大したことない魚だな」

 こうして無事に「釣れない魚」ヒラメへの復讐は粛々と遂行され、私は溜飲が下がる思いをしたのであります(良い子のみんなはマネしちゃダメだよ…)。わはは。

次の目標は「マゴチカレー」だ!
<完成、これがヒラメカレーだ!>

「まさかカレーに乗せられるとは…」
死んでも死に切れないヒラメたち…。
<はい、運が良かっただけです>