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<日 記> 今から2ヶ月以上前の10月11日、釣り友の高橋氏と豊漁を信じて臨んだ中ノ瀬でのビシアジ。
ところが、私たちが乗船するためお金を使ったにも関わらず、アジは口を使ってくれませんでした…。
安全牌だと信じていたアジに裏切られたショックは想像以上で、帰りの車内はまるでお通夜のような雰囲気…。
特に気の毒だったのが5ヶ月振りの釣行なのに、アジ2尾で終わった高橋氏…。
しかもその2尾は一荷での釣果。つまり、アジの引きを楽しめたのはたったの1回コッキリ…。
明けて先月、その高橋氏と仕切り直しのイナダ釣行を計画していた私は、前夜の痛飲が元で掟破りのドタキャン。
当日は同僚の中村に加え、TAKEさんまでもが参加してくれたというのに、主催者側の私が極度の二日酔いで釣りをすっぽかし、深く深く反省しておりました。
挙句の果てに釣果がクーラー満杯ならまだしも、好調に釣れていたはずのイナダまでまさかの激渋…。
高橋氏イナダ1本、中村メジ1本、TAKEさんメバル2尾という悲しくも切ない釣果…。
それを知って、
「ホント、申し訳ない…」と思う反面、
「あ〜っ、行かなくてよかった…」っていう気持ちが心の片隅にあったのも事実であります(重ねてごめんなさい…)。
そして本日、高橋氏と再度のビシアジ釣行で、キッチリと10月分のリベンジを果たすべく中ノ瀬へ向かうことになったのです。
「ビシアジは人生の縮図」といわれております。
「人の振り見て我が振り直せ」の“振り”とは“コマセをまく”ことを指しているともいわれています。
「コマセ釣りはアジに始まりアジに終わる」はまさしく金言。
私は過去、ビシアジでどれほど人生の無情さ、生きることの厳しさ、運命の皮肉さを教えられたことか。
しかし、今回の釣行で私自身また新たなる勉強をしたのであります。
やはりこの釣りは奥が深いのでありました…。
■ 可愛い励まし
午前6時、高橋氏の運転するハリアーが私の自宅前に到着。
本日向かう先は10月の時と同様に新山下にある広島屋さん。
この船宿は私の釣りの原点といって差し支えない気がする。
まだ私が釣りを始めて間もない頃から基本の釣り物、シロギスとアジでお世話になっている宿なのだ。
自宅を出てから約15分程で宿に到着。
店内で新聞を読むオヤジさんに挨拶をして、船に乗り込む。
出船時間の8時まで2時間近くあるためか、船中に先客はゼロ。
「左舷でいいですか?」と高橋氏。
「構いませんよ」と私。高橋氏と私は、師匠・畑田氏の教え子である。その畑田氏が好きなのが左舷なのだ。当然、師匠の影響を受けて高橋氏が座るのも左側ということになる。
「タカギさん、オオドモへどうぞ」
「いやいや、高橋さんが座って下さいよ!」
「いえ、オオドモにはタカギさんに座ってもらうって決めていたんです」
実は高橋氏、非常に紳氏である。
私との付き合いはかれこれ10年以上。その期間のほとんどは仕事上でのもの。
高橋氏は当時の会社では部長までいった実力者、ところが私はその下請け会社のイチ担当者。
しかし、私に対して一度も横柄な態度を取ったことはなく、“仕事を出してやってるんだ”という尊大な振る舞いを見せたこともない。
高橋氏が転職して現在の某大手企業の関連会社に勤めるようになってからも私たちの関係は同様である。
常に紳氏、常に敬語、常に対等な物腰(ええ、私とは正反対ですよ。「常にセクハラ」「常にエロネタ」「常に俺が一番」です…)。
その言葉に甘えて、釣り座は私が左舷オオドモ、高橋氏がトモ2番目。
準備をしながら船上でくつろいでいると、石井晃船長が笑顔で近付いてきた。
「おはようございます。出船までだいぶ時間がありますから店に入っていて下さいよ」船上じゃ寒いだろうと気遣ってくれる。
この何気ない心配り、さり気ない親切が広島屋の真骨頂なのだ。
宿でお茶を飲んだり、買い物を済ませたり、船上で缶チューハイを飲んだりしているとアッと言う間に出船時間の8時となる。
気象庁が発表した今年一番の寒さになるとの予報に恐れを成したのか、結局、乗船者は私たちの他に常連氏の一名だけ。
「いってらっしゃ〜い♪がんばってきてくださ〜い♪」
と、石井船長の可愛いお嬢さん2人と奥様が手を振って見送ってくれる。この心温まる家族総出のお見送りもまた、広島屋の名物なのだ。
■ 好調な出だし
広島屋の船は先日、エンジンを積み替えたばかりだそうだ。
海を駈けるスピードも以前に比べると格段に速い。
船内も一部改装され、使い勝手が良くなった。
船自体は決して新しくないが、石井船長が大切に扱っているのだろう、いつでも清潔に保たれ、整備が行き届いており、乗っていても気持ちがいい。
ポイント到着までの間、私が差し上げた燗番娘を飲みながら、上機嫌な高橋氏。
氏は冬場のマストアイテムである燗番娘の未経験者。どうやらこれが気に入ってくれたらしく、またファンが一人増えたようだ(富久娘酒造さん、お礼の「燗番娘1年分」待ってます…)。
航程約20分で中ノ瀬に到着。
船長はポイントを定め、アンカーを下ろした。
「はい、どうぞ。タナは2から3メーターでやってみて下さい」とのアナウンスでスタート。
私は風が強いことを考慮し、2本バリ仕掛けを選択(強風で3本バリ使うと手前マツリしちゃって手返し悪くなるのね、私の場合…)。ハリ先には船宿支給品であるイカの赤タンではなく、出船前に買ったアオイソメを小さく切って刺す。
ビシを投入し、リールのクラッチを切る。スルスルっと出た糸は20メートル少々でストップ。
タナはビシアジの基本、3メートルで始めてみる。
2メートルでコマセを振り、1メートル巻く。
私たちは、船中3人しかいないのでコマセが効くかどうか心配であった。
アジが集まるまでは共同作業でコマセの散布を繰り返すしかないだろう。
開始して約10分が経過した頃、ミヨシにいる常連氏が本命を取り込み始める。
石井船長がその常連氏の席まで行き、アタったタナを訊いてくれた。
「2.5メーターで食ったそうです」と私たちにアドバイス。
そこで1.5メートルでコマセを撒き、1メートル上げて待ってみる。
すると、「クンクン…」と小さいながらも嬉しい魚信。
強欲に追い食いを狙わず、中速で巻き上げると中ノ瀬印の金ピカアジ(小型)が顔を出す。
コマセを詰め直し、再投入。
ピッタリ2.5メートルに合わせ、しばらく待つとまたアタリ。
今度はさらに1メートルほど巻いてダブルを狙う。
頃合をみて電動リールのレバーをオン。
上がってきたのはアジとシコイワシの一荷。私はTAKEさんから教えてもらったシコイワシの干物の味を思い出し、それも大切にキープ。
その後も順調にアタリは続き、早々にツ抜けを達成。やっぱりアジはこうでなくっちゃ。
■ イソメのチカラ
ただ、気になるのは私の隣りにいる高橋氏。
私と常連氏が釣れているのに氏はいまだにノーヒット…。
「う〜ん。同じタナでやっているハズなのになんでだろう…」
「真ん中の席だからハズレはないハズなだけど…」
「もしかしてエサかな…」
と、私は竿を出しながら考える…。
そこで老婆心ながら、「よかったらこのイソメ使ってみて下さい」とエサを差し出す。
「え、イソメですか?」と高橋氏。
「もしかしたらこれの方が食うかもしれませんよ…」
私も以前はアジの付けエサは赤タンを使っていた。
船宿の公式認定餌であるから間違いはないと思っていた。
んが、しかし、わはは爆釣隊メンバーのまっちゃんにイソメを使うように勧められてからその食いの良さを知ったのだ(潮が濁っているときに有効なんですね)。
高橋氏は本日の目標を60尾に設定していた。
クーラーの中にはジップロックが3枚入っている。
その内の2枚は隣り近所に配るため。
1枚あたりの収納予定アジ数は20尾。20尾入りジップロックが3つで合計60尾。実に分かりやすい目標設定値である。
実釣時間は6時間。つまりこの数字をクリアするためには1時間あたり10尾を釣らなければならないのだ(計算合ってるよな…)。
60分で10尾ということは6分で1尾を釣らなければいけないことになる(間違ってないよな、この計算…)。
しかし、すでに始まってから20分以上は経過していた。
高橋氏は私からのエサを受け取り、イソメを刺して再投入。
しばらくすると、隣りから電動リールがゆっくりと巻き上げを始める音が聞こえてきた。
ようやく高橋氏も本命をゲット。
次投からもポツポツとアジが顔を見せるようになった。
「タカギさん、すごいねイソメって!」と高橋氏。
「ええ、そうなんですよ…」と私。本当は内心、「キスとかイシモチとか釣れちゃったらどうしよう…」と思っていたのでホッとした。
型が出始めて氏は嬉しそうであった。
その喜んでいる様子を見て、私も一緒に嬉しくなった。
今日のアジは潮が程よく動いていることもあり、とても機嫌が麗しかった。
私たちは、アジが何かの拍子に不機嫌になる前に釣れるだけ釣っておこうと躍起になった…。
■ 久し振りの“前後不覚モード”に突入
コマセ釣りは危険である。
魚の調子が上向くとなにをやっても食ってくる。
コマセを振らなくても食ってくる。
エサを付けなくても食うことさえある。
コマセの煙幕の中で魚たちは狂乱の極みに陥っているのだろう。
もう、周囲は全部エサだらけ。今日はたまたま潮流れが良く、目の前からイワシのミンチとかアミコマセがドバドバ流れてくるのだから。
昨日までは海底が濁っていてエサだか泥だか分からなく、腹は減っていても食い物を見付けることが出来ずにいた魚たち。
「かあちゃん、ぼく、お腹減ったよぉ」
「我慢しなさい、アジ吉!もうちょっと経てば水が澄んでエサが見えてくるから!」
「そんなこと言ったって今日で3日もご飯食べてないんだよぉ。イワシのミンチが食べたいよぉ!」
「こんなとき、お父さんがいてくれたらねぇ…」
「パパはどうしたの?」
「お前のパパは“デッカイ仕事をするんだ”って走水の方まで出稼ぎに行っているのよ」
「ここじゃ大きなお仕事は出来ないの?」
「まあねぇ、水深も浅いし、潮も速くないし、体格のいい魚は少ないし…」
「ママ、ぼくも大人になったら走水に行くよ!」
「ばか、向こう見ずなこと言うんじゃありません!」
こんな会話が交わされていても不思議ではない状態(十分に不思議です)が一変したのである。
そこへ目の前にぶら下がる赤いイカタンや小さなイソメ。
魚たちにとってはまさに天からの贈り物。食うなという方がムリである。
片や海の上で釣り糸を垂らす私たち。
おおむね人は、“釣れている”よりも“釣れていない”状況に遭遇する機会の方が多い。
だから誰しも一尾の魚の大切さを身に染みて知っているのだ。
「釣れているうちに取りあえず釣っとくか」と思うのは釣りをする者なら当然の心理である。
釣れている状況はメチャメチャ楽しい。
この入れ食い状態がとても愉快だ。
こんな幸せがいつまでも続くことを神様にお祈りしたくなる。
釣り人は釣れない状況下では“何故釣れないのか”を終始考えるが、釣れている状況になると理由もヘッタクレもなくなる。
釣り人は興奮状態になり、逆上し、我を忘れる。
釣り人は“時合”という言葉に弱い。主婦が“タイムサービス”という単語に弱いのに匹敵する。
釣り人はみんなが釣っているのに自分だけ竿を休める勇気はなかなか持てない。
「うひゃひゃ!時合が来たぞ、時合だ時合だ!ここで数を稼ぐんだ!なんでもいいからドンドン釣っとけ!」と錯乱化する。
こんなときに誰かとオマツリをしようものなら噛み付くことも辞さない構えだ。
今は、魚と釣り人との利害関係が完全に一致した状態。
海中・海上のいずれでも興奮のルツボと化しているのだ。
しかし…。
この時合が一日中続いたとしたらエライことになる…。
「こんなに釣ったらとんでもないことになるな…」とは分かっている。
「毎晩毎晩おんなじ魚だ…」とも覚悟している。
「あなた、もう少し考えて釣ったら?」とカミサンから小言を貰うことも承知している。
だが、一旦入った“前後不覚モード”のスイッチはそう簡単にOFFには出来ない…。
今日の私がそうだった…。
■ 不幸へのカウントアップ
船長は朝下ろしたアンカーを一度も上げることはなかった。
いや、正確にいうなら納竿した午後2時20分に一度だけ上げた。
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| <ついに登場、ミスター高橋> |
「いやぁ、あと一匹で80になったのに…」と高橋氏。当初の目標数は余裕でクリアしたが、キリのいい数字に届かず少し残念そうだ。
「タカギさんはいくついきました?」
「数えてないけど多分高橋さんより10くらい釣っているかも…」正気に戻った私。
「今日はイソメさまさまでした」満足感と充足感に満ちた笑顔の高橋氏。
私は過去、ビシアジをこれほど一生懸命にやった経験はなかった。
宿に戻り、常連氏やオヤジさん・女将さんらと今日の余韻に浸る。
常連氏はさすがに手慣れており、173尾も釣ったそうだ。驚愕の数字である。
私たちはお世話になったお礼を言って宿をあとにした。
私の自宅近くにある、総持寺前の開かずの踏切で待たされても、終始ニコヤカだった。
マンションの前で荷物を降ろし、高橋氏と今月30日のアマダイ釣行での豊漁を誓い合い、別れた。
家に入ると、迎えに来た家内と子供たち。
「どう、釣れた?」いつもの調子で訊いてきた。
「うん、まあまあかな…」これまたいつもの調子で答える私。
「どれどれ見せて…」家内がクーラーを開ける。
一瞬、時間が止まった。
わずかながら家内の顔色が変わった。
大量の魚を見て無邪気に喜ぶ子供たち。
早速、クーラーをキッチンまで持っていき、釣果を数え始めた私。
「1、2、3、4…」
「今までで一番釣れたんじゃない?」
「35、36、37、38、39、40…」
「どうするの、こんなに?」
「61、62、63、64、65、66…」
「これ全部アタマ落としてゼイゴを取るの?」
「うるさい!数えているときに話し掛けるな!88、89、90…」
「まだクーラーの中にあるわよ…」
「98、99、100、101。おおっ、ついに100を越えることが出来たぞ!」
「ど、どうするのよ、こんなに…」
「魚っていうのはな、2、3日のうちで食べ切れる量ってのが一番いいんだよ」
ビシアジが私にそう教えてくれた一日でありました。アーメン…。
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